INSTANT☆LOVERS


この話はフィクションです。
実在の人物、地名、学校名などとはいっさい関係ありません。






「実はさ…俺の親父が転勤で1ヶ月ほど会えなくなる…。」
「…え?」
私はおもわず立ち止まった。
彼は立ち止まった私に向き直って、まっすぐに私の目を見た。
「…だけど待っててほしい。ほんとに1ヶ月で帰ってくるから。電話もメールもするから。」
「…うん。わかった。…いってらっしゃい」
それは冷たい雪が降りしきる11月下旬の夕方だった。

「いってきまふぅ〜」
朝食の食パンを銜えながら走って家を出た。
マンションの最上階に住んでいたから、1階で止まっているエレベーターを使わずに階段を一気に駆け下りた。
マンションから出るとき、少し辛い気持ちになった。
いつもは彼が待ってくれていた。だけど今は遠いところにいる。
そのまま走りぬけようとした。
けど、そこには別の人が立っていた。
走りぬけようとした私についてくる。
「よぅ。はよう。」
そいつは同じマンションの1階に住んでいる和彦だった。
「…」
「いつもの彼はどうしたんだよ?」
そう訊かれてムッとした。
「あんたには関係ないでしょ!」
私はいささかキレかけなのに、ヘラヘラしていた。
「もしかしてフられたんだろ?」
「おじさんの転勤で遠くに行っちゃったの!」
「遠距離恋愛ですかな?」
「1ヶ月で帰ってくるって言ったもん!」
私は自分が口にしている言葉から現実を改めて実感して悲しくなった。
「……。」
和彦が横目でこっちを見たのが判ったけど、無視した。それどころじゃない。胸が苦しかった。
「…俺ら付き合おうか。」
「…はぁ?」
この言葉には反射的に反応してしまった。
「何馬鹿言ってんのよ。」
相変わらずヘラヘラしていた。
「傷を癒してあげようって言ってんの。」
「別に彼とは別れたわけじゃないの!」
「…じゃぁそのカレが帰ってくるまででいいから。」
「あんたソレ本気?」
そう言うと、和彦にグッと手を引かれて、こけそうになりながら立ち止まった。
「ぅわ!ちょっ…なにすんの…」
言いかけて言葉が出なくなった。和彦がいつにも増してマジメな顔をしていたからだ。
「俺はマジだよ。お前のことが好きなんだよ。」
いきなりの告白に、いささか頭が混乱している。
「……。」
「…どう?」
確かに、今の和彦はかなり色っぽい。普段も背が低いのを除けば、顔もルックスもいけてる。
「…う、うん。」
私はその場の雰囲気に負けてしまった。和彦はまたいつものようにヘラヘラした顔の戻った。
「じゃぁ急ごうか。彼女さん。」
私は急にガクッときた。そういえばこれが普段なんだ…。
「何よ、その呼び方。」
「まぁいぃからいぃから。」
私達は、学校へ急いだ。

放課後、クラスの違う私と和彦は、人通りの少ない裏の校門で待ち合わせた。
私的に友達にばれるとマズい。彼とはまだ付き合っていることになっているから。
二股かけているなんてばれてしまったら、とんでもない事になってしまう。
校門にはまだ和彦は来ていなかった。
私…これでホントによかったのか…?
朝のことを思い出しながら自分自身に問いかけた。
それから何分経っただろうか…?待っても待ってもなかなか来ない。
遅い!遅すぎる!
1時間くらい待ってやっとノコノコやって来た。
「待った〜?」
…プチッ
「あぁんた何やってたのよ!私何時間待ってたと思ってんのよ!!」
「んえぇ?あぁごめ〜ん。」
和彦のヘラヘラしている顔を見ると怒りを通り過ぎて呆れがきた。
「……はぁ…。」
やっぱしやめとくんだった。
「じゃぁ行きますか。」
「え?どこに?」
私はてっきり一緒に帰るだけかと思った。
「最近観たい映画があってさぁ。それ見に行こ。」
「映画って…まぁいぃか。」
何か変な気分だった。彼以外の人と映画を見に行ったことがなかったから。
彼とよく行く映画館。でも隣にいる人は違う。全く違う和彦だった。
しかも和彦は気前のいいことに、おごってくれた。
ますます変な気分になった。
前に彼と見たことのある映画。
アドヴェンチャーもので、すごく面白かったのを覚えている。何度見ても面白く、今回もなかなか楽しめた。
ただ…隣に、何故か大泣きしている人がいる。
「ちょ…泣くなよ!恥ずかしいだろ!どこが泣けたんだよ?オイ!」
「うぅ…だってよぅ…あいつがさぁ…」
恥ずかしくて堪らなかった。こいつはホントわけがわからない。
そんなこんなで6時になった。冬だから既に空は暗く、街灯だけが妖しく輝いていた。
「いやぁ〜感動したなぁ。あの映画。」
「だ〜か〜ら〜…どこが!」
和彦は、ははは〜と笑うだけだった。
そんなことを話しているうちに、マンションの前についてしまった。
「今日は楽しかっただろ?」
いつものヘラヘラした顔で訊かれた。アレはアレでそれなりに楽しめたかもしれない。
「…う…うん。まぁね。」
「よかったよかった!じゃぁまた明日な!」
そう言ってさっさと帰ってしまった。
また変な気分になった。何か物足りないような…。
私もエレベーターに乗ってさっさと家に帰った。
この日は、とうとう彼からは電話もメールもこなかった。

