腰かけ石

 

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腰をおろしてもいいかって?

どうぞ。

わしの名前?

腰かけ石とみんなは呼ぶが、

昔は船を止めておく綱を引っ掛けた石じゃった。

港の岸壁でいくつもの船を見てきた。

ところが、緑地帯をつくることになっての。

わしら用がなくなったんじゃ。

捨てられるところを、ここ安楽院の境内に引き取られた。

隠居もええもんじゃ。

仲間もおるし、すく下は保育園でにぎやかじゃ。

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昔の港の話を聞きたいって?

それは、ともさんに聞いてみることじゃ。

 


夏の夜は、行水のあと、浴衣を着、団扇を持って一畳台(縁台)に出る。

将棋を指す人、そばで見ている人。

隣の台は雑談に花が咲き、夜がふけるまで続く。

また、夕涼みの一畳台はニュースの流れる場であり、

一瞬のうちに呼松中に流れた。

海岸に出ると、大波戸、小波戸、南の二つの波戸にも夕涼みの人が出ており、

西の堤には若い男女のにぎやかな笑い声が聞こえる。

満月の夜はまた格別で、金波銀波が水島灘に続き、

沖の漁火がそこかしこに見える。

赤い灯青い灯の航海燈が続く。

生姫島の大松が金波銀波に浮き彫りにされて墨絵となり、

上水島はまるで軍艦のごとく、

(昔は精錬所があり、2本の太い煙突があった。)

本太の松も月に冴え、

手前に長島、西に三つ並んだ鼻ぐり島があった。

何処からともなく聞こえる若人のふく尺八、大正琴、バイオリン。

それらの音色は夜景をいっそう引き立てた。

堤の西側では蛙の合唱あり。

飛び交う蛍はさらに色を添える。

今、思い出すと、まるで夢のような気がする。

あの当時のよさを現在の若人にどう伝えたらよかろうか。