・エピローグ「新たなる戦い」 作者 小美野
大森がFALCONに戻って、一ヶ月が経とうとしていた。
今、彼は充実していた。
身勝手な自分を皆は飛びっきりの笑顔で迎えてくれた。
小美野とも和解した。
満美とは相変わらずだが...
今日はいよいよ健保リーグの最大のヤマ場、TDC戦だ。
まだこのチームに公式戦で勝ったことがない。
この大事な試合に小美野と町田は大きな賭けに出た。
大森をボランチに据えることにしていた。
事前に告げたとき、彼の目は大きく泳いだ。
「ボッ、ボランチ!...ボランチって、あの..ほら、なんだっけ..
6神合体・ゴッドマーズに出てた...敵の、黒人の..ハゲで、デブの..」
それがブランチであることなど最初から気づいていたが、
そんなボケをせざるを得ない程、彼は動揺していた。
今のボケで皆の喫っていた煙草が消え、満美が慌ててフィールドコートを羽織る程、
周囲の気温を下げてしまったことなど、まるで眼中に無かった...。
アップをしながら、大森はあのときの小美野の言葉を思い出していた。
「お帰りなさい。あなたが必要です。本当にお帰りなさい、大森さん。」
男同士、口に出さずとも伝わるであろう思いを、小美野は敢えて口にした。
自分の必要性を、存在の大きさをはっきりと胸に刻み込んで欲しい。
その思いがとらせた行為だった。
大森は自分の居場所を痛切に感じさせられていた。
「俺はやはりこのチームに必要とされていた。」
大森は意気に感じていた。
心地よく緊張してきた。
体の切れがいい。いけそうだ。
「俺が戻ったFALCONの強さを見せてやる」
かなり増長していた。小美野のせいだ。
本当に張り合いがある、満ち足りた毎日であった。
ただ1つ残った心のしこりを除いては....。
副部長・町田もまた緊張していた。
ベンチにどっかと腰を下ろし、咥え煙草で満美にグローブの臭いを嗅がせようと
している、責任感のかけらも見られない部長・小美野とは対照的だ。
町田は副部長として、初めてのリーグ戦のヤマ場を迎えている。
責任感から堅くなるのも仕方が無いことだ。
しかし、本当の理由は他にあった。
初めてリーグの対戦表を見たときから、何かひっかかりを感じていた。
このチーム名と日程が載っているだけの紙っ切れの、
何処にひっかかりを感じているのか、自分でもよくわからずにいた。
今日、初めてそのひっかかりが何であるのかがはっきりした。
「TDC... T・D・C...」
明らかにこの名前のせいだ。
「いったい何なんだ? 何がひっかかるんだ?」
自分の失われた過去と関係があるのであろうか?
「T・D・C」
もう一度はっきりと繰り返してみた。
一瞬、町田の頭が疼き、景色が浮かんだ。
肌を焼く日差しと、白い砂浜、青い海。
その景色の中に佇む自分と、3人の少女。
浜辺に置かれた「拓也」と書かれたサーフボード。
「なんだ...? 今のは...?」
突然脳裏に現れた光景に驚きながらも、町田は1つの確信を持った。
「あのボードには確かに俺の名前が書いてあった。
全く覚えのない景色だけど、俺は確かにあそこにいたんだ。」
思いながら、町田は既に次の行動に移っていた。
「TDC...この言葉に俺の失われた過去を開く鍵が隠されている。」
町田は一直線に満美のもとへ歩み寄って行った。。
「う〜ん。TDCは「TDC」らしいよ。
正式には「TDCソフトウエアエンジニアリング」だったかな。
CACと同じで元は略称だったのかもしれないけどね...。
うちのプロジェクトにいる、TDCを受けて落ちた新人が言っているから
多分間違いないよ...。それがどうかした?」
不思議な顔で満美は答える。
「いえ、別に...アップしてきます!!」
何か急に恥ずかしくなり、町田はそのままフィールドに飛び出していった。
「ばかなことを...今は目の前の試合に集中するんだ!」
試合の開始時刻が刻々と迫ってくる。
大森はいまだに切り出せずにいた。
この打ち消せないたった1つのしこり...。
とうとう美由紀にも聞けなかったこと。
大森は町田の過去を知っていた。
3ヶ月前、まだ美由紀と暮らしていたときの事だ。
「たまには掃除でもしておくか。」
美由紀1人に干物を売らせ、自分は毎日波と戯れる。
大森はご近所からごくつぶし呼ばわりされていることを気にしていた。
せめてもの罪ほろぼしのつもりであった。
といっても、散らかしているのはほとんど自分だが。
「ちょっとあれ〜みな〜♪、エースがとお〜る〜♪♪」 by 沖田浩之
いい気分で鼻歌混じりに掃除をしていた大森の視界に飛び込んできたものがあった。
「なんだ、これ?」
棚の上に古ぼけた写真立てが、伏せて置いてある。
「気づかなかったな。昔の彼氏の写真か?」
見てみたかった。どうしても。
自分が現れる以前に、美由紀の心を支配していたであろう男の姿を。
後ろめたさを感じがら、年甲斐もなくどきどきしながら写真立てを起こす。
年頃の娘を心配する父親が、日記を覗き見るような心境であった。
次の瞬間、大森は愕然として床にへたりこんでいた。
「まっ、町田!!?」
そこにはサーフボードを片手に、美由紀の肩を抱く町田の姿があった。
「そんな..こんなことって...」
信じられなかったが、写真の中にいる男は町田そのものだ。
世の中には同じ顔をした人間が3人はいると聞いたことがある。
「しかし、こんな野人づらが隣の県にもう1人? 有り得ない!!
