悪ふざけ架空戦記2   暦新島上陸作戦




第101回〜第110回









「な、な、な、な、な、な、な・・・・・・」

「メカジラコ」がコンクリートの塊を投げつけ、榴弾砲と高射砲を押し潰してしまったことを目の当たりにし、里在三将軍は「目が点」状態になってしまった。冷静沈着をモットーにしている里将軍ではあるが、さすがにこの事態には呆けてしまっているのだ。

 しかし、それでもしばらくすると気を取り直し、命令を発する里将軍である。

「ぜ、全軍に命令!全軍、酉京市より脱出、あのバケモノの手が届かないところまで、大急ぎで逃げるのです!!」

 遂に、里将軍も、自軍部隊の酉京市からの撤退を命じた。すでに、自分の手に負える状況ではない、ということにようやく気付いたのである。

「将軍閣下、逃げるのですか?!悪辣な敵の侵略を目の前にして!?」

 可口可楽大佐が驚き、里将軍に問い返した。

「いくら何でも、今の馬鹿げた戦況は、我々がどうにか出来るものではありません!道理で、侵略してきた敵部隊が、あっさりと逃げてしまう訳です。こちらも直ぐに、敵を見習えば良かったのですよ!!」

 里将軍は慌てふためき、すぐさま麾下の部隊に撤退を命令した。しかし、酉国陸軍部隊が、酉京市から撤退を始めたところで、またまたとんでもないことが起こってしまう。


「ドダ、ドダ、ドダダダーン」


 突然、強烈な揺れが、酉京市を襲ったのである。

「じ、地震?」

 里将軍は体勢を崩し、転びそうになってしまった。

「ち、違います!あれを!!

 可口可楽大佐が驚愕の叫びをあげる。大佐が指さす先には、尻をおろして座り込み、尻尾で体重を支え、足をジタバタと振り下ろし、地面を揺らし続ける「メカジラコ」の姿があった。まるっきり、地団駄を踏んで暴れている駄々っ子そのものである。図体のでかい「メカジラコ」が、バタバタ暴れて地震を発生させているのだ。


「うひょひょひょひょひょひょひょひょひょひょひょ〜、見たか!『メカジラコ』必殺の、『地団駄踏んだ地震』を!」

 マッドライフ犬柳田博士は、「空野田M−99」のコクピットから、ジタバタと足を地面に叩き付ける「メカジラコ」を見下ろし、高笑いを放っている。

「なんなんですか、これは?」

 ブラッド主任は呆れ果て、博士に問うた。

「見ての通りじゃよ〜ん。『メカジラコ』は、地団駄を踏んで地震を発生させることができるのじゃ!結構威力はあるぞい」

 博士の言う通りだった。「メカジラコ」の周囲の建物は、強烈な震動に襲われ、次々と崩壊してゆく。ただでさえ、「ローリング・ヒートブレス」で延焼して脆くなっていた、「メカジラコ」の近くにあった建物は、この震動に耐えられる筈もなかったのである。また、一斉に脱出を開始したとおぼしき酉国軍の集団も、大勢が転んで動けなくなってしまっている。
(第101回終了)




 



「はぁ・・・・・・」

「せっかく、時速5cmから6cmに、20%も性能を向上させた(←ここ、ポイントです)というに、キミのことだから先ず間違いなく、文句を言うじゃろうと思ったのでな。移動速度が遅くても、攻撃が多彩になるように、色々とオプション機能を付けておいたのじゃよ。ふぉふぉふぉふぉふぉふぉふぉふぉ」

 マッドライフ犬柳田博士は得意そうだ。

「いくら『メカジラコ』の移動速度が遅くとも、広範囲に地震を発生させることができれば、破壊力はかなりのもんじゃろうが。ひょぉほぉほぉほぉほぉほぉほぉほぉほぉ・・・・・・・・・」

 その間にも、「メカジラコ」は地団駄を踏み続け、地震を発生させ続けている。マッドライフ犬柳田博士の高笑いは、当分終わりそうにない。



 酉国への帰路から引き返してきた、酉国海軍戦艦「家鴨(あひる)」は、ようやく雑談港沖に到達していた。その艦橋から、ハチャメチャな事態に陥っている暦新島の様子を、図茂艦長は双眼鏡で一瞥すると、直ぐに命令を発した。

