
「おはよ〜・・」。
ロビーのソファーに座って、同僚のドニーが伝票を畳んでいる。その隣に荷物を置き、「なんかさぁ、うるさくなかった?」と桃子が問いかけると、ドニーは「やっぱりぃ?あれカラスだよねぇ。すげぇうるさかったよ・・」とうんざりした顔で答えた。
ドニーがタバコに火をつけようとしたので、桃子はその場を離れ、チェックアウトのためフロントに歩いていった。伝票を受け取っていると、エレベータからもう1人の同僚、由美子が降りてきた。ドニーのそばへ戻ると、ちょうどタバコを灰皿に押しつけているところであった。
近くに朝刊が置いてあるのを見つけ、パラパラとめくってみた。
『列島を騒然とさせた、例の破廉恥弁護士』らしき記事が載っていた。女子高生にみだらな行為を働いたのが発覚し、逮捕されたらしい。人権家として定評があり、口癖は「前途ある少年に刑事罰は反対だ」であったそうだ。逮捕されて1週間、波紋は広がる一方で、弁護士に対する不信感が急激に高まっている、という内容であった。
3人は、最寄り駅から電車で3駅ほど行き、ファストフード店でモーニングセットを食べているところである。
由美子が「あのさぁ、ティラノサウルスみたいな鳴き声が聞こえなかった?」と言った時、桃子は夢うつつで自分が恐竜を連想してバカだと思ったことを思い出した。自分だけではなかった。
ドニーに「由美子、ティラノサウルス知ってんの?」と笑われながらも、由美子は「だってあれは普通のカラスの鳴き声じゃないよ。怖いよ〜」と話を続ける。「アタシも恐竜かと一瞬思ったよ。確かに、周囲に響き渡るような大音響だったよね」と桃子がどさくさに紛れてカミングアウト。
「バサバサいう羽の音もすごかったよね」「新宿のカラスはデカイのかねぇ」「見た?」「ううん。起きられなかったし」「ゴミの収集前には静かになってたみたいだよ」「ヤツら頭いいからな。時間を見計らってんだよ」「そのうち人襲うんじゃない?」「うちの近くの森にさ、野良猫とか野良犬がたくさんいたんだけど、最近全然見かけないんだ。カラスに食われちゃったのかなぁ」「肉食なんだよねぇ。怖いよね・・」と、とりとめのない会話をしているうちにコーヒーも飲み終わり、魔窟という噂のシステムセンターに向かって歩いていくのだった。
今日もまた1日が始まる。失踪したい・・・と言葉に出るうちはまだ大丈夫。この状態に終わりは来るのだろうか?