鳩とわたし
生まれた時から中学3年の夏まで わたしは広島にある平和公園の近くに住んでいた。
歩いてすぐの場所なので、生まれて間もない頃からよく連れて行かれていたらしい。
平和公園には鳩が多い。もちろん近隣にも鳩が溢れ返っている。
電線や木、街灯に鳩がたむろっている。その下は当たり前の様に鳩のフンが積もっていた。
乳児の頃はただ見つめているだけであったが、
小学生に上がる頃にはわたしにも鳩に劣らぬ体力が付いていた。時はきたのだ。
フンに侵される道路。それを阻止せんが為に戦いは始まった(嘘
小学生となると知恵がつく。
やっと歩き始めたガキンチョのように走って追いかけるようなコトはしない。
無駄な努力だ。んなコトで捕まえられるわきゃない。
学校帰りに近くの家やらビルやらからダンボール箱を調達する。
見当たらない時はその辺の家の人と交渉してダンボール箱を貰う。
よく利用していたのは、捕獲作戦を実行していた場所の目の前にあるNHK放送局だった。
勝手に入って地下2階に行くと誰か居る。
「ダンボール箱ちょうだい」と言えば大体くれる。
地下1階にはトイレがある。作戦途中で いつトイレに行きたくなってもだいじょうぶだ。
ダンボールを確保したら、今度は木の枝を探す。
木はそこら中に生えているので少し探せばイイ感じの枝がいくらでも落ちている。
後は給食の残りのパンと家から持ってきた紐があれば準備はOKだ。
給食がパンじゃない時は、近くのパン屋からパンの耳を貰う。
木の枝に紐を結び、それで支えるようにダンボールを立て掛ける。
パンをちぎってばら撒けば、後は獲物が来るのを待つだけだ。

待たなくてもパンをばら撒いたとたんにヤツらは群がってくる。
ダンボールの下の餌をつついた瞬間にサッと紐を引くと捕獲できる。
ダンボールから鳩を取り出すのが少々難しく、最初の頃はよく逃がしていたが、そのうち慣れた。
捕まえたら両手でしっかりもち、一緒にぐるぐる回る。限界になるまで回る。
回りすぎて気持ち悪くなったら、手を離してやる。
鳩も目が回っているのだろう。すぐには飛び立てず地面でバタバタしていた。
少しすると飛び立って逃げて行く。
その様がすごく面白く、一緒にやっていた友達は大笑いだ。
ただ、回していた本人は目が回って気持ち悪く、回復した頃には既に飛び立った後なので見れなかった。
まぁ、これに懲りて もう道路は汚さないだろう。
さらばだ、鳩くん。
さぁ、次だ。
こうして捕獲は日が暮れるまで続けられる。
毎日がこんな感じだった。