「帰る。回頭反転180度!」

 有無を言わさず指示を出す図茂艦長だが、すかさず街番五中佐がツッコミを入れる。

ちょ、ちょ、ちょっと待って下さい!ようやく暦新島に着いたのに、いきなり帰るというのは、あんまりなのでは?!」

 しかし、図茂艦長は、考えを変えようとはしない。

「冗談じゃない。ちゃちゃちゃ国のキチガイども、またああいうイカレた物体を繰り出してきてやがるじゃないか。おれのようなまともな人間が、あんな莫迦丸出しの茶番に付き合っていられるか!」

 図茂艦長は、嫌悪感剥き出しで、吐き捨てるように言った。前回の「チーズ奪取作戦」で、ちゃちゃちゃ国軍と戦った経験からして、あのような馬鹿げた特撮映画もどきを敵が繰り出してくる時には、ロクなことになりようがないことは分かっている。

「理不尽は理不尽でしょうけど、それでも命令は命令ですから。このまま、何もしないで帰ると、命令違反ということで、軍法会議が待っているということになるかも知れません。さすがに、それは艦長も嫌でしょう?」

 街番五中佐に諭され、図茂艦長は舌打ちした。

「まったく、何でおればかりが、延々とキチガイどもを構うハメにならないといけないんだ。冗談じゃないぜ」

 ブツブツと文句を言い続ける図茂艦長だが、それでも「帰る」のは止めたようだ。

「回頭反転180度は中止。右90度に回頭し、主砲を左舷に向けろ。砲戦準備!主砲、酉京市にいるあのバケモノに照準するんだ。照準が終わったらすぐに発砲しろ!!」

「ようそろ。艦を右90度に回頭させます」

「ようそろ。主砲、左舷に向けます。敵距離15800!」

 航海長の街番五中佐と、砲術長の住千中佐が復唱した。「家鴨」は、直ちに右に回頭し、主砲を左舷に向ける。照準が終わると、主砲発射のブザーが鳴り、轟音とともに砲弾が撃ち出された。
(第102回終了)




「ヒューーーーン、ドドドドドーン!」

「地団駄踏んだ地震」攻撃を続けている「メカジラコ」の周囲に、どこからか飛来した砲弾多数が着弾するとまた爆煙があがり、一瞬「メカジラコ」の姿は見えなくなった。砲弾の飛来音や爆発音は、酉京市に居る酉国陸軍が放ってきたものに比べ、桁違いに大きい。

「な、何じゃ?」

 高笑いを続けていたマッドライフ犬柳田博士は、突然の事態の変化について行けず、きょとんとした顔になる。

「あ、あれを!」

 傍らのブラッド主任が指差した窓外の方向には、海上に浮かぶ鋼鉄の城の姿があった。

「むおうっ?!あれは、『百舌鳥』級戦艦じゃな。酉国海軍の」

 マッドライフ犬柳田博士は、驚いたような様子を見せる。

「おや、一瞥しただけで見分けるとは、博士はかなりの軍艦オタクと見ましたが、そうですね?」

「ブラッド君。今更何を言っているのかね。キミとワシとの、長い付き合いじゃろが」

 博士はニヤリと笑い、同じように笑いつつ冷ややかな目を向けているブラッド主任との間に、緊張感が漂う。しかし、それも束の間だった。「百舌鳥」級戦艦からの次の斉射砲撃が、「メカジラコ」に着弾したからである。

「家鴨」の砲撃は、比較的近距離から始まったので、初弾から「メカジラコ」の至近距離に着弾している。以前、戦艦「百舌鳥」は、「パシフィック・ストーム」級戦艦との遠距離砲撃戦で、結局は一発も命中させることができなかったが、今回はそのようなことはない。

 二斉射目の砲弾は、狙い違わず「メカジラコ」を直撃した。一際大きい爆発音が鳴り響くと、「メカジラコ」が爆煙に包まれる。煙が晴れると、「メカジラコ」の右の掌の指が、全て吹っ飛んでいる様子が見える。さすがに、「家鴨」の大口径砲弾は、効果があったようだ。

