第弐弐回:仮面の告白

実は拙者には妄想癖がある。といっても別に格段にいかがわしい妄想や下劣な妄想をするわけではない(その辺は誤解しないで頂きたい)。むしろ世の中の男子のほとんどは程度の差こそあれ多少の妄想癖はあるであろう。だからこそ思春期男子の妄想度120%の漫画である「BOYS BE」の長期連載が可能であったわけである。ちなみに拙者は単行本は1冊も持っていないし、友人が購入してきたマガジンを読む際にただ何となく読んでいただけだが(さすがにもう読む歳ではなくなったので現在も連載中かどうかは知らない)。この漫画の現実では到底有り得ないシチュエーションはまさしく妄想そのもの(異様なまでに短い制服のスカートも妄想度高し!)。全国男子諸君の妄想でしかなかった世界を漫画という手段によってビジュアル化した為にかなりの支持率を得たわけである。そして全国男子諸君が千差万別である故、妄想も千差万別。その千差万別のニーズに応える為に描かれている漫画である以上、ストーリーのネタはそれこそ数限りない。これまたこの漫画の長期連載を可能にした理由である。

この漫画に対して大抵の男子諸君は「読むとムカツクけど、でも何故か読んでしまう」といったアンビバレンツな反応であろう。これは到底現実には有り得ないシチュエーションに「こんなん有り得るか!」といった漫画のストーリーとしての稚拙さに対する侮蔑を感じつつも、何処かでリビドーである妄想欲求をくすぐられてしまう自分がいる。憤りを感じつつもこの漫画に目を通してしまう理由がここにある。また、成人男性用の漫画ではない為、情事の直接描写はほとんどない。ここがまた絶妙なポイントで、ストーリーの基盤があくまで妄想であるが故に読後の妄想達成感に対する配慮が必要なわけである。この妄想達成感とは微妙なもので情事までいきついてしまうような100%最後まで完結されたストーリーを提供されてしまえば読者が妄想する余地がなくなってしまう。それでは妄想愛好家である全国の男子諸君は不完全燃焼だ。妄想とはプラモデルと同様作り出す過程もまた一興なのだ。否、作り出す過程にこそ妄想の最大の醍醐味があるといっても過言ではない。だから読後にも各々の男子諸君が自分なりの味付けで自分なりの妄想を達成させる余韻がなくてはダメなのでり、その為には情事などの直接描写は全く持って邪魔な存在でしかない。読み手の男子諸君が抱いているぼんやりとした妄想欲求に対してこの漫画がある程度の骨格を与えてくれる。「こんなシチュエーションはどうだい?男子諸君」とばかりに。それに応えて男子諸君が各々の脳髄で自分好みの「+α」を加え妄想が完成し各々妄想達成感を得るのである。

誤解のないように言っておくがこの「+α」は作品中で描かれなかった情事に対する妄想では決してない。妄想とは自分好みの世界を創造(想像)し、その中に浸りきりほんわかとした幸せを感じる為の手段であって、決して己の性的欲求を満足させる為の手段ではない。あくまでほんわかとした幸せ気分に浸る為の仮想現実空間を作り出す作業が妄想である。このほんわか幸せ気分というのが大事なポイント。「いいなぁ」としみじみ感じられ、心地よい脱力感、これがほんわか幸せ気分である。作品中の細かな設定を自分なりの味付けや、自分の近況・環境にあったシチュエーションに手直ししたりする事や、時には登場人物を具体的身近な人物に置き換える事もあるやもしれん。それは妄想をする側で千差万別であろう。情事のシーンが描かれると、読後の情緒・余韻に欠けこういった妄想を完成させる気力が萎えてしまうというだけの話である。

さて、妄想論はさておき拙者が妄想癖に留意しだしたのはやはり思春期ではなかったか。中学生くらいになると交際を始める男女がまわりにちらほら現われ出す。最初はそういった男女に対して「不埒な軟弱者」呼ばわりしていたが自分にガールフレンドといった存在ができると「我は一歩先をいく大人」のような尊大な気分になれたものだ。そういった女性と何処へか散策にでかける機会があると前日の夜はベットに入った後、拙者の脳髄の中で「明日の婦女子との公園散策に対する作戦会議」が開かれる。脳髄の中の本陣にて何人もの拙者が現れ軍議をしている。天使の自分と悪魔の自分が現れるコントで御馴染みの光景である。実際の戦闘と同じく当日起こり得るであろうと思われる状況を幾つかあげてその場合に拙者が取るべき行動を決定すべく作戦を練る。具体的には、もし待ち合わせに遅れてしまった場合には何と言うべきか。素直に「ごめん、待った?」と言うべきか、それとも多少也ともキザに「俺はいつでも女を待たせる男だぜ」と言っていきなり彼女の心ノ臓を射抜くべきか、彼女が「腕組んでもいい?」と甘えてきたらどう行動するべきか、などと。しかし起こり得るであろうと考えられるありとあらゆる全ての事態を想定する事は甚だ不可能に近い。だからある程度の事は「起こり得る事」ではなく「起こる事」として作戦を練るのだが、これがいつの間にか段々と妄想になっていく。彼女の「腕組んでもいい?」と甘えてくる行動は「起こり得る事」などではなく「起こる事」「起こるべき事」「いや、絶対起こるはずだ」として認定されていく。そうなると魅惑の妄想世界へと猪突猛進。