その次の日から、放課後はいつも和彦と一緒に帰った。
そして絶対寄り道をする。映画、ゲーセン、ビリヤード…。
雨の日も雪の日も、私を引っ張りまわして歩いた。
シブシブ付き合っているのだが、もう1つ、気が引ける理由がある。
和彦は絶対私におごってくれる。
彼がおごってくれるということはなかったから、慣れていなかった。
初めは気前のいぃヤツだなぁ…とか軽く思っていたりしたけど、日が経つにつれてだんだん申し訳ない気がしてきた。
ある日、このことについて言ってみた。
「あのさぁ…毎日おごってくれるけど、そんなにお金に困ってるわけじゃないからいぃよ。」
和彦はヘラヘラして、こう言った。
「イィじゃん。俺にカッコウ付けさせろよ。」
何故かその言葉を聞いて、ムッときた。
「別にそんなことしてかっこよくないよ。なんかあんたに貸しつくってるみたいでいい気分じゃないよ。」
和彦は、依然ヘラヘラして言った。
「別に貸しつくってる訳じゃないし。これが俺の愛情表現なんだよ。」
そう言われて、私は何も言えなくなった。
むしろこんな愛情表現の仕方もあるのか、と納得した。
よく考えると、その他にもこれはおかしい、と思うところは多々あった。

とうとう彼が帰ってくる予定日まで、あと1週間となった。
カレンダーを眺めて少しウキウキする。あと1週間…後1週間我慢すれば彼に会える。
でも気がかりなのは、連絡が一度もないこと。電話も、メールも…全くない。
それでも寂しくはなかった。心の中で彼のことを思い浮かべていたからだ。
心の中の彼はいつも笑ってこっちを見ていた。一点の曇りもない笑顔で…。
何か虚ろな気持ちになっていたのだが、それも和彦に会えば忘れていた。
今日もまた和彦と一緒に寄り道をして、空が暗くなるまで遊んだ。
そしていつものように家に帰った。
家には人気がなく、真っ暗だった。
「ただいまぁ〜。」
誰もいないとわかっていながら言ってしまう自分が少し悲しい。
フラフラと自分の部屋に入り、ベッドにパタッと倒れた。
ふと横を見ると伏せていたはずの写真たてが立ている。
彼と私が一緒に写っている写真。彼がいなくて寂しいと思って伏せていた写真。
写真の彼はムスッとしていた。もともとよく笑う人じゃない。
自分の中の彼は笑っているのに…。
そのとき自分の中で何かが溢れ出るのがわかった。
「っ……」
私はわけもわからず家を飛び出した…。
気付いたら近所の公園のブランコに座っていた。
知らない間に涙を流したのだろうか、目がかゆい。全身を無気力感が覆う。
思ってみれば、自分の中に想像していた彼は虚像だったのかもしれない。
和彦のことでいっぱいだった私が、表面上だけで彼を想っていくために創った虚像…。自己満足だけのための虚像…。
和彦と付き合うことで得た充足感とか、高揚感とかの全てがその場しのぎだって事に気付いた
そして、胸の中に仕舞っておいた罪悪感とか、嫌悪感とかが一気に押し寄せてきて、思った。…私はなんて悲しい、寂しい、醜い女なんだろうと…。
もう何もかもがどうでもよく感じた。
そのとき、肩に何か暖かい風が吹いた。
振り返ると和彦が自分のコートを私に掛けてくれていた。
「風邪引くぞ。」
そう言って、隣の空いているブランコに座った。
「な…何で私がここにいるって…」
「ん?カンだよカン。」
和彦のこぐブランコの音が、キーキーと済んだ空気に響いた。
「で?どうしたんだよ。こんな時間に。」
「…あ…あんたにはどうでもいいでしょう!」
私の心は荒んでいて、口にする言葉が全て刺々しく感じた。
和彦ははぁとため息をついた。
「彼のこと思い出して悲しくなったんだろ?」
私はギクッとした。図星だ。
「後1週間で帰ってくるんだろ?あと少しじゃん。寂しくなったら俺もいるし…。」
暗くて顔が見えなかったけど、多分和彦はまじめな顔をしているだろう。
そのとき、ある結論にたどりついた。
「か…和彦…」
「ん?なんだ?」
「あ…あの……。私たち…もう終わりにしようよ…」
「ん。そうだな。そろそろ終わりにしといた方がいいかもな。」
私は心の中でギクッとした。
「な…!そんなあ…あっさり別れちゃっていいの?それであんたは本当に…」
「何言ってんだよ。そういう約束だっただろ?何か問題でもあるのか?」
私は何も言い返せなくなった。
別れようって言ったのは私なのに、一言でよかった、何か一言引き止める言葉をかけてほしかった。
今の私の心は矛盾だらけだったんだ…。
「じゃぁそろそろ帰ろうか。ホラ、雪も降ってきたし。」
ゆっくり空を見上げてみたら、雪が頬に落ちてきた。どうりで寒いわけだ。
和彦はブランコから立ち上がり、私に手を差し伸べた。
「ホ〜ラ!」
私たちはその手を取って、雪の振る中をゆっくり歩いて帰った。
和彦はエレベーターの前まで送ってくれた。
「じゃぁな!」
私は何か言おうとして、閉まろうとするドアを止めようとするけど、枷が付いたように手が動かない。
ダメ!私を置いて行かないで!
無情にもドアは閉まってエレベーターは動き始めた…。