「あらららららら・・・・、『メカジラコ』の右手、やられちゃったようですよ。いくら何でも、戦艦の砲撃には耐えられませんか・・・・・・・・」

 下の様子を見下ろして、他人事のように云い放つブラッド主任に対し、マッドライフ犬柳田博士は唐突に怒り心頭に発している。

何じゃと!?おのれおのれ、ワシのかわいい『メカジラコ』に何てことを!うぬぬ、あの『百舌鳥』級戦艦には、地獄を見せてやらねばならぬようじゃの!!」

 博士はマイクを取ると、「メカジラコ」に向け喚き散らした。

「良いか、『メカジラコ』よ!あの敵戦艦を、海の藻屑にしてしまうのじゃ!どんな手段を取っても構わんぞ!!」

「ところで、『メカジラコ』の目の色、赤の点滅に変わっているようですけど、あれって何か意味があるんですか?」

 ブラッド主任の問いに、博士は即答する。

「あれは、完全無差別攻撃モードへ移行した、ということじゃ。『メカジラコ』は傷付けられて、怒り狂っているんじゃよ」

「ちょっと待って下さい。それって、周りのもの全てを攻撃する、とかいうことになるんじゃないでしょうね?」

「そうじゃよ。何か問題はあるかね?」

 しれっとした顔で言う博士に対し、ブラッド主任の顔は青ざめている。
(第103回終了)




「それって、私たちが乗っているこの『空野田M−99』も攻撃対象に入る、ということにはならないでしょうね?!」

「ははははは、馬鹿な事を言うものではないぞ、ブラッド君。そんなことがある訳な・・・・・・」

 博士の笑いは、途中で凍り付いた。

しもうた!完全無差別攻撃モードになると、『メカジラコ』は、敵味方の判別が付かなくなるんじゃった・・・・・・」

 博士が言い終わらない内に、「メカジラコ」の方から、コンクリートの塊が、「空野田M−99」に投げつけられて来た。そして、それは「空野田M−99」を直撃する。


「ドガガガガーン」


 もの凄い衝撃が「空野田M−99」を襲い、マッドライフ犬柳田博士とブラッド主任の二人は、床に投げ出された。そして、「空野田M−99」は、煙を吐き出しながら、墜落し始める。「メカジラコ」が見境なく投げつけた、瓦礫の塊が「空野田M−99」に命中したのだ。

「は、は、博士!どうするんですよ?!」

「な、何のこれしき。ピポッとな」

 マッドライフ犬柳田博士が何とか立ち上がり、操作卓にしがみついて、ボタンを押すと「空野田M−99」は何とか安定を取り戻した。しかし、損傷はかなりのものであったようで、ヨタついたような、フラフラした飛行しかできなくなってしまう。

「脱出じゃ!全速で逃げるぞ!!」

 その間にも、「メカジラコ」が投げつけ続けている、瓦礫の塊が「空野田M−99」の至近距離を通過してゆく。博士の操作で、「空野田M−99」は、ヨタつきながらではあるが、一目散に「メカジラコ」から逃げ始めた。その内、距離が遠くなったのか、瓦礫が飛んでくるのが止む。

「ったくもう、何で『完全無差別攻撃モード』なんて、はた迷惑な機能を付けるんですよ。危うく、こっちがやられてしまうところだったじゃありませんか」

 ブツブツと文句を言うブラッド主任だが、マッドライフ犬柳田博士は、耳を塞いで知らん顔を決め込んでいる。取り合うつもりはないらしい。

 ようやく、安全圏に脱した「空野田M−99」は、そのまま研究所への帰途に着いた。「メカジラコ」は放ったらかしである。実に無責任極まりない、マッドライフ犬柳田博士であった。
(第104回終了)




「空野田M−99」に逃げられた「メカジラコ」は、次の攻撃目標を、沖から砲撃を加えてくる「家鴨」に絞った。まだ健在な左手でコンクリートの瓦礫を拾い上げると、「家鴨」に向けて投げつける。しかし、15キロ先の「家鴨」には、全く届かない。さすがに、距離が遠すぎるのである。投石機程度の威力で、大砲に対抗しようとするのは無理なのだ。

 瓦礫が「家鴨」に届かず、海に落ちるのを見て「メカジラコ」は、尻尾をバタバタと振り上げ、更に怒った。その間にも、「家鴨」からの砲撃は、40秒置きに着弾し続ける。掌の指のような脆弱な部分でない限り、「家鴨」の砲撃を雖も「メカジラコ」の装甲板を打ち破ることはできなかったが、「メカジラコ」に命中した砲弾は、着実にダメージを蓄積させてゆく。


