福神町の七夕、十五夜の話を絡めたサイドストーリです。
ある男の、いや、たまに出てくる変わった生き物の話だよ。
私が人でなくなって随分日が経ってきた気がする。
そう、私はかつては人であった、まだそんな記憶が残っている。
まだ・・・そんな時の話、昔の話。
そうあれは十五夜の夜のことだった、私は人付き合いが苦手であまり他人とは付き合いがない。
一人が好きな質と言えば聞こえはいいが、ようは暗かった、他人が信用出来なかったのかも知れない。
私は他人に自分の心を知られるのが怖かった、私の心の中に入ってこられるのが嫌いだった。
傷つくのが怖かった、傷つきたくなかった。
今思えば、そんなことなかったのだろう、他の人からすればそんなこと、って思うだろうね?
でも、その時の私は逃げてしまっていた、とても自分をみせれなかった、自信がなかったのかな?
きっかけがなかったのかもしれない、誰かに背中を押して貰えるのを待っていたのかも知れない。
馬鹿だよね、そんなこと自分で動かなきゃ、始まらないのにね。
でも、その時の私はそうだった。
十五夜の夜そんな私のもとに2匹の兎がやってきた。
私は驚いた、いや、普通の人なら誰だって驚くはずだよね。
兎はやさしく言ったよ、あなたなら大丈夫、あなたならちゃんと前に進めるってね。
私はさらに驚いた!この兎は私の心に、私がもっとも嫌がる心の中に土足で入ってきたのである。
私は戸惑った、もっとも嫌なこと・・・のはずが嫌ではなかった、いやむしろ嬉しかった。
嫌いではないのである、ただ怖かっただけなのである。
誰かに心を、私の気持ちを知って貰える、私を受け入れてくれた気がした、嬉しかった。
そして、兎はさらに続けた、今夜は一人でいるのは危険な夜それを知らせるために来たの、あなたにはまだ早いわ。
次の十五夜には覚えておいてね、さぁ、今回は私たちが知らせてあげるわ。
これを食べて大福餅よ、これを食べれば大丈夫。
前に進みなさい、あなたなら大丈夫だから。
なんのことか分からなかったが素直にそれにしたがった。
今思えば、納得せざるおえないのだが。
その時は、わからなかった。
そう言い残し兎たちは去っていった。
その次の日から私は変わった気がした、いや、本当に変わっていたんだろう。
積極的に人と話をし、どんどん自分を出していった。
そう、自分が考える以上に平気だった、愉しかった、嬉しかった。
そう、あんなことがあるまでは。
ある時私はいつもみんなで集まる場所に向かった、みんなに会えるのが話をするのが愉しくてしかたなかった。
そして私が建物に入ろうとしたところ、声が聞こえた。
私は興味がわきそっと聞いてみた。
最近のあいつって妙に目立つよね。
うん、結構嫌だよね。
なんて話が話されていた。
男は驚いた怒りより悲しかった、そして怖くなった、自分を出すのが怖くて怖くてしかたがなくなった。
信じていた、私を受け入れてくれていた人を・・・
私の足はすでに走っていた、全力疾走で逃げたかったこの場所から、いやすべてから、私の心を傷つけるモノいる世界から。
私は元の私に戻っていた、いや、それ以上だった。
ふっと空をみた綺麗な満月だった、今日は十五夜か、綺麗だ・・・
そういえば、前に兎になにか言われた気がした・・・いや、別にどうでもいいことだ、今の私はスベテガ、ドウデモイイコトダ・・・
そんな時、月が赤く光った気がした。
うん?体が熱い、どうしたんだ私は?うっ!うわぁぁぁぁぁっ!
それが昔の記憶いや、唯一の記憶、子供の頃、今まで起こった未来の今では過去の記憶すべてない。
記憶というものが無くなったようだ、必要ないんだってことらしい。
あるのは知識と、もうじき消えそうな唯一の記憶だけ。
そんな私、いや私たちは今は食事をしている。
七夕で竹が異常発生するだろ?それが私たちの重要な食料、これを食べておけば次の七夕までなにも食べなくても生きていることができる。
といっても、普通の食べ物も食べる、いや食べれるんだよ。
今の私は寂しくない、そういう感情がない私たちは一個の存在らしい、と言っても1人で動けるし、集団で行動することもある。
ただ、その存在を私たちのことを言うとしたら、私がではなく私たちがってことなだけ。
だから、常に一人であり複数でもあるんだ。
いくら別々に行動し考えていたとしても、元は一つなんだよ。
それは誰も知らないかもしれない、私たちは言葉と言うものを使わない使えないのではなく、使わない。
人間には念話ってのがあるよね?それが使えるから言葉はいらない、元が1つだからってこともあるけどね。
だから私は寂しくない、傷つくこともない、すべては一つだから、恐れることはなにもないから。
こんな体になってしまって後悔はない、いやむしろ良かったと想っている。
私は寂しかったのだろうか?
でも、もう私、いや昔は一人の人間だったことに気づくものはいないね。
すべては同じ誰ではなく、あの生き物の一括りになってしまったから。
私たちは私たち、なにでもなく誰でもない、ただ私たちでしかなくなったのだから。
おしまい。
十五夜の夜にはそんな不思議な力があるそうだよ。
でも、ただの噂かもしれないそれはあの生き物しか知らないこと。
だから、みんなは近くにそんな人がいたらそっと手を差し伸べてあげてくれるかい?
寂しいじゃないか、だから、お願いね。
もうじき十五夜だよ、みんなは大丈夫かい?
心配なら私のところへくるといい、私がそばにいてあげるから。
そして、とっておきの十五夜の話でもしてあげるよ。
それじゃあ、今日はおしまいだよ。
気をつけておかえり。