「忘れ物」

 

また…このにおいだ
…いつのことだったろう
どこの場所だったろうか…
記憶の中に引っかかるものは
確かにあるのに…
思い出せない…
なにかのにおいだ…

…そのにおいは
ふとしたときに
風に流され…
僕のもとまで届いた
…だからいつも
ほんのひと時しか
思い出すことは出来なくて…
あの記憶にはいつも
あと少しのところで届かない…
だから…
あの記憶は…
今も思い出すことは出来ないままだ…

ちいさなころの記憶…
きっとそう…
あのころの時代だ…
……そういえば
…もう景色もずいぶんと変わったな…
虫なんて…ずいぶんと見てないな…
草を分けて歩いた…
足を浸す水の冷たさも…
今よりもずっと…
広かった空も…
もう…忘れていたな
あのころなんて…
ここにはもう面影も薄いから…

変わりゆく景色に…
忘れてきたものがあった…
それがなんだったか…
今ではもう思い出せない…
でも時折
…ふと
風が吹くのだ
……
…あのころの風だ…
続く時の中で…
今もたまに…
あのころの風が吹く
…もうすこしで思い出せそうな
そんな懐かしさだけを残して…