「あんぎょろぇぎしゃ〜」


「メカジラコ」が一際大きな叫びを上げると、目の赤のフラッシュの間隔が早くなった。そして、口を大きく開け、「家鴨」に指向する。すると、口の中から、砲身のようなものが突き出してきた。

「うおぅ!遂に最終兵器『拡散マッドライフ砲』の出番じゃな!!」

 マッドライフ犬柳田博士がこの場に居たら、そう叫んだことであろう。拡散マッドライフ砲、博士が「メカジラコ」に仕込んだ秘密兵器である。しかし、博士が退場してしまった今、その実態を知る者は誰も居はしない。


「拡散マッドライフ砲発射用意」

「拡散マッドライフ砲への回路を開きます。安全装置解除、シリンダーへの閉鎖弁オープン」

「拡散マッドライフ砲、エネルギー注入開始」

「拡散マッドライフ砲、シリンダー内圧力上昇。エネルギー充填85%」

「エネルギー充填100%、ストライカー圧縮機作動!」

「エネルギー充填120%!発射20秒前、最終セーフティ解除!」

「ターゲットスコープオープン!電影クロスゲージ明度9。目標、前方『百舌鳥』級敵戦艦、距離一万五千!発射10秒前、対ショック、対閃光防御!」



 ここまで来たところで、「メカジラコ」の赤く点滅する目に、黒いフィルターが降りた。何でそんなものが必要なんだ、と思うかも知れないが、一応、拡散マッドライフ砲発射時の閃光で、「メカジラコ」の目の役割を果たしているCCD素子が、焼き切れないようにする為である。

 「メカジラコ」の人工頭脳の論理回路内で命令コマンドが飛び交い、着々と拡散マッドライフ砲の発射準備が整って行く。別に誰が唱えている訳でもなく、単に0と1のビットで構成されている機械語の命令を、読者に分かりやすいように翻訳しただけのことであるが。なお、拡散マッドライフ砲は、以前「空野田M−99」に搭載されていた「拡散」なしの「マッドライフ砲」の改良型になっているので、若干性能が上がっていたりする。
(第105回終了)




「よし、命中だ!続けて撃つんだ!!」

 戦艦「家鴨」の艦橋で、図茂艦長は気勢をあげていた。「チーズ奪取作戦」の時に、ちゃちゃちゃ海軍のパシフィック・ストーム級戦艦と戦った時は、一発も命中しなかった主砲弾だが、「メカジラコ」に対しては、面白いほど命中弾が続出している。三万メートルの距離で動いている目標ではなく、その半分の一万五千メートルの距離でほとんど動かない相手に撃っているのだから、命中率は高くなって当然なのだが、住千砲術長の砲戦指揮で、ある程度大きな目標に命中させたのは、これが初めてなのだ。図茂艦長でなくても、感慨に耽っても不思議はないだろう。

 酉京市に居る「機械のバケモノ」の方からは、瓦礫の塊が「家鴨」に向かって投げつけられて来たが、まるで届きそうにない。半分にも至らない距離で、虚しく海に落ちるだけである。それを見て、図茂艦長は笑い出した。

「何だ?あのバケモノは。石ころか何かを投げつけて、反撃しているつもりなのか?莫迦丸出しだな、ハハハ

 図茂艦長の嘲笑は続く。「家鴨」の砲撃に対し、手も足も出ない「メカジラコ」を目前にして、思わず失笑が零れていた。

「艦長、笑っていても大丈夫なんですかね?どうも、嫌な予感がしてしょうがないんですけど。それに、何だか反応変わっていませんか?」

 傍らの街番五中佐が、図茂艦長に話しかける。すでに、酉京市の「機械のバケモノ」は、瓦礫を投げつける行動は中止していた。口を大きく開け、「家鴨」の方を指向しているようだ。

「ハハハ、何をそんなに心配しているんだ。見たか、あの間抜けぶりを。ちゃちゃちゃのキチガイどものやることは、前とちっとも変わりがないじゃないか。あんな莫迦など、放っておいても大丈夫だ」

 断定的に言う図茂艦長に、街番五中佐は黙ってしまう。それでも中佐の「勘」は、危険の到来を訴えていたのだが、それが具体的に何であるかは指摘できず、図茂艦長が楽天的な状態では、中佐もこれ以上何かを言うことはできなかったのだ。



「発射10秒前、耐ショック耐閃光防御!!9、8、7、6、5、4、3、2、1、拡散マッドライフ砲発射!!

