私は幻風老という老人から、この時代に居られる、彼と共に生
きていける方法を聞いていた。
「私は迷う必要はないわ!教えて。」
「うむ、そうじゃな、わしには出来なかったが、君なら出来る
だろう。」
私は、再び彼の前に立っていた。
そして、彼が立ち止まった時に、唇をそっと雀丸の額へとあて
た。
幻風老が始めに言ったのは
「神経進化薬と言う薬がある、それを飲めば一時的にしろこの
時代に姿を具現化
させることが出来る効果がある。」
「じゃがそれは、あくまでわしらが食料の調達に使うように不
特定多数に効果が
ある代わりに持続性がない、これではいま行うコトには意味が
ないんじゃ。」
「そのためには、薬の錠剤ではなくもっと効果の高い塗る薬で
ないといけないんじゃ。」
「じゃが、あいにくそれはなかなか手に入らんモンなんじゃ
よ、時間がかかるかもしれん・・・」
幻風老は力なく肩を落とした。
「そうか・・・それがないと・・・」
そんな事を考えていると、ある事を思い出した。
「あれ?そういえば時間屋の人が確か・・・あ!ねぇねぇ!!
これじゃなの?」
確かそんな名前の薬を貰ったことを思い出し、鞄を探してみる
と確かに口紅サイズの入れ物があった。
「ん?なんと!これじゃこれじゃ!!いったいこれをどこ
で?」
「ここに送って貰う前に時間屋の人に貰ったの!」
「なに!時間屋を通してここに来たのか・・・そうかめぷちん
め粋なことをしよる。」
幻風老と時間屋のめぷちんは未来での友人だった、そんな幻風
老の話を聞きこの時代へ送ったのもまためぷちんだっ
た。
めぷちんには果の思い詰めた表情が、幻風老の話してくれた時
の表情とかぶって見えたのかもしれない。
「よし!これで準備は整った!この薬を想い人の額へとつける
ことで、相手の脳へと直接伝えることにより脳を進化させ塗っ
た人を認識出来るようにすることができるんじゃよ。」
「そうすることにより、錠剤のように不特定多数に効果があり
持続性がないものではなく、効果は直接塗った人だけだが効果
はかなり長く持続することが出来るんじゃ。」
「そして、その間に想い人の記憶の奥に消えてしまった自分の
記憶を呼び戻すことが出来たら、それで完了じゃ!」
「さぁ!言ってきなさい・・・」
この薬は口紅タイプで作られていた、だから私は口に塗り彼の
額に口づけしたのである。
しばらくすると、反応があった。
いきなり目の前に現れた私に驚いているようだった。
勝負はこれからである、が、それよりも私を見ていてくれたの
が嬉しくてたまらなかった、例え記憶が無いとしても私を見て
いてくれる瞳が嬉しかった。
いっぱい言いたいことがあった、会いたかった、話したかっ
た、そして抱きしめて欲しかった。
でも、そんな私を見て、彼は困惑しているようだった。
なんと、自分の声が出ていない、いやお互いの言葉を認識しあ
えていなかった。
それはそうである、言葉というものは彼の前でしかこの時代に
存在していない人間が使える訳がなかった。
彼女の場合には、テレパシーと呼ばれるモノを使い意思の疎通
を行うのである。
彼にはまだ薬のききが遅いみたく、はがゆい思いをしてい
た。
そうこうしていると、彼はノートと書くものを差し出してき
た。
私はそれを受け取り、書くフリをしていた、薬が効いてくるま
での時間稼ぎとして。
そして、ノートと書くものを返した、彼はまたも困惑した表情
を浮かべていた。
その瞬間、彼の言葉が伝わってきた。
それを感じとると彼の言葉を聞けた嬉しさを堪えながら言葉を
発した。
「よかった、やっとあなたとの言葉の壁を取り除くことができ
たわ、これでお話しできりわね。」
彼はさらに驚いた表情を浮かべて私の顔を眺めていた。
「なっ!なんだ君は!いったい何のためにこんなこと
を!」
彼の答は想像した通りだったが、めげている時ではないと自分
を奮い立たせ話を続けた。
「理由は簡単、私があなたと話しをしたかっただけよ、あなた
は私のことを覚えていないだろうけど、あなたと私
は・・・」
『愛し合っていたのよ』という言葉は言えなかった、寂しく思
えたから。
「まぁ、今日はね、あなたとのコンタクトが目的だっただけ、
そして、新たな言葉への道を開きに来ただけ。」
話を切り替え状態を元に戻した。
彼はまだ状況が飲み込めていない様子だったが、彼の言葉を
遮って続けた。
「あっ!もう時間だわ・・・それじゃあね、雀丸君!」
ふと気がつくと、約束の時間が近づいていたので、後ろ髪をひ
かれる思いで私はこの場を去った。
幻風老いわく、最初のキッカケを作った日は会っている時間が決められているらしい。
なんでも、薬を塗った日にあまり脳を使うこと(未来の人間と
会話をする)を急激に行うと、脳が耐えられなくなり精神崩壊
を起こしかねないと言うのである。
だから、しばらく脳が発達するのを待たなければならないらし
い。
そんな事になっては意味がないのである。
私は話したい衝動を堪えて残りの日を耐えた。
私は頃合を見計らって、再び彼の元に向かった。
「こんにちわ、今日はねテストをしにきたのよ。」
私は今日も平静を装って、話を切り出していった。
すると、彼は今までの疑問を一気に聞いてきた。
「っておい!だからさ、君はいったい誰で何のために私の前に
現れた!そして、なぜ君は他の人には見えないんだ?」
確かに彼の気持ちは痛いほど分かっている、しかし、いろいろ
説明している時間がないのも事実、私もできるならすべてを話
して思い出して欲しかった。
しかし、それは出来ないこと・・・私は自分に言い聞かせ話し
出した。
「う〜ん、そんなにいっぱい聞かれてもこまっちゃうな、それ
じゃ特別に一つだけ答えてあげるよ。」
「私が雀丸君以外になぜ見えないのか?それは簡単!見てもら
う必要がないから見えないのよ、解った?」
「う〜ん・・・って!そんなんじゃ解るわけないじゃないか!
