子供の頃,いったい幾つの頃からだったのだろう。夜に見る夢よりも,昼間に見る夢が,楽しかったのは。その夢の中の私は,現実の私は,臆病で,友達と外で賑やかに騒ぐこともなく,運動も下手で,徒競走はいつも後ろから一番。ドッジボールをすれば,逃げるのが精一杯。運動は何をやっても駄目。歌を歌えば音がはずれ,良いとこなし。唯一,ちょびっと他の子より勉強ができただけ。でも子供の世界ではそんなことは通用しない。面白い子
や,運動ができる子,積極的に他の子と遊べる子がクラスの人気者。私の存在など,ないも同然。存在が認識されるのは,班で行動する時。班長を決める。その時だけは誰もが,私が良いという。要は,真面目で頼んでおけば安心ということらしい。小学校時代,班長にならなかったのは1度だけ。決める時に病気で休んだから。強制的に組まされる班は,私が良いと言ったらしいが,欠席してる人を決めてはいけないと先生に言われたらしい。後で,聞いた話。
 そんな私が主人公になれるのが,昼間の夢の中,その中では私は,お姫様にもなれたし,魔法使いにもなれた。ひとり誰も見ていないところで,自分だけの世界を作って楽しんだ。何もない天井が,星空になったり,空想の世界は,私だけの世界だった。
 小学生も高学年になってくると,私の白昼夢は,頭の中だけの空想へと変わっていった.
でもいじめを受けていた時に,私がどんな空想をしていたか?私は覚えていない。その時の私は,空想の世界に逃げなかったのだろうか。
 でも夢の中の私は,スーパーマンだった。運動神経0の私が,現実では足元もおぼつかないスケート靴をはいて,華麗にスケートを披露する。それをびっくりして見つめる同級生たち。
 この白昼夢を書こうと思った時,私だけの世界での出来事が,どんどん回想できると,思っていた。でもこうして書いてみると,その世界での事は,あまりよく覚えてないことに,気がついた。ただその中では,できないことはなかったのだけはなかったのは,覚えている。素敵な世界。私が描いたように構成されていく世界。私だけの物だった。
 でもこの世界に入るには条件があった。一人の時で,学校から家までの途中,家から学校まで,あるいは家から職場までという時間制限があったこと。他の時間には,その世界には入っていけなった。
 高校の時の帰り道,いつもは電車通学だったが,わざと歩いて帰った。まだ未来は,未知数で,空想は留まるところを知らなかった。目立たない地味な私が,颯爽と変身して美しく変身して,同級生たちの前に現れる。仕事で成功してビッグマネーを手に入れる。何ヶ国語も話せて,世界を飛び回る。空想って素敵だった。
 大学時代も,1人歩いていると空想の中にいた。時には,危険なシーンで危機一髪,走る時があると,つい走ってしまったりして,いきなり何もないのに走る私は,他人には,おかしく思えたかもしれない。
 就職も決まらず地元でアルバイトをしていた時も,空想は止むことはなかった。素敵な夫との幸せな生活。でもその中に自分の子供を描くことはなかった。
 それから誕生日を重ねるごとに,私の白昼夢は段々しぼんでいった。未来が未知数でなくなってきたから。変わらない毎日。同級生たちは,それぞれの道を歩み,同窓会にも行かない私は,人づてにそれぞれ,海外で仕事をしているとか,結婚して子供がいるとか,そんな話を聞くようになった。
 そして,気がついたら私はもう,その世界に入ることはできなくなっていた。どんなに思い描こうとしても,その世界の扉は,もう私の前で開くことはなかった。 
 私のもう1つの世界は封印されてしまった。
白昼夢
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