| 可哀相な私。 女の人は言いました。 「私は信じていた男に裏切られました。 働くというので、前のダンナと離婚して、その男と結婚したのに。 子どもまで産んだのに、その男は働かないし、 その上暴力まで振るうんです。私はかわいそうな女なのです。」 女の人はしくしく泣いています。 その話を聞いて、Aさんは言いました。 「可哀相に、大変な苦労をなさったのですね。」 女の人はAさんに「わかってくれてありがとう」と微笑みました。 「今、子どもはどうしているの?」 Aさんは女の人の肩に手を掛けて、 やさしく微笑みながらたずねました。 女の人は、頬をぬらしたまま、ニッコリ笑って 「捨てました。」 と、いったので、Aさんは驚いてしまいました。 「・・・捨てたんですか?」 驚いているAさんを見て、女の人は怪訝そうな顔をして言いました。 「だって、私は体が弱くて働けないのです。 私の両親ももう高齢なので、お金も無いし、 男の両親は冷血漢なので、何もしてくれないんですもの。 第一、また結婚するとき子どもがいたら邪魔ですもの。 捨ててしまいました。」 「子どもを捨てると罪になるのですよ。」 Aさんは、女の人に教えてあげました。 すると、女の人は怒って肩を震わせながら、 Aさんをにらんで言いました。 「なぜですか?私はかわいそうな女なのです。 あなたもさっきまでは、そういってくれたじゃないですか? なぜ、私が悪いのですか? 悪いのは、あの男と、その両親です。 私は少しも悪くなんてありません!」 Aさんは、少し困った顔をしました。 「その男の人は、いつから働かなくなったのですか?」 女の人は、少し意地悪そうな顔をして言いました。 「最初からです。出会った事から働いていませんでした。 それでも、私は彼が働くといっているのをずぅっと信じていたのです。」 女の人はなぜ、Aさんがそんな事を聞くのかわからない様子でした。 「ずぅっと、というのは、どれくらい?」 「・・・・・・・・・・2年くらいかしら。」 「あなたは、2年も働かなかった男が結婚したら、 きちんと働くと信じていたのですね?」 Aさんの話口調は、ちっとも困った様子など見せずに、最初とかわらぬ やさしい口調でした。聞いている内容は少し、意地悪でしたけど。 「そうです、結婚したら働いてくれるかも、子どもが産まれたら働いて くれるかも・・・。ずっとそう思っていたのだけど、 ちっとも働いてくれないし、私も体が弱いのに無理をしたせいで すっかり床にふすようになってしまったんです。」 「あなたが、その男に裏切られたと思っている事は、 ようくわかりました。 でも、子どもを産むということは、どちらか一方だけの責任では ないのでは、ないですか? 結婚したときも、その男は約束を守らずに働かなかった。 子どもが生まれても働かないかもしれない、 とは思わなかったのですか?」 「少し、思いましたけど、私はあの男を信じていたのです。 それを裏切ったあの男が悪いのです。」 Aさんは、溜息を吐いてしまいました。 「Aさん、なぜそんな顔をするのです。 私はかわいそうな女なのです。男に裏切られ、仕方なく子どもを 捨てたのに、なぜみんなそれがわかってくれないの? 私は悪くないのに、私は、かわいそうな女なのに・・・。」 女の人は、そう呟くと般若のような顔でAさんに掴みかかりました。 そして、とても女の人とは思えない力で、 グイグイAさんの首を絞めていきます。 と、その時バタン!とドアが開きました。 「やめないか!!」 いきなり後ろのドアが開いて、女の人が少しひるみました。 その瞬間、Aさんは女の人を突き飛ばしました。 「やぁ、B。助かったよ。」 Aさんが首をさすりながら、入ってきたBさんのほうを見ました。 「なぜみんなで、私を悪者にするの? 私は、私を守っただけなのに! 私は少しも悪くない、悪いのはあの男よー!」 女の人は壁にもたれたまま半狂乱になって、叫びました。 バンっと、Bさんが机を叩き、ものすごく起こった顔で、 「あんたは、男にだまされて気の毒かもしれないが、 大人は、自分で判断してやった事には自分で責任を もたなきゃならんのだ。 男と別れたからといって、子どもを捨ててもいいという 言い訳にはならないんだぞ!」 と、怒鳴りました。 女の人は「私は悪くない、私は悪くない・・・。」と呟きながら、 後から部屋に入ってきた警察官に連れられていってしまいました。 女の人が行った後、BさんはAさんに言いました。 「あの女、やっぱりおかしくなってたんだな。」 Aさんも、うなずきながらいいました。 「そうだな、自分が男を監禁して、その男の子どもを産んで、 そのくせ全てに飽きて、殺しちまったくせにその認識が無いばかりか 自分が被害者だって言う、ストーリーをつくっちまうんだもんなぁ。」 終 |