
政府が、重い腰をあげた。
首相の声明が発表された。
「地下都市は、通路と交通機関は問題ない。本州においては、外出する際には地下通路を使用するように。多少の不便は我慢してもらいたい。また、出入国には新千歳や福岡など本州以外の空港を利用する。これは諸外国からも承認を得ている。地下の住宅や病院、学校などは、まだ安全性が確認されていない。準備が整い次第、順次地下に切り替えを行う。各自治体の判断で行うこと。また、カラスの捜索には自衛隊の協力を要請する。捕獲方法については、各方面と協議中である。くれぐれも不用意に外に出ないように。各自治体や警察の広報、インターネット、テレビ、ラジオなどの情報をこまめに見て、状況を把握し、冷静に行動してほしい。流言飛語が飛び交い、悲惨な事件が起こらぬよう、各人が責任を持ってほしい。」
-----今から15年ほど前のことである。-----
MASA(航空宇宙局)が、信じがたい情報を発信した。「地球へ向かって、非常に大規模な宇宙艦隊が押し寄せてきている」と。世界中が爆笑した。MASAの粋なジョークであると思われたのだが、ある日、世界中の航空宇宙施設に怪電波が送られ、地球外生命が存在することが証明された。その内容に、人々は興味津々であった。
「ワレワレ・・・チキュウ・・・★◎※▽*◇?$○&△#%♪・・・」
MASAは、持てる技術と知識と気力と体力を総動員し、死に物狂いで信号の解読を進めた。その間にも、アンテナは次々に信号を受信している。自称宇宙人、宇宙人と交信ができるチャネリスト、霊能力者、超能力者たちが好き勝手な持論を展開し、テレビは特番ばかりになった。やがて、人々は恐怖に震え上がることになった。
「ワレワレ・・・チキュウ・・・テニイレル・・・ホウシャノウ・・・チキュウジン・・・ホロビル・・・チキュウ・・・ワレワレノモノ♪」
宇宙人の襲来である。放射能で地球を汚染し、征服するつもりなのだ。各国は、敵の正体を知るために、信号の解読、戦闘機の準備、ミサイルの準備を着々と進めていた。そして、新たな信号を受信した。
「ワレワレ・・・モモラスセイ・・・ユウヨ・・・サンビャクロクジュウゴニチ・・・コウゲキスル♪」
敵は、モモラス星人で、1年の猶予を与えるから降伏せよ、さもなくば攻撃する、というメッセージであった。地球はパニックに陥った。裕福な実業家や独裁者は、スペースシャトルに乗せろ、宇宙ステーションへ行かせろ、とMASAへ押しかけ、庶民は、残り少ない人生を思い切り楽しもうとばかりに、享楽的になり、犯罪も増加した。
そんな折、日本の海の底に眠る、とある戦艦に、世界中から熱い眼差しが注がれるようになった。”戦艦とまと”・・・戦時中の日本の技術、美意識の結晶である、日本の敗戦を象徴するような巨大な戦艦・・・その姿は、哀れなほど美しく、今なお誇り高く、深海の底で、静かに眠っていた。
「この美しい船に、最新鋭の装備を施し、モモラス星人と戦おう!」と、メメリカやエウロッパ諸国が日本政府に申し入れてきた。日本人の多くは、感動に打ち震えた。「なにもせずに滅びるのを待つより、精一杯戦おうではないか!」という世論が高まり、”戦艦とまと”は海底から引き上げられた。
「日本の軍国主義化を懸念する!」「ダセー!船かよ!」「私の子供を戦争になんか行かせないわ!」という反対論は「地下都市を作り、あなたたちを優先的にご案内します。」というメメリカ大統領のリップサービスで、次第に消えていった。
メメリカをはじめとする世界中の軍隊や警察組織から選抜されたエリートが乗組員に選ばれ、”戦艦とまと”の改造が始められた。また、世界各国に地下都市の建設が行われた。
乗組員の訓練も最終段階に入り、地下都市もほとんど完成し、いよいよ、”宇宙戦艦とまと”の整備も済み、あとは宇宙へ飛び立つのを待つだけ、という時期に、それは起きた。
フフリカの小国にある巨大な天体望遠鏡が、宇宙の大爆発と見られる現象を確認した。MASAが調査に乗り出し、モモラス星人の大艦隊が、謎の大爆発を起こしたのではないか、という推測がなされた。すっかり解読したモモラス星の信号だが、以後、二度と受信することはなかった。念のため、”宇宙船艦とまと”は出動し、安全確認を行ったが、モモラス星人の艦隊は見当たらなかった。
後に残ったものは、使うことのない巨大な地下都市、もう乗ることのない巨大な宇宙船艦、地球規模の膨大な借金・・・であった。自己破産、夜逃げ、殺人、自殺も激増した。人々は、空しさに呆然となり、景気は急速に衰えていった。
-----あれから15年-----
各施設、各家庭に一応義務付けられている地下通路を通り、子供たちは学校へ、大人は職場へ、徒歩や自転車、地下鉄、電気バスで通うようになった。自家用車は、地下の安全性を考慮し、禁止された。立体駐車場は満杯になり、行き場のない車には覆いが被せられた。重要文化財、家屋、店舗、オフィスビル、病院などの建造物にも、同じ覆いが被せられたが、それは甚だ心もとないものであった。
日本人は、精神的に不安になる人が続出した。