CALL1 『Crank Call』 〜Chapter 2〜
さすが智哉はもてる。女のコたちは智哉の方を見てキャーキャー叫んでる。
こういうところって居づらい…。
まだ終わんないのかなぁ…。予定よりもう30分も過ぎてるぞ。
オレが待ってること忘れてんじゃねぇの?
それにしてもみんな元気いいなぁ。さっきから叫びまくりだよ。
この女のコたちのほとんどが智哉目当てなんだもんな…。スゲぇよ、アイツは…。
曲が鳴り止んだ。女のコ達はさっきよりも増して叫んでる。
おっ? 智哉がサインを送ってる…。
『ウ・ラ・グ・チ・デ・マ・テ』………か。
オレは『ワ・カッ・タ』と合図を送り裏口で待っていた。
智哉は10分ほどしてスタジオからでてきた。
「オマエすげぇ人気だな。練習なのにあんなにいっぱい女のコ集まっちゃって。」
「まぁな〜。ギターの腕もいいし、そのうえ顔もいいから当然なんじゃないの〜。(笑)」
「へいへい。なんでこんなヤツのために貴重な日曜日つかってんだろ。」
「わりィわりィ、感謝してます。」
「わかりゃいいんだよ、わかりゃ。(笑)」
「なぁ、今日の曲どうだった?」
「オレ、あんまり曲のことってわかんないけど、いいカンジだったよ。
なんか映像浮かんできたもん。あれってオマエの曲だろ?」
「え!? よくわかったなぁ〜!」
「あたりまえだろ〜。つきあい何年だと思ってんだ〜?」
オレは今日、智哉の買い物に付き合うことになっていた。
もうすぐ智哉んトコの両親の結婚記念日なのだそうで…。
あいつはそういうトコに妙に律儀だ。
ってゆーかお祝いごとが好きなただのお祭りヤローってはなしも……。(笑)
誕生日とかクリスマスとかはいつもみんなで集まる。
智哉がいると盛り上がりがちがうんだよなぁ。
「だいぶ暗くなってきたな…。悪かったな、つきあわせて。」
「いいって、べつに。」
プレゼントがなかなか決まんなくてけっこう時間がおそくなった。
まぁ、待ち合わせが3時だったせいもあるけど。
日はもうとっくに暮れていて、街灯にはすでに明かりがともっていた。
オレ達は缶ジュースを飲みながら公園で何の気なしにしゃべっていた。
篠原さんから電話のことを打ち明けられたあの公園で………。
「明日は妹とふたりで留守番かぁ…。
オヤジとオフクロはホテルの高級レストランでお食事なんだってさ。
まぁ、毎年のことなんだけどよー、ホント、いい年してさぁ。」
「いいことじゃねぇか〜。それだけ仲がいいってことだろ?
でもすごいよな。いまどきいないんじゃないの?そういうの。
ちゃんと愛し合ってるからできるんだよ。オレも結婚したらそんなふうになりたいな。」
「由記と。かぁ?(笑)」
「バーカ。そんなのムリだよっ。」
「佐野から聞いたゼ。このまえいっしょに帰ったんだろ? なに話したんだよぉ〜?」
「そんな………べつに…………………。」
「…………………どうかしたのか? 健輔?」
「…………………………………………。」
「どうしたんだよ健輔?言えよ。」
「…………………言えないよ。」
「どうして?」
「………………言ったら、オマエもきっとオレのこと最低なヤツだって思うよ。」
「なんだよ?ガキんときからのつきあいだろっ?隠し事なんて水臭いぜ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「…………………無言電話のこと………知ってるか?」
「ん? 由記ん家にかかってくるって言ういたずら電話のことか?」
「ああ…………………。」
「それがどうかしたのか?」
「………………………………。」
「………………………………。」
「あれ………………オレなんだ。」
「え!? マジかよっ! ウソだろ!?」
「………………………本当だ。」
「なにやってんだよっ! オマエっ!! どうして……………。
あの電話のことであいつがどれだけ悩んでるかわかってんのかよっ!」
「わかってるよっ!! ……………わかってるからオレだって……………。」
「………わりィ………でもなんで?」
「……………気持ちを伝えたかったんだ。」
「告白しようとしたってことか?」
「あぁ……………。篠原さんのこと好きだから。
最初は見てるだけでいい
友達でいられたらそれでいいって思ってた。
告白して嫌われるよりはそのほうがずっといいって思ってた。
でも……………だんだん『好きだ』って気持ちが大きくなって
いつもいっしょに、そばにいて欲しいって思うようになって
可能性にかけてみたくなったんだ。
だけど………いざとなると勇気がでなくて………。
結局は篠原さんに迷惑かけてる…………………………。」
「健輔…………………。」
「オレ、どうすればいいんだろう……………。
このまま、ウソついたままだったら
なんだか心がモヤモヤして
篠原さんとまともに話せないよ……………。」
「……………………………………………。」
「……………………………………………。」
「やっぱり、正直に話すしかねぇんじゃねぇか?
