・第5話「蘇った感触」 作者 杉本
美由紀「夕食の用意出来たよ!
今日はね、よりをかけたんだ。
マヨネーズ炒飯よ。」
モリ 「マヨネーズ炒飯?」
大森は聞き返してみたが、大して怒りは感じなかった。いや、なぜだろう、
喜びが心の底から湧いてきたのだった。(これが若さってやつか。まあ
しょうがない。2回りも下の娘だからな。世間の人に話してみれば、
皆羨ましがるに違いない。)
大森はマヨネーズ炒飯を一口頬張ってみた。なかなかいける。
これは、新しい発見だった。
モリ 「しかし、こんなのどこで、知ったんだ?」
大森はこの瞬間、「しまった」と思った。美由紀と一緒になってからと
いうもの、美由紀の個人的な詮索は避けてきたからだった。高校卒業したての
美由紀から、おやじ臭いとは思われたくなかったのだ。
いつもジェントルマンだったら、どうするかを考えてその通りに行動してきた
のだ。
しかし、美由紀は明るく答えてくれた。
美由紀「押し入れを掃除してたらね、1月にやったSMAP×SMAPの
特版のビデオがあったの。それみたら、香取慎吾が作ってた。」
そういって美由紀は楽しそうにそのビデオの内容を喋ってくれた。
大森はこの楽しい食卓を、楽しい団欒をとても大事に思った。
なくしたくないと思った。美由紀の一挙手一頭足をそしてこの場に
いる自分を客観的に心に刻み込んだ。そして呟いた。
モリ 「今、幸せのど真ん中にいるんだ。俺達。」
夜になって、大森は美由紀が寝入ったのを確認して、居間に
降りてきた。
「確かこの辺か?」
SMAP×SMAPのビデオを見ようと思ったのである。そして、
稲垣くんと草薙くんの区別をつけておこうと思ったのだ。美由紀の
話には、SMAPの5人があっちからこっちから出てきて、ちょっと
混乱したのだ。
「あ、これこれ!」
大森はビデオをデッキにいれた。音を少し小さめにして、再生ボタンを押した。
いきなし、ビデオにはサッカーボールが映った。大滝がボールを蹴り、
杉本が追いつきセンタリングを上げる正にその時、池田もボールに追いついた。
次の瞬間、ボリュームを絞ったビデオが喚き出した。
「おえー。おえー。はー。はー。ぜー。ぜー。」
大森はわれに返り、直ぐにビデオを止めた。
とても動揺していた。
「なんでこのビデオがここに、、、」
「俺は漁師なんだ。サーファーなんだ。ビーチボーイズなんだ」
大森は自分に言い聞かし、サッカープレイヤーである大森をなんとか、
心の裏側に押しやった。
「あれ〜。起きてるの?」
美由紀が起きてきた。
ビデオのアイドリングの音に気づき、美由紀は怪訝な顔になった。
「疲れてるなんて言って、私よりビデオの方がいいの!」
美由紀は台所に戻り冷蔵庫を開け、とっさに一番古くなった卵を掴んだ。
「モリの馬鹿!」
美由紀が投げた卵は見事、大森の頭に命中した。
「ぺちゃ!」
大森は卵が当たる瞬間、なぜだか顎を引いていた。
卵は大森の眉間に当たった。大森は目をつぶらなかった。
「この感触は。。。」
大森の心の奥から何かが出てこようとしていた。
・番外編「美由紀の過去」 作者 佐々木護
わずか18才でモリと一緒に暮らし始めた美由紀であったが、
その明るさの裏にも辛い過去があった...。
太陽の光を小麦色の肌に浴び、まるで孫悟空がきんと雲にでも
乗ってるかのような絶妙なバランスとスピード感で波に乗って
いた「拓也」に出会ったのは美由紀が高校1年の夏であった。
はじめに声をかけたのは美由紀だったが、
「明日もまた、来いよな」
そう言ってきたのは拓也の方だった。
そして、2人はまもなく恋に落ちた。
夏もそろそろ終わりかけた三日月の夜、2人は真っ白なシビック
の中できらきら光る海を眺めていた。
拓也 「夏もそろそろ終わりだね。」
美由紀 「私たちも終わっちゃうのかしら?
そんなの美由紀、超さみしー」
ラジオからはミニーリパートンの切ない声で「Lovin'
you」が流れて
いる。
拓也 「海を見てごらん。波は決して途絶えることはない。
俺達の愛も永遠に終わることはないさ。」
美由紀 「拓也...」
ラジオ 「ピー、ガー」
拓也 「風が強くなってきたみたいだな」
拓也はおもむろにラジオのチューンを気象情報に合わせた。
ラジオ 「現在、ピー..千葉県に暴風波浪警報が発令されました。
波が高くなる..ピー..ため、ご注意..ガー..さい」
拓也の目が一瞬キラリと光ったが「送るよ」の言葉で美由紀は不安を
胸に抱えたまま帰路についた。
翌朝
美由紀は悪い夢にうなされて目を覚まし、拓也の家に電話をかけたが
空しくベルは鳴り続けた。嫌な胸騒ぎがして美由紀は家を
飛び出し浜へ向かった。昨日の風はうそのように静まり返って波は
穏やかだった。
そこで美由紀が見たものは、波に打ち寄せられた拓也のサーフボード
だった。
「拓也ぁ〜!」
美由紀は砂浜に崩れ落ち、泣きじゃくった。
ふと、後ろから肩をたたかれ振り向いてみると
そこには、ひらひらの襟をした金髪の男が右手に誓書、左手には干し椎茸
をもってたたずんでいた。
美由紀 「ザビエル?」
ザビエル「生キテイレバ キット アエル」
「コレ 召シアガッテクダサイ」
干し椎茸を渡された美由紀であったが、何日待っても拓也は美由紀の前
に姿は現さなかった。
のちに、記憶を失った拓也はFALCONという名のサッカーチームで副部長にまで
のし上がるが、けれどもこれは別のお話、いつかまた、別のときに話すこと
にしよう。