2つ隣のビル
この話はまだわたしが7才ぐらいだった頃の話だったと思う。
もっと小さい頃かも知れない。
正直、当時の年齢はあまり覚えてないのだが、小学校に入る前後だったと思う。
事件については、わりとはっきり覚えているのだが…。
当時住んでいた家の2件隣に5階建てぐらいのビルがあった。
そこは階段のみで、エレベータもないこじんまりとしたビルだった。
屋上にも勝手に入る事ができ、当時のわたしはそこで遊ぶ事も多かった。
家がすぐ近く、というのが第1の理由だと思われる。
親も何も言わなかった。
2件隣で近場の為、安心していたのだろう。
よく遊んだと言っても、そこになにかがある訳でもない。
友達同士で意味もなくそこへあがって遊んだり、話をしたりしていた。
屋上には物干しなどがあり、住民が洗濯物を干しにたまにくる。
しかし見つかっても、怒られる事はなかった。
何度か顔をあわせているうちに、挨拶程度はするようになっていた。
まぁ、ちょくちょく来るのだから、2件隣の子というのは知られているだろう。
しかもうちは飲食業をしていたので、普通の家よりも目立つ存在である。
「また遊びに来てる」くらいにしか思われていなかったと思う。
よくよく考えると、会社がいくつか入ったビルだったように思う。
ベランダがないとはいえ屋上に物干しがあるのは変だし、ましてや1つ2つ程しかない。
しかも1つの階に1つしかドアがないし、廊下などもちろんない。
どこかの階にビルのオーナーが住んでいたのだろう。
という事は、ビルのオーナーに会っていたのだろうか?
とにかく、ここに上がって遊んでも怒られない事は確かなようなので、ここで遊ぶ事が多くなった。
そんなある日、コトは起こった…
いつものごとく友達と3人で屋上にあがって遊ぶ。
そのうちの1人が、何か足元が変な部分を発見した。
なにやら、そこの部分だけ感じが違う。
部分的に違う箇所に興味をもつ3人。そのうちの1人が言った。
「トランポリンじゃー」
意味不明の発言を理解する暇もなく、そこの部分にむかって飛び移る彼。
異常なほどハイテンションの彼。
子供というのはその場の雰囲気でのせられる生き物だ。
いつのまにか順番を決めて次々と飛び移っては飛び退いていく。
当然トランポリンなどではない。
したがって跳ねる訳がない。
いったい何が愉しかったのか…。
3週目ぐらいだっただろうか…わたしが飛び乗った瞬間、音をたてて足元が崩れた。
崩れたというより、『割れた』の方が正しい。
それは針金入りの天窓だったのだ。
と同時に落下するわたし。
落ちた直後、鉄の棒(鉄筋コンクリートに使われている物)がわきの所にひっかかった。
どうやら落下は免れたらしい。
後から親に聞いた話だと『棒がなければ下まで落ちて死んでいた』と言っていた。
不安そうに声をかけてくる友達……なにやら騒いでいる。
ぶら下がった状態でふと頭を下げる。
その瞳には血だらけの左足が映った…。
肉が裂け、なにやら白いものが見える。
しかしショックが大きかったせいか、痛みはまったくなかった。
痛くはないが、急に恐くなった。
助けを呼ぶにはどうしたらいいだろう?
とにかく大声で泣く事にした。
恐さから逃げる為だったのかもしれない。
少しすると、人が屋上に来た。
どうやら気づいてくれたらしい。
よく顔をあわせていた人だ。
しかし、わたしを発見したとたん何処かへ消えていった。
少しするとまた戻ってきた。
どうやら、親を呼びに行って連れてきてくれたようだ。
なんとか引き上げられたわたしは友達が1人しかいない事に気づく。
恐くなったのかどうなのか……言い出しっぺが逃げていた。
例のトランポリン発言をした奴だった。
すぐに病院へと連れて行かれる。
だきかかえられて徒歩で病院へ向かう。
すぐに手術するらしい。
部分麻酔をして縫合する。
部分麻酔なので上半身は動く。
滅多にないチャンスだ。
縫合場面を見逃す手はない。
おそるおそる足を見ると、傷口から何本もの糸のようなものが突き出ていた。
今でもその場面は鮮明に覚えている…見ておいてよかった。
手術は終わり、家路につく。
20cmぐらいの傷で、12針縫った。
傷の大きさのわりに少ないようにも思うが、スネの部分なので縫う間隔は広くとっても大丈夫だからだろう。
天窓のガラスは逃げなかった友達の家とうちとで弁償したらしい。
逃げた奴のとこは、親も弁償問題から逃げたそうだ。
それ以降も何度かあのビルの屋上で遊んだが、いつしか行かなくなった。
逃げた奴とはそれ以来会っていない…。
あの顔をあわせていた人は今もいるのだろうか…。
ビルはまだ存在していたが・・・。
そして今も傷は残っている。