彼女「ねぇ、腕組んでもいいかなぁ・・・」(恥じらいながら) 
拙者「あぁ」腕をそっと差し出す
気が付くと雪がちらほら舞ってきている
彼女「寒いね」顔を拙者の身体に押し付ける

こんな感じでストーリーができていき最後には「こいつぅ」と人差し指で拙者の額を軽く突付く彼女「馬鹿だなぁ、俺の可愛い子猫ちゃん」と優しく微笑む拙者、といったシチュエーションにまで行きつく。その時点でやっと「いかん、これは妄想だ!」と気が付き全然作戦が練れてないので、また作戦を練り出すもいつの間にか妄想、そしてほんわか幸せ気分のまま就寝。 思春期は妄想ネタがつきなかった。そんな中で前述の漫画に載せられていたネタを幾つか紹介致す。

其ノ壱「幼馴染ネタ」
主人公の男女2人は幼馴染。思春期に入り御互いに意識し出すがなかなか素直に言えない。この手のネタでは必ず周りに冷やかされて「な、何で○○なんかと・・・」「わ、わたしも○○なんか・・・」(この時2人は赤面)が御約束。また、セリフをどもる事も重要だ。何となく気まずくなるも最後はハッピーエンド。この場合は最後の告白シーンでも多少意地をはったコメントになる確率が高い。「べ、べつに私は○○の事嫌いじゃないよ・・・」「お、おれだって○○の事・・・」。また、この設定では互いの両親も仲が良いという設定が多く思春期の男女2人を残して二家族で旅行に行ってしまうといった親としてどうかと思うような状況や、そこまででなくとも男子を1人残して両親が旅行に行ってしまい、その留守を隣の幼馴染の女の子に託すといった設定もよくある。この場合は大抵女の子は積極的な性格だ。夕飯時になると「ちゃんと晩御飯食べた?」といって家にあがってくる。男子は当然食べてない、もしくはカップラーメン。「ダメじゃない、ちゃんと食べなきゃ」「うるせえなぁ・・・」といった御決まりの問答の後、女の子は調理を開始。調理の際にはいつの間にか持ってきていたひらひらレースのエプロン(しかもミニ)は必ず着用。男子は食事の際、頬に御飯粒を1つ付けておくのがポイント。女の子は「もぅ」と言いながら取ってくれる。この手の女の子はおもいっきりメチャメチャ男子を誘っているとしか思えない行動を取るのだが男子が誘いにのってちょいとでも行動を起こそうものなら、「えっ?」と途端に顔を赤らめて恥らう。この「幼馴染ネタ」はもうまさしく男子の妄想魂120%入魂といったかなり妄想度高い作品には欠かせない設定である。

西日差し込む校舎の教室
「もし、私が・・・私があなたの事好きだって言ったら驚く?」
「えっ?」
「な〜んてね・・・じゃあね」
教室を走り去る彼女

其ノ弐「お姉さんネタ」
高校生時代の年上の先輩なんてなかなかおいそれと手の届くものではない。ましてや大学生のお姉さんなどは雲の上の存在。そういったお姉さんに優しく恋愛の手解きをして頂きたい願望がある男子諸君も多々存在する事も否めない。そういった願望のある男子諸君の妄想欲求に応えるシチュエーションがこれ。この場合は大抵お姉さんが自分より年上の男の人と歩いている所を目撃してしまい主人公の男子は萎縮する。「やっぱり・・・俺なんか・・・」このセリフの出現度は高い。それを元に男子が無茶な行動に走りがち。部活を何日も休んだりとか。そういった男子に対して「こらっ、心配したんだぞ」と優しく接してくれるお姉さん。「こらっ、」と優しく怒るところと「心配したのよ」ではなくて「心配したんだぞ」といったあくまでも年齢差を意識した幼き子供に対するような言葉遣いがポイント。このシチュエーションの場合では拙者の好きな「こいつぅ」が遣われる可能性が高い。主人公の男子がちょいと大人びた事を言ようものなら「生意気言っちゃって」とコツン!。このコツン!も軽く拳を握り中指の第一関節あたりのちょうど裏拳にあたる位置で男子の額を軽く小突くのがポイント。また、登場回数はそんなには多くないもののたまにかなり肉欲的な魅力たっぷりのお姉さんが出現する事もある。が、前述した理論によりいきすぎた描写はない。この「お姉さんネタ」はどの男子の中にも少なからず存在するであろう年上のお姉さんへの憧憬を描いておりマチルダさんとアムロのシチュエーションでは舞台が戦場という設定もあり、なかなか現実世界への妄想のネタとは為り難く、有名な名セリフ「寝るのもパイロットの仕事よ」のセリフを大幅に拡大解釈する事によってしか妄想願望が満たされなかった男子諸君へ贈る作品である。

