第九回:サムライ憑かれる

高校2年の夏の事である。何年かぶりに母方の田舎(鳥取)に2週間ほどゆっくりするつもりで遊びに行った。が、いざ行ってみると何もする事がないというのは、けっこうこれはこれで退屈なので、4つほど年上の従兄弟の紹介で鳥取砂丘でバイトをする事にした。土産物屋でのバイトである。時給は決してよくはないのだが、昼飯はでるし、毎日砂丘まで自転車で通うので運動不足の解消にもなり、けっこう満足しながら毎日家と砂丘を自転車で往復していた。

ある日のこと、いつものように砂丘へと自転車で向っていると、途中の交差点の角で電信柱に線香と花を供えている2人の夫婦らしき男女がいた。2人は沈痛な面持ちで黙って立っていた。たぶん知り合いがここで亡くなったのだろう。かわいそうにといくばくかの同情を覚えつつ、その横を自転車で通りすぎようとしたその時、反対側にある八百屋のオヤジが手に持っていた野菜を自転車の前にこぼした。それを避けようとして、よろよろと2人の男女にぶつかってしまったのだ。慌てて謝った。

「す、すいません、大丈夫でしたか?」

2人は怒ることなく優しく許してくれた。許してもらうことができたので安心してバイトに行こうとすると2人が話しかけてきた。

「私達にもあなたぐらいの子供がいましてね・・・」

別に身の上話を聞くつもりなど全くなかったのだが話題が話題なだけに無視はしづらい、それに先ほど自転車でぶつかってしまったのだ。半ば諦めて2人の話を聞けば、やはり2人は夫婦でつい一週間ほど前ここの交差点で娘を事故で亡くしたとのこと、その娘が自分と同じくらいの年齢だということ。神妙な面持ちで2人の話を聞いていると、突然2人が

「これも何かの縁です、どうか娘のために線香をあげてやってくれないでしょうか?」

と言い出した。見ず知らずの人に線香をあげるなんて冗談ではない!と思ったが2人を見るとぽろぽろ泣いている。とても断れる雰囲気ではない。それにバイトの時間も差し迫ってきていた。その場を早くきりぬけたい一心で線香をあげ、手をあわせた。

その日のバイトが終わり、家に帰ってくるとみんな寝ていた。別に珍しいことではなく、バイトから帰ってくると大概、祖父母、母親、妹は寝ているのだ。自分も疲れていたので早々に寝た。翌日、目が覚めると妹がなにやら騒いでいる。聞けば昨夜、家に泥棒が入ったとの事。夜中目が覚めたら廊下をうろうろとする人影が見えたらしい。さっそく家族で何か盗まれているものがないか調べたがこれといって何も盗まれたものはなく、家に誰かが侵入した形跡もないのだ。どうやら妹は寝ぼけたらしい、ということで一件落着、バイトに向った。

相変わらずのバイトの日々が続き、体に疲れがたまってきた。どうにも体がだるい。そんななか、今度は祖父母が泥棒を見たと言い出した。やはり夜中起きたところ廊下をうろうろとする人影を見たらしい。祖父いわく髪が長かったとの事。また家族で家の中を調べた所やはり、盗まれたものもないし、侵入した形跡もない。何か得体の知れない気味悪さを少し感じつつもバイトに向かう。バイトが終わり、家に帰ってきて、かなりの体のだるさに部屋につくなり倒れこむように寝入る

翌朝、母親に起こされた。母親は話があるという。何を言うかと思えば

「昨日の夜、家につれてきた女の子は誰?」

母親が何を言っているのか最初はよくわからなかった。何を言ってるんだ?、昨夜は1人で帰ってきたのに・・・、だが、自分が帰ってきた時は母親はまだ起きていたらしくその話によると、玄関を開ける音がしたので自分が帰ってきたのを知った。そしてその時、自分の後についてくる髪の長い女の子がたしかにいたというのだ。その女の子は自分に寄り添うように一緒に部屋に入っていった。それを見たので夜中に女の子を部屋にあげた事を注意しようとして自分を起こしたらしい。が、自分にはまったく身に憶えがないどころか、昨夜は1人で帰ってきたのはまぎれもなく事実である。だいたい、ここ鳥取に女の子の知り合いなどいない。母親の話を理解できぬまま非常に体が重かったのでそのまま昼寝をする。午後になりバイトを紹介してくれた従兄弟がやってきた。自分の顔を見るなりニヤニヤしながら

「昨日、自転車の後に載せてた女の子は誰だ?」

その日はバイトが休みだったので1日中寝ていたのだが全然疲れがとれない。とれないどころか立って歩くのが困難なくらい体が重かった。そして夜、寝ていると突然耳鳴りがして金縛りにあった。体がまったく動かず、目だけがきょろきょろと動く。目を動かして右側の壁を見ているとなにやら影が見える。最初は何の影だかわからなかったがだんだん形が整ってくるとそれが人影だということがわかった。人影はだんだん鮮明になっていき、やがて、はっきりとわかるようになっていく。女の子だ、髪の長い女の子だ。そして女の子は壁から浮かび上がってきた。女の子は目を動かしこっちをじっと見ている。そしてじりじりと近寄ってきて上に覆い被さってきた。女の子の体は波のようにゆらゆらと揺れている。手をのばしてきて自分の頬に触れる。驚くほどにひんやりとしている。女の子は顔を近づけてきて何かを言ったが聞き取れない。体が動かず、声もでない。そのまま意識が遠くなってしまった。

翌朝目を覚まし、話をすると祖母がある坊さんを紹介してくれた。体が重く歩くのさえ困難だったのでタクシーで寺に行き、その坊さんに会いに行った。坊さんは自分の顔を見るなり、顔を強張らせた。坊さんにはどうやらはっきりと女の子が見えているらしい。聞けばやはり、あの事故で亡くなった女の子。同情をした自分にすがっているとのこと。坊さんいわくこのままでは冗談抜きに命が危ないと言う。すぐさまお払いをすることになった。お払いをしてもらうとみるみるうちに体が軽くなった。

その後東京に帰ったきた後もしばらくの間、夜が恐くて眠れずに医者に行き睡眠薬をもらう生活が続いたのでした。

(99/07/25 written by SAMURAI)