「メカジラコ」の口から突き出した砲口から、強力な青白い光の束が撃ち出される。それは一直線に「家鴨」を目指すと、目標まで距離1キロほどのところで集束し、続いてエネルギーの束が飛び散った。そして、シャワーか何かのように、エネルギー弾多数が「家鴨」に降り注ぐ。(第106回終了)




「?#$$%%&#”=〜*+@〜¥!!」

 強烈な光の束が「家鴨」に向かってくるのを目にして、図茂艦長も街番五中佐も、一瞬視力を奪われ、言葉にならない叫び声を上げた。そして、次の瞬間、「家鴨」に降り注いだエネルギー弾が、艦の各所に爆発を起こす。


ドガ、ドガ、ドガガガーン


 図茂艦長も街番五中佐も、この衝撃にはひとたまりもなく、床に投げ出された。

「い、一体、何が、起こったんだ?!」

 図茂艦長がようやく立ち上がり、視力も回復したところで辺りを見渡すと、とんでもないことになっていた。「家鴨」の砲塔は両用砲を含めて全て吹っ飛んでいるどころか、第三砲塔のところでは艦体が裂け、海水の流入が始まっている。艦橋に大した損傷がないことが、奇蹟のような無惨な状態である。このままでは、「百舌鳥」と同じく、「家鴨」の沈没は間違いないところだろう。

 しかし、こうなってしまっては、何もやりようがない。ダメージをどうにかコントロールして沈没しないようにする、というような状態ではなかった。艦が沈む前に、どれだけ早く逃げ出すか、といったところである。

「か、艦長、一体どうなったんですか?」

 街番五中佐が立ち上がってきて、図茂艦長に問いかけた。

「分からん。分からんが、どうやらあのバケモノの反撃を受けたようだな。この『家鴨』の命運も、これまでのようだ。総員退艦を命令する」

 図茂艦長はマイクを取ると、全艦に向かって退艦を命令した。その後、伝声管にも同じことを告げて回る。

「おい、お前らも早く退艦しろ。ボサボサしていると、艦の沈没に巻き込まれるぞ。それに、あのバケモノが二撃目を喰らわしてこないと限ったもんじゃない。早くするんだ」

 あくまで冷静に「総員退艦」を命令する図茂艦長である。それを受けて、艦橋の要員たちも、扉を開けて外に出て、ラッタルをゾロゾロと降り始めた。一応、艦橋にエレベーターは付いてはいるものの、この状態でそんなものが動く保証はない。仮に動いたとしても、途中で電源が切れて止まったりしたら、それこそ逃げようがなくなる。自分の足を使って逃げるのが、一番確実な方法であった。

「全く、何でこうやっておればかりが、キチガイどもの相手を一々せにゃならん上に、何度も艦を沈められる目に遭わなきゃならないんだ?どうにかして欲しいもんだぜ」

 ブツブツ文句を言いながら舷側に達した図茂艦長は、海面に降ろされたカッターに乗り込み、艦を離れた。それでも、沈没までは時間があったので、「家鴨」に備え付けてあるカッターを降ろすことくらいはできたのである。人力で漕がなければならないような代物だが、海に飛び込んで泳ぐよりは遙かにましだ。
(第107回終了)




「あんぎれおれ〜」


 拡散マッドライフ砲の直撃で「家鴨」を一撃で粉砕した「メカジラコ」は、勝利の雄叫びを上げた。そしてバタバタと尻尾を振り上げ、右に左に振り、目を色と順繰りに点滅させている。どうやら、喜んでいるらしい。



 その間に、里在三将軍の一行は酉京市から脱出し、「メカジラコ」から離れ、ひとまずは安全とおぼしき距離に達している。

「将軍閣下、ここまで来れば、取り敢えずは安心です。ところで・・・・・」

 可口可楽大佐は、話を続けた。

「ところで、この後どうしましょうか?あの機械の怪物が居座っているのでは、酉京市には帰れませんし、何とかアレを排除しようにも、今の我が軍の装備では到底不可能と思えます。野砲も高射砲も効果なかった上に、今見た通り、海軍の戦艦も撃破されてしまいましたからね」