次の日、私はマンションの入り口で和彦を待ち続けた。
当然来る筈もない。そうわかっていても、待ち続けた。
1時間…2時間…。時は刻々と過ぎていく…。
学校はもうとっくに昼休みの時間。
何してんだろう……私…。
とりあえず、何も考えず歩を進めた。
彼のこと、和彦のこと、今の自分の気持ち…。
何もかもが自分の中でゴチャゴチャになっている。
私はいったいどうしたらいいのだろう…。どうやったらこの苦しみから逃れられるのだろう…。
気が付いたら近くの砂浜に着いていた。そして空はもう赤く染まっていた。
砂浜にペタッと座って、膝を抱えて真っ赤な太陽を眺めた。すごく眩しい…、まるで自分の心を隅々まで照らしているようだった。
「なにしてんだよ?」
後ろから声がしてびっくりした。振り返ってみるとそこにはいない筈の彼が立っていた。
私は目をこすってもう一回よく見た。間違いない。彼だ。
彼は私の隣にドカッと座った。
「…ただいま。」
彼は恥ずかしいのか、顔をこっちに向けない。
「…なによ…今まで何の連絡もしないで…。」
私の口調は相変わらず刺々しかった。
「わりぃ。ケータイなくしちまって電話番号とかメルアドとかわかんなかったから。」
「…なによそれ。」
「…マジ悪かった。ゴメン。」
彼がすごく素直だったから、自分の中にある罪悪感とか全部曝け出しそうになった。ソレはまずかった。彼に迷惑をかけてしまう。
「淋しかったんだから…。」
淋しかっただけじゃない。彼への、和彦への謝罪の気持ちも、自分への歯痒さも…。
気持ちを言葉にしたら、一緒に涙も溢れてきてしまった。
そのとき、彼がそっと肩を抱いてくれた。暖かい、この冷え切った体に染み渡る暖かさだった。
「…っぅう…。」
涙がどんどん溢れてきて止まらなくなった。

次の日からいつも通り、彼がマンションの入り口で待ってくれていた。
何も変わらない一日の始まり。これがホントにうれしいことだった。
話は変わるが、実は彼にマンネリを感じていたのだ。変わらない毎日に嫌気がさしていた。
だけど和彦と付き合って、和彦の行動とか態度とか、全部を彼と比べている自分に気付いた。
和彦は和彦でいいところもいっぱいあった。だけどついつい今まで一緒にいた彼と比べてしまう。
心の中ではわかっていたのかもしれない。私の中では彼の存在が絶対なのだと。
今はそれを噛み締めている。
隣にいる彼は、いつもと変わらず無口だった。いつもと変わらないことがホントの幸せなのかもしれない。
「おい!」
ポコッ。頭に何か当たった。そして横を誰かが走りぬけた。
紙を広げて見てみると『目ェ覚めたかよ!』と書いてあった。
横を走り抜けたのはもちろん和彦だった。
プッ…、
「ありがとな!」
私は思いっきり叫んだ。
もしかしたら和彦は全てを知っていたのかもしれない。
その上で私と付き合ったのかも…。
とにかく、和彦にはありがとうを言っておきたかった。
そして今、ホントに幸せだよ…。

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どぅも〜。
この度はINSTANT☆LOVERSを読んでいただき、ありがとうございます!

初めての短編なのですが、話わかりました?
短く短くまとめようと思って、ちぢめたのですが、
かえってわかり難くなったかもしれません。

話の内容は、かなり不純なもので(自分的に)、
何でこんなの書いたんだろう…と思いました。
でも書き始めたらいろいろ浮かんできて、結局書き終わっちゃいました。
まぁこんな話もありかなぁ…と。

では、これからも何かと書いていこうかと思いますので、よろしくお願いいたしますネ!