00.06.04
モロッコ 第3回ハッサン2世国王杯一回戦
日本代表 2−0 フランス代表
2PK4
格下相手に多くの国際試合をこなしてきたが、強豪国との真剣勝負となると
なかなか機会がないトルシエA代表。
いきなり'98ワールドカップチャンピオンであるフランス代表とあたること
のできるハッサン2世カップはこれ以上ない強化試合となる。そして何よりも
フランスは欧州選手権を間近に控えており、仕上がりは順調だと思われるだけ
に、勝ち負けと同時に試合内容にも注目されよう。
フランスに対し、3人のバックラインがどの程度通用するか。スピードのあ
るフランスFW陣に対し柔軟に対応できるか。
中盤はどのような形で攻撃を組み立てられるか。守備から攻撃へと移行する
際の形。サイドにボールが出たときの中央、逆サイドの動き。
そしてトップにどのような選手を起用するか。それによって攻撃の形もかわ
ってくる。
対するフランスのロジェ・ルメール監督は、日本に対し「ベストメンバーで
臨む」とトルシエに約束したというが、明らかに格下の日本に対しどのような
布陣で臨んでくるか。言葉どおりフルレギュラーを組んでくるとは考えにくい。
【フランス】
バルテズ
デサイー ブラン
リザラズ テュラム
デシャン プティ
ジダン
ピレス ヴィルトール
トレゼゲ
――――――――――――――――
【日本】
西 澤
森 島
中田英
中村俊 伊 東
名 波 稲 本
大 岩 松 田 森 岡
楢 崎
【日本】 【フランス】
―得点―
34 森島HS(←稲本)
61 ジダンLS(←プティ)
67 西澤RS(←三浦淳)
75 ジョルカエフRS(←アネルカ)
―交代―
46 デュガリー(←ヴィルトール)
46 ジョルカエフ(←ピレス)
46 ビエイラ(←デシャン)
67 ルブフ(←デサイー)
67 三浦淳(←中村俊)
74 アネルカ(←トレゼゲ)
89 アンリ(←ジダン)
89 柳沢(←西澤)
―PK―
楢崎 GK バルテズ
2 4
中田英○ ○ジョルカエフ
三浦淳○ ○アネルカ
稲本× ○アンリ
名波× ○ルブフ
予想に反し、フランスはフルレギュラーで臨んできた。'98優勝メンバーの
顔ぶれがずらりと並ぶ守備陣から日本は得点できるのか。予想するなら良くて
1点どまりといったところか。
対して日本の布陣は、代表の正ゴールキーパーの座をほぼ手に入れた楢崎、
スリーバックは左から大岩、松田、森岡をフラットにならべた守備陣。
中盤には、左にパサーの中村俊輔、右に本来はボランチのテル(伊東輝悦)
をサイドに据え、中央は名波とイナ(稲本)を底に配置し前にヒデ(中田英寿)。
2トップはモリシ(森島)、西澤のセレッソ絶好調コンビだが、どちらかと
いえば西澤を1トップ気味にし、モリシは彼を衛星のように臨機応変にサポー
トする役割だと思われる。
さて、キックオフ。
「シャンパン・フットボール」と形容されるフランスの細かく速いパス回し
からいきなりトレゼゲにゴールを脅かされるが楢崎の正面。
日本は全体に引き気味、守備的にゲームに臨む。サイドの俊輔、テルはまる
でサイドバックのように深くまでピレス、テュラム、リザラズといったフラン
スのサイドアタッカーをケアした。
日本はボールを奪うとトップに張る西澤に当てたいところだがチェックの早
いフランス守備陣がそれを容易にさせなく、ヒデに預けることとなる。
中盤の深い位置でボールを得たヒデは速攻を仕掛けることをせず、守備に回
っていたMFの上がりを促すバックパスで「遅攻」を組み立て、上がった俊輔、
名波やテル、イナで細かなパスをまわすといった厚みある攻撃を意識した。
名波は中盤の底としてフランスにプレスをかけ続け、攻撃に転じるとボール
キープのヒデに代わり積極的に中央に顔を出し、比較的プレッシャーの弱い状