 可口可楽大佐は困り切っていた。何とか「メカジラコ」を破壊する方法を里将軍に提案したいのだが、八方手詰まりで何も案が出てこない。苦悩した顔で、将軍の答を待った。

「こうなってしまっては、我々の手で何とかできる事態とは言えないでしょう。こんな馬鹿げたことは、想定できるものではないのですから。私としても、これ以上我々にできることはないと思います。本国に報告して、指示を仰ぎましょう」

 里在三将軍は、無線機を用意させると、本国に打電させた。

「現在、我ガ軍ハ酉京市ヨリ撤退。酉京市内ニハ、敵ノ機械怪獣ガ在リ、破壊ヲ欲シイママトスルモノデアル。我ガ軍ノ攻撃ハ通用セズ、海軍ノ戦艦ニヨル砲撃モ効果ナシニ終ワル。今後ノ我ガ軍ノ行動ニツイテ、指示ヲ乞ウ」



核武器を使います」

 酉国鳥酉艦隊司令部。戦艦「家鴨」の沈没の報告が届くと、司令長官米鉢次帥は直ちに「核武器」の使用を命令した。

「し、しかし、暦新島、酉京市は我が酉国の領土です。領内で核兵器を使うなど、あまりと言えばあまりな暴挙です。考え直すべきなのではないでしょうか?」

 ムエ少佐は、それでも米鉢次帥を諫めようとする。しかし、もうその諫めは通じなかった。

「こういう事態となった責任は、全てちゃちゃちゃ国の悪辣な侵略にあります。共和国は、本当に、本当にやむを得ず、核武器の使用を余儀なくされただけなのですよ。ということですので、速やかに核武器を、暦新島酉京市の敵に対し使用するように。それと、何度言ったら分かるのですか。核兵器ではなく核武器です。偉大なチョソン民族の名称を、蔑ろにしてはいけません」

 米鉢次帥は、どうでもいいような名称にあくまで拘るようだ。それに、いつの間にか酉国のことを「共和国」とも呼んでいる。それはともかく、暦新島で「核武器」を使うという、次帥の鋼鉄の意志に揺るぎはない。
(第108回終了)




「それでは、準備させておいた『千里馬一号』の出撃を。目標は暦新島酉京市、敵の頭上に核武器を投下するのです」

 次帥の命令で、本国の酉国海軍鳥山基地に待機していた「千里馬一号」が、直ぐに発進した。本来、酉国では戦略爆撃機は「存在自体が犯罪的」という見解なので、機体の開発や配備は厳しく規制されているのだが、「核武器」専用の機体として大型爆撃機の「千里馬一号」のみ、一機だけが酉国海軍航空隊に配備されているものだ。この機体の存在は極秘なので、ちゃちゃちゃ国は未だその実態を掴んではいなかった。

「千里馬一号」は、2200馬力「解放」エンジン八発の巨大機で、ちゃちゃちゃ国の「スーパーエントロピー」戦略爆撃機より一回り以上大きい。巡航速度480キロで航続距離16000キロ、暦新島への爆撃行には、十分過ぎる程の性能を持っている。搭載するのは重量5.4トンの「殲滅」原子爆弾一発のみ。弾頭威力は20キロトンである。すなわち、広島型なみの、TNT火薬換算2万トンということだ。

 巨大で重い「千里馬一号」は、3000mの滑走路を一杯に使って、ようやく離陸した。二時間程度で酉京市上空に到達し、爆弾を投下する筈だ。



 ルドルフ・ナンバー将軍は輸送船上に逃れ、撤退作業を続けさせていた。将軍の乗った船は、すでに暦新島からかなり離れた位置にある。上陸地点は割と狭いので、一度に多くの船を寄せておく訳にはいかない。部隊の撤収が終わった船から順繰りに、暦新島から離れていかなければならないのだ。しかし、そこまで離れたところでも、酉京市にどでんと居座っている「メカジラコ」の姿はよく見えている。瓦礫を投げつけたり、妙なエネルギー弾を発射していたりしたのは、将軍も目撃していた。訳の解らないバケモノからさっさと遠ざかることができたので、ルドルフ将軍としては一安心といったところだろうか。

