第六回:お化け屋敷
随筆第壱〇回で書いたような事を信じる人もいれば信じない人もいるでしょう。そういったものを、つまりこの世のものでないといわれるものに対して法はどういった判断をするのか?ちょいと興味をそそられるところである。そういった事を扱った判例がないものかなと思い、捜してみたところおもしろい判例があった(意外に有名な判例だった)。といっても裁判所が「花魁淵には幽霊がいると認める!」などと判決を下すわけはない。幽霊の出ると噂される建物、いわゆる「いわくつき物件」をめぐる裁判である。
幽霊やお化けの出現は確認のしようのないことだが、はっきりと確かめられる出来事もある。たとえば、その部屋で誰かが悲惨な犯罪に巻き込まれて死んだとか、壮絶な自殺を遂げたとか・・・幽霊となって現れてもおかしくない(?)と思われる惨事が過去に起きていたというケースである。厳密にいえば、幽霊やお化けの出現が確かめようのない事、あるいは、そんなものはいないとの立場をとるのであれば、惨事が過去にあったからといってその物件の居住性に問題が生まれるというわけではない。きちんと水道が通り、電気がついて、床が踏み落ちたりする事もなく、建て付けもスルスルと悪くなければ、それは物理的には何の問題もない完璧な住まいであるはず。
こうした物件をそれとは知らず買ってしまい、後からその事に気付いた場合、これは不動産の瑕疵(かし)として認められるのだろうか?不動産売買には民法で瑕疵担保責任が定められている。(瑕疵とは傷の事)こうした瑕疵がある事を知っていながら、それを伏せて取引をすれば法的な責任を問われる。こうしたケースでその事、つまり「いわくつき」という事が不動産の瑕疵、傷にあたるのか?といった事を扱った判例がこれ。
<事件の概要>
原告Aは小学生の子供2人と妻とともに、永続的な居住を目的として、昭和63年に被告Bより本件の建物(マンションの一室)を以下の約定で買いうけた。代金は3200万円で契約締結時に手付金500万円、翌年残金2700万円支払う事になっていた。契約締結後、たまたま、このマンションの近くに住んでいたAの義兄にこのことを話したところ、義兄から「そのマンションの中で首吊り自殺があったはずだ。どの部屋で起こったことなのか、今度確認しておく」と聞かされ、非常に驚いた。やがて義兄からの連絡により、その縊首自殺がまさに自分が契約を交わしたばかりの部屋で行われたことが判明した。
被告Bは、昭和57年にこのマンションに家族4人で入居したが、Bの亡妻は育児ノイローゼと引越しの苦労が重なって、入居してわずか2週間後に、このマンションのベランダで縊首自殺を遂げていた。その後も被告Bは、家族とともに同じ部屋に暮し、昭和59年には再婚をして、以降も平穏な家庭生活を続けていた。本件不動産の売却は新居ができたので、その転居によるものだった
<原告Aの主張>
本件不動産で縊首自殺があった事が事前にわかっており、そのような「いわくつきの物件」であるならば絶対に購入しなかった。ところが被告Bは自殺の事実は認めたものの、手付金500万円を返還しようとせず、手付金を諦めれば契約を解除するという。マンションのベランダで自殺者が出たという事は、その不動産物件にまつわる嫌悪すべき歴史的背景のひとつであり、この事によって住み心地の良さを欠く事になり、この事に合理性があると判断されるべきであるから、隠れた瑕疵(民法五七〇条)に該当するものである。したがって、売買契約の際、売主は買主に重要事項として説明する義務がある。にもかかわらず、被告Bはそれを知りながら、説明することを怠った。よって、原告は違約金条項に基づいて売買金額の20%に相当する640万円、また既に支払った手付金500万円の合計1140万円の請求権がある。
<被告Bの主張>
原告Aの主張は、全く隠れた瑕疵にあたるものではない。瑕疵担保責任は交換価値の減少を理由とするもので、瑕疵の定義は「目的物の使用収益に傷害が生じる程度に、品質・性能を欠くものである事」である。つまり買主の主観的・感情的な欠陥は瑕疵ではない。さらに本件は中古マンションの売買である。人がそこで暮している以上、忌むべきことが起こることは実際上避けられない。それに人はいつか必ず死ぬものである。したがって死者がでた歴史を持つマンションかもしれないという事は、買主の方で当然予想できる事である。また自殺後、6年3ヶ月という長い時の経過も重視されるべきである。被告はその間、本件建物の中で平穏無事な家庭生活を送ってきている。また事件当時、入居していた住人の半数あまりが転居している。以上の事実より、本件の主観的、感情的欠陥が通常の意味で人の使用に耐えない、すなわち瑕疵担保責任における交換価値の減少と評価できるものではない。
<判決>
被告Bは原告Aに1140万円支払え。被告B(反訴原告)の請求を棄却する。
という事。幽霊やお化けは認めないが、そうしたものがひょっとしたら現れるかもしれない(?)と思われるような忌むべき事件や歴史的背景は瑕疵担保責任における客観的な瑕疵にあたると裁判所が認めた判例ということ。(平成元年、横浜地方裁判所)
しかし、どうなんだろうね。この判決は妥当なのかな?一人の自殺者がでて6年たった物件でも瑕疵が認定されるのか。それでは何年たてばその瑕疵は癒されるのか。一度死人が出た以上その物件の瑕疵は癒される事はないのであろうか。また自殺や殺人ではなく、悲惨な病気で死人がでた場合はどうなるのだろうか。あるいはありふれた病気でも続けて死者がでた場合はどうなのだろう。つきつめていけばその辺が曖昧な気がする。とはいうものの、やはり自殺者の出た部屋と聞けばあまりいい気持ちがしないのは当然だし、確かに前もって知っていたら購入しない人も多々いるでしょう。う〜ん、難しいね・・・
お化け屋敷について、幼き頃近所に古びた洋館があり、お化け屋敷のイメージそのものだった。そこで友人達に「あそこの屋敷はお化け屋敷だ!」とふれまわった。が、実際にはちゃんと人が住んでいて、しかもその事を知っていた。にもかかわらずその場のノリで話してしまった。その後友人達がその洋館に忍び込み、門や窓を破壊してしまった。その翌日、友人達いわく「門を破壊したのにもかかわらず、今朝見てみたら直ってた!」「しかも昨夜は人の声がした!人はいないはずなのに・・・だからあの洋館はぜったいにお化け屋敷だ!!」だって。門が直ってたり、話し声がするのはあたりまえなんだよね、だって人が住んでるのだから。ていうか普通そんな事があったら人が住んでるって気がつかね〜か? その後、友人達はまたその洋館に忍び込み、住人の通報で警察に連行されたのでした・・・懐かしい思い出です。
(Written by SAMURAI 99/10/19)