00.09.14
シドニーオリンピックサッカー・予選D組
日本 2−1 南アフリカ
さあ、緒戦だ。相手はナイジェリアと並びアフリカでも1,2の実力を誇る
南アフリカである。アフリカ勢の身体能力の高さ、特にスピードはアトランタ
でナイジェリアが金メダルという形で証明済みなだけに、一筋縄ではいかない
相手であることは間違いない。
【日本スタメン】3−5−2
柳 沢 高 原
中田英
中 村 酒 井
稲 本 明 神
中田浩 森 岡 中 澤
楢 崎
【日本】 【南ア】
―得点―
31 ノムベテ
高原 45
高原 79
―交代―
55 フレデリクス←マトンボ
本山←柳沢 78
88 ヌレンコ←ノムベテ
88 プーレ←バックリー
南アフリカでもっとも注意しなければならないのが、A代表でもバリバリス
タメンのFWマッカーシーとMFフォーチュンだろう。スピードのある突破を
武器にするマッカーシー、そして中盤から無尽蔵のスタミナを武器に走り回り、
スキあらば遠目からでも左足でパワフルなシュートを放ってくるフォーチュン。
この2人が有名だが、その他にもスピードでかき回す選手、パワーで押さえつ
ける選手がそろっていてもおかしくはない。
キックオフ後、すぐにグランド状態の悪さがうかがえた。走っている状態か
ら止まった瞬間、ロングキックを打った軸足。選手が転倒する場面が数多く見
られた。
開始から2分ほどで、日本はオフサイドとラップを2度成功させる。南アフ
リカの、かなりなりふりかまわず日本のディフェンスラインをとろうという姿
勢がうかがえる。
最初にチャンスをつくったのは日本だった。3分、中田が右サイドから前線
の柳沢へ浮き球を送る。それを柳沢がゴール中央へヘッドで落とした所に高原
が飛び込む。しかし高原のジャンピングボレーはヒットせずかすっただけにと
どまった。
そのあとマッカーシーが再三日本のゴールを陥れようとする。ミドルシュー
ト、ドリブル突破。非常に危険な選手である。
やや両チームとも動きが固いか。どちらにとってもこの試合は大切であるせ
いだろうか。それともオリンピック独自ののプレッシャーを感じているのであ
ろうか。
そして両チームのどから手が出るほど欲しいだろうと思われる先制点が前半
31分に入る。南アフリカにである。
マッカーシーが右サイドコーナーまでスピードあるドリブルでボールを持ち
込み、中央へ低いセンタリングをあげたとき、彼には3人もの日本の選手が寄っ
てしまっていた。もう一人のFW・ノムベテがうしろに倒れこみながらヘディ
ングシュートをはなったとき、彼をケアしていた日本のDFは中澤だけだった。
自分の頭上をふわりと越えようとするボールに、ゴールキーパーの楢崎正剛は、
懸命に手を伸ばす。しかし無情にも、彼のキャッチンググローブに触れること
なく、ノムベテのヘディングシュートはやわらかい軌道を描きゴールへと吸い
込まれていった。ノムベテよりもヘッドが強いだろうと思われる中澤は、しか
しノムベテのうしろにポジショニングをとっていた。彼の前に中澤が位置した
としたら、ボールとノムベテも動きが両方把握できなかっただろうし、このポ
ジションの不利はいたしかたなかった。いかにマッカーシーを警戒するとほか
の南アフリカの選手がフリーになるか、という危険性を痛感した。
0−1。
とらねばならない、そして絶対に与えてはならない先制点を、日本は与えて
しまった。しかし幸運なことに、時間はまだ残されている。なんとか前半のこ
り15分で同点にしたいところだ。
そして前半ロスタイム。日本は同点に追いつくことに成功する。
高原はこの日、貪欲にゴールを狙った。
高原という選手は、ジュビロでコンビを組むゴン中山の、ゴールへのポジショ
ニング、ゴールへの姿勢、ゴールへの執着心を受け継いでいる。
悪く言えばむやみやたらに、良く言えばがむしゃらに、ボールを持ったら
シュートまで持ち込む。そんなプレーヤーだ。
今日の相方・柳沢が他の選手を生かすために自分がオトリになってチャンス
をつくるタイプであるのに対し、高原は自分の近くにボールがきたならば、角
