(勉強もそれなりに頑張った。)
(クラブも何とかレギュラーの座を勝ち取った。)
(毎月きらめきウォーカーで流行のファッションやナウい{死語}話題もチェックしてる。)
(オレはかっこいい!きらめき高校のナイスガイだ!)
(そうだ、自信を持て!)
(今日こそ詩織と一緒に帰るんだ!)
(今日を逃して…明日のオレはないッ!)
放課後。校門のところで、詩織を見つけた公は偶然のふりをして声をかけました。
「やあ詩織、今帰りかい?」
「あら、公くん」
詩織はニコッと微笑みます。
(よーし、今日こそ!)
「良かったら一緒に帰らない?」
その瞬間、詩織の眼がキュピーン!と光り、公の容姿をスキャンチェックします。
頭の中では最近の公の学業成績、クラブ活動の実績、素行が瞬時にデータ化され厳しいチェックが入り、そして…
詩織はふっと微笑むと申し訳なさそうに一言言いました。
「一緒に帰って友達に噂とかされると恥ずかしいし…」
いつのまに現れたのか、如月未緒が公の背後で手にしたプラカードをさっと掲げました。
『ガガーーン!』
詩織は申し訳なさそうに 「ごめんね。それじゃ…」 と言うと、真っ白い灰と化した公を残してそそくさとその場を離れました。
「また…また今日もダメだった…」
公はぼう然となってつぶやきました。
「もう1年半頑張ったっていうのに、一体いつになったら…ううう…」
入学以来、一体何度めの玉砕なのか…
周囲では、クラスメート達が今日もまた情けない顔で立ち尽くす公を見てクスクス笑いながら通
り過ぎて行きます。
一方、さっさと帰ったように見えた詩織は門のところにぴったりと張り付き、そんな公の様子を見てほくそ笑んでいました。
(フフフ…結構いいオトコになったけど、まだまだこの私につりあうには10年早いわ!もっともっと自分を磨くのよ。ゴゥゴゥパラメーター!)
ところが、そんな詩織の思惑とは別のことを公はブツブツ言い出しました。
「やっぱり、オレと詩織じゃ月とスッポン。所詮は高嶺の花か…」
(あ、あれ…?)
「仕方ない、詩織のことはもうあきらめるか…」
(そ、そんな…勝手にあきらめないでよ!)
「しょうがないや…どうせオレなんか…」
(ちょ、ちょっと!ちょっと待ってよ!)
肩を落としてトボトボと帰りかかった公に慌てて詩織が駆け寄ろうとした時…
「主人さん、今お帰りですか?」
おっとりした、丁寧な言葉で声をかけてきたのは古式ゆかりでした。
「あ、古式さん」
ゆかりは、少し顔を赤くして小さな声で言いました。
「よろしければ…一緒に帰りたいと思いまして」
地獄に仏とはまさにこのことでしょう。
きらめき市でも1、2を争う良家の美しいお嬢様に誘われて、公に対する周囲の視線は(見てよあれ!おっかしーの!)という嘲笑から(いーなぁー)という羨望の眼差しに変わりました。
「そうだね、帰ろうか」
2人は並んで歩き出しました。
「古式さん…もしかしてさっきのオレ、見てた…?」
歩きながら恐る恐る公が尋ねると、ゆかりはまるでタイガー戦車の砲塔のように重々しく首を回して公を見ました。
「はい」
「そうか…」
公は情けない顔で笑いました。
「ハハハ…あのとき古式さんが声をかけてくれたから本当に救われたよ。ありがとう。でもオレ…ううう、やっぱりみじめだよなぁ」
「そんなことはございませんよ」
きっぱりとした口調に驚いて公がゆかりを見ると、ゆかりは真剣な顔付きで公を見つめていました。
「主人さんがかわいそうだったからお声をかけたのではございません」
「え?」
「わたくしは主人さんを立派な殿方とお慕いもうしあげております」
「………」
あっけにとられて公が見つめると、ゆかりはニッコリと微笑みました。
「よろしければまた明日一緒に帰っていただけますか?」
「え…あ…う…こ、こんなオレでよかったら…」
「はい、それではここで…」
2人の帰路の分岐点に差し掛かると、ゆかりは丁寧に頭を下げて去っていきました。
「立派な殿方、か…てへへ…オレも捨てたもんじゃないってことなのかな?」
ゆかりを見送った後公が思わず、そう言って顔をニヤケさせたとき…
「ブゥゥゥ〜〜〜ン!」
公の後頭部に、うなりを立てて飛んできた金属バットが「ゴィィ〜〜ン!」と命中しました。
「ぐわっ!」
もんどり打って倒れた公は、あわてて周囲を見回しましたが、誰が投げたのか、どこから飛んできたのか分かりませんでした。
「いててて…一体誰が…」
(もしかすると、知らず知らずのうちに誰かを傷つけていたのかな?)
