「ふふふ…マミリンダー!久しぶりだな!」
「その声は…悪のリスナー軍団の親玉、ニセかじわらっ!」
「今日こそは貴様を倒し、ふんどし姿で名古屋市公会堂のクリスマスイベントに出てもらうぜ!」
「そんな恥ずかしいことするもんですかッ!」
「いでよ!手下どもっ」
「イイーッ!」
「まずはアイツをスマキにして名古屋城のシャチホコにしてやれー」
「しゃっちーほこほこ♪」
「来いッ!へなちょこどもっ!」

街の一角では、今日も自称ラジオ界の平和を守る正義の戦士マミリンダーと『マミのラジかるコミュニケーション』を下ネタと放送禁止用語の愉快な番組にしようと企む悪の外道リスナー軍団が愉快…もとい、壮絶な戦いを繰り広げようとしています。

そして…
その黒タイツの手下の一人を見たとき、由利華は呼吸が止まったような気がしました。

 

2004年「mamiのRADIかるコミュニケーション」クリスマスドラマ応募作
 
   「あの人がくれたクリスマスプレゼント」


(見つけた…やっと見つけたわ!)


今にも泣きそうな顔になると由利華は、うりゃあとかいう掛け声とともに始まった電波の戦士と悪の軍団の大騒ぎの中に飛び込んでいきました。

「あっ、こら一般人は入ってきたら危ないよ!マミちゃんは怒ると見境ないんだから」
「こらーっ!見境ないってどういう意味よっ!」

掛け合い漫才のようなマミリンダー達のやり取りなど眼もくれず、由利華は黒タイツ軍団の中の一人のリスナーにすがりつきました。

「すみません、アナタは…アナタはナオズミくんでしょ?」
「え…僕!?」
「会いたかった…ずっと探していたの…」

悪の手下はびっくりしたように抱きついた少女を見つめました。
黒い瞳がキラキラ光っています。

「ぼっ僕は…ナオズミじゃない、ただのナオだよ」
「そんな…」
「この間、うちのボスから時給300円で雇われたアルバイト戦闘員なんだ。だから人違いじゃないかな」
「………」

由利華は、困ったような顔の下っ端戦闘員をじっと見上げました。
その人も由利華の探している「彼」と同じ、ちょっとハンサムな顔だちでした。
だけど、どこでもいるような青年です。
ただ、あの温かくて優しげな眼差しがどことなく彼と似ていたのでした。

「人違い、ですか…ごめんなさい…」

いつの間にか戦いは中断になっていて、不思議そうな顔をした悪の軍団と心配そうなマミリンダーがしゅんとなった由利華と戦闘員を取り囲んでいました。

「誰かリスナーさんを探しているの?」

取り合えず正義の味方を中断した小森まなみが尋ねかけました。

「はい、ナオズミくんっていう、こんな悪の戦闘員さん…ううん、とても優しい人でした。会いたいんです、私…」

「ウチの戦闘員…、っていうかリスナーはいろんな人がいるからねぇ。リスナーになる人もいっぱいいるけど、引退したり、卒業したりする人もいるし、中にはリスナーやめちゃった人もいるからなぁ。」

気の毒そうに、悪の親玉が言いました。

「それにニセ梶原くんのところみたいな悪の組織、じゃなかった、リスナーさんのサークルも全国にいっぱいあるのよ。」

まなみが付け加えました。

「そうですか…すみませんでした」
「ねぇ、良かったらその人、今度ラジコミで探してあげようか?」
「いえ…いいです。ありがとうございました…」

頭を下げて、しょんぼりと去ってゆく由利華を目で送りながら、小森まなみとニセかじわらは顔を見合わせました。

(あんなに会いたいのには、何か訳があるんだろうか…)

