EMPTY BODY


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第二章(2)

 白い雲の中にいる自分が居た。
その中からじっと自分を見つめていた。
鮫島はぼんやりとした頭で、あぁまた幽体離脱しているのか・・・、と考えていた。
 「目が覚めたようだね。」
その声の主は鮫島自身だった。そう鮫島そっくりな別人が立っていたのだ。
 「うぅ・・・。」
鮫島はお前は誰だと言おうとしたが、声がかすれて出なかった。
薬が効いていて、まだしびれていたのだ。
腕を上げようとして、拘束されているのに気がついた。
そう、鮫島は完全にベッドに固定されていた。
かろうじて、首だけが動かせる状態で、手足が完全に固定されていて、且つ道尿もされていた。
少しだけ首を傾けると、視界の端に点滴の瓶が目に入った。
・・・何故、どうなっているんだ?

 「君は僕が君そっくりなので驚いているのだろうが、これは夢じゃないんだよ。」
その鮫島そっくりな男が、彼そっくりな声で話しだした。
 「君と僕とは、何だと思う?そう、兄弟でも無い、ましてや幻でも君が幽体離脱してる訳でもないんだよ。 クローンさ!ハハハクローンなんだよ。どうだ?僕たちは今から23年前に、 この世に初めて成功したクローンだったんだ。人類初の人間のクローン。それも完璧なね!」
 
鮫島はにわかにこの男の言ってることが理解出来なかった。
勿論、身体がしびれていて且つ拘束されているという、予測だにつかないこの状況で、 鮫島の頭の中はそれでなくても、十分パニックになっていた。 ・・・クローンだって?23年前?僕は27才だ?おかしいじゃないか・・・。

 「ふっふっふ。君は年齢が違うのがおかしいって考えているだろう?   君と僕とは、全く同じなんだ、考えていることぐらい分かる。   今までだって、君の心に話しかけてきただろう?   そう、僕たちはテレパシーで繋がっていたのさ。」

そう言うと彼は一人語りだした。彼の話はこうだった。
23年前、このΩ社で2人の科学者が人間の完全なクローンを作るのに成功した。
ところが、成功したかと思われていたクローン達のうち、生まれた5人の中で無事育ったのが 鮫島達2人だったのだ。
残りの3人は、原因不明の高熱で生後一週間の命だったのだ。
残された2人はそれぞれ2人の科学者が、研究所内で育てていた。
ところが、Ω社はこの2人を完全に実験材料としてしか見ていなかった事に、一人の科学者が気がついた。
それが鮫島の育ての親である、須藤博士であった。
彼は、自分が育てていた鮫島に対して、母性とも言える愛情を芽生えさせてしまったのだ。
彼はこのままでは、鮫島が実験動物のモルモット同様に育てられるのに、耐えきれなくなって、 ある日、決行したのだ。
そう、鮫島を連れてこの実験室から逃げ出したのだ。
うまく2人は姿をくらまし、Ω社が躍起になって捜したが見つからなかった。
それが、鮫島が20才の時、須藤博士が病気で亡くなってしまったのだ。
何も知らされていない鮫島は、なんとΩ社に入社してしまった。
おそらく須藤博士が生きていれば、鮫島はこうやってΩ社にとらわれる事にはならなかっただろう。
実際、鮫島は身分を誤魔化す為に、年齢も偽って育てられていた。
鮫島は、いわゆる天才で、実年齢16才で大学を卒業したことになる。
須藤が偽った年齢の20才で大学を卒業した事に、表向きはなっていた。
今となっては、鮫島のデータは、総てΩ社に握られているのだった。
鮫島自身知らなかった、知らされていなかったこの現実を、今ベッドの上で聞かされているのだから。

 「僕がもう一人の君、もう一人の僕である、クローンだよ。山科 透っていう名さ。」
 「うっ・・・。」
 「まだ、混乱してるだろうけど、もう理解するしか無いんだよ。所詮僕たちは実験動物なんだから。」

山科は半ば人生を放棄したような、哀しい目で話していた。

・・・なんて事だ!
・・・どうなっているんだ?
鮫島は完全に混乱していた。

そこへ、ナースが入ってきた。
ナースと言っても、見かけは女性だが中身は男性だった。
この時代、本当に女性は姿を消してしまったのだから、しかし、患者には、ナースが 女性らしい方が安堵感を与えると言って、女性らしく振る舞われていた。
実に滑稽な事なんだが、そうであった。

ナースは手際よく、鮫島の腕の点滴の針を確認して、容器の取り替えをしていった。
・・・何を打たれているんだ?
不安げにその動作を見ていた鮫島に山科は言った。
 「女性ホルモン剤だよ。君に打ってるのは。」
・・・何故そんなものを?
 「君はマザーになるのさ。」

鮫島の頭の中はもっと混乱していた。自分がマザーに?そんな馬鹿な!
ナースがもう一本注射を腕にした。
 「う・・・ん・・・」
 「鮫島さん、ご心配なく、もう少し寝た方がいいですから、睡眠薬ですよ。 それから、山科さん、あまり患者さんを疲れさせないようにね。」
そう言ってナースは部屋を出ていった。

まもなく睡眠薬が効いてきて、鮫島は夢の中へと落ちていった。
夢の中でも、鮫島は混乱して、真っ黒い谷底へと落ちていった。
 第2章(3)へ続く
第2章(3)へつづく