しかし、詩織一筋だった公がいくら考えてもそれが誰なのか皆目見当がつきませんでした。
だって、きらめき高校の中で公とこれといって面識のある少女は詩織しかいないのですから…
その晩のこと…
Prrrrrr、Prrrrrr・・・・
「ハイ、もしもし早乙女です」
「あ、オレ、主人公だけど」
「お、公か…よくかけてくれたな。今日はどうしたんだ?」
「うん、実は女の子がオレのことをどう思っているのか知りたいんだ…」
「そうか、えーとお前に対する女の子の評価は…といっても藤崎と古式さんしかいねえじゃないか。古式さんはニッコリマークで、藤崎がブキミ笑いに爆弾が付いてる」
「ブキミ笑い…何だそりゃ?それに何故爆弾が…」
「さぁな。自分で考えな」
取り付くシマもない好雄に公は思わず泣き言を言いました。
「そんなコト言わないでくれよぉ〜。今日だって一緒に帰ろうって誘ったのに断られたんだし…一体…」
「とにかく、早く何とかした方がいいぜ。じゃあな」
受話器を置いた公は決心しました。
(爆弾がついたってコトは少なくともオレのことを気にかけているってことだよな。よーし…!)
そして、その翌日…
「や、やあ詩織」
「あら、公くん」
「あのさ、今度の日曜空いてるかな?」
「空いてるけど…」
「じ、じゃあ映画でも見に行かないか?」
「…悪いけど遠慮しておくわ…」
ごぉぉ〜〜〜ん
「しっ…詩織ぃぃーー!」
(よかった…まだ私のことあきらめてなかったのね。)
詩織はホッとして胸をなで下ろしていました。
(もっともっと頑張れ公くん!)
一方、がっくりと肩を落として廊下をトボトボと歩く公は途方にくれるばかりでした…
(ううう、畜生…爆弾はつくのに何で相手にしてくれないんだ!詩織のバカバカ、ウバーッ!)
その日の放課後、まるで即身仏のように干からびている公のところにゆかりがやって来ました。
「まぁ、どうされたのですか?」
「ううう、古式さん、聞いてくれぃ。聞くも涙、語るも涙…女々しいオトコの物語さ…」
まるで、狂言師のような口振りですが、古式さんは大真面目にうなづきました。
「…まぁ、それはおかわいそうに…」
話を聞いたゆかりはうなづくと公に微笑みました。
「でも、おかげで安心いたしました。藤崎さんに断られたということは今週の日曜日は空いているということですね?」
「そうだよ」
「それでは、わたくしと植物園に行きませんか?」
「え?古式さんと?」
「はい…ご迷惑でしょうか?」
そう言うと、ゆかりは困ったように公を見ました。
「と、トンでもない!古式さんみたいな女の子とデート出来るなんてオレは幸せだなぁ!」
いつも詩織にフラレてばかりの公は眼に涙まで浮かべて喜んでいます。
「それでは、どこで待ち合わせいたしましょう?」
「植物園の前でいいよ」
「はい、それでは楽しみにしております」
いつもの交差点で別れると、ゆかりは丁寧に頭を下げて去っていきました。
公はゆかりの姿が見えなくなるまで手を降り続け、ゆかりは時折振り返っては手を振る公に丁寧にお辞儀して去ってゆくのでした。
公は突然ハッとして身構え、周囲を見渡しました。
「今日は…飛んでこないか…」
昨日、何者かが放った金属バット…しかし今日は飛んで来ませんでした。
胸をなで下ろすと、嬉しさの余り、公は踊るようにスキップしながら帰ろうとし…
「ドザァァァーーー!」
と、スキップしていた公の着地した地面が突然崩れました。
「おごわぁっ!」
まっ逆さまに落ちた公は、穴の底に「ドゥッ!」と叩き付けられ伸びてしまいた。
「キュ〜〜」
(どぼじて…)
(どぼじてこんにゃところに落とし穴が…)
目の前でヒヨコをピヨピヨさせながら、公はいなかっぺ大将みたいなでっかい涙をポロリとこぼしました。
一方、公の災難などつゆ知らず、ゆかりが家の近くにある公園に差し掛かったとき…
「古式ゆかりッ!天誅ーーー!」 という黄色い叫び声がしました。
ハッとして振り返ると、覆面を被った謎の人物が金属バットを振り上げてこちらへ突進してくるではありませんか!
