CALL1 『Crank Call』 〜Chapter 1〜
声が聞こえる…。篠原さんの声が………。
教室の雰囲気はいつもと変わらず騒がしい。変わったのは窓から見える景色だけだ。
木の葉は赤や黄色に色を染め、校庭の花壇にはコスモスが咲いている。
高校生活初めての秋を迎えた。
「ねぇ・・・・・舞子聞いてくれる?」
「ん? なんだよ?」
「あのね…うち…最近いたずら電話がかかってくるの……。
それも無言電話。あたしなんだか怖くて……。」
……………まずい……………………………
「げー、気持ちワル〜。だいじょうぶかぁ?
気ぃつけたほうがいいゼ。登下校のときとかいきなりラチられたりなんかして。」
「もぉ〜。おどかさないでよ!ホントに怖いんだから。」
……………… オレだ ………………………。
そのいたずら電話の犯人はオレだ…………。
いや、いたずらで電話をかけたんじゃない。そんなつもりじゃ………。
ただ、オレは…………。
「健輔っ! な〜に由記のほうじっと見てんだよっ」
「イテッ!! 智哉ぁーっ!! いきなり殴んなよ。びっくりするじゃねぇーか!」
「わりぃわりぃ。邪魔して悪かったな。いいぞ、由記のこと視姦してても。(笑)」
「な〜に言ってんだよっ!」
「好きなんだろ?由記のこと。」
「わーっ!!でかい声でいうなよっ!聞こえちゃうだろ!!」
「オマエのほうがデカイよっ(笑)」
コイツはオレの唯一親友と呼べる男で幼稚園のころからのつきあいだ。
広瀬智哉。
誕生日もいっしょ。血液型もいっしょ。家族構成もいっしょ。
なのにどこがどうちがうのかこいつはオレとちがって超モテモテ男だ。
オレはというと彼女イナイ歴15年と10ヶ月。失恋経験アリアリの高校1年生だ。
「でも、オマエも長いよなぁ。2年半だっけ?」
「あぁ、まぁ、そうだなぁ。長いかな?」
いま、オレには好きなコがいる。
篠原由記さん。
そっかぁ…。もう、2年半にもなるのかぁ、好きになってから。
そしていま篠原さんのとなりでいっしょに話してるのが
佐野舞子。
とにかく気の強いオンナだ。
オレたち4人は同じ中学のクラスメイトだった。
高校になってまで同じクラスになったときはみんなさすがに驚いた。
「これもなんかの縁かもね。」
入学式の日、クラス発表の掲示板を見て篠原さんが言った言葉だ。
ホント、縁があるといいけど………。
「もうコクったのか? 健輔。」
「いや、まだ告白なんて……そんな………。」
「バーカっ。ボヤボヤしてると誰かにとられちまうぞ。」
「それはいやだけど………。」
「だろ?」
「………でも、いいんだ。見てるだけで、友達でいいんだ。
少なくとも嫌われなければ…。ヘンに告白なんかして嫌われるのはイヤだから。
それにオレみたいなモテナイやつに告白されても篠原さん困るだろうし…。
どうにもならないのわかってるし………。」
「健輔………。」
毎日が平凡に過ぎていた。
昨日と同じような今日が過ぎて、今日と同じような明日が過ぎる。
オレにとっては篠原さんに会うために学校に来ているようなもんだ。
でも、篠原さんと話すのはほんのすこしだけ。
話す機会もないし、機会があっても本人を前にすると
頭の中が真っ白になって言葉を失ってしまう。
情けないな……、オレって………。
やっぱり篠原さんと付き合おうなんて高望みだよね………。
かわいいもんな…篠原さん。
オレなんか到底手がとどかないや…………。
「けんすけ〜〜〜っ!! ちょっと待てよっ!!」
「どうしたんだ? 佐野。」
「いや、べつに〜。ひとりで帰んのか?」
「ああ、今日は智哉、バンドの練習だしな。仕方なく一人で帰ってるトコだよ。オマエは?」
「うん、ちょっと人待ち。なぁ、健輔、時間あるか?」
「ああ、べつに用事はないけど。」
「じゃぁ、あたしにつきあえよ。ひとりで待ってるの退屈でさぁ。な? お願い。」
「べつにいいよ。」
「よかった。・・・・・まぁどっちにしろ健輔のためだもんな。」
「ん? なんか言ったか???」
「ん〜ん。なんでもない。」
オレたちは学校の裏のだだっ広い野原に座って話していた。
ここはオレたちが入学したばかりのとき4人で見つけた場所だ。
ウチの学校はちょっとした山のうえにある。
ここからの眺めはとりわけ最高でオレたちの街が一望できた。
よくここに来ては、くだらない話で盛り上がったりしてる。
とくに智也とはここによく来る。
よくそんなに話すことあるよな、ってぐらいいろんな話をしてる気がする。
まぁ、アイツ的には最近もっぱらオレのコイバナで盛り上がってるみたいだけど…。
「なぁ、佐野。もうすぐ1時間経つけどいったい誰待ってんだ?」
「もうすぐわか……あっ! 来た来たっ!!」
「ごめーんっ! 舞子。委員会ながびいて遅くなっちゃった。」
うわっ!!篠原さんじゃないかっ! 佐野のヤツ、謀ったなっ!!