腰に両手をあてて可愛くかつ優しく怒る先輩
「こらっ、いつも心配かけるんだからぁ」
「す、すみません・・・」
「もう、やっぱり私がいつまでも傍にいてあげないとダメね」
「えっ?」
はにかみつつも優しいお姉さんを見つめ直す男子

其ノ参「ハプニングネタ」
ここで述べる「ハプニング」とはハイキングに来ていてハプニングで主人公男女2人が逸れるといったようなストーリーの中心ネタとして描かれるようなハプニングではなく、登場人物の状況を好転させるきっかけとしてよく使われるハプニング。いちばん多いネタは「転びネタ」。主人公男女が転んでしまい偶然にも男子が女の子の上に倒れ込んでしまう(その逆も有りえる)。行き詰まった状況を一気に打開させる力をもつ強力なハプニングでもあり、残りページが少なくなっているのに中々進展しない2人の中を急転直下させるのにも有効な手段でもある。下の方になった人間は仰向けに寝る形で一気に転ぶのであるから背中を下地に痛打しておるだろうし、後頭部を痛打している可能性も多いにある。しかしこのような状況で激痛に耐えているような描写はない。2人とも赤面し言葉に詰まる。そこで2人は「あっ・・・」もしくは「えっ?」。ちなみにこの「えっ?」はポイント。実はこの「えっ?」はどのようなシチュエーションにも頻繁に登場する。予想外の相手の言動にちょいと当惑し、思わず洩れる「えっ?」。この場合、この「えっ?」の後の余韻が大事なのである。偶然に手が触れ合って「えっ?」、そして時が一瞬止まる瞬間、漂う余韻。「え?」の発言者が女の子の場合、恥じらいながら漂わせる余韻こそが毎回の作品の白眉であり、男子諸君の妄想の魂が注ぎ込まれている瞬間でもある。

さて、この倒れ込むという事件は些細なアクシデントのようであるが現実世界ではこのように都合良く倒れ込む可能性は皆無に等しい。が、実は何を隠そう拙者はこのようなハプニングの経験があるのだが、その時は拙者は下になり背中と後頭部を痛打し激痛この上なかった。詳しく話そう。皆で酒を飲み足取りがかなり怪しくなってきた頃足のもつれた友人を支えようとしてそのまま倒れ込んでしまったのである。言い忘れたが友人の性別は「雄」。そして倒れ込み拙者は背中と後頭部を痛打。友人は拙者が倒れる際に右足を曲げた為みぞおちに膝蹴りをくらってしまった。そしてその直後上位の友人は酔いと膝蹴りの所為により嘔吐の兆候を見せ始めた。慌てて彼を払いのけて立ち上がる拙者、その横で腹部を押さえ嘔吐する友人。かなり阿鼻叫喚な状況であった。漫画に忠実であれば「あっ・・・」の短い喘ぎの後言葉を無くし赤面する男女2人のはずが、「ごふっ!」と短い呻きをあげ激痛のあまり言葉を無くし激しく見詰め合う「雄」2人。しかもその直後に上位の「雄」は嘔吐の兆候。目の前10cmにある顔が嘔吐の兆候をしめした時の恐ろしさは半端じゃない。マジマジで身の毛もよだつ瞬間である。ジオングかと思った。

倒れ込む2人
「あっ・・・」
「ご、ごめん」
慌ててどけようとする男子に対して
「い、いいの・・・もう少し、このまま・・・」
恥じらいながらも手を男子の両肩に手をかける女の子

世の男性諸君はこれを読んで清々しい感動と懐かしい切なさと共に思うはずである。「僕等はあの頃、皆妄想少年であった・・・」と。

(注1)きっぱりはっきり断っておくが拙者は上記の漫画は全然好きではない。むしろ一部で流行っている恋愛シュミレーションなどの美少女ゲームに対してと同じくこの漫画にもかなり強いアレルギーがある。ただこの漫画で扱われていたシチュエーションが全妄想愛好家には普遍的なシチュエーションだという事を述べたいまでであるので悪しからず。

(注2)これを読まれた読者の方(特に女性)。拙者サムライは決して部屋に引き篭ってアイドルグッズや、美少女アニメグッズを並べて満悦しているような、日々妄想に明け暮れモンモンとしているような非常に危険な雰囲気の漂う人間ではありません。その辺はぜひわかって下さい。既に拙者を知っている方々(特に女性)友達やめないで下さい。

(2001/4/25 Written by SAMURAI)

このスカート丈、妄想度激高し!