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街の一角では、今日も自称ラジオ界の平和を守る正義の戦士マミリンダーと『マミのラジかるコミュニケーション』を下ネタと放送禁止用語の愉快な番組にしようと企む悪の外道リスナー軍団が愉快…もとい、壮絶な戦いを繰り広げようとしています。 そして…
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(見つけた…やっと見つけたわ!) 今にも泣きそうな顔になると由利華は、うりゃあとかいう掛け声とともに始まった電波の戦士と悪の軍団の大騒ぎの中に飛び込んでいきました。 「あっ、こら一般人は入ってきたら危ないよ!マミちゃんは怒ると見境ないんだから」 掛け合い漫才のようなマミリンダー達のやり取りなど眼もくれず、由利華は黒タイツ軍団の中の一人のリスナーにすがりつきました。 「すみません、アナタは…アナタはナオズミくんでしょ?」 悪の手下はびっくりしたように抱きついた少女を見つめました。 由利華は、困ったような顔の下っ端戦闘員をじっと見上げました。 「人違い、ですか…ごめんなさい…」 いつの間にか戦いは中断になっていて、不思議そうな顔をした悪の軍団と心配そうなマミリンダーがしゅんとなった由利華と戦闘員を取り囲んでいました。 「誰かリスナーさんを探しているの?」 取り合えず正義の味方を中断した小森まなみが尋ねかけました。 「はい、ナオズミくんっていう、こんな悪の戦闘員さん…ううん、とても優しい人でした。会いたいんです、私…」 「ウチの戦闘員…、っていうかリスナーはいろんな人がいるからねぇ。リスナーになる人もいっぱいいるけど、引退したり、卒業したりする人もいるし、中にはリスナーやめちゃった人もいるからなぁ。」 気の毒そうに、悪の親玉が言いました。 「それにニセ梶原くんのところみたいな悪の組織、じゃなかった、リスナーさんのサークルも全国にいっぱいあるのよ。」 まなみが付け加えました。 「そうですか…すみませんでした」 頭を下げて、しょんぼりと去ってゆく由利華を目で送りながら、小森まなみとニセかじわらは顔を見合わせました。 (あんなに会いたいのには、何か訳があるんだろうか…) -----それから一ヶ月。 名古屋市公会堂のイベントを前に、街のあちこちで連日「マミリンッキーック!」「イイーーッ」と死闘を繰り広げるマミリンダーと悪のダークリスナー軍団を遠くからじっと見守る由利華の姿がありました。 あれはちょうど1年前の12月24日、クリスマスイブの日でした。 その日、由利華は街はずれの橋のたもとでボンヤリと川の流れを眺めていました。 声優を目指す由利華は先週20回目のオーディションを受け、今日になって20回目の不合格通知をもらったのでした。 声優になりたい、そんな夢を持った18歳の由利華は親の大反対を押し切って、その年の春、たった一人で田舎から上京してきたのです。 だけど、同じように声優を夢見る女の子は沢山いました。 そして、声優のオーディションには何十人、何百人もの応募者がいて、受かるのはたった1人か2人。 それでも、由利華はくじけることなくレッスンに励み、アルバイトで生活しながら毎回一生懸命頑張ったのですが、いつも結果は不合格ばかり…。声優学校の同期で友達になった女の子たちも、いつか一人抜け、二人抜け…と夢をあきらめ、気がつくと由利華は上京した時と同じ1人ぼっちになってしまっていました。 「もう、あきらめようかな…」 夢がなかなかかなわないのも本当に辛いのだけど、心細いときに慰めたり励ましてくれる友達が誰もいないのが寂しくて、由利華の心に冷たい木枯らしが吹き抜けていきました。 そのとき、どこからかバシャバシャという水音と、ニャーニャーという猫の悲鳴が聞こえました。 「たったいへん!…で、でもどうしたら…」 おろおろとする由利華。しかし、彼女のそばを次の瞬間 「トゥッ!」 という掛け声とともに欄干を飛び越えた人がいたのです! 「あっ!」 バッシャーン! と勢いの良い水音と共に飛び込んだその人は、自分もあまり泳げないらしくアップアップと水中でサンバを踊りながら、それでも溺れかけた猫を自分の頭に乗せて何とか岸にまでたどり着きました。 「だっ大丈夫ですか?」 ずぶ濡れになったその人はブルブル震えながらピースサインをしました。 「さ、寒い…イ、イイーッ!こんな真冬に寒中水泳大会をするとは思わなかった…」 由利華はそういうと身体を翻して近くのコンビニに走りました。 「さあ、このタオルで身体を拭いてください。それからこれカイロ。