態で俊輔にプレーさせるエリアを左サイドに作った。
フラット3の制空力は安定し、サイドから上げられるセンタリングや、ジダ
ン、プティのコーナーキックもヘッドで弾き返す。カバーリングも徹底されて
いた。
しかし、フランスが押し気味に試合を進め、日本がようやく攻撃のリズムを
つかむまで前半の30分を我慢しなければならなかった。
29分、ヒデがボールをキープ。テルを経由し右からオーバーラップしてきた
森岡にボールをまわす。森岡はそのままタテに右サイドへ流れてきた西澤にボ
ールを預けた。
西澤がアーリークロスを中央へ送ると、飛び出してきたヒデがダイビングヘ
ッドで合わせたがとらえきれずゴール上へ。
しかしこのプレーで日本のスタイルが見えてきた。
トップの西澤が左右に動いて空いたスペースをヒデやモリシが突く形が。
その直後、先制点が生まれた。それも、日本にだ。
34分、テルとともに激しいプレスを仕掛け、高い位置でボールをカットした
イナが右足で繰り出したスルーパスにモリシが反応。前を向いてシュートを放った。
フランスGKファビアン・バルテズが体を投げ出しカットするが、はね返っ
たボールに動物的な反応でモリシが再び飛びつき、ヘッドで無人のゴールにね
じ込んだ。
1−0。フランスにとって「まさかの」ビハインド。日本にとってはこれ以
上ないシチュエーションだ。これでフランスはマジになる。
さらに日本のペースは続く。37分には俊輔、ヒデ、俊輔と左サイドでつない
だボールをやわらかいパスで前線に。西澤が胸トラップから振り向きざまに
ボレーシュート。おしくもキーパーの正面を突いた。
そして日本が1点勝ち越したまま前半を終えた。このような展開を誰が予想
しただろう。
後半になってフランスはジョルカエフとデュガリーを投入、デュガリー、
トレゼゲの2トップで攻撃力をアップさせると日本のフラット3に隙が生まれた。
フランスFW陣がポジションをつるべのように上下させ日本のDFラインの
統制を崩し、飛び出したジョルカエフがシュートを放つが、これはポストに当
たった。
そして日本ディフェンスの一番の課題、「2列目からの飛び出し」によって
フランスに同点に追いつかれる。
それは後半16分、プティのロングパスから生まれた。松田はオフサイドを
とりにいきラインを上げたが、ジダンの飛び出しをとらえきれない。
あわてて前へ出たGK楢崎の鼻先でボールを浮かし頭上からかわすと、追い
すがる森岡よりも早くジダンの左足アウトサイドはボールをとらえ、ボールは
日本ゴールにふわりと吸い込まれた。
芸術的ともいえるゴールはフラット3のリスクの高さを浮き彫りにした。
しかしまだ、1−1。ジダンに笑顔はなかった。
トルシエが動いた。22分に俊輔に代えてアツ(三浦淳宏)を投入。
今日の俊輔は名波とのコンビも合っていていい動きを見せていたが、要所要
所でキックの精度を欠き(これは右のテルにも言えたことだが)、対面するフ
ランスの右サイドバック、リリアン・テュラムのパワーに圧倒されるケースが
多く見られた。
失点は俊輔がテュラムに引き倒され、奪われたボールがプティに渡ったこと
で生まれた。少なくとも俊輔よりもアツのほうがフィジカルに長け守備力も高
いだろう。この交代は正解とみていい。
そのテュラムは右から積極的な攻め上がりを見せていたが、その裏にあいた
スペースをアツのスピードあるドリブルで突く作戦のようだ。
そのアツがいきなり仕事をする。
左サイドでパスを受けたアツはジダンとテュラムのプレスにじりじり後退し
ながらも、目は遠いサイドで手を上げる西澤の動きを捉えていた。左サイドに
フランスの守備陣を寄せ付けきったところで右足でファーサイドにクロスを上
げる。
勢いよく体を投げこみながら西澤は右足を振りぬいた。アツのキープにより
左サイドにおびき寄せられたフランス守備陣にはどうしようもない。