ゆかりは叫びました。
「お父様ーーー!」
すると、どこからか「ゴーーーッ!」と土煙を立てて現れた紋付き袴の大男がゆかりを庇ってドスを身構えました。
「カィィィーーーン!」
打ち合わされた金属バットとドスが起こした凄まじい火花があたりに飛び散ります。
「チィッ!」
謎の人物はクルクルッとバク転してゆかりと父から離れ、バットを構え直しました。
覆面のほっかむりから赤い髪がサラリとこぼれます。
「ムッ女か…、しかし出来るな小娘ッ!」
ドスを構えたままゆかりの父は叫びます。謎の少女はフフフ…と笑いました。
「さすがは古式不動産の頭領、背中の唐獅子牡丹は伊達じゃないわね」
「貴様、我が古式家に何か恨みあっての狼藉かッ!」
「いいえ、お父様違いますよ」
2人のやりとりに、ゆかりがおっとりした口調で割って入りました。
「恋する乙女は、夜叉にもなります。私があの方に近づきますと、藤崎さんはやはり気にかかられるのでしょう」
「わ、私は藤崎詩織なんかじゃないわッ!」
あわてて謎の少女が叫びます。ゆかりは笑って「ハイハイ」とうなづきました。
「ですが藤崎さん。あまり主人さんに高望みをされますとおかわいそうですよ。あの方はそれなりに頑張っていらっしゃるのですから」
「う………」
「あまり、あの方を苦しめられるのでしたら、私も遠慮なく藤崎さんにおいたをいたしますよ」
笑顔のまま、さらりとゆかりは言いました。
「よ、余計なお世話だわッ!とにかく公くんにこれ以上近づいたら承知しないわよ!シャーーッ!」
最後はヘビのように威嚇すると謎の少女はたたたっと駆け去って行きました。
「ゆかり、今の娘はゆかりの学校の…」
「お父様、心配することはございません。多分夕子さんのおっしゃっていたチワワのケンカというものだと思います。」
痴話喧嘩もゆかりにかかっては犬の喧嘩になってしまいます。ゆかりの父は眼を白黒させました。
「い、いや…夫婦喧嘩は犬も食わないと言うが…」
「さあ、お父様帰りましょう。お母様が心配いたしますわ」
ゆかりは少しだけ寂しそうな顔になりましたが、すぐ笑顔で父の腕を取りました。
翌日、身体のあちこちに包帯という痛々しい姿で登校してきた公は、その日1日中クラスの笑い者でした。
「くっそぉぉ〜どいつもこいつも…」
しかし、公は週末にはゆかりとデートの約束があることを思い出し、すぐにデヘヘという顔になりました。
「デート…デート…古式さんとデート」
そんなウキウキしている公のところに「主人さん、ちょっとよろしいでしょうか?」とゆかり本人が姿を見せました。
「古式さんの用だったらいつでも都合を空けるよ!」
公は満面の笑みを湛えて言いましたが、ゆかりは困ったように頭を下げました。
「実は私、植物園に御一緒できなくなってしまいました」
「ええっ!」
驚いた公は顎を落としました。
「そ、そんなぁ」
「申し訳ございません」
「じ、じゃあさ、来週はどう?再来週でもいいよ!」
「それが…もう金輪際主人さんとはお付き合いいたしかねます」
そう言うと、ゆかりは振り向いて声をかけました。
「如月さん、お願いいたします」
うなづいて現れた如月未緒は公の背後に例のプラカードを掲げました。
『ガガーーン!』
ブラックホールと化し、周囲の空気までも暗黒にして落ち込む公を見て、その場を離れかかったゆかりはさすがに気の毒に思ったのでしょう、一言だけ付け加えました。
「主人さん。わがままな方かも知れませんが、貴方はちゃんと想われておりますよ…」
「え?」
「わたくし、貴方にフラレさせていただきます…」
公がハッとして見ると、ゆかりは寂しそうに微笑んで丁寧にお辞儀をすると去っていきました。
「メグ、今日は雨が降ってくるかもね」
「そうね、詩織ちゃん。よかったね、2人とも傘持って来てて」
昼休み。詩織と美樹原愛は教室でそんな会話をしていました。
「そういえば、詩織ちゃん…」
愛は、急に俯いて言いました。
「ん、どうしたの?メグ」
「実はあの…あの…」
「なあに?」
詩織がやさしく尋ねると、愛は蚊の鳴くような声で言いました。
「今度、お話させて欲しい人がいるの…」
「あら…」
詩織はニッコリと微笑みました。