小学校3年の頃に家の前で建設工事が始まった。
なんでもビルが建つらしい。
うちはラーメン屋なので、工事の人が昼ご飯を食べに来ていた。
うちは店と家が一緒で出入り口も共用だ。
自然と何度か顔を合わすことになる。
工事の人も例外でなかった。
話し掛けたり話し掛けられたりと言う事はなかったが。
ある日、学校から帰ると工事現場前に親父が立っていた。
なんだろうと近づきかけると、向こうも発見したらしく呼び付けられた。
「ちょっとこっち来てみィ」
なにかを囲むように大人の人が輪を作っていた。
その中心に鳩のヒナらしきものがいた。
「どうするや、これ」
親父がいきなりわたしに問う。
いつもこうだ。いきなり訳のわからん問を出す。
"どうするっつって、なにがやねん。"
思ってても口には出せない。出しちゃいけない。下手な突っ込みは殴られる。
「どうするって・・?」
びくびくしながら聞いてみる。
「このままほっとけんしのう・・家で世話してやるかのう。」
ホンキですか!わたしゃ全然賛成ですよ!
妙に嬉しくなった。
「じゃぁ、ええんじゃの?」
いつも自分で勝手に決めつけるくせに同意を求める親父。
「うん。ええよー」
「ほんじゃ、はよう家に入れ。」
もう用無しらしい。
家に入って着替えて、工事の人と親父が話し終わるのをじっと待つ。
親父が戻ってきた。
「今から平和公園行くで。」
"はぁ?"
「やっぱり育て方わからんし、仲間がいっぱい居るところのがええじゃろ」
「平和公園の人に頼めば ちゃんと育ててくれるわいや」
"んなら、最初から意見求めんなや…"
言いたくても言えない。言ったらダメ。投げ飛ばされる。
「・・うん」
親父と一緒に平和公園に行って警備員らしき人に鳩のヒナを預けて帰った。
これでよかったんだ。
うちに居たら食われるかもしれないもんね。
小学4年のころ?
従兄弟が泊まりに来ていた時だった。
平和公園に遊びに行った。
従兄弟には鳩がわりと珍しいらしかった。
従兄弟に自慢げに鳩の捕まえ方を教えてやった。
鳩の餌を手のひらに置いて、鳩が餌をつついた瞬間に手を握ると
くちばしを掴むことができる。
道具を使わない手軽な捕まえ方だ。でもあまり面白味はない。
「タイミング難しいねー」
慣れてないからか、さすがに難しかった様だ。
ふと従兄弟が言った。
「いっぺんに何匹も捕まえられんかねぇ」
うーん・・いっぺんにかぁ・・
思いついた。
家をオリにして一気に捕まえよう。
思いついたら実行だ。
餌を地面にばら撒きながら、鳩を誘導する。
それを家まで続ける。
歩いて5分さ。近いもんだ。
平和公園からずっと餌をばら撒いて道路に出た。
普通の一般道である。
車通りの多い平和大通りという道の脇を鳩を従えて行進した。
信号待ちでも餌を少しずつ足して 鳩が逃げないようにした。
信号さえ渡れば家は目の前だ。
横断歩道でも構わず餌をばら撒く。
鳩もそれについてくる。
なんとか信号を渡りきり、家の前まで来た。
従兄弟に家の戸を開けさせ、鳩を家の中まで誘導した。
玄関=店なので、玄関は広い。
店の中に餌をばら撒き、そっと家の外に出る。
鳩が餌に夢中になっている。いまだ!
サッと戸を閉めた。
逃げ場のない鳩は中でバタバタ飛んでいるようだった。
その前に問題が起きた。
戸の閉め方が逆だ!

慌てて直そうと考えた。
「でも、これ・・直す瞬間に逃げられるんじゃないん?」
従兄弟が鋭いコトを言った。
「サッとすればええんじゃー」
強引に従兄弟を納得させた。
「ええかー、いくでー」
「ええよー」
サッと戸を交差させた。
瞬間、鳩はここぞとばかりに逃げていった。
作戦は失敗だった。
戸の閉め方が逆でなければ…悔しかった。
"うまく行ってたとしても、今度は自分らが家の中には入れなかった。"
と言う事には全く気付いていなかった。やっぱ子供。
逃げちまったもんは仕方ない。
いい時間になったし、昼ご飯食べよう。
家の中に入った瞬間、固まった。
店の中、鳩の羽だらけだわ、箸立てはぐちゃぐちゃだわ、醤油やらなんやらが これでもかとばかりに散乱していた。

鳩が家の中でバタバタ暴れて気付かないわけがない。
親がすっ飛んできてこっぴどく怒られた。
従兄弟がいたから、吹っ飛ばされずに済んだ。
一人でやってたら星になっていた。
家に誘い入れるという行為は、これ以来やっていない。
今の家の近くには鳩は来ない。
この間、久しぶりにじっくり鳩を見る機会があった。
また機会があれば捕まえて抱きたいものだと思った。
記憶だとふわふわしてて柔らかかった気がする。
今度捕まえよう・・。
くるっくー
