悪ふざけ架空戦記2 暦新島上陸作戦
第21回〜第30回
「そうですか。○○もいよいよ○○○のようですね。今後の○○に○○しましょう」
突然訳の解らないことを言い出すテイラー代将である。この前は○○○○○○と訳の解らない○○をしていたのだが、もう言うことが違ってしまっている。それに、何の○○に○○しようというのか、何が○○○なのか、誰にもさっぱり解らなかった。テイラー代将も、相変わらず意味不明な御仁だと言えよう。
結局、「『百舌鳥』級戦艦酉鳥港出港」の情報は、ヨン提督の司令部では検討されることもない始末である。折角の情報も何の役にも立たない、というのだから本当に訳が解らない、謎の艦隊司令部であった。
「ちょっと!『もづ』クラスの戦艦が出たってホントなの?」
こちらは空母「フューチャーシンキング」の一航戦司令部である。スター・プラスチック少佐が「百舌鳥」級戦艦出港のニュースを聞いて、駆け込んできた。
「本当です。『百舌鳥』級戦艦一隻が、酉鳥港を出港。駆逐艦、輸送船とともに行動を開始した、とあります。これは、建造中だった2番艦『家鴨(あひる)』が就役したのではないかと」
トロローテン司令部の解散を受けて、一航戦の通信参謀に横滑りしてきたライカ少佐が答えた。艦隊司令部から戦隊司令部への移籍なので、格落ちなことは間違いないが、ヨン提督の司令部に所属するよりはマシだ、と本人は思っているようだ。もっとも、ライカ少佐はヨン提督とはほとんど関わりがなかったので最初から声が掛かっておらず、どのみち転出は間違いなかったのは事実である。
「そう、本当なの。オホホホホホ、今度こそはあたいの手で沈めてやるわよ!」
スター・プラスチック少佐は気勢をあげた。この前の「オペレーション・バードウォッチング」で「百舌鳥」を航空攻撃した時には、爆弾と魚雷が補給参謀のリョーゴ少佐の手で、花火と不発魚雷にすり替えられてしまっていた為、命中弾多数を浴びせたのに、「百舌鳥」にはほとんど被害を与えていない。
「さて、そう上手く行きますかね。何しろ、艦隊司令部があの体たらくですから。的確に作戦指揮を行えるかどうか、解ったものじゃないと思いますよ」
一航戦司令官のゾック少将が嘆く。ゾック少将でなくても、ヨン提督の艦隊司令部のシッチャカメッチャカさには、いい加減嫌気が差してきている。特に困ったことは、何を言ってもロクに返事が返ってこないことだ。中でも、ヨン提督の承認を必要とするような要件は最悪である。何しろ、普段からずっと惚けているヨン提督だし、そもそも事務処理能力に欠けているので、たまたま惚けていない時でもロクな話にならない。「ヨン提督の『承認』は、申請してから一年後に出れば早い方だ」というのが、ちゃちゃちゃ海軍では常識となっている、ということでどれだけ無惨か取り敢えず解るだろう。有能な副官でもいれば話は早いのだろうが、残念ながらヨン提督の副官にはなり手がいなかった。なかなか「有能な美人の女性副官」が付くなどという、どこかの小説のようなうまい話にはならないものだ。
(第21回終了)
「いいじゃない別に。『もづ』級戦艦が出てきたら、こっちの判断で勝手に攻撃すれば。どうせあのヨン提督のことだから、戦闘中も居眠りしているだけで、作戦指揮なんかできっこないわよ」
「ヨン提督なんか放っておけ。無視で良し!」と言う、スター・プラスチック少佐である。
「いや、それをやるとヨン提督はともかく、参謀長のテイラー提督が問題かも知れませんな。何の指示も出さないでいた場合でも、『司令部の作戦指揮を無視した』とか何とか理由を付けて、こちらを処分しようとするのでは、と小生は危惧しますが。あの御仁はかなり危険ですぞ。訳が解らないことしかやらないのに、プライドだけは異常に高いですから」
ゲッカイ中佐が危惧した。ヨン提督だけではなく、テイラー提督もあまり評判はよろしくない。しかもヨン提督は単に「惚けていて訳が解らない」だけなので実害は薄いが、テイラー提督の場合はかなり「こわひ」部分があるので、トラブルになった時はこちらの方が厄介だろう。何だかよく解らない「団体」と懇意にしているということなので、場合によっては何を始めるやら解ったものではないのだ。
「フン、何よ。場合によっちゃあたいが『ドッグボード』に一発お見舞いしてやるわよ。あたいだけぢゃなくて、スタプラ一家総出でね。一瞬で火だるまにしてやれば、テイラー提督だろうが何だろうが、何も言えなくなるに決まっているわ」
かなり過激な事を言い出すスター・プラスチック少佐であった。
「まあまあそう言わずに。いくら何でも過激すぎますよ、それでは」