「メグに気になる人がいるのね!ぜひ私に協力させて!で、一体誰なの?」
「主人くん……」
「え?」
「詩織ちゃんの幼なじみっていう、あの主人くん…」
その途端、詩織の顔が鉄のように固くなりました。
「ダメダメ、最低よ。あんなすっとこどっこい」
「え、でも…」
「メグ、あんな唐変木なんかよりずっといい人紹介してあげるわ!だからあんな最低男はやめなさい」
「そ、そんな…」
「メグ、あいつは神が創りたもうた人類最大の失敗作よ!あんな男とくっつく物好きな女は恐らく歴史に名を残す不名誉な十字架を背負って一生を終えることになるのよ!イヤよ!私のメグがそんなことになるなんて…」
「そこまで言わなくても…」
言いかけた愛の顔色が急に蒼白になりました。
「し、し…詩織ちゃん…」
「そうよ、分かるでしょ?メグは私の厳しい審査に合格した男としかつきあっちゃダメよ」
「あの…あの…」
「あの男が少しでもメグに色目でも使おうものなら、私が荒野に生き埋めにして野良犬のエサにでもしてあげるわ!」
「そうか…昨日の落とし穴はそのリハーサルだったんだな?」
ふいにドスのきいた声が背後から聞こえました。
振り向くと、そこに今悪口をさんざっぱら言っていた件の男が、この世のものとは思えぬ
ブキミな笑いを浮かべて立っています。
「ヒィッ!」
詩織が壁際に飛びすざると、公はズンズン近づいて来ました。愛は腰が抜けたらしく四つん這いになって口をパクパクしています。
「や、や、やだ…何のこと?公くんどうしたの…?怪我なんかして…」
白を切る詩織に向かって、公はふいにニカッと笑いました。
「詩織、ストップって10回言ってみて」
「ストップ、ストップ、ストップ、……」
「昨日穴掘りに使ったのは?」
「スコップ。あっ…」
思わず口に手を当てた詩織に公は、恐ろしい声で言いました。
「し〜お〜りィィィィ〜」
「あわわわ…」
「やはりき〜さ〜ま〜かぁ〜」
ジタバタする詩織をズゴゴゴゴ〜!と睨んでいた公は、ふいに真面目な顔になって言いました。
「オレ…古式さんにフラレちゃったよ…」
「え?」
「でも古式さん、すごく傷ついてたよ」
「………」
思わず俯いた詩織に向かって公は静かに言いました。
「何でいっつもそんなにつれないのに、他の人が近づくのは許せないの?」
「…………」
「オレが傷つくだけならいい。古式さん、かわいそうだった…」
「………」
「詩織なんか…大嫌いだ…」
ハッとなって顔を上げると公は一瞬悲しそうな顔になり、黙って教室を出て行きました。
肩を落として去ってゆく後姿… 詩織は声をかけることが出来ませんでした。
放課後を待ちかねていたようにポツリポツリと降りはじめた雨はザーザー降りになっていました。
「詩織ちゃん 、帰りましょう」
「あ、メグ」
玄関で傘を持ったままウロウロしていた詩織に愛は声をかけました。
「う、うん…」
詩織は落ち着かなげに周囲を見渡し、愛を見て困ったように微笑みました。
「うん、帰ろ…」
愛はじっと詩織の顔を見ました。ハリでつつけば泣き出しそうな程思いつめた顔です。
愛は、一人うなづきました。
「詩織ちゃん、私今日は一人で帰るわ」
「え?そんな…メグ一緒に帰ろ。ホラホラ」
「だめ!」
きっぱりと愛は断りました。
「詩織ちゃん。あの人のところに行きたいんでしょ?」
「そ、そんなコトないわよ!あんな奴…」
「詩織ちゃん、私にまで強がらないで。友達でしょ?」
「う…」
「いつも私に言ってるじゃない。もっと勇気を出しなさいって…」
(うう…メグにそんなコト言われるなんて)
「仲直りしてね…」 愛は詩織の頬にチュッとキスしました。
「メグ…」
「私もフラレちゃった…だけど詩織ちゃんにならいいの!」
愛は寂しそうに微笑むと、傘と一緒に雨の中へと走り去って行きました。
「あああ、気象庁のバカバカ…」
いまやすっかりどしゃぶりになった雨を前に公は玄関で途方に暮れるばかりでした。
「くそぉ、どうせバカは風邪なんかひかねえんだ!」
と、勢いよく飛び出そうとした公の横を、相合傘で仲良く帰るカップルの2人が通
り過ぎていきました。
「………」
公は気勢を削がれ、ため息をつきました。
(あーあ…いいなあ…)
その時
「こ、公くん」