唯一逆サイドに残っていたリザラズには、西澤の強烈なダイビングボレー
シュートによってゴールに突き刺さっていくボールを見送ることしか出来な
かった。
後半22分、再びリードを奪われたフランスにあせりがありありと見てとれる
ようになった。前線に張りつくポストプレイヤータイプのトレゼゲに代え、
スピードのあるアネルカを投入。デュガリー、ジョルカエフとともに3トップ
気味に前線に厚みを持たせた。
しかし、パサーのジダン、プティがパスの出しどころにこまるくらい日本の
プレスは徹底していた。
それでも、フランスは同点に追いつくことに成功する。
フラット3は明らかに疲労していた。再三積極的な攻め上がりを見せてきた
松田。自らの体を張って1対1を止めてきた森岡と大岩。さらに密度の濃くなっ
たフランスオフェンス陣のプレスやボールの奪い合いに振り回されてきたテル
とイナ。
一瞬の隙を突かれる。
ジダンから出たスルーパスに反応したアネルカのスピードに、明らかに3バッ
クはスピードで劣ってしまった。松田を突き飛ばしながら飛び出しパスを受け
たアネルカは左サイドの森岡を振りきり中央へ強いライナーのパスを送る。
アネルカの、見ようによってはシュートミスのような速いボールと、そこに
飛び込んできたジョルカエフをケアするだけの余裕は、無念にも大岩と松田に
はなかった。ジョルカエフによるゴールでまた同点に。
さらにジダンを下げFWアンリを投入し「放り込み作戦」を図るフランス。
日本も運動量の落ちた西澤に代えて柳沢を投入。
ロスタイムにアネルカの単独突破からシュートまで持っていかれるが幸運に
もシュートはバーを越えた。
両チームともゴールを割ることはできず、90分を戦い終え延長なしのPK戦
に勝敗をゆだねることとなった。
イナ、名波が枠を叩いた日本に対し全員がPKを決めたフランスが決勝へ進
出したが、彼らの顔に笑顔はなかった。
後半残り20分に2−1としたところで、日本は何としても勝たねばならな
かったように思う。
しかし内容的にみるとトルシエ、選手がガチガチに守ることをしなかった結
果のPK負けだった。再び1点勝ち越してからも、日本代表は点を狙いつづけ
た。ミドルレンジからイナ、ヒデ、名波は積極的にシュートを放ち、モリシ、
西澤の2トップはフランス守備陣をかき回しつづけた。
負けはしたが内容的にカウンター一本やりにならずきちんと攻撃を組み立て
ながらの2得点に多くのファンが満足感をおぼえたのではないだろうか。1点
ならまぐれと言っても違和感ないが、2点では適さない。
振り返ると目立ったのがパスミスだ。
フランスの攻撃を断ち切ったあとの組み立てなおす意味でのバックパス。
その精度が悪く再びカットされる場面が多く見受けられた。
しかし攻撃陣にとって、ワールドカップ優勝メンバーをそっくりそのまま起
用したフランス守備陣から2点を挙げ、なおかつ後手後手に回らず優勢に試合
を支配した時間が少なからずあったことは、大きな自信になったのではないだ
ろうか。
「やってみなければわからない」ヒデは試合前に不敵にも言い放った。
そして試合はその言葉にそうものとなった。
トルシエ体制になって、いやそれ以前の数年のなかでもこれほど内容的にす
ばらしい試合を日本代表はしただろうか。
次は2年前のフランスで2−1で敗れたジャマイカとの3位決定戦。その後
にはスロバキア・ボリビアとキリンカップが控えている。
このフランス戦を含む6月の4試合で、トルシエはアンチトルシエ派を黙ら
せるような上質なゲームを作り出すことができるだろうか。できるような気が
してきた。
その期待を充分に持たせてくれるような、そんな惜敗だったことは間違いない。
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