あいつの場合、どう見たって残りの2人はタイかインドネシアにいるはずだ!!」
大森は正論で疑惑をねじ伏せようとした。
そのときふと自分のサーフボードのことを思い出した。
美由紀から無理矢理奪い取ったものだ。
「確か、裏に拓也って...」
大森は必死に記憶をたぐっていた。
「町田のフルネーム...町田...拓也!!」
疑惑は確信に変わった。
「間違いない。町田は記憶を無くす前、ここにいた。
しかし、何故? 何故あいつは今うちのチームに!?」
運命の悪戯に、為す術なく大森は呟いた。
「なんてことだ...」
回想を終えた大森の中で、今更ながらに沸き上がってきた疑念があった。
「もしかして、兄弟!? しかも、俺が弟!」
そんなことを考えながら、ただじっと、ボールを追いかける町田を見詰める。
いつの間にか、その視線には強烈な嫉妬が含まれていた。
「どうしたんですか?大森さん」
視線に気づいた町田がアップを中断して歩み寄ってきた。
周りには人がいない。切り出すのは今しかない!!
ここではっきりさせるんだ!!
大森の口が動いた。
「いや、何でもないよ。今日...勝とうな!」
言えなかった...。
大事な試合を前に、副部長である町田を動揺させるわけにはいかなかった。
「はい!勝ちましょう!! 期待してますよ、大森さん!!」
「よし、パス回しでもやるか。町田!」
大森は頭を切り替え、フィールドに飛び出していった...。
試合開始前の円陣の中で、大森の興奮はピークに達していた。
「たまんねえな...この緊張感。 やっぱサッカーは最高だぜ!!」
「勝つぞっ!!」「おうっ!!」
気合ののった掛け声とともにイレブンはフィールドに散っていった。
「ピィ〜ィ〜!!」
澄んだ空気の中、試合開始の笛が響く。
「さあ、ショウタイムの始まりだぜ!!」
大森は思わず声に出して叫んでいた。
その声はフィールド全体にこだまする程大きなものだった。
敵も味方も、一瞬唖然とした。
「こんなセリフを臆面も無く口に出せるのは、世界中でも
若い頃のDave Lee Rothと、酔っ払った金井ちゃんだけだと思っていた。」
そう小美野は思ったが、別に咎めはしなかった。
今は大森のやる気を優先すべきである。皆も同じ思いであろう。
気味悪がったTDCと、今後疎遠になりそうなことなどどうでも良かった。
小美野は清々しさに、おもわず空を見上げていた。
どこまでも空の青が続きそうな、夏の終わりだった...。
第 一 部
F I N
CAST: モリ〜 大森 哲男
大森 大森 哲男
立石美由紀 ダイアナ・キング(友情出演)
町田 町田 拓也
拓也 町田 拓也
EXTRA FALCONの皆さん
<あとがき>
−小美野−
最初の話を書き終えたとき、
「絶対に杉本から返事が来る。しかもモエズネタで。」
という確信がありました。
期待通りの返事が書いてありました。
大きな満足感で満たされました。
それで終わりと思ってたんですが、美由紀という
謎の登場人物が...しかも「続く」と...
「杉本は俺に返事を求めている!! しかも長期化したがっている!!」
そう確信した瞬間からこの物語は始まりました。
毎日、昼休みを執筆に費やしました。
連載中は昼飯を食べたことがありませんでした。
その真剣な姿を見て、隣の協力会社の女性に
「小美野さん、急ぎの仕事なら手伝いますよ。」
などと言われ、あたふたしたこともありました。
後半、さすがに追っつかなくなってきて、
仕事もないのに残業時間帯に居残るようになるにつれ、
馬鹿らしさが募り、早めの完結を意識し始めました。
しかしようやく固定ファンがつき始めている。
しかも護や町田が執筆の意欲を見せている。
さらにこれを終わらせると、また杉本のメールがゴミばかりになる。
という要因が絡み、1完結と同時に2開始という運びになりました。
2は新進作家陣による新たな展開を見せてくれることでしょう。
楽しみです。
−杉本−
気づいたら、とんでもないことになってしまいました。毎回毎回、
書くのが大変でした。コンピューター関係の仕事をしているので、
普段はゴミメールを出さない様に心がけていましたが、今回は
たくさんのゴミメールを出してしまいました。メーラーの転送ボタンを
押した時、「ゴミをふやしてしまった!」といつも、嘆いていました。
けれども、続きのメールが来ると何故だか、ささやかな喜びと
小さな達成感を感じました。
それは、
”自分で分別したゴミを市の清掃職員がちゃんともっていってくれた”
時の気持ちに似ていました。