こっちも多分童話だと思うんですけど・・・どうでしょう?


少女の住む街には、巨大な塔が立っていました。
少女はその塔の聳え立つ真下に住んでいて、そこは常に塔の影になっていました。
しかし、それは彼女にとっては喜びでした。
少女は生まれつき、呪いがかけられていたのです。
その呪いは少女に光を浴びる事を許さない、日に当たると命すら危ういというものでした。
少女は呪われた子とされ、両親すら少女の前から去りました。
街でも噂は広がり、忌み子と称される少女と親しいものは一人も居ませんでした。
少女はそれでも親しい人間が欲しいと願いました。
そして少女は、昼の間は薄暗く湿っている塔の麓、夜になれば塔の影にならない街に出るようになりました。
しかし、夜になって少女が街に出ると人々は避けるように、まるで少女が見えないように通り過ぎ去っていきます。
失意の中、少女は塔の麓に帰っていきました。
それからというもの、少女は夜でも街ではなく塔の麓で過ごすようになりました。
ですが、昼の間でも薄暗く不気味なこの場所に人が来る事もなく、親しい人間が出来るはずもありませんでした。
それでも少女は諦める事はかなわず、塔の麓で幾日も過ごしました。
いつものように少女が薄暗い道を歩いていると、誰も居ない広場を見つけました。
光の届かないその広場で、少女は腰掛けようとすると、小さな花がそこにあった事に気づきました。
少女はその花の隣に腰を下ろして眺めていました。雪のように白い、小さな花で少女はその花の名前を知りませんでした。
その名前の無い花に、少女は自分の名前をつけました。
常に暗い塔の麓に、もう一人の自分を見つけた少女は嬉しくなって、毎日その花を眺めにきました。
やがて花は実をつけ、種を大地にばらまきました。
少女はそれを大切に育て、いつも見守っていました。
そして、大地から芽が出て、いつしか芽は成長しもう一人の少女は沢山の仲間を作りました。
いくつもの花を眺めながら、少女は寂しそうにこう言いました。
「貴方はもう一人ぼっちではないのね。それに比べ、私はいつまでも一人ぼっち。」
少女はその日も花々を眺めると、帰路につきました。
次の日にいつも通り広場にいくと、白髪の少女が花の前に腰掛けていました。
少女は気まずいといった表情で花の前に行くのはやめようかと悩みました。
また自分の顔を見て避けられるのが、少女は怖かったのです。
その時、白髪の少女から少女に声をかけてきました。
少女は驚いてその事実を信じる事が出来ず、それでもおずおずと白髪の少女の前に行きました。
「貴方が育てていたのでしょう?この花たちを…。」
少女はまたも驚きました。誰も居ないと思って花を眺めていたのです。
「いえ、私はそんな…ただ眺めていただけです。」
少女が慌てて言うと、白髪の少女は声を立てずに笑いました。
そんな白髪の少女に少女は呆然と眺める事しかできませんでした。
「この花、私と同じなの。」
不意に白髪の少女が言った言葉は、かつて少女がずっと思っていた事と同じでした。
「ほら、私の髪も真っ白でしょう?」
そういうと立ち上がって、白髪の少女はくるりと回ってみせました。その動作に髪はついていくようにふわりとなびくと、少女は魅了されたように白髪の少女をみつめました。
「だから、私はこの花の精。貴方はその花を育てたのだから、私の親ですね。」
冗談めかせて白髪の少女は言うのに対し、少女は本当に花の精だと信じました。
少女は、これまで白髪の少女ほど美しいと思えるものに出会った事がなかったからです。
それからと言うもの、2人は常にその広場で雨の日も雪の日も共に花を見守り続けました。
ある日、少女が広場に行くと花がすべてむしり取られていました。
少女は深く悲しみました。そして、白髪の少女に報告しようとしましたが白髪の少女が何処に居るかわかりません。泣きながら白髪の少女を待っていると、白髪の少女が現われました。
白髪の少女は疲れきったような、まるで病人のようにふらふらと少女の前にやっと辿り着くと、こう言いました。
「誰か心無い人によって、花は命を失う事になりました。実を付ける事も叶わず、枯れていく身。私はこれから妖精の世界に帰ります。」
少女は驚きと共に、深い悲しみに落ちました。呪われた自分に、初めて出来た親しい人間が白髪の少女だったからです。
「私も連れていっては頂けませんか?」
その言葉は、少女の口から自然に出ていました。
「駄目です。それは出来ません…。」
白髪の少女は悲しそうに目を伏せながら首を横に振りました。
「何故ですか?私は貴方の親なのでしょう?親は子と共に居るべきです。」
少女は強く説得しました。そして白髪の少女もついに折れました。
「良いでしょう。ただし、お願いがあります。この花がもし次の春に咲いていれば、私は再び帰ってこれるでしょう。しかし、帰ってこれなかった時にはこれを飲んで下さい。」
そう言うと、白髪の少女は黒い粒を少女に渡しました。
「これはこの花の種。それを飲めば貴方も妖精として再び生を受けることでしょう…。」
少女はそれを手にとって眺めました。そして再び顔を上げた時には白髪の少女は消えていました。
少女は春が来るのを待つ事をしませんでした。
妖精に生まれ変われるのならば、今の呪われた体に居るよりずっと良いに決まっていると、彼女はすぐに黒い種を飲みました。
すると、少女の体は宙に浮き、意識が消え去っていきました。
気がつくとそこは妖精の世界でした。
様々な花が咲き誇る花畑が、地平線まで続いていました。
少女は白髪の少女を探そうと、一歩踏み出そうとしたその時、声がそれを妨げました。
「花を踏まないでください。それは私たちの命です。」
少女が声の方を見ると、羽根の生えた小人…妖精が宙に浮いていました。
「しかし、それでは進む事が出来ません。」
少女が困ったように言うと、妖精は不思議そうに言いました。
「貴方、見た所人間のようですけど、ここは妖精にしか来れないはずです。」
妖精に少女がここに来るまでのいきさつを話すと、妖精は納得したように肯きこう言いました。
「貴方はまだ人間なのです。妖精に生まれ変わっていないだけなのです。また、妖精に生まれ変わってからお出でくださいな。」
妖精がそう言い終えると同時に少女の視界が暗く狭まり、完全な暗黒に覆われました。
再び少女の目が覚めると、そこはいつもの自分の家でした。
起き上がるやいなや、少女は塔に登りました。
巨大なその塔を登るのはとても困難でしたが、少女はそれも構わず登り続けました。

やがて最上階に達すると辺りは既に夜が明ける時間でした。
そして少女は、深く呼吸をすると塔から飛び降りました。
妖精になる事を夢見て……。


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