-----それから一ヶ月。

名古屋市公会堂のイベントを前に、街のあちこちで連日「マミリンッキーック!」「イイーーッ」と死闘を繰り広げるマミリンダーと悪のダークリスナー軍団を遠くからじっと見守る由利華の姿がありました。
そして、マミリンダーもリスナー達もそんな少女の姿を見るたび、何だか悪いことをしたような気持ちになり、戦いに気分が乗らないのでした。(もっとも、悪のリスナー軍団はラジコミのクリスマスイベントで小森まなみにふんどしをさせることを企んでいたので、一応悪いことをしているのですが…)
由利華は、毎回、自分が人違いをした下っ端戦闘員のナオがマミリンダーに「イイーーッ」とやられて情けない格好で逃げてゆく様子をじっと見つめると、冬の街に帰ってゆきます。

それだけでも由利華の心はほのぼのと暖かく、しあわせな思いに充たされるのでした。




あれはちょうど1年前の12月24日、クリスマスイブの日でした。

その日、由利華は街はずれの橋のたもとでボンヤリと川の流れを眺めていました。
声優を目指す由利華は先週20回目のオーディションを受け、今日になって20回目の不合格通知をもらったのでした。
声優になりたい、そんな夢を持った18歳の由利華は親の大反対を押し切って、その年の春、たった一人で田舎から上京してきたのです。
だけど、同じように声優を夢見る女の子は沢山いました。
そして、声優のオーディションには何十人、何百人もの応募者がいて、受かるのはたった1人か2人。
それでも、由利華はくじけることなくレッスンに励み、アルバイトで生活しながら毎回一生懸命頑張ったのですが、いつも結果は不合格ばかり…。声優学校の同期で友達になった女の子たちも、いつか一人抜け、二人抜け…と夢をあきらめ、気がつくと由利華は上京した時と同じ1人ぼっちになってしまっていました。

「もう、あきらめようかな…」

夢がなかなかかなわないのも本当に辛いのだけど、心細いときに慰めたり励ましてくれる友達が誰もいないのが寂しくて、由利華の心に冷たい木枯らしが吹き抜けていきました。
どこか遠くからジングルベルのメロディーが聴こえてきます。
彼氏も友達もいない、一人ぼっちのクリスマス…
由利華の眼に思わず涙が浮かびました。

そのとき、どこからかバシャバシャという水音と、ニャーニャーという猫の悲鳴が聞こえました。
慌てて、橋の欄干から下を覗き込んだ由利華の視界に、溺れかけて必死に水をかいている一匹の猫の姿が飛び込んできました。

「たったいへん!…で、でもどうしたら…」

おろおろとする由利華。しかし、彼女のそばを次の瞬間

「トゥッ!」

という掛け声とともに欄干を飛び越えた人がいたのです!

「あっ!」

バッシャーン! と勢いの良い水音と共に飛び込んだその人は、自分もあまり泳げないらしくアップアップと水中でサンバを踊りながら、それでも溺れかけた猫を自分の頭に乗せて何とか岸にまでたどり着きました。
川岸に命からがらたどり着いた彼の元に、由利華は慌てて駆けつけました。

「だっ大丈夫ですか?」

ずぶ濡れになったその人はブルブル震えながらピースサインをしました。
だけど、助かった猫は彼の頭から飛び降りるとニャーとも言わず、一目散にどこかに走って逃げていってしまいました。

「さ、寒い…イ、イイーッ!こんな真冬に寒中水泳大会をするとは思わなかった…」
「ま、待ってて下さい」

由利華はそういうと身体を翻して近くのコンビニに走りました。

「さあ、このタオルで身体を拭いてください。それからこれカイロ。それと、ホットコーヒーを買ってきたからこれを飲んであったまって下さい。」
「ありがとう…」

よく見ると青年は黒ずくめのタイツ姿、右手にバンダナ、というおかしな格好をしています。
まじまじと見る由利華と青年の眼が合いました。ふっと青年は微笑みます。由利華の寂しかった心に灯をともすようなやさしい微笑み。

