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ボクの奥に、鍵をかけた―― 誰もいない展望台の上。 キミがもうココには来れないという事実を――何とか受けとめたボクは、小さく息を吐いた。 冷たい外気に、息が白い蒸気へと変わる。 ココには、とても素敵な思い出と・・・とても悲しい思い出が、両方眠っているんだ。 キミとボクの始まりの場所。 キミとボクの終わりの場所。 一人の夜が辛くて、だけど他の人と一緒にいるのはもっと辛くて・・・。ボクはまた、ココに来た。 今日も、あの日と同じような満天の星空。ボクは一人、空を見上げる――。 「分かる? あれがカシオペア座。で――北斗七星くらいは知ってるよね。ほら・・・あれ。大熊座のしっぽのところ」 まるで理科の先生のように、ボクに講義をする彼女。 「ん・・・よく分からない」 ボクは素っ気無くそう答えた。 「折角私が教えてあげてるんだから、ちょっとくらい興味持ってくれても良いじゃない」 「うん・・・そうだね、ゴメン」 ――何も、そんな冷たい態度を取らなくてもいいのに。 自分の消極的な姿勢が厭になったボクは、素直に謝った。 「ま、謝ることはないんだけどね」 そう言うと、彼女は仕方無いなという風に微笑んだ。 そんな何気無い――始まりの日。 「私ね・・・星になってしまいたいと思うことがあるんだ」 「え・・・?」 「誰の頭上にも在るけれど――決して手の届かない、星・・・」 そう言って彼女は宙に手を伸ばす。 「私はきっと、ココにいちゃいけない存在なんだよ」 ボクに振り向いた彼女は、驚くくらいいつも通りの彼女で。だからこそ――いつもと同じ彼女が、当たり前のようにそんなことを言うのが信じられなかった。 「ボクは・・・少なくとも、ボクだけはキミを必要としているよ?」 「うん・・・ありがとう。でもね、私・・・」 小さな身体を、そっとボクの胸に預けてくる。心臓の音が聞こえそうなほど、彼女が近くにいた。 「私・・・何だかもう、疲れちゃった」 「・・・・・・」 「・・・キミに出会えて良かった。ありがとう・・・。さようなら」 涙を見せずに彼女は泣いていた。ボクは、そんな彼女に何もしてあげられなかった。 そんな突然の――終わりの日。 報せを聞いて、 動かないキミを見て、 嘘じゃないことを確認して、 最後の日の言葉を反芻して―― 何でボクが泣きたいのか、やっと解った。 「星になってしまいたい」 それが彼女の、最後の願い。 この展望台に来れば――彼女に会えるかな。 そんなことを思って、ボクはココに来た。 見上げるボクの前で、夜の粒子が星をみがく。あの星々の中に、キミはいるのかな? そっと手を伸ばす。 ――誰の頭上にも在る星。 滲む視界に広がる宇宙の中から、キミを探す。夜空の上の鳴り止まない声に耳を塞いで、キミだけを探す。 ――だけど、決して手の届かない・・・星。 溢れた涙が、頬を伝う。 ・・・例え見つかったとしても・・・星になったキミはにせものだから、どうせきっと届かない。 そう思うと、伸ばした手さえも滑稽に感じられた。 ああ、ボクの中から、キミがいなくなる。 笑顔も泣き顔も、皆みんな、失くしたくないのに。 嬉しいことも悲しいことも、皆みんな、覚えていたいのに。 どんどん、どんどん、涙が溢れる。かわかない涙が、零れ落ちる。 あのね――キミとの思い出は、痛いくらいきれいだから。 せめて、ボクの中にだけは、鍵をかけていつまでも閉じこめておかなきゃ――。 キミの笑顔も、泣き顔も。 嬉しいことも、悲しいことも。 どんどん遠く。 どんどん遠く。 キミがいなくなる。 いなくなる――。 何もないボクは、どこに行けばいいのかな? | |