モールス信号

僕が小学生のとき、いつも一緒にいた友達がいる。ヒロシとユウジだ。ヒロシは八百屋の息子で口が達者だった。ユウジは勉強が得意で、そのくせ宿題をやってこないで先生を困らせた。僕ら3人はいつも何かしでかして、先生の悩みの種だったと思う。特にヒロシは一番の問題児とされていた。ヒロシはいつもおもしろいことを考え付いて、僕らはそれをすぐに実行に移した。当時悪い小学生がやりそうなことはひととおりやり尽くしたと思う。

ドアに黒板消しをはさむこと然り、掃除道具入れにニワトリを入れること然り、

夜中学校に忍び込んで、教卓を教室の後ろに移動させて、机と椅子もすべて後ろ向きにしたりもした。登校してきたクラスメートの予想以上の驚きようをみて僕らは内心ほくそえんだ。担任の驚きようはそれ以上で、僕らは何度もそのぽかんとした表情を思い出して笑いあったものだ。

でもそんな馬鹿なことをするのは決まって僕らなので、すぐに反省室に入れられ、正座させられることになった。僕らの学校は、昔の古い大きな寺を小学校用に改築したもので、もともとあった畳敷きの小部屋が生徒を正座させるための反省室として使われている。

僕ら3人は授業中も私語が絶えず、席はいつも3人が離れるように配置されていた。そしてヒロシはいつも一番前の左手、先生の目が一番届きやすい位置に置かれていた。

そこでユウジが思い付いたのが、モールス信号だった。僕らはすぐにそれを使いこなすようになった。ツーという長音とトンという短音の組み合わせのみで交信できるので、離れた席にいても、鉛筆で机を打ったり貧乏揺すりのふりをして机を鳴らして僕らはいつも雑談していた。

先生は僕らのそんな雰囲気を感じ取ったのか、ヒロシに貧乏揺すりをやめるよう何度も警告した。ヒロシは「無意識にやっちゃうんだよ」と言い訳して、やめようとはしなかった。

僕らがモールス信号を使い出してから3週間目、とうとう先生の堪忍袋の尾が切れて、ヒロシの貧乏ゆすりのうるさいのを理由に彼に反省室行きを命じた。ヒロシはちょっと考えるような顔をして教室から出て行った。本当は共犯である僕とユウジは後ろめたさを感じながらヒロシの後ろ姿を見送り、先生は静かに授業を再開した。

教室は久々に静寂をとりもどし、授業はつつがなく進行していったが、僕とユウジは一人で正座しているはずのヒロシのことが気になって先生の話もうわのそらだった。そうして20分くらいしたころ、どこかから、大音響の鐘の音が聞こえてきた。

「ゴーン、ゴーン、ゴン…ゴン、ゴン、ゴーーーン!…」

学校中の先生と生徒が、驚いたに違いない。

ヒロシに間違いなかった。反省室を抜け出して勝手に寺にあった鐘を打っているのだ。

僕とユウジは顔を見合わせ、頭の中で解読した。その言葉は、

「先生の、ズボンの尻、やぶけてる」


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