金浜の言い伝え

「じいちゃん。いい湯だね。」
「そうじゃな。家の近くに温泉ができて、楽しみが増えたのう。」
「ところで、じいちゃん。この温泉のある所はどうして
『塩生』-しょうなす-って言うの。」
「それはじゃな。遠く弥生時代にここで、
海の水から塩を作っていたからなんじゃよ。
今でも、地面を掘ると塩水を煮るために使った土器がたくさん出てくるんじゃ。」
「へえ-そうなの。」
「香川県の詫間にも『塩生』という所があるが、
そこは-はぶ-と呼ばれておるんじゃよ。」

「おもしろいねえ。じゃあ、この温泉のバス乗り場は、
どうして『金浜』-かなはま-って言うの。
お金がたくさん埋まっていたのかなぁ。」
「よく-かなはま-って読めたのぅ。
それについては、こういう言い伝えがあるんじゃ。」
むかし、むかし、ここ塩生に、帆網藤重郎という網元がおった。
たくさんの漁師や船を引き連れて、
遠く高知や和歌山、はては今の韓国まで漁に出ておった。
漁の腕前もさることながら、
みんなからしたわれ、
分限者〔金持ち〕の上、信心も深く、
たびたび寺社にお供えもしておった。
そんなある日のこと。
珍しく一人で沖の水島灘で漁をしていると、美しい笛の音が聞こえて来た。
音の方を見ると、ここら辺では珍しい赤い帆を張っている船。
じっと目を凝らした藤重郎。
「乗っているのはかわいらしい子供じゃないか。」
船はみるみる藤重郎の船に近づいて来た。
そして、その子供がこう言った。
「藤重郎さま、あなたは先日、
八幡院に大般若経を納めて下さいました。
そのお礼にこの銀のつづらを持って参りました。
どうか受け取りください。
ただし、家に帰るまでは決してふたを開けないでください。」
不思議なこともあるもんだとつづらを受け取る藤重郎。
しばらくながめていたが、あまりの重さに耐えかねて、
「これはいったい・・・・。」
顔を上げると、いつの間にか船は消えていた。
さて、
浦島太郎やつるの恩返しの話にもあるように、
見るなと言われるとよけい見たくなるのが人情というもの。
漁師のリーダーで人格者とはいえ、もちろん藤重郎とて例外ではない。
しばらく漁を続けていたが、どうしても我慢ができなくなった。
「少しだけなら、いいだろう。 なに、ほんの少しだけ・・・。」
藤重郎がつづらのふたをそっと開けると、
中には大判小判がまぶしいばかりに輝いていた。
「これは、驚いた。
そうじゃ。一刻も早くみんなに見せてやろう。」
驚くと同時に、とても喜んだ藤重郎、
漁をしまい、急いで塩生にもどり、
村人を集め、さきほどの不思議な出来事を話した。
そして、おもむろにつづらを開けるように若い者に命じた。
若い者が期待に胸を躍らせ開けると・・・・。
中から出てきたのは、大きな竜だった。
「ストップ、じいちゃん。
そしたら、約束を破った藤重郎さんが金になった。」
「いいや、違う。」
「だったら、じいちゃん。
金浜というより竜浜の方がいいんじゃないの。」
「まあ、待ちなさい。この話にはまだ続きがあるんじゃ。」
驚いた村人がみんな帰った後、
藤重郎は子供との約束を破ったことを後悔した。
そして、うんと悩んだ末、竜を海に返すことに決めた。
みんなが寝静まった真夜中、
こっそり家を抜け出す藤重郎。
塩生の浜の上に銀のつづらごと置いて、
後ろも振り返らず駆け出し、
そのまま眠れない夜をすごした。
どうなったか気になってしょうがない藤重郎。
朝日が東の山から顔を出すのを今か今かと待って、
こっそり浜に向かった。
そこで目にしたものとは・・・・・。

「浜に捨てるなんて、藤重郎さんはひどいな。
じいちゃん。それで浜はどうなったの。」
「それがのう、
浜一面が大判小判で埋め尽くされていたんじゃ。」
「へえーっ。すごい。」
「藤重郎はそれまでも中心になって寺社の面倒を見ていたからのう。
途中で竜に変えたのは、み仏の遊び心じゃったのかもしれん。」
「ふーん。それで『金浜』という地名になったのかぁ。
よくわかったよ、じいちゃん。 また、教えてね。」
「よっしゃ、また今度、別の伝説を話してやろう。」
「じいちゃん、そろそろ、体もあったまったから先に出るよ。」
「そうじゃな。 わしも出て、一杯ビールをもらおうか。」