「マッタク、ワタクシに任せておいてくれれば、イカサマ将軍などあっという間に叩き潰してくれたものを。マッドライフ犬柳田博士には、とんだ邪魔をされたものです。あの機械怪獣を何とかせねば、暦新島の攻略ができないではありませんか」

 ルドルフ将軍はブツブツと文句を言っている。まだ、暦新島攻略を諦めてはいないようだ。しかし、事態はそれどころではないところに向かっていたのだが、ルドルフ将軍にはそのことは分からない。



 高度一万メートルに達した「千里馬一号」は、暦新島に向かって南下を開始した。酉京市上空までは約二時間。機長の鈴鳴大佐以下「千里馬一号」のクルーは11名。難しいことは何も考えることなく、命令通り機械的に実行すればいいだけの作戦である。



「レーダーに国籍不明機の反応!北北東110キロ、高度一万メートル、時速480キロで南下中。一機のみ」

 ちゃちゃちゃ海軍空母「フューチャーシンキング」のレーダーが、北から南下している航空機一機を確認した。

「高度一万メートルで単機飛行中、ということは味方の『スーパーエントロピー』機でしょうかね?酉国には、戦略爆撃機はない筈ですので。偵察の帰りか何かでしょうか?まあ、我々は戦略空軍の作戦に、どうのこうの言える立場ではありませんが」

 この「不明機接近」という情報を確認すると、一航戦司令部でゲッカイ中佐が疑問を呈した。普通に考えれば、単機で高々度を飛行している、ということは偵察以外には考えづらい。
(第109回終了)




「まあそれにしても、一応警戒はしておきましょう。戦闘機隊を発進させ、艦隊上空に待機させます。それと、その目標に対する要撃行動を。本当に『スーパーエントロピー』機なのか、目視で確認させないといけませんね」

 ゾック少将が決断すると、「フューチャーシンキング」からは、直ぐに戦闘機隊が発進して行った。ちゃちゃちゃ海軍の艦上戦闘機は液冷エンジンの「Ang15 アンジェロ」戦闘機なので、高度一万の目標にも十分対処できる。それに、レーダー上の国籍不明機が接近してくるまでには、まだそれなりに時間があるので、「Ang15 アンジェロ」の性能なら、高々度まで上昇することも可能だ。

「フューチャーシンキング」から発進した戦闘機は6機。4機が艦隊上空の守備に就き、2機が接近してくる高々度飛行機に向かっていった。



 鈴鳴大佐の「千里馬一号」は、暦新島に向かって急速南下を続けている。間もなく、暦新島に到達する、と思ったその時だった。前方から戦闘機二機が、「千里馬一号」に向かって、急速に接近してきたのである。

「敵機、接近!」

 前方見張り員がちゃちゃちゃ国軍の識別マークを確認し、警告を発する。鈴鳴大佐は咄嗟に操縦桿を傾け、機体を右に倒して衝突を回避させた。

「何だ!?こいつは!『スーパーエントロピー』じゃないぞ!!」

「アンジェロ」戦闘機を操るタクヤン大尉は驚きの声を上げた。その間に大尉の「アンジェロ」戦闘機は、「千里馬一号」の至近距離を高速ですれ違い、後方に抜けている。

「反転して、再度接近する!」

「アンジェロ」戦闘機二機は、「千里馬一号」の後方で左垂直旋回すると、「千里馬一号」を追う。さすがに、高速の「アンジェロ」だけあって、じきに追いついて来る。時速五百キロ出ない「千里馬一号」に対し、七百キロ以上出る「アンジェロ」であるのだから、それも当然の話だ。

「何だこの機体は・・・・重爆なんだろうが、見たこともないやつだな・・・・」

 八発重爆の「千里馬一号」は、ちゃちゃちゃ国の「スーパーエントロピー」と比べても、かなり大きなものである。そのせいで、タクヤン大尉の距離感は狂っており、かなり「千里馬一号」に接近したつもりになっていても、まだ五百メートルは離れている有様だ。

「もっと接近するぞ!」

 タクヤン大尉は自分の「アンジェロ」を「千里馬一号」に接近させた。ようやく三百メートルを切ったと思ったあたりで、目前の重爆から銃撃が加えられたのである。
(第110回終了)











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