いきなり少女が倒れてしまい、驚いたが急いで医者へと連れて行った。
医者の元に着いた私はさっそく少女を看て貰った。
コートを脱がし診察しようとした医者が驚いたことはいうまでもない。
そして、いろいろ検査が行われた、私はその間、外の待合所で待たされていた。
それから数時間後、医者がゆっくり部屋から出てきた、その表情は何とも言えない表情をしていた。
「先生、あの子は、彼女はどうなんですか?重い病気だったとか?」
私は医者に食ってかかるかの様に聞いた。
「う〜ん、なんとも言えないんですけどね、彼女はうちではどうにもならないみたいです。」
「え?そっ、そんなに悪いんですか?」
私はそういう風に取ったのだがどうやらそうではないらしかった。
「いや、そういう意味ではなく、彼女は人ではありませんよ、確かに脈、心臓音、果ては血液まで存在しますが人ではないですね。」
「そんなことなんで、うちではどうしようも・・・」
私は絶句してしまった、彼女が人ではない?そりゃあ翼を持ってはいるが・・・
そこまで考えて気持ちを切り替えた、いや、彼女が何であろうと苦しんでいることには変わりないのである。
ならば、彼女を救える所へと行くしかない、とね。
「先生、ありがとうございました。」
そう言い、彼女にコートを着せ急いで別の場所へと向かった。
そう、この町一番の人形屋の居る所へと。
あの場所からほどなく行った所にそれはあった。
私は急いで扉を押し開け入って行った。
そこには、一つ段が高くなった場所に座る男性の姿があった。
彼が人形屋の太吉である。
ここに来れば、人形に詳しいこの人の居るところへと来れば、少しはどうにかなると思い来たのである。
太吉は突然の来訪者を見ても、別に気にした風でもなく静かに聞いた。
「ここになにかご用ですか?あぁ、もしかしてその子のことですか?」
藁にもすがる気持ちで話した。
「えぇ、どうやらこの子人ではないらしいの、だから、だったらあなたに聞けばなにか解るかもと思い来たの、どうかこの子を救ってあげて。」
私は心底そう思った。
「それでは失礼して。」
太吉はゆっくり近づき少女をヨーコから受け取り、作業場へと場所を移した。
私も太吉のあとに続いた。
それから、医者の時同様、いろいろ検査が始まった。
それからほどなくして、検査をしていた太吉の腕が止まった。
私はどうしたのか聞こうとしたが、太吉が静かに首を横に振った。
「この子は確かに人ではありません、しかし、人形でもありませんでした。」
「え?人でも人形でもないって・・・どういうことなの?」
半分絶望とも思える感じが私を襲っていた。
「私は人形屋、人形のことなら力にもなれたのですが・・・残念です。」
そう言い残し、太吉はさっき居た部屋へと戻っていった。
私は少女を抱えて外を歩いていた。
「私にはもうどうすることもできないの?このままこの子を見ているしかないの?」
私は自分の無力さを恨んだ、この子になにもしてあげれないことを・・・
「お姉ちゃん、ありがとうね。」
いつの間にか少女は目覚めていた。
「よかった!大丈夫?心配したんだよ!」
少女が目を覚ましたことが、嬉しくてしかたなかった。
「あのね、私をお姉ちゃんの部屋に連れて行ってくれないかな?そこでいろいろ話したいからさ。」
私は「うん」とだけうなずき、家路を急いだ。
家に着いた私は少女を布団へと寝かせた。
「あのね、私ね昔のこと思いだしたんだ。」
「とっても嫌な思い出だった、私の居た所ではね私のことをアンドロイドって呼んでたんだ。」
「さっき、人でも人形でもないって言われたよね、そうなんだ人でもない、どちらかというと人形に近いのかもしれないけど、ここでいう人形ではないね。」
「私はなんなのだろうね?私には翼がある、でもこれはただの飾り、私を見る人が綺麗だと思って貰うために付いているただの飾りなの。」
「この翼でちゃんと飛べたらどんなによかったか・・・あんな場所からすぐにでも逃げ出せたのに・・・」
少女は涙ぐんでいた、それを見た私はこれ以上聞いてはいられなかった。
「もういいよ、それで・・・」
それを遮って少女は言った。
「いえ、聞いて欲しいの、私のすべてを・・・じゃないと・・・」
少し言葉を詰まらせたが、また話し始めた。
「そして、ある日のことだった、私を買いたいと言う人が現れたらしかったの。」
「博士の話しでは私を気に入ったのだがどうやら、この翼は気に入らなかったらしい、そこで私の翼を切り放すってことで話しはまとまったらしいの。」
私は研究所へと連れていかれたわ、この翼を切り放すためにね、私は部屋のすみっこで震えていたわ。」
私は夢のことを思い出した・・・それがあの夢だったのね。
「その部屋の天窓から差し込む月の光が綺麗だったわ、その時フッと思ったわ、この翼で飛ぶことが出来たらどんなに嬉しいだろう、とね。」
「でもね、奇跡は起きなかった、この翼では空を飛ぶことは出来なかったの。」
「そんな時博士はやってきたわ、私の翼を切り放そうと台の上へと引っ張られた。」
私は聞くのが辛かった、だが少女は言った「聞いて欲しい」と私には聞く義務があると、そう自分に言い聞かせ続きを聞いた。
