EMPTY BODY


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プロローグ(序章)

 彼は最近妙に身体の浮遊感を覚えることがあった。自分の身体であって ないような感覚だった。
小さい頃からよく独り言を言うような所があって よく親などから誰かと話しているのかと間違われる事もあった。
そう、自分の中にもう一人いるような感覚だった。
子供の頃はこういう感覚をそのまま受け入れていたので、特に違和感を 持って自覚していなかったのだ。
最近夜眠っているとき、ふと目が覚めたら 自分が寝ている姿を真上から見ているような、幽体離脱と言われている現象 がたびたび起こるようになっていた。
それが、昼間仕事中と言わず不意に襲われるようになっていたのだ。
 彼、鮫島晴樹はそんな憂鬱にうんざりしていた。

時は23**年、2000年のコンピュータ問題も大騒ぎするほどの事は 無く、旧ソ連軍所有の骨董品のようなコンピュータによって、ミサイルの 誤作動でも起こるかと戦々恐々としていたが、実際にはエラーが起こったが 何も作動しなかったのだ。
それより怖いのは、目に見えぬダイオキシンの 汚染だった。
21世紀初頭には日本をはじめとする経済大国の大恐慌から 経済建て直しのための大消費対策に追われ、夥しい量の消費された廃棄物 による環境汚染が一気に進んでしまったのだ。
ダイオキシンによってこの100年近くというもの、男子の女性化が進み いわゆる不妊症が蔓延していた。
エイズや癌の特効薬が開発されたにも 関わらず、子供が産まれないのだから種の存続に危機が迫って来ているのは 目に見えていた。
しかし、このころになると目覚ましい医療の発展で臓器再生技術がすすみ 21世紀に行われていた脳死による臓器移植も今では殆ど実施されていなかった。
臓器を再生出来るので、自分の細胞での臓器移植が行われてその生存率は 非常に高いものとなっていた。
出生率は非常に下がってしまったが、死亡率も同じく減ったので全体からみると 人口の減少をくい止めることが出来たのだ。
ただ、人生120年と言われるようになって人間はサイボーグのように 身体のパーツを入れ替えて長生きするようになっていたので、 この地球上は随分と老いた人類で占められていた。
人間に対するクローン技術に関しては、過去にも秘密裏に行われていたが当局 の摘発にあい、表向きは実施されていない様になっていた。
しかし、いつの時代でもそうだが、制止すればするほどアングラな世界に潜って しまい非常に実質がわかりにくくなっていたのだ。
実際はクローン人間の臓器売買が行われていたのだ。マフィアの格好のビジネスに なっていた。脳の移植こそは出来なかったが、クローンに記憶チップを埋め込み あたかもその人らしく生きていくことは造作ない事になりつつあった。
要人達はこぞって自分のクローンを作っていた。万が一の時、自分や家族が生き続けるため それは必要だと思われていたのだ。
表面上人間のクローン開発を取り締まり 影では利用している。金に物を言わせて利用していたのだ。

環境ホルモンによる男性の不妊による人口減少の他に、何故か出生も男子だけに なっていた。数少ない女性から生まれるのが殆ど男子だった。
医学の進歩で女性は半世紀に渡って子供を産めるようになっていた。21世紀には 男女の平等が社会的にも確率されていたが、22世紀も後半になって女性が圧倒的に 少なくなってくると、女性を庇護する運動が出てきて、今ではすっかり女性は大切に 管理され個人が女性を妻にすることなど出来なくなっていた。
女性は子供を産む大切な神として擁護されていたのだ。
だから外を歩いていても 本物の女性に会う事は無かったが、いわゆるイミテーションの女性は沢山いた。
彼らは染色体がXXYで両性具有のような存在だったが、生殖能力は無かった。
ただのXYの男子でさえ女性のようにしなやかになっていたから、外見では判断 出来ないのが現実だ。

鮫島晴樹はいつものようにモノレールに揺られて会社に向かっていた。

第1章(1)へ続く