上ずった声に振り返ると詩織が立っていました。
「詩織…」
驚いた眼を向ける公に詩織はぎこちない笑みを浮かべました。
「か、か、傘がないの?あの…私、あ、あるんだ。よかったら一緒に入っていかない?」
思いがけない詩織のお誘いに一瞬驚いた公でしたが、すぐに「フン!」といった顔になりました。
「遠慮するよ。相合傘なんかして友達に噂されると困るんだろ?」
「そ、そんな…」
「ベロベロベーだ!」
子供のように舌を出すと公はどしゃぶりの雨の中を駆け出していきました。
「あースーッとした!」
と言いながらどこか心がチクリと痛む公の背後で、ふいに意味不明の絶叫が聞こえました。
「え?」
思わず振り返った公の眼に飛び込んで来たのは、唸りを上げて振り下ろされる傘でした。
「ぐわぁっ!」
避ける間もなく傘は公の顔面を直撃しました。
「何をするんだよ!詩織!」
「うわぁん、公くんのばかぁ〜〜〜!」
詩織は泣き叫びながら公に殴り掛かりました。
何度も傘を振り下ろしてビシビシ叩くので傘の骨はたちまちベコベコに折れてしまいましたが、それでも詩織は殴るのを止めようとしません。
「バカバカ大嫌い!公くんなんか死んじゃえ!」
「あいててて、止めろ!」
「やだ!やめないもん!このやろこのやろ!えいえい!」
「痛いって、止めろっ!」
それでも詩織はやめようとしません。
「いい加減にしろっ!」
とうとう頭にきた公から「パァン!」と詩織の頬に平手打ちが飛びました。
「…………」
ピタッと動作の停まった詩織はしばらくポカンとしましたが、身体をブルブル震わせるともう一度ビェェ〜〜ッ!と子供のように大声で泣き出しました。
「…………」
眼から滝のように涙を流し、鼻からは鼻水を溢れさせて詩織は子供のようにワンワン泣いています。今の彼女の一体どこがきらめき高校のアイドルに見えるでしょう。
頭から身体から散々殴られて痛いものの、公は困ったな、という顔をして詩織に尋ねました。
「やれやれ、詩織は一体どうすれば気が済むんだい?」
「ひっくひっく…このままがいいんだもん!」
「デートもダメ、一緒に帰ってもくれない、それで古式さんと一緒に帰るのもダメっていうのは勝手過ぎないか?」
「えぐえぐ…勝手じゃないもん!」
「…どこが?」
「ひっくひっく…公くんはもっともっとカッコよくなるの!…グスッ…だからカッコよくなるまで詩織と仲良くするのも他の人と仲良くするのもダメなの!」
「…オレが誰と仲良くしてもオレの勝手だろ?」
「ダメ!…ひっくひっく…そんなコトしたらもっともっとヒドイことするもん!」
子供の理屈です。公は苦笑するしかありませんでした。
「そんなことしたらオレ、もっと詩織のこと嫌いになっちゃうぞ」
「やだ!そんなのやだ、やだよぉ!公くんは詩織のこと好きになるの!絶対ならなきゃダメなの!」
公の顔に微笑みが浮かびます。
(そうか…そんなにオレのこと好きでいてくれたのか…)
公は、子供を諭すように詩織に言いました。
「分かったよ。」
「え…?」
「オレ、もっともっと勉強してもっともっとがんばって詩織にふさわしいいい男になってみせるよ。だから、もう少しオレと仲良くなってくれないか?」
その言葉に、顔を涙でぐしゃぐしゃにしていた詩織の顔がゆっくりと笑顔に変わっていきました。
「……うん!」
ベソをかいていた詩織は初めてニッコリしました。
「もう他の人と一緒に帰っちゃダメだからね。デートなんてしたら今度はクギの付いたバットで殴っちゃうからね!」
「うん、分かったよ」(オレを殺す気か…)
「わーい!わーい!」
「子供みたいだな…ま、いいか。じゃあ、一緒に帰ろうか」
「うん!」
一緒に、といってもさっきの激闘で傘はボロボロで使い物になりません。
「公くん、かえろ」
それでも詩織は子供のようにあどけない笑顔で手を差し出しました。
(詩織、かわいいな…)
初めて見る飾り気のない詩織の様子に、思わず公の顔がほころびました。
どしゃぶりの雨はちっともやみません。2人とも、もうずぶ濡れです。
それでも、そんなことはもう少しも気にならないのでしょう。 顔中痣だらけの公と泣きベソでひどい顔になった詩織は、2人仲良く手をつないで歩き出したのでした…
End