☆ノーサイドの笛が
鳴るまで――vol.2☆
〜全国社会人ラグビー決勝<神戸製鋼対トヨタ戦>観戦記〜
はっきり言って、こんなに早くvol.2を書けるとは思っていなかった。決勝戦では主力の一人であり
極めて重要な戦力であるCTBの元木を欠くという報道があり、これは苦戦どころか、関西リーグの
二の舞になる可能性が高いなぁと半ば諦め気味でもあったからだ。が、勝負というヤツはホントに
やってみなければわからないということを実感した。と同時に優勝が決まった後になってから
神鋼側の秘策というか、‘あれこれいい話’が沢山聞けて、個人的にはとてもうれしかった。
あの強かった神鋼(7連覇の)のイメージが甦ってきたし、それ以上に嬉しいのは、やはり震災を
乗り越えたという実感がひとしおな点。そんなわけで再びラグビーコラムを書くことにした。
★不利★
戦前から下馬評は「トヨタのもの」ということだった。それはやむを得ない。神鋼ファンであっても
いや、神鋼ファンであるから‘元木を欠くこと’の重大さは十分承知で、年末のような惨敗こそは
どうか免れてくれと心密かに願うばかりであった。もちろん、あの惨敗ぶりは、かなりテンションが
切れて、‘最悪の結果’だったと理解している。SO(ゲームメーカーとなる10番を付けた
ポジション、サッカーでの10番と似た働きをするいわば司令塔で、ゲームメークをする)の
ミラーが徹底的にマークされた結果で、今決勝ではそのマークをいかにしてはずすか、他の選手が
どれほどミラーをヘルプ出来るかに不沈がかかっていた。とは言え、惨敗時と同じくBKでの
圧倒的な突破力を誇る元木がいなくては、苦戦は否めず、どこに勝機を見出すか、神鋼側の不利は
明らかだった。唯一光明を見出せるとすれば、それはDFの安定感が増してきたこと。それから
互角に戦うための要素として求められるのはOF、DFを問わず意志の統一であったはずだ。
即ちボールを持った時、奪われた時に何をすればいいのかということ、これを徹底できるか
否かで戦いは大きく動く。その出来不出来は不利を覆し、有利を駆逐する貴重な鍵なのだ。
☆ゲームメーク☆
↑で述べたようにラグビーの場合、試合を組みたてるのは10番を背負うSO(スタンドオフ)と
いうポジションである。サッカーの場合でも10番を背負う選手が司令塔だと言われることが
少なくないが、MFというポジションで括られ、固有名称はない。に対してラグビーでは
選手が多いことや、ポジションが複雑であることなどから、ポジションに固有名称が与えられて
いる。ともあれ、その10番がゲームメークをまかされ、プレースキッカー(ゴールの後の
キックやPKを蹴る人のことを言う)の役割を担うことも多い。神鋼もトヨタも両SOがキッカーを
務めていた。その両ゲームメーカーのこの決勝での出来はどうかというと、やはり敗れたトヨタの
SO広瀬は勝負所で???なプレーが出ていた。不調でもあったろうが、‘意志統一’という点
でどうもすっきりしない戦い方を、トヨタの方がしていたと思う。つまり、トヨタは神鋼に比べ
FW戦で勝負をするタイプのチームだから、スクラムやラインアウトを多用する形に持ちこめば
いい展開ができたはずなのだが、人数をかけている割には神鋼のDFに阻まれ前進が出来て
いないところが目立った。前半は特に神鋼のDFが良かったので、トヨタの戦い方のまずさ
ばかりを攻められないが、広瀬は神鋼のDFがいいのならいいなりの戦い方を選択しなければ
ならなかったのではないだろうか。それは、例えば次のような時に適切な指示が必要でなかった
のかと思われる。
★焦り★
前半集中力を見せ、一方的に得点を重ねた神鋼は22−0とリードしたものの、激しい当たりで
FWの一列目の選手が一人二人と戦線離脱をやむなくされる。代わりに入った選手も体調は
万全どころかバンデージが痛々しい手負い状態であったり、途中肩を再三はずすなどの
アクシデントもあり、8人で組むはずのスクラムを緊急事態で7人で組むことをレフリーに
認めてもらうなどボロボロの状態に。ここはトヨタが圧倒的優位に立たなければならない
展開であったはずだ。スクラムは8対7であるのだから、当然押せるし、ラインアウトも有利である。
なのに、なのに神鋼ファンである私ははらはらするどころか、ん?何故に?状態に。
即ち、トヨタの攻め倦み、数的有利を生かせず、↑にも書いたが、チャンスの前進に
10人のFW&BKをかけようと5人程度の神鋼のDFに阻まれる有様。どうなってんの?
