火山口に転がっている大きな岩の上にいた。
女は疲れて眠ってしまっていた。
僕の肩に支点を設けた小さなその体と汚れきった僕の肉体は、
ただそこにあるというだけの理由で一個の固体としての存在を許されていた。
その皮膚は、溶岩の飛沫をうけどろどろに溶け出していた。
岩を洗う怒涛の無限の音のような、
屋根を打つ高射砲の無数の破片の落下の音のような、
休止と高低の何もないザアザアという不気味な音の連続が作り出した風が、
僕らの作る一個の固体を噴きつけていた。
固まり出したそのカラダは、願わくば中の光を生み出すように裂けだした。
自由になった僕の方の口が、彼女の耳に言葉を押し付けた。

「死ぬ時は、こうして、二人一緒だよ。怖れるな。そして、俺から離れるな。
火も爆弾も忘れて、俺たち二人の一生の道はな、いつもこの道なのだよ。
この道をただまっすぐ見詰めて、俺の肩にすがりついてくるがいい。わかったね。」

疎らな光が目を憑いた。
川岸では、今にも燃え落ちようとする家の火に手を翳して暖を取る数人の姿がある。
女はいまだ眠り続けており、このまま女をおいて立ち去りたいとも思った。
潔癖も張り合いも持ち合わせていない僕には、それすらめんどうくさくなっていた。
ここに居る事で、
吐き出される言葉でさえ、あからさまな肉体の行為でさえ、
毟り取る尻の肉でさえ、吐き出す煙草の煙でさえ、夢に見る1ダースのコーラでさえ、
何もかもがこの女のために存在しているように思えた。
現実とは何の接点もないこの女と、
現実の申し子との関係に何の誤解も持ち合わせることは出来なかった。
僕は女を想い、目を伏せた。


坂口安吾と手塚眞を礎とした変奏曲