花火とわたし
子供の頃、夏の夜の楽しみといえば花火だった。大体の子供は花火が好きだろう……わたしも例外ではなかった。花火はどんな物でも嫌いなものはないが、特にお気に入りはロケット花火だった。しかし、子供なのでお金がない。音を鳴らしながら飛んでいくような高価なロケット花火には手が出せない。当時、12本ほど入って70円という破格のロケット花火があった。キャンプに行く時などはそれを大量に買い込んでいた。
子供の頃は盆になると親戚同士で毎年、キャンプやら貸し別荘などへ4泊5日ぐらいで行ったものだ。そんな特別の日を目前に大人しくしている訳がない。貯金箱からこの日の為に貯めていた金を出す。いよいよ花火購入の旅へ…。花火売り場で、あれやこれやと宿泊日数を計算しながら花火を選んで、買い物かごの中に入れていく。一通り買ったわたしはひとまず家に帰る。ここからが本番だ。
さっき買ってきた花火を家に置いて、再び出発。1ヶ所では満足に買いきれないのだ。そう、例の安いロケット花火である。大体1つの店で10袋前後しか置いてない。しかしわたしの目標は50袋以上。ピーク時には150袋ほど買っていたと思う。なにしろ使い方が半端ではないのだ。あちこち売っている所を探し廻る。知っている店を片っ端から廻って見つけては、安いロケット花火を買い占めるわたし。ハタから見れば異様である……箱ごと購入するのだから…。
そして当日がやってきた…待望のキャンプだ。
現地に着き、昼は昼で遊んでいるものの頭の中は夜の事でいっぱい。疲れて寝るどころかどんどん元気になっていく。大人が食事の用意をしているのを後目に、トランプやボードゲームで遊ぶガキども。もっとも、わたしもその中の一人だが。
晩飯ができ、食事が始まると群がっていく子供達。さっさと食べ終わるが、大人は長い。まぁ、話をしながら酒を呑むから仕方ないのだが。子供にできるのは声がかかるまで大人しく待つ、という事だけだ。文句を言った所でこっちの言う事など聞きゃぁしない。仕方なく時間潰しにさっきのゲームの続きをする。そしてそのうち声がかかる。
「花火するんじゃないんか?」
待ってましたとばかりに、各々が用意していた花火の入った袋を荷物カバンから取り出す。用意周到というかなんというか、そのビニール袋には1日目の文字。荷物の奥には続いて2日目、3日目と書かれた袋。1日目は少なめというのが常識だった。徐々に日を追う毎に増加していく。最終日にはどうやって使いきるのかわからない程の量がある。
自分達より年下の従兄弟達(年齢層が2つに分かれていた)に手持ち花火をさせて、自分達は打ち上げ花火とかの準備をする。もちろんロケット花火の準備もする。ロケット花火を袋から取り出し、導火線をひとまとめにするのだ。最初は5、6本からだ。
準備が整い、いよいよ点火する。一度に点火されたロケット花火は不確定な方向へ飛んでいき、最後に破裂する。市販のどんな打ち上げ花火よりもおもしろい。なにしろ決まった飛びかたはしないのだから…。
そんな感じで2、3度打ち上げているうちに、どこからともなく人が見に来る。遠くから見ていて気づいたのだろう。人が見に来るのがたのしくもあった。自分が打ち上げた花火に対して、声があがるのが気持ちよかったのだろう。
徐々に同時点火の本数は増加していく…1袋単位で消費していく。みるみるうちになくなっていくロケット花火。その他の花火も終わり、いよいよメインだ。最後には3袋分ほど一気に点火する。さすがに36本程にもなると火がつかないのもあるが、そんなものは気にしない。2、3本ぐらい点火ミスがあっても、十分に派手できれいだった。
点火してロケット花火が飛んでいくと、ギャラリーから声があがる。しかし、さっきまで楽しんでいたくせに、もう終わりと気づいたとたんさっさと逃げるように去って行く…。まぁ、当たり前の事だが…。そうして初日が終わり、また次の日も終わっていく。そしてそのうち最終日がやってくる……。
最終日は本当にすごい量だった。持ってきた花火を片っ端から点火していく。ロケット花火に関しては一度に3袋同時点火が当たり前状態。次々と集まってくる人々。3袋同時点火ともなると、導火線を繋げるのには無理がある。ではどうするのか?大体が海辺でのキャンプだったので、砂浜に花火を差し込み、手持ち花火を使って点火していくのだ。
手持ち花火で五袋一気点火した瞬間の光景は、やった人間にしかわからないだろう。目の前が真っ白になるのだ…。一斉に何十本という花火に点火するのだから、無理はない。しかも下が砂浜とはいえ、さした砂の抵抗に負けて飛んでいかないものもある。そういったものはどうなるのか?……無論、地面にささったまま破裂する。手持ち花火で点火している最中の破裂ははっきり言って恐い。破裂の衝撃で密集して刺した花火が、いつこちらに向くかわからないのだから…。
そうこうしている内に花火がなくなってくる。そしていよいよ出てくるのはラスト用に取っておいたロケット花火50袋(最高時の記録)その数、ざっと600本。はっきり言って(はっきり言わなくても)馬鹿だ。袋から取り出し、丁寧に地面にさしていく…その周辺には吹き出し花火が設置される。そう、この吹き出し花火で点火する仕掛けだ。吹き出し花火の火の中からロケット花火が次々と飛んでいく…という訳である。
吹き出し花火も3つほど使うことになる。勿論、それへの点火もほぼ同時にしなければならない。手持ち花火で吹き出し花火へと点火していく。まったく、手の込んだ馬鹿げた行為だ。そして点火の準備が整った。
手持ち花火で吹き出し花火へと点火していく。吹き出し花火に火がつくと、あとはもうほったらかして見るだけだ。2m程吹き出している花火の中からロケット花火が次々に飛んでいく。そしてギャラリーからも歓声があがる。その光景は滅多に見れるものではない。というよりこんな事する人間は他にいないと思われる……ただの馬鹿だ。
次々と飛んでいくロケット花火…。案の定、飛べない奴も出てくる。力が弱いのか、差し込みがきつかったのか……地面で破裂するロケット花火。地面で破裂する…という事は、隣接しているロケット花火の向きが変わる…という事だ。こうなってもどうする事もできない。さっきまで綺麗だと思っていたのが、突如自分に襲いかかってくるのだから始末が悪い。しかし、こちらに飛んでくる事が滅多になかったのは幸いだったと言える。
そうして、たのしかったキャンプが幕を閉じる……。
子供の頃、夏休み最大イベントだったキャンプでのロケット花火。今となってはいい思い出だ。しかし、ロケット花火の話はこれだけでは終わらない。
そしてそれは襲撃事件へと発展していく……。
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