クリスマス小説集

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   冷たい雨



今年もまたクリスマスがやってくる。 それはまるで冷たい雨のように私の体にからみつく。 クリスマスになると思い出すものがある。 あの明るいショウウィンドウにならんだクリスマスツリーよりも鮮明に、暗い闇の中から私を求めさまようあの声を。 もう3年も前なのに・・・ 私はそのころはまだ大学生だったのではないかと思う。 まだ3年しかたっていないのに記憶がすごく不鮮明だ。 あのときからすごく私は歳を取ってしまったからかもしれない。 その3年前に何があったかというと、私の目の前で当時私の恋人だった人が自殺したのだ。 言葉にならないような奇声を発してビルから飛び降りた。 悩んでいたという事は知っていたがまさかそんな事をするとは思わなかったのですごくびっくりした。 それがちょうどクリスマスのちょっと前だった。 後から、付き合っていたということでいろんな人からそのことについて聞かれたが、なぜかすごく人ごとのように思えた。 私にとってはもうどうでもいいことだったし、理由すらわからなかった。 そんなことをいうとすごく私が冷たい人間に思えるだろう、それに愛情もなかったと。 だけど、私は愛していた。 それは絶対と強く言い切ってもいいと思う。 私はあの時彼を愛していたのだ。 そして彼の死を認める事が出来なかった。 今でもまだ受け入れることが出来ずにいる。 しかし、そんな私を他の人たちは冷たい女だといい軽蔑した。 でも、それでいいのだ。 私は誰にも認められなくっても彼を愛しているのだから。 そんな気持ちのまま、3年が過ぎたけれど、私の中には思い出としてではなく、毎日の生活の中に彼が生きづいていた。 死んだのではなく、遠くに旅立ったままであるかのように。 私はつらいときは、いっつも彼のことを考え、そして癒された。 楽しい時もまたそうだった。 そんな毎日を着実に過ごし、仕事でもだんだん実力をつけていき、いろんなことが単調になって言った頃、会社から帰ってくると一通の手紙がポストに入っていた。 その手紙は黄色く変色して、古びていた。 しかし、そこには私の名前が見覚えのある文字で刻まれていた。 斎藤和子さまへ 私は、その手紙をペーパーナイフでゆっくりと開け、中身を見た。 そこには白い羽が入っていた。 中身はそれだけだった。 私はその羽を手でもてあそびながら、羽の毛を整えていた。 その手紙の字は3年前に死んだ恋人の字で、中身はなんらかの遺書のようなものだと思っていたので、ちょっと拍子抜けした。 そしてこの羽を送ってきた意味を考えた。 いったいこの羽にはどんな意味があるんだろうか。 彼はどうして死んでしまったのだろうか? この羽で空を飛びたかったのかも知れないがそれはムリなこと。 羽は一枚しかないのだから。 私は誰から昔、誰かに送った封筒でも使って、私にこの羽を届けた人物がいるのではないかと思い、その日は寝た。 次の日、ちょうど日曜日で仕事もなかったので、私は彼の大学時代の友人に会いに行くとこにした。 友人の人とあった時、その人はちょっと意外な顔をしたが、私はそんなことを気にせずに話を進めた。 「この羽に見覚えがありませんか?、本当にちょっとしたことでもいいので。」 その答えに、「なにも知りません」という返事が帰ってきた。 そんな応答を3〜4人ぐらい繰り返したころ、道端の老人から声をかけられた。 初め自分に声をかけられたことすらわからなかったが、どうやら自分らしい。 いったいなんのようがあるんだろうと思い、ちょっとげげんな顔をしてしまったが、その老人はこの羽に興味を持ったらしい。 「この羽はどこで見つけたんですか?よかったら譲って欲しいと思いましてね。」そういいながら、羽をまじまじと見る老人にこの羽がいったいどんなものなのか聞いた。 「この羽はたぶん、白鳥の羽じゃないかのう、青森あたりさ行けば手に入るはずだけんどもなかなかこの歳じゃ行けんから」 「そうなんですか、そうしたらあまりめずらしいものではありませんね」 「そうかもしれないけれど、それはあなたにとっては大切なものなんじゃないですか?」といって老人は去っていった。 私は老人と羽について話したがなんだか変な気分になった。 ちょっとボケた老人につきあわされてしまったのかもしれないという気分になった。 なにがどうだかさっぱりわからない。 