ほととぎす鳴きつる方をながむれば
    ただ有明の月ぞのこれる        
後徳大寺左大臣

ほととぎすが鳴いたと思ってその方を見ると、そこにはその姿はなく、
ただ有明の月だけが暁の空に残っている。

思ひわびさても命はあるものを
    憂きに堪へぬは涙なりけり       
道因法師

長くつれない人を恋い慕い、死んでしまうのではと思うほど嘆き悲しんで、
それでも命はながらえているのに、そのつらさに堪えられないで、
絶え間なくこぼれ落ちるのは涙なのだなあ。

世の中よ道こそなけれ思ひ入る
    山の奥にも鹿ぞ鳴くなる        
皇太后宮大夫俊成

ああ、この世の苦しさからのがれる道はないのだなあ。
深く思い込んで分け入ってきた山奥にもつらいことはあると見えて、哀しげに鹿が鳴いているよ。

長らへばまたこのごろやしのばれむ
    憂しと見し世ぞ今は恋しき       
藤原清輔朝臣

もしもこの世に生き長らえていたならばつらいことの多いこの頃の生活が、また懐かしく思い出されることだろう。
あんなにつらいと思っていた昔が、今では恋しく思われるのだからなあ。

よもすがら物思ふころは明けやらぬ
    閨のひまさへつれなかりけり      
俊恵法師

夜通しつれない恋人を恨んで物思いをしている今日この頃は、
なかなか夜が明けなくて白んでくれない寝室のすき間までもが、つれなく無情に思われることだ。

嘆けとて月やは物を思はする
    かこち顔なるわが涙かな        
西行法師

嘆け、といって月が物思いをさせるのだろうか。いやそうではない。
この物思いは恋のためなのに、まるで月が物思いをさせているかのように、
あふれ落ちる私の涙であるよ。

村雨の露もまだひぬ槙の葉に
    霧たちのぼる秋の夕暮れ        
寂蓮法師

村雨がひとしきり降り過ぎて、そのしずくもまだかわかない真木の葉のあたりに、
もう夕霧が白く立ちのぼっている。ああ、なんともの寂しい秋の夕暮れだろう。

難波江の蘆のかりねのひとよゆゑ
    みをつくしてや恋ひわたるべき     
皇嘉門院別当

難波の入江に生い茂る蘆の刈り根の一節のような、短い旅の仮寝の一夜。
そんな夜をあなたと一緒に過ごしたばかりに、難波江の澪標のように、私はこの身をささげ尽くして、
これからひたすら恋し続けるというののでしょうか。

玉の緒よ絶えなば絶えねながらへば
    忍ぶることの弱りもぞする       
式子内親王

私の命よ、もし絶えるものなら絶えてしまうがいい。
このまま生きながらえていると、耐え忍ぶ心が弱って、恋心が外に現れてしまうかもしれないから。

見せばやな雄島のあまの袖だにも
    濡れにぞ濡れし色はかはらず      
殷富門院大輔

血の涙で色が変わってしまったこの袖を、あなたにお見せしたいものです。
あの雄島の漁夫の袖でさえ、波にひどく濡れていても、色までは変わらないというのに…