「その時、奇跡は起きたの研究所の全電源が落ちたの、近くに嵐が起きているとかで、その影響で停電したの。」
「私にはチャンスだと思った、博士を突き飛ばし部屋の外へと飛び出した、停電しているためセキュリティーも完全に停止していた。」
「この研究所があまり大きくないのも幸いしほどなく外へと出た、その瞬間に研究所の非常用電源が起動した。」
「まさに、間一髪だったわ、それから嵐の中を逃げたわ、でも力を使い果たして眠ってしまったの、そして、気づいたらここにいたの。」
「そして、あなたと出会ったの。」
私はあの時のことを思い出していた、なぜあんな所に居たのか、やっとわかったのである。
そう、この少女はあの場所へと『来福』していたのである。
そんなことを妙に納得していると、少女の様子がおかしくなっていた。
「どうしたの?また具合が悪いの?」
私は気が気じゃなく、心配になり尋ねた。
「もうすべて話せたわ、これで私は思い残すことは無いな・・・」
「なに言ってるの!平気だよ、すぐに良くなるって!そしたらさ、もう一度あの七福神温泉に行って太陽の塔二人でみようよ、ね!」
少女の顔には、前の様な力強さはもうなかった。
「えぇ、そうね・・・もう一度一緒に見たかったね。」
「でも、もう無理みたい、私たちにはね半永久的にエネルギーを作り出すものが組み込まれてるの。」
「でも、私が研究所に連れて行かれた時に外されてしまったの、逃げ出さないようにね、でもね、私はそれを承知で逃げ出したの。」
「この翼を切り取られると、私が私じゃなくなる気がしたから・・・だから逃げたの、例え死んでしまうとしても。」
「でも、気づいた時にはエネルギーが十分に補充されていたの、今思うと不思議だった、そのおかげでお姉ちゃんと楽しい日々を過ごせたんだもの、嬉しかったよ。」
そう話している内にも、少女の体から力が失われていっていた。
「私もだよ、すっごく楽しかったよ・・・あなたに会えてとてもよかったよ。」
少女はもう喋る力も失っていた。
「ねぇ、目を閉じなさい私がさい・・・」
私は最後という言葉を飲み込んだ、言ってしまうと本当になりそうだったから。
「いえ、あなたを素敵な場所へと連れていってあげる。」
少女はそっと瞼を閉じた。
私は少女の額へを手を当て、前のように少女の夢の中へと入って行った。
「ここならいっぱい喋れるよ、そして、どこへでも連れて行ってあげれるよ!」
私と少女はいろいろな場所へと行った、夢には制約がない、空を飛ぼうと思えば空も飛べる。
少女はそれが一番喜んでいた。
「ねぇ、見て見て!私飛んでるよ!自分の翼で飛んでるんだよ!」
少女は翼をはばたかせて、太陽の塔の周りを廻り、空飛ぶクジラと空の散歩を楽しんだりしていた。
私は仕事柄、夢はいつか覚めるから、儚さを持っているから良いものなんだと思って、今まで過ごしてきた。
そんな儚さを持ちながら、永遠には続かないが素敵な世界が、そんな夢の世界が私は好きだった。
だが私は初めて、このままずっとこの夢が続けばいいと心から思っていた。
だが、少女が近づいてきてこういった。
「そうだ!私の名前教えてなかったね、私の名前は・・・」
始めて聞く言語だった、だがしっかりと心に刻まれる名前だった。
「もう時間だね、ほんとに楽しかったよ、ありがとう。」
そう言われるやいなや、夢の世界が暗くなり強制的に夢から出されてしまった。
その理由は、言うまでもなかった、そう、少女が生き絶えたのである。
いつまでも続けばいいと思っていた夢が終わってしまったのだ。
夢から出てきた私は、少女の顔を見てみた。
少女の顔は穏やかで、まさに天使と言っていいほど綺麗な姿をして眠っていた。
「私はあの子をちゃんと導けたのだろうか?・・・もっと他にも・・・」
これ以上言葉にはならなかった。
「チリーン、チリリーン」
そんな時その言葉に答えるかのように風もないのに風鈴が鳴った。
温泉で風禄からもらった風鈴である、風鈴の短冊には想いを伝える力があるという。
その短冊には少女が書き残した言葉が書かれていた。
「ヨーコさんありがとう、そして、いつまでも元気でね!」
それを読んだ私は、もう涙を堪え切れなかった。
その時、また風もないのに風鈴がなった。
それを聞いた私は泣くのを堪えた、あの子に笑われた気がしたからである。
「そうだね、・・・ちゃんに笑われるね。」
少女の名前を言ったはずなのに言葉にならなかった、何度ためしても同じだった。
「いいよね、名前はちゃんと私の中には存在してる、覚えてるもんね・・・それでいいよね。」
涙を堪え笑ってみせた。
その瞬間強い風が吹き抜け風鈴がまた鳴った。
今度はなぜか「季節外れの風鈴の音色だな。」と感じた。
なぜだろう、この町には季節というものが存在しないのにそう感じた。
なぜか無償に可笑しかった。
それは少女が感じたことだったのかも知れないな、と今思い出すとそんな気がする。
そして今でも私は、いろんな人の夢を案内し導いている、いろんな人に喜んで貰いたいから。
それを少女も喜んでくれる気がするから・・・
私はヨーコ、夢先案内人の九段 ヨーコなのだから。
おしまい