
「これは、東北地方からの観光客の19歳の女性2人組が偶然撮影したものです。途中でテレビカメラも何台か集まりましたが、最初の方から撮影されているものは彼女たちが撮ったこの映像だけです。かなり画像は乱れていますが、全体像がよく分かる映像です。」
ワイドショーの出演者は、一様にショックを受けている様子で、言葉がすぐに出てこないようだ。
男性司会者が「あれは・・カラスですか?」と最初に口を開いた。記者は「信じられないことですが、カラスのようです」と答え、「病院に運ばれた母子の容態については、まだ発表はありません。なお、通りがかりの若い男性がエアガンで鳥を撃ったとのことで、警察で事情聴取を受けています。どのような事情でエアガンを所持していたのかは不明ですが、母子を助けたということで、警察には柔軟な対応を望む声が上がっています」と続けた。
お笑い芸人が「あの鳥は生きてるんですか?」と聞いたところ、記者は「詳しいことはまだ分かりません。あのような大きな鳥ですが、当たり所によっては死んでいるかもしれません。我々も警察の会見を待っているところです」と困惑しきっている様子である。
落ち着きを取り戻した女性司会者の「放送時間内に新しい動きがありましたらまた伝えてください。」という言葉でスタジオに切り替わった。
男性司会者が「しかし・・・カラスがあんなに大きくなったとは・・・」とポツリとつぶやいた。お笑い芸人は「怖かったやろうな。」と母子を気遣い、評論家は「なぜこんなことに・・・どこから飛んできたのか・・」と首を捻る。女性司会者は涙を浮かべ「若そうなお母さんですけど、赤ちゃんを守ろうと覆い被さっていたのが印象的ですね・・・」と母親に自分を重ねているようであった。「エアガンで撃たなかったらもっとひどいことになっていたかも分かりませんよね!確かに持ってたのは問題やけど、杓子定規の刑罰はしないで欲しいなぁ」とお笑い芸人は、通りすがりの若者の心配もしている。
ここで、ワイドショーの放送時間が終了した。次の番組は2時間サスペンスの再放送『断崖絶壁に立つ女−20年前の些細な事件が復讐のはじまりだった』の予定だが、案の定、報道特集となるようだ。
桃子は、いつのまにかテレビの目の前に顔を近づけて見ていた。どこのチャンネルを回しても、カラスらしき巨大な鳥が人間を襲ったニュースで持ちきりであった。居ても立ってもいられなくなり、むんずと受話器をつかみ、システムセンターの電話番号を押した。
指が震えて押し間違えてばかりで、4回目でやっと通じた。