それと、ホットコーヒーを買ってきたからこれを飲んであったまって下さい。」 よく見ると青年は黒ずくめのタイツ姿、右手にバンダナ、というおかしな格好をしています。 「どうしたの?クリスマスだっていうのに泣いてたなんて。驚いて涙が出ちゃったの?」 その時 「おおーい、ナオズミー!」 と呼びかける声がして黒ずくめの一団が土手を越えて2人の傍に駆け寄りました。 「ハァハァ、やっと逃げてこれたぜ」 もしかすると…いえ、もしかしなくてもこの人たち、悪の組織みたいです。 「ところでナオズミ、その娘はどうしたんだ?」 ナオズミと言われた下っ端戦闘員が慌てて叫ぶと、由利華が続けました。 「違うんです。この人、川で猫が溺れかけていたから飛び込んで助けてくれたんです」 ナオズミが付け加えると 「何だ、そうだったのか」 愉快な言い合いを聞いているうちにおかしくなって、由利華はクスクス笑い出してしまいました。 「よし、今年はこの娘と一緒にここでクリスマスパーティーするかぁ」 ボスらしい男の声に手下どもは嬉しそうに「イイーッ」と答えました。 「ナオズミさんたちは、そのマミリンダーにいつも負けちゃうんですか?」 そういうと悪の下っ端戦闘員、ナオズミは笑いました。 「かわいそう…私が正義のヒーローだったら一度くらい負けてあげるのに」 微笑むと、ナオズミは静かに言いました。 「そうかぁ。またオーディション落ちちゃったのか…。頑張ったのに残念だったね。辛かったろ?僕も…実は声優になるのが夢でね、北国からたった一人で出てきたんだよ。家族に嘘まで言ってね。」 由利華は驚いて炎を見つめるナオズミの横顔を見つめました。 「心細くてね。東京に向かう電車の中で涙がとまらなかった…でも」 ナオズミの眼は静かに澄んでいました。 「今はしがない下っ端戦闘員だけど…夢をいつかかなえたいんだ。声優になって、自分の声を聴いてくれる人を笑顔にしてあげたい…」 その声に隣の戦闘員や悪のボスがうなずきました。 「そうとも、オレ様にも夢があるんだ。マミリンダーにはかなわないけど、何度だって立ち向かってやる。マミちゃんにぎゃふんって言わせてやるんだ」 悪の組織なのに…なんてあったかい人たちなのでしょう。 「良かった、君はもう泣いてないね」 ずっと隣にいたナオズミがやさしい声でささやきました。由利華が笑顔で大きくうなずくと彼は右腕につけていたバンダナを外して差し出しました。 「何もないけど…これ、クリスマスプレゼント」 誰かがラジカセにCDを差し込んで叫びました。 「さぁ、みんな踊ろうぜ。マミのラジコミ音頭だー!」 由利華を除いた全員が、まるで吉本のコントのように見事にズッコケました。
あの悪の軍団はいったい何者だったのでしょう。 (もう一度、あの人たちに会いたい。ナオズミやみんなに会いたい…) そして、また巡ってきたクリスマスの日。ラジコミが名古屋市公会堂でクリスマスイベントを開くと聞きつけた由利華は会場に向かいました。 (ここに立っていたら、あの人たちの誰かが気づいてくれるんじゃないかしら…) リスナー達の列がぞろぞろと由利華の脇を通り過ぎていきます。何人かのリスナーがいぶかしそうに由利華に眼を向けましたが、由利華は構わず待ちました。 黒タイツの悪の軍団。よく笑うやさしい人たち、もう一度温かい、あの輪のなかに連れてって… だけど、最後のリスナーも会場に入り、とうとう由利華は一人ぼっちになってしまいました。 (みんな…もういないの…?) こみ上げた涙をそっとバンダナでぬぐったときです。 「おーい、待て待てーっ!」 振り返ると人違いしたいつぞやの悪の軍団が駆け寄ってくるのが見えました。 「よかった。ずっと君を探していたんだよ」 黒タイツ姿ではなく普通の格好をしたナオが嬉しそうに由利華を見ました。 「君のお探しの人ならきっと中にいるよ」 別のリスナーが楽しそうに言いました。 「実はね。私たち、あなたのことがずっと気にかかってたのよ」 見知らぬ女の子のリスナーが照れくさそうに笑いかけると、ナオが言いました。 「良かったら一緒に行かない?大勢リスナーがいるし、きっと楽しいよ」 見ると、みんな腕にバンダナをしています。 「イベントが終わったらさ、みんなでケーキでも食べない?一人よりその…大勢のほうが美味しいし」 由利華は微笑を浮かべるとうなずきました。イベント会場からは、なにやら楽しそうなざわめきが聞こえてきます。
2004年12月25日、クリスマス。名古屋市公会堂。 温かい人の輪の中へ…由利華はまた、足を踏み入れようとしていました… 《おわり》 |
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