バリカンとヴィジュアル系

 中二の息子は、生まれてこの方理髪店に行ったことがない。
ひどい汗かきの孫を見かねた母からバリカンを贈られて以来十数年、
月に一度「お母さん床屋」を開業してきた。
オリジナルのスポーツ刈りだったが、素人にしてはまずまずの仕上
りに(進む道を間違えたかな・・・)と、毎回自画自賛していたも
のだった。
息子も満更でもないようで、小学校高学年になった頃、「そろそろ
本当の床屋さんに行った方がいいんじゃない?」と、促してみたが、
「まだお母さんでいいよ」という返事。内心では嬉しく思っていた。
 愛用のバリカンも寿命のせいか、時折調子が悪くなる事があった
ので、昨年末に新しいものを購入した。
 ところが時を同じくして、息子がヴィジュアル系バンドに夢中に
なり始め「X−JAPANのような髪型にする!」と宣言したのだ。
それから約6ヶ月、伸ばしたい一心で絶対切ろうとしない。
スポーツ刈りから何の手も加えずに伸ばしたままなので、寝起きな
どライオンも逃げ出しそうな頭になっている。
 目下のところ彼の悩みは、野球部として夏の試合に向け近々ある
という「断髪式」のことらしい。
 せっかく清水の舞台から飛び降りる思いで買ったバリカンも使わ
れないまま「お母さん床屋」の廃業となってしまうのか、はたまた
再開店できるのか、興味津々、静観しているつもりである。

                        (H.10.5 河北新報 ティータイム掲載)