秘密を持つって、けっこうツライことだぜ。
正直に誠意をもって打ち明ければ、あいつだってわかってくれるさ。
悪気があってしたことじゃないんだ。オマエは純粋だったんだろ?」
「智哉………………………。」
「このままだと苦しいだけだぜ。」
「……………………………。」
「応援すっからよ。俺はおまえの味方だ。」
――――― 金曜日 ―――――
「 『花の色は うつりにけりな いたずらに
わが身世にふる ながめせし間に』
はい、これは百人一首の中のひとつ。有名な小野小町の詠んだ和歌です。
これについて次の時間までに予習してくるように。 じゃぁ、今日はここまで。」
3時間目の授業が終わった。
いつもは寝てる古文だけど今日は眠れない。朝からずっと緊張しっぱなしだ。
智哉にすべてを打ち明けてからもうすぐ1週間が経つ。このままじゃダメだ。今日全部話そう・・・・・・・・・。
だけど………覚悟を決めたはずなのに………篠原さんの顔をまともに見れない。
「健輔っ! 元気ないぞぉ! どうしたんだよっ?」
「おっ、なんだ、佐野かぁ。」
「なんだよその反応っ。あたしじゃ悪いかよっ!」
「いや、そういうワケじゃないけど。」
「オマエどうしたの? なんかいつもとちがうぜ?
もしかしてぇ………、それは恋のお悩みですかぁ〜?」
「ん〜? …………………まぁね。」
「なんか進展ないのぉ〜?」
「な〜んもない。」
「なんにもないのかよ。ホントこいつらふたりして・・・・・・・・・。」
「ん? なに? 」
「んーん。なんでもないよ。
でもまぁ、そろそろ告白しちゃっても平気なんじゃねーの?
こういうのはやってみなくちゃわかんないじゃん?
『当たって砕けろ』ってヤツだ。言っちゃえっ。GO!GO! 健輔!」
「なんかオマエ、妙にテンション高くねぇ?」
「え? そうかな……………? そうかもね……………。
ホント、まぁ、オマエもがんばれよぉ〜〜〜〜〜〜〜っ!」
「 『オマエも』って、佐野…。それってどういう………。」
「えへへ………。今日はね、『決戦の金曜日』なんだっ!」
そう言うと佐野は友達に呼ばれて教室を出ていった。
『決戦の金曜日』か………。どういうことだろ?
はぁ………、オレは早く決着つけないと………。
だいじょうぶだよな………。オレはひとりじゃない。味方がいるんだ。
――――― 放課後 ―――――
不思議なことが起こっている。
オレはいま、篠原さんといっしょにふたりで帰ってる。なぜだろう………。
結局、オレは今日なにも言い出せないまま放課後まで過ごしてしまった。
そして最悪なことに中間テストの結果が悪かったおかげで
数学の島村に残されていた。
不思議なのはここからだ。
レポートを提出してから帰ろうとしていると、正門のイチョウの木の下に
オレのほうに向かって手を振っている篠原さんがいた。
そして一言。
「もうっ!おそいぞっ!!」
なぜだろう…。篠原さんはオレのことを待っていたようだ。
「どうしておそかったの?」
「え〜? 言いたくないなぁ…。(苦笑)」
「ん? どーしたの?」
「この前の中間、悪くてさぁ、島村に残されてたんだよ。」
「あ、そうなんだ…。ご愁傷さまです。(笑)」
「………………オレもひとつ聞いていいかな?」
「ん? なになに?」
「どうしてオレのこと待ってたの? わざわざ………。」
「…………べつに、理由なんてないけど。」
「……………………………………………。」
「なんか………怒ってる?」
「いや…………べつに………。」
「ほんとに? なんか最近あたしのこと避けてない?