解説に入っていた向井、松尾両氏も???な展開に呆れたようなコメントを洩らしていた。
気負ったFWがラック(地面でボールをキープするもの)からいいボールを出すどころか
味方同士でボールの出所を潰していてはチャンスが一転して不利に陥ってしまう。
ボールをやみくもに押さえに行けばいいというわけではないのだ。
☆助言☆
この日の広瀬(トヨタSO)は明らかに変であった。それが自身の中に生じた勝利への
渇望が悪い形で出たものであったと言えばそれまでだが、彼はゲームメーカーとしての
自分の役割を忘れていたかのように見えた。グラウンド上のことは、そこでしかわからないから
もしかしたら、彼は声をからしてFWへの指示をとばしていたかも知れない。が、トヨタFWは
相変わらず‘らしくない動き’を見せて、なかなか思うような展開が出来ず、手負いの神鋼を
助けて行く。助言をする者が一人であっては勝てない――私は咄嗟にそんなことを考えた。
SOばかりがゲームメーカーであってはならない。ラグビーには選手が15人もいるのだ。
前半終了間際にようやくトヨタが右隅にトライを決めて、ゴールも成功、22−7。
だが、この7点で済んだのは上出来だと私は評価した。トヨタがいつものFW戦を展開出来て
いたなら、12点、いや、下手をすれば14点は覚悟しなければならないところだった。
神鋼の効率の良いDFに感心すると共に、トヨタの拙攻に助けられたなと感じた。
正直、前半が7得点に終わっていなければ神鋼の勝利はどうなっていたかわからない。
★友情★
神鋼は元木の欠場に伴って、決勝戦前にBKのコンバートを行っていた。BKでセンターと
ウィングを入れ替えていたのだ。元木が居ればセンターに入るのだが、そこが抜ける。
元木の代わりにウィングから大畑を入れ、吉田とセンターのコンビを組んだ。吉田は13から12へ。
大畑が13(背番号)。自分に代わり12番を背負う吉田に元木は欠場の無念を託し
一つの儀式を行った。吉田のユニフォームのパンツのNOを13→12へと書き換える。
一見何の変哲もないように感じられる儀式だが、二人の間では、いや、試合では絶大な
効果を見せた。前半10分のトライ、DFが集中したミラーは長持ちをせず、すぐにライン展開、
それがCTB吉田に渡った時、すぐ外にトップスピードで走りこんできた大畑が!防御ラインを
破った快速トライは中央に決まった。ミラーに気を取られていたトヨタ、ゲームメーカーは
ミラーだけではなかったのだ。吉田はこの後も相手のチャンスにあのツイドラキの突進の前に
飛び出すなど勇気あるプレーで魅せてくれた。元木が「俺の分まで」と託した心が乗り移った
のか、私は影のヒーローは吉田だと確信している。
☆集中力☆
神鋼の勝因は数々あるが、何といってもここ一番の集中力の違いが
両チームの差だと思われる。
これまでにも述べてきたが、集中力と焦りは違う。勝ちたい気持ちがいい形で表出したら、
それは集中力、悪い形になったなら、焦り。根源は同じかも知れないが、どちらになるかは
それこそ天地の差なのだ。集中力という言葉は前述した‘意志統一’のプレーに繋がる。
いかにしてそれを生み出すか、それは日頃の練習とミーティングとsomething(プラスα)の
成果で、偶然のなせる技ではないと思いたい。「この優勝は昨年より価値がある。まぐれ
じゃない復活です」と萩本ヘッドコーチは述べた。それは勝ちたいという気持ちをずっと
持ち続けて来たことの証、DFチャンピオンという守る立場で、いかにして、守りに入らず
攻める気持ちをプレーに反映させるか、コーチは選手は常に考えつづけていたに違いない。
ラックになったボールがどこに置かれる(出される)のか、細かいところまで見ていた
この試合、後先考えずに集団に加わっていた選手が多かったトヨタに対し、神鋼は(ラックの)
下敷きになった選手が顔を出し、周囲の選手を見てダウンボールを繰り返していた。
‘一人一人が繋ぐことを目指して、蹴らずに継続するラグビー’が本場での主流であると言う。
そのためか解説に入った両氏も絶えず「蹴るな」を繰り返していた。アジアでは大きな敵が
いない状況で、強い国との格差は広がる一方だとも言われる日本ラグビーの行方だが、
神鋼のゲームはそんな中でもいつも一筋の光を放ってくれるような気がしてならない。
頑張れスティーラーズ!これからも日本ラグビー界のパイオニアであってくれ!
ラグビーはこの後社会人と大学各4チームでトーナメント形式で争われる日本選手権が
行われます。またいいゲームがあれば続編を書きますね。