桜
舞い散る桜。
その小さな桃色を目にする度、君を想う。
今、僕に残るのは、「後悔」の二文字だけ。
「どうしてあの時、君を許せなかったのだろう」
浮かんでは消える理由は、所詮全て言い訳なのだろう。
僕は軽くため息をつくと、その桜の根元に腰を下ろした。
こうしていると、君を近くに感じるんだ。
今となっては、こうしていることだけが僕の罪ほろぼしになるのだろうね。
せめて、僕だけは裏切らずに「君だけの僕」で居続けるよ
――やがて僕はまどろみ、柔らかな眠りへと落ちて行った。
あの日、君は言ってはならないことを口にしてしまった。
それも・・・悪びれもせずに、だ。
「仕方の無いことなのよ」
君はそう言い、僕に背を向ける。
「それは、僕を裏切るということ・・・なのか?」
僕が言うと、君は困った顔で振り向いたね。
その目はまるで、泣き喚く子供を見るそれのようだった。
困惑と、少々の哀れみ。
「そうね・・・そう取ってもらっても、構わないわ」
君は、あっさりとそう言い放ったんだ。
僕の目の前が、真っ暗になっていくのが分かった。
一体・・・どうしてしまったのだろう?
あんなにも、あんなにも僕を愛してくれたのに。
おかしいよ、そんなことなんて、有り得ないよ・・・。
僕は、離れて行く君を追い駆け、思い切り抱きしめた。
「・・・どうしてしまったんだい?一体・・・」
「・・・私が、悪いのよ。貴方は悪くない」
・・・意味が分からない。
やっぱり、君はおかしくなってしまったんだね。
僕が、元に戻してあげる。
そして僕は、「もう一人の君」の息の根を止めた。
「そうだよね・・・どちらの君も、同じ『君』なんだ。そんな君を、丸ごと愛してあげれば良かったのに」
・・・どうして、許せなかったのだろうか。
目を覚ましても、先程と同じことが頭の中を駆け巡っていた。
ひらひらと舞う桜の花弁。
そして、微かに暖かい幹。
ああ、こうしていると、君を感じるよ。
君は、桜になったんだね。
「こんな僕を・・・許してくれるかい?」
僕がそう呟くと、花弁の一つ一つから君の笑い声が聞こえた気がした。
立ち上がり、その花吹雪の中に身を委ねる。
――暖かい。
そっと、僕を抱きしめてくれているんだね。
愛してるよ。ずっと、君だけを。
そして僕は、その桜に――君にそっと口付けた。
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