yahoo topics(http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20030109-00000001-yom-soci)より

社会ニュース - 1月9日(木)3時19分

抗がん剤「イレッサ」を承認前286人に投与

 副作用が問題になっている抗がん剤「ゲフィチニブ」(商品名イレッサ)を、
昨年7月の厚生労働省の承認前に、臨床試験外で投与された国内の肺がん患者が286人にのぼり、
1人が同5月に副作用で死亡、3人が重症になっていたことがわかった。

 製造販売元の「アストラゼネカ」(本社・英国)が「患者の求めに応じた倫理的供給」として無償で提供、
国内89病院の医師が個人輸入していた。世界中で承認した国がない段階で、大規模な個人輸入が行われたのは異例で、
臨床試験のあり方や、こうした例外的な供給に対するルール作りへの論議が高まりそうだ。

 アストラゼネカが、世界中で臨床試験外で提供した患者数は、昨年9月までの段階で、
日本国内の286人を含めて2万2000人以上。未承認薬を臨床試験外で投与することを一定の条件で認めている国もあり、
各国で事情は異なる。

 こうした時期に、日本では正式承認のための臨床試験を急いでいたわけで、
アストラゼネカが臨床試験を軽視していたのではないかとの批判もある。
国内の臨床試験でイレッサの投与を受けた患者は102人なのに、医師の個人輸入で投与した患者がその約3倍にのぼっていた。

 アストラゼネカによると、試験外投与向けの供給は
「ほかに治療方法のない肺がんの患者に服用の機会を提供する」として2000年12月から開始。
第三者審査を委託した仏の調査会社のチェックを受けた医師に、送料のみで提供した。

 国内では臨床試験のうち少数のがん患者を対象にした試験が2001年3月に終わり、
同8月から大阪市北区のビルにある同社日本法人内の事務局に看護師1人が常駐し、供給の事務手続きにあたった。
そのころ中部地方のがん治療専門病院で投与を始めたという。

 応募は大学病院やがん専門病院の医師が多く、「輸入・処方した医師が責任を負う」との誓約書を出し、英国からの個人輸入手続きを取った。
英国本社は、医師らに副作用を速やかに報告するよう求めていたが、同封された英文の注意書きには、肺障害などの重大な副作用の情報はなかった。

 死亡例は昨年5月に発生し、「肺炎」として国に報告。
重症の3例は同年1―4月に起きた肺炎、おう吐、間質性肺炎で、いずれも投与した医師が副作用と判断した。
こうした臨床試験外の供給についてアストラゼネカ日本法人は、「世界でも例のない規模で経済的負担も大きかったが、
患者の圧力に抗しきれなかった」とし、「英国の本社が決めた厳格なルールで実施した。
厚生労働省には事前に相談し『医師の個人輸入なら問題ない』と確認をとっていた」と強調している。

 厚労省医薬局監視指導・麻薬対策課は「事前相談の有無は定かではない。
医師が外国の企業から直接、個人輸入したのなら、法的に問題はない。
承認前なら薬ではないので、当局が輸入や副作用の状況を把握する義務もない」としている。


 ◆承認国ない段階で企業が積極供給、一定のルールが必要◆

 新薬承認に臨床試験が欠かせない大きな理由は、死亡を含む危険を伴うからだ。
イレッサで明るみに出たように、臨床試験と並行し、
承認前から多数の患者にメーカーが提供するやり方では、患者が大きな危険にさらされかねない。

 厚生労働省は省令で、臨床試験の方法を厳格に定めている。試験の開始には動物実験のデータや詳細な計画書をもとに同省の承認を受ける必要があり、
決められた医療機関の専門医が投与し、効果や副作用の観察・報告も厳密に行わないといけない。副作用による被害は補償の対象にもなる。

 試験外投与では厳格な管理はなく、副作用で障害や死亡に至った場合の責任の所在もあいまいだ。

 日本で未承認の薬を医師が、承認済みの国から個人輸入して患者に使うことは少なくない。
最近、サリドマイドの個人輸入が増加していることが明らかになったが、こちらは海外でハンセン病治療などで承認されている薬だ。
どこの国でも未承認の段階だった今回の個人輸入は、極めて不自然なケースと言え、積極的に供給したメーカーの姿勢には問題がある。

 ほかに治療法がなく、残された手段として新薬を試したい患者に入手の手段はあってよいが、
メーカー任せではなく、一定のルール作りが必要だろう。(大阪本社科学部 増田 弘治)(読売新聞)

[1月9日3時19分更新]