「どうしたの?クリスマスだっていうのに泣いてたなんて。驚いて涙が出ちゃったの?」
「いえ、違うんです」

その時

「おおーい、ナオズミー!」

と呼びかける声がして黒ずくめの一団が土手を越えて2人の傍に駆け寄りました。
みんな黒タイツ。日曜日の朝に正義のヒーローと戦っている悪の組織そっくりです。

「ハァハァ、やっと逃げてこれたぜ」
「今日もみんなしてマミリンダーにやられてしまったか」
「くそー何であんなに強いんだ。今だにタマネギ食べられないくせにっ!」

もしかすると…いえ、もしかしなくてもこの人たち、悪の組織みたいです。
でも、みんな人なつこそうな顔をしていました。

「ところでナオズミ、その娘はどうしたんだ?」
「あ、さてはオレたちがマミリンダーと戦っている間にナンパしてやがったなっ!ボス・コレーダー様の真似なんかしやがって!」
「そんなことだからエロナオなんて言われるんだよ」
「イ、イイーーッ!ちっ違うよ!」

ナオズミと言われた下っ端戦闘員が慌てて叫ぶと、由利華が続けました。

「違うんです。この人、川で猫が溺れかけていたから飛び込んで助けてくれたんです」
「そして、この娘が凍え死にそうなオレを助けてくれたんだ」

ナオズミが付け加えると

「何だ、そうだったのか」
「それならそうと最初から言えばいいのに」
「最初って、みんなで言いたい放題言ってたくせに何言ってんだー!」

愉快な言い合いを聞いているうちにおかしくなって、由利華はクスクス笑い出してしまいました。

「よし、今年はこの娘と一緒にここでクリスマスパーティーするかぁ」

ボスらしい男の声に手下どもは嬉しそうに「イイーッ」と答えました。
やがて、焚き火がたかれ、ひっくり返したダンボールの上にケーキとろうそくが置かれました。
焚き火とろうそくが照らすみかん色の光が、今日も正義のヒーローに敗れ去った悪の一団と今日も声優になりそこなった女の子をあたたかく包みました。

「ナオズミさんたちは、そのマミリンダーにいつも負けちゃうんですか?」
「うん。でも、しょうがないよ。まさか悪の軍団が勝つわけにもいかないもの」

そういうと悪の下っ端戦闘員、ナオズミは笑いました。

「かわいそう…私が正義のヒーローだったら一度くらい負けてあげるのに」
「いいんだよ。でも君はやさしいね」

微笑むと、ナオズミは静かに言いました。

「そうかぁ。またオーディション落ちちゃったのか…。頑張ったのに残念だったね。辛かったろ?僕も…実は声優になるのが夢でね、北国からたった一人で出てきたんだよ。家族に嘘まで言ってね。」

由利華は驚いて炎を見つめるナオズミの横顔を見つめました。

「心細くてね。東京に向かう電車の中で涙がとまらなかった…でも」

ナオズミの眼は静かに澄んでいました。

「今はしがない下っ端戦闘員だけど…夢をいつかかなえたいんだ。声優になって、自分の声を聴いてくれる人を笑顔にしてあげたい…」

その声に隣の戦闘員や悪のボスがうなずきました。

「そうとも、オレ様にも夢があるんだ。マミリンダーにはかなわないけど、何度だって立ち向かってやる。マミちゃんにぎゃふんって言わせてやるんだ」
「君も一緒にがんばろうぜ」
「よし、この娘もオレたちの組織の一員にしてやろうぜ!」
「イイーーッ!」
「ありがとう…私も…私もがんばるわ」

悪の組織なのに…なんてあったかい人たちなのでしょう。
やがて由利華の腕時計がピピッと鳴って12時を知らせるとシュパッとシャンパンが抜かれ、メリークリスマスの声とクラッカーの弾ける音が重なります。
みんなにすすめられて由利華もシャンパンを飲みました

