にっきちょう5
8月14日 かようび はれ (まだ続き)
「手がうごかん。」
その一言で森先生はかたまりました。
「手が動かない?ホント?嘘じゃったら怒るよ。ホントなの?どこ?どこから動かないの?指は動く?肘は?どこか痛くて動かせないの?動かそうとしても動かないの?ちょっとだけ手を動かしてみて。あ、痛かったら無理しないで良いからね。ゆっくり動かしてみて。痛かったら痛いって言うのよ。」
いっぺんにアレコレ言ってもわからんよ。せんせぇ・・。
動かそうとしてみましたが腕の付け根から動く気配はありません。
動かそうと一所懸命にやってるのに、ぼくの腕はしらんぷりです。
「う、うごかん・・手がうごかんよ」
ぼくの左手はだらりと垂れ下がったまま動きません。
「どこか痛い?痛い所はない?痛かったら言わんとだめよ。」
痛かったら言うわい。
とにかく手が動かないのはおかしいです。先生はおろおろしてます。
ほかの先生が来てぼくはかこまれました。
先生たちでナニかうだうだ話をしています。
「かっちゃん、病院行こうね。」
病院!!病院だって!?病気じゃないんだよ?なんで!?
「大丈夫。お注射はしないから。ね?」先生が言ってきました。
それならおっけ。さぁ、はやいトコやってくれ。
病院に行きました。なぜかお母さんもいます。なんでここに?
ナニかむずかしそうな話をしています。ナニ言ってるのかさっぱりわかりません。
病院の先生はぼくの腕をぐりぐり動かしてはウンウン一人でうなずいています。
ぼくに見えないダレかとお話でもしてるんでしょうか。こわいです。
イロイロいじくりまわされて、ようやく病院から出る事ができました。
「ほら、帰るよ。」
お母さんに連れられて家に帰ります。保育園には戻らなくていいそうです。
ぼくの左手は首からかかった布で吊られています。
すごく重症っぽいです。か・・かっこいい・・。うっとりするぼく。
家に帰ってからお父さんもお母さんもすごく優しいです。ケガばんざい!
バンゴハン食べおわって、べたーっとしてる時でした。
「森先生が来とるで。ちょっと出て来い。」
お父さんが店の方からぼくを呼びに来ました。森先生?なんで?
ぼくの家はお店やさんなので店の出入り口が玄関です。
お店の方に出て行くと森先生が立っていました。
トドメを刺しに・・・・来た?
8月17日 きんようび はれ (まだ続き
店の入り口に森先生が立っています。
手には何か持っています。びくびくして先生の前に出ると先生が口を開きました。
「かっちゃん、保育園ではごめんね。先生お見舞いに来たの。」
「手は痛くない?本当にごめんなさいね。」
いや、いいよ。もう。痛くないし。
ケガ人って感じでなんかかっこいいし。これ(うで吊り)気に入ったし。
「それでね、かっちゃんにこれ食べて欲しいなって思って。」
手に持ってた物をすっと差し出す先生。メロンでした。おおおお。
「うわぁーメロンじゃー。せんせーありがとー。」
すかさず横からお母さんの声。
「すみません。こんな物まで・・。そんなに気を使われなくても・・。」
なんであんたが言うの?ケガしたのはぼくだよ?もらうのもぼくだよ?
「いえいえ、本当にすみませんでした。」
なんかごちゃごちゃおとなの会話が始まった。
聞いててもツマンナイし、用事すんだっぽいし・・ぼくは家のおくに戻っていった。
テレビ見ようとしたらまた呼ばれました。
なによ・・もう…。しぶしぶ店に戻ります。
「先生がの、ピアノやってみんかって言うようるんじゃけど・・どうや?」
は?
「どうや」って言われても・・なんのはなし?
森先生が続きます。
「かっちゃん、先生ね。ピアノの先生もやってるの。どう?やってみない?たのしいよ。」
先生・・勧誘目的でうちに・・?
ぼくはその場のノリでというか、断れないせいかくです。
「ピアノ?うん・・いいよ。やってみる。」
「そう!じゃぁ一緒に頑張ろうね。」にこにこする森先生。
"イヤ"って言えれば良いんだけど、断ったら悲しそうな顔しそうだし・・。
ぼくが「うん」って言えば丸くおさまるし。いいよね・・これで・・。
ちょっと興味もあったしね。ピアノ弾けるってカッコよさそうだし。
それから少し先生とお話ししました。
いついつからやるとか、ケガが治ったらとか何かイロイロ。
先生は帰りました。お父さんは
「ピアノやるんかーすごいのー。」とか言ってます。ちょとえらくなった感じ。
ピアノかぁ・・すごいじゃん、ぼく。ピアノ弾くようになるなんて!なんかすごい話になってきた。
わくわくしてなかなか眠れませんでした。
わくわくしながら思い出しました。
「待って・・ねぇ・・ってコトは・・」
そう・・家でも森先生と会うことになるわけです。それも2人っきりで。
不安で眠れませんでした。
(ケガのお話はおしまい)
8月18日 どようび はれ (なにげに続いてるっぽい)
先生にピアノをならう事になりました。
今は左手が動かないのでできません。ピアノもないし。
そうそう・・ピアノはどうするの?うちにないよ?
ま、なんとかなるさー。今はケガ人をたんのうしよう。
ケガっていいです。すごくいい。いつまでもケガしてたい。
家から出ると
「かっちゃん、どうしたの?その手。」
「大丈夫?なにか困ってる事ない?」
って心配そうな顔で聞いてくるし。すごく優しくしてくれる。
家に帰ってもあまやかせてくれる。このままならいいのになぁ・・。
ただ、ときどきムショーにかゆくなるのはイヤ。これさえなければいいのに・・。
そんな日がいくつか過ぎた頃、お母さんが言いました。
「先生からピアノ習うのにピアノがないじゃろ。」
「お母さん、知り合いから貰える事になったけぇ。近いうち届くわい。しっかりやれや。」
おおぉ。うちにピアノが!
届くまでうきうきわくわくです。
森先生と二人きりなんて関係ありません。
何日かしてようやく明日あたり届くそうです。どきどきして眠れませんでした。
ケガをしてるといっても保育園にはちゃんと行きます。
保育園が終わってお母さんを待ちます。
お母さんが来て一緒に帰ります。
「ピアノ来た?」
「あぁ、来たでぇ。」
うおー・・。早く!早く家にー!
家に着きました。めちゃコウフンぎみに家の中に入るぼく。
うあああ!こ、これがぼくのものに?すきに使っていいの?
いじくり回してるとお母さんが言いました。
「その手が治ったら、先生の言うコトちゃんと聞いてしっかり習いんさいよ。」
言われなくてもやるさ!
うれしくて、しばらくいじりまわして遊んでました。
明日は保育園のみんなに自慢です。

もどる