う…うれしいけど困っちゃうよ………。顔が赤くなってくのがわかる………。
「あれぇっ!久保田くんじゃない!! どうしたの?」
「ひとりで待ってるの、つまんなかったからさぁ。
ちょうど健輔が通りかかったんでつきあってもらったんだ。」
「ごめんね。久保田くん………。」
「気にすることないって。どーせ健輔ひまだったんんだし。(笑)」
「 (オイオイ…。) 」
篠原さんといっしょに帰るのは3回目だ。
……………とはいってもふたりっきりっていうのはまだない。
1回目は中3の文化祭の打ち上げの帰り。
2回目は高校の入学式のあと。
そして今日。3回目。でもあんまりまともに話してない。
「――――――――― なんだってー。もう信じらんないでしょっ。」
「だーっはははは!! マジでーっ!!
??? 健輔―っ。なんか話せよぉ。さっきからあいづち打ってるだけじゃんか。」
「あ? あぁ。」
「話、つまんなかった?」
「ううんっ! ぜんぜん。おもしろかったよ。」
「ホント……?」
「あ、なんかのど渇いたな。あたしなんか買ってくるよ。なにがいい?」
「んー。あたしミルクティー。」
「健輔はー?」
「じゃ、オレ、コーヒー。」
「おっけー。じゃ、そこの公園で待っててよ。」
佐野のヤツ、明らかに気ィつかってるな。
気ィつかってくれるのはいいけど、困るよなぁ…2人っきりって言うのは…。
緊張しまくりだよ………。
「なんか、初めてだね久保田くんとふたりって。」
「え、そういえばそうだね。」
「あたし広瀬くんと家近いじゃない?
中学のときとか時々いっしょに帰ることあったんだよね…。
だから―――いろいろ久保田くんのこと、聴いてるんだよ。」
「え?そうなの? アイツへんなこと言ってなかった?」
「え〜〜〜〜〜?(笑)」
「あ〜〜〜〜〜っ! なんか言ったんだね!」
「んーん、そんなことないよ。(笑)ただ…いいひとだなぁって思ってさ。」
「え?」
「んーん、なんでもないよ。」
「…………………………………………。」
「…………………………………………。」
うわっ、ヤバイなぁ…。沈黙ができちゃったよ。
なんかしゃべんないと。なんか……………、あ〜〜〜っなんも考えられん!!
―――――――あれ? 篠原さん、なんかさっきと表情がちがう。
どうしたんだろう………? オレ、なんか悪いこと言ったかな?
「篠原さん? どうかした?」
「え?……………べつに………どうして?」
「ん………、なんか思いつめてたカンジしたから。」
「………そんなことないよ。ほら、げんきげんきっ!」
「…………………………………………………。」
「…………………………………………………。」
「………………………………………ほんとに?」
「…………………………………………………。」
「…………………………………………………。」
「……………えへへ、かなわないね久保田くんには。
んー、 ちょっとね…………………………悩み事。」
「うん。………オレでよかったら相談のるよ?」
「………………………………………………怖いの。」
「え?」
「………ウチね、最近いたずら電話かかってくるの……無言電話。
なんだか怖くてたまんなくて………………………………………。
いつも誰かに見られてる気がしてひとりじゃいられない。
毎日そのことばかり気になっちゃって……………………………。」
!? …………………そんな!?
いたずら電話って……………無言電話って……………。
どうしよう………オレのせいだ。オレのせいで篠原さんが悩んでる。
そんなに気にしてるなんて………そんな、オレは困らせるつもりなんか………。
「ごめんね。なんか雰囲気暗くなっちゃったね。
気にしないで、あたしが考えすぎなんだよね、きっと………。」
「……………オレ、なんかうまく言えないけど、あんまり気にしないほうがいいと思うよ。
気にしすぎると物事全部悪いように考えちゃうからさ。
ごめん、オレ、このくらいのことしか言えなくて………………………。」
なに言ってんだ!! 原因つくってんのはオレじゃねぇか!!
こんなこと言える立場じゃねぇじゃねぇかっ!!
「ぁ………ありがと………。やっぱり………久保田くんはいいひとだね(笑)
もう少し力抜いたほうがいいみたいだね。あは、久保田くんに話したらなんか元気でたよ。
あ、そういえば舞子まだかなぁ? どこまで買いに行ったんだろうねー?」
「……………そうだね。」
それからオレはあんまりしゃべらなかった。しゃべる気になれなかった。
オレのせいで篠原さんは悩んでるって言うのに元気付けるようなこと言って…。
オレはうそつきだ………。
本当のこと、言うべきだよな…。
本当のこと言ったとしたら、篠原さんはオレのことどう思うだろ………。
きっとオレ、嫌われるだろうな………。
あぁ………いまさら本当のことなんて言えないよ………………。