研究の背景
■現在の日本における高齢化の現状
総務庁統計局が1999年9月15日現在で発表した人口推計値によると、日本の65歳以上の高齢者人口は2,166万人に達し、その総人口に占める割合も16.7%と過去の最高値を記録しました。
1950年代までは5%前後で推移していた高齢者人口も、1985年に10%を越えて以来、下図の様に右肩上がりの上昇を続けています。
資料:平成7年までは「国勢調査」、平成8年〜11年は「推計人口」、平成12年度以降は国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口平成9年1月推計」(中位推計)より 作成
加えて、厚生省関連団体の国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、高齢化率は2006年には20%、2015年には25%に達するとの報告がなされています。
我が国の高齢化進展の速度は、世界に類を見ないものであることは周知の事実ですが、その進展に伴い、高齢者を取り巻く諸環境が、高齢社会に対応してきたとは言いがたい面があります。
■ハートビル法などは出来たけれども・・・
以上のような社会の高齢化に伴い、1994年にはハートビル法(正式名称:高齢者、障害者等が円滑に利用できる特定建築物の建築の促進に関する法律)等の、建築物のバリアフリーを促進する視点からの環境整備が進んでいます。さらに、ここ数年の動きとしては、地方自治体が独自の「福祉のまちづくり条例」を制定することで、屋外環境の整備に積極的に取り組もうとしています。
この様な条例が全国で制定されていることは大変望ましいことではあるのですが、これらの多くは車椅子利用者や視覚障害者等の一部の障害をイメージした障害者像のような気がしてなりません。
世の中には、障害とまではいかなくとも、「体が少し不自由だ」「目が見えにくい」「何らかの疾病を抱えている」といった虚弱高齢者が多数存在しています。ゆえに、身体的・精神的機能において大なり小なり何らかの機能低下をきたしていることが少なくありません。こうした機能低下が、周囲の環境に対する適応能力の低下を招き、その結果として発生するのが転倒を始めとする事故なのです。
加えて、高齢者はその老化の過程において、骨粗鬆症等を患う者も多く、転倒により重度の骨折が発生しやすいことは容易に想像できます。
鈴木・古田ら(1996)は、高齢者が車椅子利用・寝たきり状態となる大腿骨頚部骨折の発生要因のほとんどが転倒であることを述べています(※1)。ゆえに、一度でも事故に遭遇し重度の受傷を伴うと、回復まで多くの時間を要し、転倒をきっかけとして寝たきり状態につながることが多いのです。
■本研究の目的
本論文では、屋外における高齢者の自損事故に関する先行研究のレビューから、高齢者の自損事故像について明らかにされている点を整理し、長寿社会開発センター1999年度研究「屋外における高齢者の安全確保に関する全国調査」の調査結果をもとに、比較・検討を行っています。
調査の方向性としては、統計的なアプローチから、現在の屋外環境における高齢者の自損事故像の検討・把握に努めるとともに、統計的なアプローチでは捉えることの出来ない点について、プロセスレコード作成という事例的・質的なアプローチの手法を提案し、屋外における高齢者の自損事故の防止に向けての提言を行うことを目的としています。
■参考文献
・鈴木孝雄・吉田英世 「日本人の大腿骨頚部骨折の危険因子及び予防因子 ―厚生省長寿科学研究班の成績を中心に―」 1996.Geriatric Medicine34号 (※1)
・長寿社会開発センター「高齢者の安全確保に関する全国調査」1999
・総務庁統計局「人口推計調査」1999
・厚生省社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」1997
ハートビル法等の建築施策については、下記HPをご覧下さい!
他にも長寿社会対応住宅設計指針なども掲載されています