度があろうがなかろうが、距離があろうがなかろうが、マークがついていよう
がいまいが、体勢が整っていようがいまいが、とにかくシュートを打ちにいく
プレイヤーだ。もし打ったシュートがヒットしなくても。もし大きく枠をはず
しても。もし近くにフリーの選手がいて、そっちへパスするほうがゴールの確
立が高かったとしても。とりあえず、オレは打つ――文句は言わさん。そんな
プレーヤーだ。ゴールが見えれば、たとえ相手DFがクリアーするため蹴ろう
としているボールにも、平気で頭から飛び込んでいく、そんなプレーヤーだ。
言わば、野性味あるゴールハンターである。
日本得意のセットプレー。左斜めの、直接狙うにはすこし距離があると思わ
れる位置で得たフリーキック。
中村俊輔の左足から放たれたロビングボールは、軽くカーブし落ちながら、
ゴールキーパーの2メートルほど前――出るに出られないポイントを、恐ろし
いまでの正確さで襲った。左足のキックによるカーブで、やや角度を得たボー
ルは、ポストに入ろうと懸命にジャンプした稲本の頭上を抜け、その後ろに飛
び込んだ高原の坊主頭に捕らえられた。
ひねりながらのヘディングシュートは、ゴールキーパーが飛びつくこともで
きずただ枠をはずれることだけを祈ったであろう、その願いを裏切るかのよう
に、ゴールをとらえた。同点。
日本はなんとか同点で後半を迎えることが出来た。
後半開始早々、先ほど先制点をヘッドで決めたノムベテが日本のペナルティ
エリア内でフリーになる。しかし、その突破をスライディングタックルで阻止
したのは、左サイドから懸命に戻った中村俊輔だった。そのあと、もう一度同
じようなノムベテの突破をスライディングで止めたのも、俊輔だった。すでに、
左サイドバックと化した俊輔に、高い位置でのゲームメイクは望めなくなって
いた。ヒデがトップ下で孤立しはじめる。
後半10分を過ぎると、両チームとも決定的なチャンスを数多くつくるよう
になる。日本のパス回しが通るようになったことと、南アフリカのほうも細か
いパスを多用するようになってきたためだ。
しかし、日本の3バックは落ち着いていた。的確なポジショニングをとる。
ドリブルを仕掛けてくる相手に対してはムリせず抜かせないことを重点に置く。
中澤のヘッドクリアも力強かった。
そして、トルシエが動いた。
すでに交代カードを一枚切っている南アフリカに対し、沈黙を保っていた日
本ベンチが、後半34分、左サイドのドリブラー・本山を柳沢に代えて投入。
壮行試合で好結果を残した、ワントップでヒデを1.5列目に据えるフォー
メーションに変更するための交代だ。
そのポジション変更を南アフリカがつかむ間もなく、またもあの男が彼らの
ゴールを陥れることに成功した。
その瞬間、高原はフリーでキーパーと1対1となっていた。
最終ラインと中盤とのスペースが大きく開いた南アフリカ陣をヒデが力強い
ドリブルで切り裂く。あわててDFが彼のチェックに向かおうとしたとき、
もうキラーパスは放たれたあとだった。
やや中央から左コーナー方面へドリブルしたヒデから、タテに送られたラス
トパスは、南アフリカペナルティエリア内のスペースに向かって転がった。飛
び込むゴールキーパーよりも早く、二人のマーカーのあいだからするりと抜け
出た高原の右足がそれを捉えた。
あくなき得点への執着心を持つ男によって、日本の逆転をつげるゴールは無
人のゴールへ流し込まれたのだった。
しかしどうやら本山は左サイドではなく、俊輔とともに左のエリアで自由に
動いているらしい。しかし、これが中央でマークの薄くなったヒデともども有
効となった。
2−1。のこり10分。守りを固めてもよい時間だったが、日本は攻撃の手を
休めない。
本山が、高原が、稲本が、ヒデが、立て続けにゴールを襲う。ボールを奪わ
れても、ファウル覚悟で南アフリカのカウンターを止めた。
そして、4分と長くとられたロスタイムも5分を過ぎたころ、日本の勝ち点
3を告げる長い試合終了のホイッスルがフィールドに鳴り響いた。
日本は、予選突破へ大きく前進するための大切な緒戦を、苦しみながらも勝
ち取ったのだった。