それに、この羽がとても私にとって大切なものだということを見透かされて嫌なおもいになった。 この羽の大切さは私にしかわからないと思ったのに、そんな変な老人に見透かされてしまったからだ。  とてもむしゃくしゃしながら、電車に乗り、家に帰る途中の道で、白い羽を見つけた。 それは公園の噴水の前まで続いていた。 白鳥でも逃げてきたのだろうか? この羽が白鳥のものなんて考えるとはどうかしている、さっきの老人の考えがうつったのかも知れない。 しかしもうそれが染み付いてしまったらしく、その羽は白鳥にしか見えなかった。 今は羽の種類なんか関係ない、この羽がどうしてこんなに沢山落ちているのかが気になった。 その羽は私が持っている羽とすごく似ていた。 羽に対してすごく興味を持っていたのでそう思っただけかも知れないと感じたけれど、それでも似ていた。 私はその羽を手に取り、まじまじと眺め、自分が持っていた羽と重ね合わせる。 二つはとてもよく似ていたし、ほとんど同じ大きさだった。 周りを見渡しても鳥らしきものは見えない。 噴水といってもそれほど大きくはなく、本当に少し水が流れる程度のものだったからだ。 暗闇の中を目を凝らせる。 そして木々の間にぼんやり白いものが見えたので、それがなんなのかを確かめに行くことにした。 それが別になんだとしても私には関係のないことだったけれど、それでも確かめずにはいられなかったのだ。 そして、一匹の白い白鳥が横たわっていたのを見た。 私の持っている羽と同じ羽を持つ白鳥。 こんな都会の真ん中になぜ白鳥がいるんだろうと思ったが、現に私の目の前に白鳥がいた。 白鳥は私が思い描いていたよりもずっと大きかった。 ちょっとした犬ぐらいの大きさはある。 その白鳥は怪我をしているようだ。 羽毛が赤く染まっている部分がある。 私はその白鳥を家につれて帰ることにした。 私は動物が嫌いなほうではなかったし、この白鳥がなんらかのかぎを握っているような気がしたからだ。 白鳥を、白菜の入っていたダンボールに入れてカイロを布でくるんだのをいれてやった。 そうして、私は寝ることにした。 明日は会社があるからだ。 会社は学校と違ってちょっとやそっとの事では休めないのだ。 学生とは違うのだ。  夜2時ごろ、トイレに行きたいと思い目が覚めた。 少し、白鳥が気になったので見ることにした。 たぶんあれぐらいの怪我では死なないと思うけれど、ちょっと心配になったからだ。 白鳥はダンボールの中にいないらしく、ダンボールは空だった。 部屋の中に白鳥がいるとなると、掃除が大変だと思い、白鳥がどこにいるのかを必死に探した。 やっかいなものをしょいこんでしまったなあと思った。 だけど、しかたがない、まずは白鳥を探さないといけない。 5分ぐらい部屋の中を探していると、狭い部屋なので白鳥はすぐに見つかった。 部屋の隅にうずくまっていた。 そして私の方を見ていた。 何かいいたげだった。 私は白鳥をダンボールに戻そうと思い両手でかかえ持ち上げた。 白鳥はとても暖かくて気持ちがよかった。 以外と体温が高いらしい。 私は白鳥を持ったまま少しの間ぼっとしていた。 白鳥の暖かさにひたっていたかったからだ。 そうしたら白鳥は聞き覚えのある声で私に話し掛けてきた。 一瞬驚いたが、その声に安らいだ。 今まで思いつづけてきた人の声だ。 白鳥が私に語りかける、「もうそんなに泣かなくってもいいんだよ、大丈夫忘れてもいいんだよ」 といっていたように思う。 白鳥の言葉を一言も聞き漏らさないようにしているのにもかかわらず、頭がぼっとしていたのだろうかあまり理解出来なかった。 私はその場で眠ってしまったらしく、その後は記憶がなかった。    朝起きたら、白鳥はいなかった。 部屋のどこを探してもいなかった。 私は頭がぼっとしていたので、風邪だといって会社を休んだ。 そして部屋の中をもう一度隅から隅まで見たがいなかった。 一日中白鳥を探した。 日が暮れた。 しかし、私は白鳥をもう探さなかった。 白鳥がどうして消えたのかわかったような気がしたから。 白鳥は私にあの人の言葉を伝えにきてくれたんだと思った。 私はこれからは、ちゃんと生きていこうと思った。 あの人がいなくっても自分ひとりでいきていけるように。 それが私のためにもあの人のためにもいいことだから。 私はもう冷たい雨が降ってきても泣くことはないだろう。 あのクリスマス前の日を思い出して泣くことはないだろう。





私の気分によってまた非定期に更新していきたいと思っています。