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「高校卒業して、大学も卒業して、大人になったら――」 あの時の君の笑顔を、今でも鮮明に思い出す。 彼女と付き合い始めたのが、高校に入ってすぐ。そして――別れたのが、大学に入るちょっと前。 たった3年弱、と人は言うかもしれないけれど、僕にとって高校の3年間というのはあまりにも長くて。まるで、永遠に続くんじゃないかと思えるほどだった。 そんな――大嫌いな高校生活の中で、僕の支えとなってくれた少女。その存在がどれだけ大きなものなのかは、きっと他の人には分からない。 彼女がいたから、僕はあの最低の日々を耐え抜くことができたのだ。 別れの理由は、ごくありふれたもの。 彼女の――浮気。 所詮高校生に精神的な余裕なんてあるはずがなくて。彼女は、そんな僕との付き合いに愛想を尽かして、年上の男の人と付き合うようになったようだ。 死にたくなった。でも、死ぬ勇気もなかった。 いい加減な男だな、と思ったけれど、今考えれば別に死ぬことが男らしいということじゃない。むしろ逆のような気さえする。 ともあれ、僕は独りになった。 どうしようもない孤独感を抱えたまま、適当な大学に入って、あっという間の4年が過ぎた。 そして、大学を卒業する間際になって初めて気付いた。 ――ああ、そういえば、あれ以来どんな女性からも魅力を感じられなくなってしまったな。 彼女が、未だに僕を支配していた。 『約束』が、僕を縛りつけていた。 そう、『約束』は決して破ってはならないもの――。 たとえ、相手が一方的にそれを破棄しようとも。 僕は、『約束』してしまった。僕の心は拘束されてしまった。そしてそれは、永遠に解かれることはない。 それを、愛と呼ぶのだと・・・僕は思う。 僕はきっと、残りの一生を独りで過ごすのだろう。 だが、それも悪くない。どうせ彼女以外の女性に興味はないのだ。 よく、女性は他にもたくさんいるじゃないか、と言われる。 しかしそんなことを言われても――僕が愛したのは『女性』ではないのだから仕方がない。 女性ならなるほど確かにたくさんいるかも知れない。だが彼女は、この世でたった一人なのだ。 そんな『たった一人の彼女』を愛してしまった僕が悪いのだろうか、とふと思う。しかし、さっきも言ったように今の暮らしに不満はないのだ。 唯一・・・愛した人と一緒にいられない、ということ以外は。 だから、これ以上は余計なお世話というものだ。僕は独りで生きていく。 友達に聞いた話では、彼女は今幸せな家庭を築いているという。 いろいろ大変なこともあったが、今では立派な母なのだと。 そんな話を聞いて――微笑って、良かったねなどと言えるほど僕は人格者ではない。 約束を一方的に破棄したくせに。 どうしてもそういう思いが頭をよぎってしまう。 だが、それはどうしようもないことなのだ。当時の僕を振りかえれば、よく3年も付き合ってくれたものだと感心さえしてしまう。 『約束』だから。 そんな言葉で一生を束縛してしまう人間は、きっと僕だけだろう。 僕は、馬鹿なんだ。 どうしようもなく、馬鹿なんだ。 僕だけが――馬鹿なんだ。 そして僕は、少しだけ笑った。 あの時の君の笑顔を、今でも鮮明に思い出す。 「高校卒業して、大学も卒業して、大人になったら――結婚しような」 「――うん」 そんな、ありふれた約束。 もう――何の意味もない、約束。 | |