
昼休み、行きつけの蕎麦屋で女性陣が話しこんでいる。
「昨夜は遅かったけど眠れた?」との先輩の問いかけに、「明け方近くに眠れなくて大変だったんですよぉ!」と、カツ丼をほおばりながら桃子が切り出すと、由美子がそれを受け「カラスがうるさいんですよー!ゴミを漁ってたんでしょうけど!」と、鍋焼きうどんをすする。
「そういえば、最近カラスが大きくなったってワイドショーでやってましたよ」と、綾子が、大海老天丼をふうふう冷ましながら言った。「私、3ヶ月くらい前に盲腸で入院してたじゃないですかー。そのときに病院のテレビで見たんですよー。動物園の小動物の赤ちゃんを食べちゃったり、サルをくちばしでつついたりして怪我させてたんですよぉ!ゾウとかクマにまでちょっかい出してたみたいでー!怖いですよぉ!目つき悪くてクチバシが太くて態度も図々しいんですよねぇ!大っ嫌い!」と親の仇のように大海老にかぶりついた。
由美子が「今もっとでかくなってたらヤだよね。うちの犬も心配だなぁ」とボソッとつぶやいた。
桃子は、干潟で渡り鳥のヒナがカラスに食べられて1羽も巣立てなかったというニュースを思い出した。人間の出す生ゴミが都会のカラスの栄養元になっているということは、言われなくても分かっている。「生ゴミに毒でも入れときゃいいのに・・・」と思いつつ、鬼畜呼ばわりされるのが怖くて言えないのであった。カラスばかりか、ネズミやゴキブリも退治できそうな気がするのだが。
生ゴミを漁る犬や猫、たまに出没するタヌキなども被害にあい、猛毒物質が地面に浸透し、水も汚染され、地球の生態系が狂い、やがては人間に跳ね返るのだ、それは十分に分かっているのだが、やはりカラスは嫌いだ。外国人観光客が、駅や寺社の鳩の大群に驚き「なぜ銃で撃たないのか」と不思議がっていたが、それならカラスを撃てばいい、という考えを桃子は捨てきれない。傲慢な考えであるのは自覚している。
動物愛護団体は、渡り鳥のヒナが全滅しても「悪いのは我々人間です。野生動物との共存を目指しましょう」としか言わない。なんら具体的な案を出さないのが彼らの方法である。