「良かった、君はもう泣いてないね」

ずっと隣にいたナオズミがやさしい声でささやきました。由利華が笑顔で大きくうなずくと彼は右腕につけていたバンダナを外して差し出しました。

「何もないけど…これ、クリスマスプレゼント」
「あ、ありがとう…」

誰かがラジカセにCDを差し込んで叫びました。

「さぁ、みんな踊ろうぜ。マミのラジコミ音頭だー!」
「どしぇーっ!」

由利華を除いた全員が、まるで吉本のコントのように見事にズッコケました。


まるで夢のような夜。そう、夢はいつかはさめるものです。

…そうして、気がつくと由利華は橋のたもとに一人たたずんでいました。
悪の軍団が去ってゆきます。みんな笑顔で手を振りながら。


けれど、その瞬間さえ、由利華には夢の続きのように思えました…


あの悪の軍団はいったい何者だったのでしょう。
猫をすくう為に川に飛び込んだナオズミ、悪の軍団のくせに人懐こくてやさしかった人々。あんなにやさしくされたのは都会に来て初めてのことでした。あの夜のおかげで由利華は立ち直ることが出来たのです。

(もう一度、あの人たちに会いたい。ナオズミやみんなに会いたい…)

そして、また巡ってきたクリスマスの日。ラジコミが名古屋市公会堂でクリスマスイベントを開くと聞きつけた由利華は会場に向かいました。
ナオズミにもらったバンダナを右腕に結ぶと、リスナーが入場を始めた公会堂の入り口のそばに立ちます。

(ここに立っていたら、あの人たちの誰かが気づいてくれるんじゃないかしら…)

リスナー達の列がぞろぞろと由利華の脇を通り過ぎていきます。何人かのリスナーがいぶかしそうに由利華に眼を向けましたが、由利華は構わず待ちました。
黒いコートやジャケットを着たリスナーは何人もいます。だけど、あの怪しげな衣装をしたリスナーはいません。由利華は祈るような気持ちで待ちました。

黒タイツの悪の軍団。よく笑うやさしい人たち、もう一度温かい、あの輪のなかに連れてって…

だけど、最後のリスナーも会場に入り、とうとう由利華は一人ぼっちになってしまいました。
それまで大勢の人でざわざわしていたのがその場に誰もいなくなると、しんとなって寂しさがこみ上げます。由利華は泣きたいような気持ちになってトボトボとその場を離れて歩き出しました。

(みんな…もういないの…?)

こみ上げた涙をそっとバンダナでぬぐったときです。

「おーい、待て待てーっ!」

振り返ると人違いしたいつぞやの悪の軍団が駆け寄ってくるのが見えました。

「よかった。ずっと君を探していたんだよ」

黒タイツ姿ではなく普通の格好をしたナオが嬉しそうに由利華を見ました。

「君のお探しの人ならきっと中にいるよ」
「え?あの…」
「きっとびっくりするよ。今日のイベントのゲストが誰か、君、まだ知らないんだね」
「ゲストって…あの」
「内緒、内緒」

別のリスナーが楽しそうに言いました。

「実はね。私たち、あなたのことがずっと気にかかってたのよ」

見知らぬ女の子のリスナーが照れくさそうに笑いかけると、ナオが言いました。

「良かったら一緒に行かない?大勢リスナーがいるし、きっと楽しいよ」
「オレ達、結局マミリンダーに勝てなかったけどな。せっかくの楽しいイベントだし、ま、いいか」
「あら?腕にバンダナなんて…あなたもリスナーだったのね。良かったわ。同じ女の子同士仲良くしましょうよ!」
「えーっ?オレたちも仲間に入れてくれよー」

見ると、みんな腕にバンダナをしています。
そう、あの日由利華が出会った人たちのように…。

「イベントが終わったらさ、みんなでケーキでも食べない?一人よりその…大勢のほうが美味しいし」

由利華は微笑を浮かべるとうなずきました。イベント会場からは、なにやら楽しそうなざわめきが聞こえてきます。

 

2004年12月25日、クリスマス。名古屋市公会堂。

温かい人の輪の中へ…由利華はまた、足を踏み入れようとしていました…

《おわり》

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