子どもの可能性を信じる!

 次の絵を見て下さい。とても同一人物が描いたものに見えないでしょう。
 これは、やすお君が描いた絵である。やすお君は、1年生ながら体重35kgもある巨漢で
した。入学以来、すぐたたくなどの乱暴な行動をしていました。字をグチャグチャしか書かない。
絵を描かせてもメチャクチャにしか描かない。問題行動をとっていた子供でした。
 図画の時間に「シャボン玉」の絵を描きましたが、私の指示を全く聞きませんでした。勝手に
コンテで描きはじめたり、又自分のグループの色の入ったプリンカップに水をいれたり、グルー
プのプリンカップを一人占めしたりもしました。
 やすお君は、私の注意を全く聞きませんでした。私は、やすお君に絵を描かせるのは無理だと
思いました。
 だが、他の子供が絵を完成させた時に変化が起きました。いつもならやすお君同様の絵を描い
ていた友達のこうき君がいい絵を完成させました。それにショックをうけたようです。
 「やすお君、もう1回絵を描いてみるかい。やる気があるのなら、先生が手伝ってあげるよ。」
と話しました。
 「うん、やる。」とうなずきました。
 「いつ、絵を描こうか。」と聞いた。やすお君は、何よりも休み時間が大好き少年です。どう説
得しようかと悩みました。そこで次のやりとりをしました。
 「放課後でいいかい。」と聞くと、やすお君は「いやだ。」と首を振りました。予想通りの反応
でした。「そうだよね。早く帰りたいよね。それじゃ昼休みでもいいかい。」と聞きました
 「うん、いいよ。」と答えが返ってきました。これで交渉が成立。実は最初から昼休みにしよう
と思っていました。
 次の日から、マンツーマンの指導が始まりました。指導時間は、1回5分から10分。A君は、
よく頑張りました。私は、ひたすらやすお君をほめまくった。他の子供たちも「やすお君、うまいね」
と言ってその頑張りをたたえてくれました。
 こうして、「シャボン玉」が完成しました。A君は、本当に満足していた。この時に前に描いた絵
を見せました。
 「どっちの絵がいい。」と聞くと「こっち」と2回目の絵を選びました。「先生の言うことを聞くと、
いい絵がかけるだろう。」と言いました。
 やすお君は、「うん」と言ってこくっとうなずきました。ここでやっと信頼関係がうまれたような気が
しました。それ以来、やすお君は素直に言うことをよく聞くようになってきました。
 やすお君を指導して気が付いたことがあります。
 @やすお君が、今まで絵をグチャグチャに描いていたのは、ゆっくりていねいに描いた経験がな
かったためだ。
 A「自分は絵が下手だ。」という劣等感から、いい加減にしか絵を描けなかった。
 Bほめる大切さがわかった。マンツーマンで指導した時に、3回やすお君はあきらめかけた。そ
の時に、ほめるなどの適切な指導をして  危機を乗り越えた。
 特に@については、重大発見でした。よく観察するとやすお君は、絵だけではなく生活全般にて
いねいさが欠けていた。
 向山洋一さんは、「成長の条件」として次の点をあげています。

 第一は、「ていねいさ」である。
                第二は、「持続性」である。これ以外の条件は、「例えば知能が少々良いというようなこと。」は、
どうでもいいことだと思っている。強いていえば、他人(他人)の忠告を受け入れる「素直さ」があ
った方がいいが、上記の二条件を満たす子は、ほとんど「素直」であるからそれをいれることもない。
               (「子供の活動ははじけるごとく」明治図書刊、174ページ)
 
 やすお君の指導の方針は、「ゆっくりていねいに」となりました。
 その後のやすお君の成長はめざましい。例えば跳べなかったとび箱が6段を跳べるようになりまし
た。苦手な勉強にも、前向きに取り組めるようになりました。
 自信がついてきたせいか、他の子供に乱暴をしなくなりました。むしろ本来のやさしい性格が行動
にも出てきました。その後、他の子供が牛乳をこぼすと一番にかけつけるのが、やすお君になりました。
 そしての冬休みに、私は「冬の家庭訪問」を実施した。
 やすお君の家に行って、お母さんと色々と話をしました。その時にやすお君の2枚の「シャボン玉」
の絵を見せました。
 お母さんは「だれが、描いたんですか?」と言いました。やすお君が描いたと告げるとお母さんは、
驚きました。
 そこで完成するまでのいきさつを話しました。「お母さん、やすお君はもっともっとのびます。」と
言って、「向山の仮説」を話した。
 「やすお君は、今まで少していねいさが足りなかったんです。そのため、力が出し切れなかったん
です。(中略)やすお君のためにご協力下さい。」
 その後やすお君のお母さんは、大変協力的になりました。
 このやすお君との関わりを通して、子どもの可能性の素晴らしさを教えられました。ともすると目
に見える結果、成績、能力に目を奪われがちです。目に見えない子どもの可能性を信じていけるかが大切です。どうか、お子さんの可能性を信じて努力を惜しまないでください。

(教育講演原稿メモより)


                     
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