同じクラスなのに全然話さないし、休み時間になるとすぐどっか行っちゃうし。
とくに今日はムシされてるってカンジだった。
どうして? あたしなんか久保田くんに悪いことしちゃったかなぁ………。
なんか悪いところがあったらはっきり言っていいからね、久保田くん………。」
「そんな………篠原さんは悪くないよ。悪いのは……………………。」
言え!言うんだっ!! いまがチャンスじゃないかっ!
すべてを話して謝るんだ。はやくすっきりさせなきゃっ。
「……………………………………………………………。」
「……………………………………………………………。」
言うしかない。言うんだっ! 言っちゃえっ!!
「久保田くん。」
「へ!?」
「おなかすかない? なんか食べにいこうよ。」
「え゛? あ、あぁ、いいよ…………………。」
タイミングを失ってしまった。なんだかもうずっと言えない気がする。
これからどうやって篠原さんと接していけばいいんだろう。
へんに避けると余計に気にするだろうし、話さないでいるのはオレだってつらい。
それにしても篠原さんはなにを考えているんだろう………。
行動がまったく読めん。
ただひとりで帰るのが心細いってだけなんだろうか?
でも、いつもと変わんないもんな………。
それともムリしていつもと同じようにふるまってるのか………。
今日の篠原さんはよくわからない。
「くちのトコ、いっぱい白いのついてるよ。」
「あ、ほんとだ。」
「あはっ、久保田くんコドモみたい。」
うわっ、そんなかわいい笑顔みせないでくれぇ〜っ! どきどきしちゃうよっ!
「でもさぁ、『ミスタードーナツ』が『飲茶』なんて邪道よね。
『ミスタードーナツ』だからドーナツだけでいいのよ。そう思わない?」
「後ろの人、こっち見てるよ。 飲茶食ってる。」
「えっ、ウソっ!」
「冗談だって、冗談。(笑)」
「もうっ! おどかさないでよ、久保田くんっ!」
篠原さんとこんな風に話すのって初めてな気がする。
なんかいいなぁ………こういう雰囲気。
このままずっとこの時間が続けばいいのに………。
なんてことを考えながら床に落とした財布を拾っていると
篠原さんのかばんの中にカーキ色の毛糸が目にはいった。
「これ、なんか編んでんの?」
「え!? 見えちゃった?」
「あ、うん………まずかった?」
「ううん。そんなことないけど………そう、いまマフラー編んでるんだー。」
「もしかして………誰かにプレゼントとか?」
「まぁ、そんなとこかなぁー。」
「だれ?」
「えぇ―――っ、いいじゃない。秘密っ」
「知りたい。」
「………………………………………………。」
「………………………………………………。」
「なんか今日は突っ込むなぁ、久保田くん・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「ひとつ言えるのは………好きな人にだよ。もうすぐ誕生日なんだって。
これ以上は秘密! これで許して? もう………恥ずかしいなぁ………。」
好きな人………いるんだ………。
そうだよな………やっぱりいるよな、好きな人くらい。
誰なんだ?べつに知ってどうこうなるわけじゃないけど。
すげー気になる。なんか………ムカツクな………。
「だれ? どんなヤツ?」
「え―――――っ。言えないよぉ、久保田くんには・・・・・・・・・。」
「すっげぇ気になるじゃん!だれだれ? オレの知ってるヤツ?」
「ん―――、「いいひと」ってカンジですごく優しいの。
なんかね、ものすごくかっこいいひとなんだー。ね? もういいでしょ? これで許して!(笑)」
幸せなヤツめ。どこのどいつだか知らねーけどすっげぇ幸せものだよ、そいつ。
『かっこいいひと』かぁ………。最終的にはやっぱりそれだよね。
なんかオレひとりで盛りあがってたみたいだ。アホだな。
やっぱりオレになんか可能性なんてないんだ……………。
「まぁ、このくらいで許してあげよう! うまくいくといいね。」
自分で自分が引きつり笑いしてるのがわかる。
篠原さんの前にいるのが死ぬほどつらい………。
なんだか胸の奥が熱くてたまんない……………。