僕は何気なく背後の小さな池に目をやった。本当にごくごく小さな、水たまりに毛の生えた程度の池である。その奥の大きな木の枝の間からこぼれ落ちる日差しがきらきら光る水面には、蓮の葉に似た水草が一面に生い茂っている。都心の公園の池で良くあるような汚い印象は不思議と無く、僕は池の周りに申し訳程度に張ってある低いロープを跨いで池に近づいた。

 

 傍の石の上からしゃがんで覗き込むと、底の砂粒がはっきりと見えるほど浅く、そして水のきれいな池だった。よく見るとオタマジャクシやメダカまですいすいと泳いでいたが、僕の影を感じると素早く草の陰に隠れてしまった。今僕が仕事で手がけている下水の高度処理水の再利用も、こんなきれいな池に利用されたらいいなあ。あれ、仕事のことを考えるなんて今日はやっぱり変だ。

 

 早く会社に帰ろう。そう強く思い直した僕は、膝を伸ばして立ち上がった。ふと右手の小屋に目が留まる。今、小屋の窓から誰かが見ていた・・・ような気がしたからだ。もし誰かいるのならば、ここがどこなのか聞けば済むのではないか。もし携帯電話を持っていれば貸して貰えるかもしれない。僕はその独善的な考えに苦笑しながらも、早速行動に移すことにした。

 

 その時・・・

 

その時、耳を突き破るようなけたたましい音に僕は思わず身を縮めた。

 

その時、鼻を溶かすような強い臭いに僕は思わず咽せ返った。