それにそんなの理由になんないだろ!」
案の定、彼は納得はしなかった、そりゃあ私も納得出来ないで
あろう。
だが、時間がない・・・だけど、少しは話しておかないと
な・・・他に伝えたいこともあるが・・・
「え〜、そんなことないよ、人はね目でしか物事を見ようとし
ないの、それじゃあ見えないこともあるのにね。」
「そこで、雀丸君だけに感覚を進化させたんだ、だから、私を
見えるようになったんだよ、あなただけに見て欲しかったから
ね。」
「方法はね・・・秘密だよ♪」
「う〜ん、秘密かぁ〜・・・?って違うわい!そこじゃなく
て・・・ふぅ〜、もういいや。で?テストって?」
彼も諦めたらしく、私は一息つき今回の大切な事を話し始め
た。
「そうそう!あなたは私に誰だ?って聞いたよね、それがテス
トの内容!私は誰?」
「あなたは、雀丸君は私の事を知っているはず、それがテスト
の内容、そしてこれからの事にとても大事なこと。」
「あなたは忘れているだけ、それが思い出せるかどうか
で・・・それじゃあね!数日中にまたくるわ、その時
に・・・」
また、時間がきてしまった、多少脳が発達したとしても長時間
話すのにはやはり限界がある。
私は、私の伝えたいことは伝わっただろうか?という不安を抱
えたまま戻る羽目となってしまった。
後は彼、雀丸次第である、彼が果の事を思い出しさえすれば、
後は・・・彼ら次第である。
私は不安でいっぱいだった、もっと他に言うことがあったんで
は?もし、雀丸君が思い出してくれなかったら・・・
そんな考えしか浮かんでこなかった、不安が不安を呼びそれの
繰返しでドツボへとはまっていく。
そんな時、幻風老がやってきてそばに座った。
「どうしたんだい?・・・そうか、不安でたまらないんだね、
そうだな私も一緒だったな、あの時不安で押し潰されそうだっ
た。」
「すべての準備はちゃんとしたんだ、これ以上は考えていても
辛くなるだねじゃぞ。」
そう言い幻風老は私を強く抱きしめてくれた、昔父親に抱きし
めて貰っていた感じがした。
「さあ!元気を出すんだよ、きっとうまく行くさ!そう思いな
がら今日はもうおやすみ・・・」
私はそのまま深い眠りへと落ちていった。
その時、幻風老はゆっくりと私のそばから離れていっ
た。
そして、それから数日後、運命の刻がやってきた。
果はもう考えることはやめていた、そして雀丸の前に現れた。
そして、雀丸を見た瞬間すでに結果は出ていた、いつもと変らぬ反応だったのだ。
「雀丸君・・・ダメだった・・・のね?」
「そう・・・私のことはもう忘れてしまって思い出して貰えないんだね。」
もう悲しみしか感じなかった、私の名前を呼び抱きしめてくれるはず・・・そんな想いが見事に打ち砕かれたのである。
後に残るものは、もう何もなかった。
「いや!・・・うん、君のことを思い出すことはできなかったよ、君は・・・君はいったい、誰なんだい?」
そう言われた瞬間耐えていた涙を止められなかった。
すべてが、そう、私のすべてがここで終わった気さえした。br>
「そうか・・・そうだよね、あなたが思い出してくれたら私はあなたの元へ戻ってこれた・・・のに・・・な。」
「あなたはもう私のことを知らないままの方がいいのよ、だって、もう会うことはないんだもの。」
私は力を振り絞り、最後に伝えるべきことを伝えるだけで精一杯だった。
「え?なんだって?何のことを言っているんだい?」
「さよなら、私の愛した雀丸・・・ほんとにさよならだね。」
私の姿が消えていく、薬の力が、そして雀丸の記憶から完全にきえるのね・・・。
悲しみと供にこれでよかったのだと思う自分もいた。
彼はこの時代の人と結ばれるのが自然の摂理であろう、私はここに居てはいけない存在、これでよかった・・・のよね?
私は誰にともなく聞いていた。
その瞬間、雀丸に呼ばれた気がした!・・・が、何も変らなかった、やっぱり気のせいだったと諦めた。
私はこのまま永遠にこの時代の並列世界であるこの異次元で、ゆっくり歳老いて死んでいくのだろう、それもいいかもな・・・
私はこの異次元をさ迷い歩いていた、これからもずっとそうであろう、あても目的もなく、ただ死ぬまで歩いているだろう。
私はこのまま一生そうであろう。
おしまい。
でもね、このお話しにはちょっと先があるんだよ・・・
私は気づかぬうちに思い出の通りに来ていた、まだ未練があるんだとちょっと苦笑した。
その時どこかで呼ぶ声が聞こえた気がした、昔に聞いた懐かしい声を・・・
私はその方を見た・・・!?
「はつるぅ〜!!」
ほんとに、おしまい!