幻想の女性


彼女は確かにそこにいた、たったいままで私の目の前に。

私の周りで最近変な事が起こり始めていた。
私ですか?私の名前は雀丸、普通の学生をしてます。
その不思議な事が起きるまでは普通に暮らしていました。
毎日、意味があるのか無いのかなんてことを考える暇もなく、ただただ毎日が過ぎていました。
まぁ、だいたい皆そんなもんでしょう?えっ?そんなことない?
う〜ん、じゃあ、私だけなのかな?まぁ、その話しは置いときましょう。
ただ・・・いえ、ただね、違和感があるんですよね、ほんとに過ぎていった日々はただ過ぎていっただけだったのかなぁ〜?ってね。
う〜ん、おかしいですよね、それは私にも分っているんです、でも・・・何か大切な事を・・・そう、大切な何かを忘れている気が・・・
そんなある日のことです、私の前に綺麗な女性が現れました、歳の頃は私と同じくらいの女性でした。
それから、そう、それからいろいろと起こり始めたんです。
私の前に立っている女性は何事か言いたげでした、ですが口をぱくぱくさせているだけで私には全然聞き取れませんでした。
そこで、私も気になったので聞いてみることにしたんです。
「ねぇ?君は私に何か言いたいことがあるのかい?それなら声を大きくしないと聞こえないよ。」
そう言ってはみましたが彼女の様子は変りませんでした。
「う〜ん?あっ!そうか!!君はきっと口がきけないんだね、それじゃあ伝わらないわけだ!」
私は急いで鞄からノートと書くものを用意して彼女に渡してあげた。
彼女もそれをにこやかに受け取り、スラスラっと紙に何かを書いた。
そして彼女は書き終わったらしく、ノートを返してきた。
それを受け取ってさっそく内容を確認してみた・・・が、いろいろ書いていたはずのノートには何一つ言葉は書かれていなかった、いや、本当になにも書かれていなかった、白紙のままだった。
からかわれているのか?と思った瞬間ん不意に頭の中に直接言葉が浮かんできた。
「うん?なんだ!?頭に直接言葉が流れ込んでくるようだ。」
そう、頭の中に直接言葉を送られてくるような、そんな不思議な感じだった。
「よかった、やっとあなたとの言葉の壁を取り除くことができたわ、これでお話しできりわね。」
はっ!となり彼女を見ると口の動きと頭の中に流れてくる言葉が確かに一致していた。
「なっ!なんだ君は!いったい何のためにこんなことを!」
そう言うと、彼女は一瞬寂しげな表情を見せて、またニッコリ微笑んで話してきた。
「理由は簡単、私があなたと話しをしたかっただけよ、あなたは私のことを覚えていないだろうけど、あなたと私は・・・」
最後の方は聞き取れなかった、いや、頭の中に流れてこなかった、が正解だろうか。
「まぁ、今日はね、あなたとのコンタクトが目的だっただけ、そして、新たな言葉への道を開きに来ただけ。」
「ん?だから!なぜ私のことを・・・」
私の言葉を遮るように。
「あっ!もう時間だわ・・・それじゃあね、雀丸君!」
そう言って彼女は消えた、そう!私の目の前から一瞬のうちに居なくなっていた。
そして、彼女が最後に言った私の名前・・・妙に懐かしさを感じていた。
「昔どこかで・・・」
だが、それ以上は思い出せなかった。

それからしばらくしない内に、また、あの彼女が姿を現した。
後から知ったのだが、彼女が去ってからフト周りを見てみると、私を見る視線が何か冷たい気がした。
その周りに私の友人も居たので聞いてみたところ。
「え?何で皆の視線が冷たいかって?そりゃそうだろ、道の真ん中で独り言をブツブツ言ってるやつなんだぜ、お前。」
「そりゃ、皆の視線も冷たいわな。」
などと言っていたところをみると、私の他には彼女を見ることができなかったことになる。
頭が混乱するには十分すぎる出来事である。
「こんにちわ、今日はねテストをしにきたのよ。」
「っておい!だからさ、君はいったい誰で何のために私の前に現れた!そして、なぜ君は他の人には見えないんだ?」
「う〜ん、そんなにいっぱい聞かれてもこまっちゃうな、それじゃ特別に一つだけ答えてあげるよ。」
「私が雀丸君以外になぜ見えないのか?それは簡単!見てもらう必要がないから見えないのよ、解った?」
「う〜ん・・・って!そんなんじゃ解るわけないじゃないか!それにそんなの理由になんないだろ!」
「え〜、そんなことないよ、人はね目でしか物事を見ようとしないの、それじゃあ見えないこともあるのにね。」
「そこで、雀丸君だけに感覚を進化させたんだ、だから、私を見えるようになったんだよ、あなただけに見て欲しかったからね。」
「方法はね・・・秘密だよ♪」
「う〜ん、秘密かぁ〜・・・?って違うわい!そこじゃなくて・・・ふぅ〜、もういいや。で?テストって?」
「そうそう!あなたは私に誰だ?って聞いたよね、それがテストの内容!私は誰?」
「あなたは、雀丸君は私の事を知っているはず、それがテストの内容、そしてこれからの事にとても大事なこと。」
「あなたは忘れているだけ、それが思い出せるかどうかで・・・それじゃあね!数日中にまたくるわ、その時に・・・」
そう言い残し、またしても話すだけ話して去っていった。
「ふぅ〜、やっぱりまだ理解できない・・・だけど私が彼女のことを知っている?忘れている・・・?」
「違和感・・・そう、私はずっと違和感を持っていた日常に、その答えが待っているのか?」
「彼女・・・そう、時折見せる寂しげな表情を私は知っている気がする、だが思い出せない・・・君はいったい誰なんだ?」

そして、運命の刻がやってきた。
いつもと雰囲気が違う彼女がやってきた。
「雀丸君・・・ダメだった・・・のね?」
「そう・・・私のことはもう忘れてしまって思い出して貰えないんだね。」
「いや!・・・うん、君のことを思い出すことはできなかったよ、君は・・・君はいったい、誰なんだい?」
そう言った瞬間、彼女は泣いていた。
「そうか・・・そうだよね、あなたが思い出してくれたら私はあなたの元へ戻ってこれた・・・のに・・・な。」
「あなたはもう私のことを知らないままの方がいいのよ、だって、もう会うことはないんだもの。」
「え?なんだって?何のことを言っているんだい?」
「さよなら、私の愛した雀丸・・・ほんとにさよならだね。」
そう言った彼女の寂しげな表情がやけに脳裏に焼き付いた。
その時!どこかに消えていた大切な記憶の断片が一瞬蘇った。
その瞬間、自分でも意識せず言葉が自然に出ていた。
「・・・!!」
確かにその時彼女の名前を言っていた、がもう思い出せなかった。
どちらにしろ、彼女は戻ってはこなかった。
私は大切な人を永遠に失ってしまったんだろうか?
私の胸は前以上にからっぽになってしまっていた。

おしまい。

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