<タイトル>

ぼんやりと空を見るのは何年ぶりだろう。
田舎の特にどうと言う事のない道。
人通りもなくまるで時間が止まってしまったかのように感じる。
僕はリクライニングを倒して、空を見ていた。

目的も無くコンバーチブルを走らせる。
ただその運転と言う行為のみに気持ちを集中させて、僕はひたすら走った。
都会の喧騒、人間関係のしがらみ、家族、恋人、いったい1人の人間が生き延びていくのにどれだけの社会的な犠牲を払うのだろう。
ふと頭の隅に浮かんだ思いはとめどなく僕を縛りはじめていた。
走ろうと思ったのは、だからそう不思議な出来事ではなかった。
とにかく風を思い切り体に受けて、そういった諸々の事を吹き飛ばしてしまいたかった。
何も考えない、空っぽの自分を作る事、そのための作業として車の運転はとても上手く作用してくれた。
埃っぽい関東の道路を過ぎて、徐々に山に囲まれはじめる頃には、僕は車と一体になったように感じはじめた。
カーブを曲がる時、ステアリングに感じる路面のざらつき。
シートに軽くひびくサスペンションの振動。
時々方向によって反射してきらめくミラーに映る太陽の光。
そういったモノが僕の五感を緩やかに開放しはじめたようだ。
そう、この一瞬、僕は僕であり他の何者でもない。
世界は静かに僕を包み込み、ただの1人の人間へと還してくれる。
風を感じる事、空の下大いなる意思に抱かれる事、きっと僕はこの瞬間を求めていたに違いない。

ふと、車を止めた。
理由なんかなかった。その場所が僕を待っていたのかもしれない。
まったくそうでないかもしれない。
緑がはっきりと目に映った。
風に柔らかな淡い香りが混じっている事に気がついた。
季節の花が周辺に咲いていた。
きっと僕の事を歓迎してくれているのかもしれない、そう思った時、 僕は自分が涙を流している事に気がついた。

青から柔らかなオレンジそしてあたりがうす闇に包まれるまで、誰も通らなかった。
僕は遠い記憶に中にあった、かすかな、泣いている自分の姿を思い出しながら、頬を伝う涙を感じつづけた。
もしかすると、今日初めて自分自身を許す事が出来たのかもしれない。