さすがにライカ少佐が止めた。
「まあいいわ。でも『もづ』級戦艦が攻撃圏に入ったら、真っ先にあたいに教えて頂戴ね。今度はあたいが仕留めてやることに決めたのよ、オホホホホホ」(←ここ、ちょっと気合い入ってます)
スター・プラスチック少佐はそれだけを言うと、一航戦司令部を後にする。以前「百舌鳥」を攻撃した時に、仕留めるどころか、結果的に「お笑い攻撃」としか言いようのないモノををやってしまった事に対する遺恨は深いらしい。「お笑い攻撃」になってしまう原因を作ったリョーゴ少佐は、刑務所の中で服役中なので、恨みを晴らそうにも手も足も出ない。当の「百舌鳥」は沈んでしまっているので、これも今更恨みを晴らしようにもない。「百舌鳥」級の新造戦艦が出てきた、となれば気が逸るのも仕方のないところだろう。
(第22回終了)
その一週間後、ちゃちゃちゃ国本国首都の埠頭でも、「暦新島攻略作戦」用の輸送船団へ攻略部隊と補給物資の積み込みが完了していた。
「ギャハハハハハハハー、それでは『暦新島攻略作戦』開始としましょう。妄言将軍里在三(笑)を島から叩き出し、宿無しにしてやるのです(キッパリ!)」
ルドルフ将軍の指令で、暦新島攻略船団は一斉に動き出す。ヨン提督の艦隊は、すでに先行しており、暦新島周辺の制空権制海権を奪取することになっていた。攻略船団は一応の安全が確認されてから、暦新島へ接近する予定である。
「ルドルフ閣下ははしゃいでいるようですけどね、果たして上手く行くんですかね?この作戦。まあ上陸してからの戦闘については、この前を違って戦艦に挑む訳ではないですから、あまり不安はないでしょうけど、海軍部隊がどうなのか。何しろ、司令官があのヨン提督ですからね。制空権制海権の奪取、なんてあの提督に可能なのかどうか。私は責任持ちたくないですよ」
グラス・スカイラーク中佐がブツブツ呟いている。「暦新島攻略作戦」が実現して喜んでいるルドルフ将軍だが、スカイラーク中佐はそれだけで楽観的な気分になることはできなかったのだ。正直言って「海軍のせいで作戦が失敗しても、俺は知らんぞ」という気分だったのである。
一航戦、空母「フューチャーシンキング」「ヒストリー」、重巡1、軽巡2、駆逐艦8。二航戦、空母「ボッタクリー」モンキーボード」、軽巡3、駆逐艦9。三航戦、空母「ドッグボード」、重巡3、軽巡3、駆逐艦10。ヨン提督以下の司令部が座乗する艦隊旗艦は空母「ドッグボード」で、「暦新島上陸作戦」に参加する戦闘艦艇は、この44隻であった。空母艦載機の総数は常用・補用含めて419機。戦艦こそないが、母艦航空隊の航空打撃力を考えると、かなりの規模の戦力と言っていいだろう。この他に補給艦やタンカーが随伴しているが、ルドルフ将軍の上陸部隊とは当然別行動で先行している。艦隊速度30ノット発揮可能な高速機動部隊と、低速の輸送船団では行動が分離するのは仕方あるまい。
「イヤーッ、マッタク壮観なもんだよネェ〜、いっちょブワーッといってみよう!」
テイラー提督がやたらと調子に乗っている。「ドッグボード」の艦橋から、勢揃いした「ヨン艦隊」の姿を眺め、悦に入っているようだ。その傍らで、肝心のヨン提督は・・・・・・・・眠りこけていた。帽子を深く被り、足を机の上に投げ出し、鼻から提灯を出し、すやすやと気持ちよさそうに寝ているようだ。隣でテイラー提督が騒いでいても、まるで気にならないらしい。気楽なものである。そんな様子のヨン提督でも、○○○い○○○○○○はまだ○○に○○○○○て○○○○○ので、誰も何も言いはしない。この司令部ではまだマトモな方のウエスト中佐も、ヨン提督には何を言っても無駄と思っているようで、これも何も言わないようだ。ショウナー少佐は他人のやることにはほとんど興味を持たないし、ムクマー少佐も、自分の職分以外には積極的に口を挟むことはないようである。結局調子に乗っているテイラー提督が、一人で「ハイ」になっているだけであった。
(第23回終了)
「ヨーッしゃ、本日の航空隊の訓練は〜、『ドッグボード』の上空で曲芸飛行を行うこと、としてみよう!早速一航戦に命令しようかなァ」
調子に乗ったテイラー提督は、遂に無茶苦茶を言い出す。
「あのー、艦隊司令部から変な命令を送ってきたのですが・・・・・・」
ライカ少佐がいかにも「困惑した」と言いたげな表情で、ゾック少将に電文を渡す。一読してゾック少将はブッ飛んだ。
「ヤッ、ドモドモ。ド〜モ。本日の訓練内容を伝えます。一航戦各飛行隊は、直ちに『ドックボード』上空に飛来し、順番に三回宙返り飛行を行うこと。 ヨン艦隊参謀長 J.U.テイラー でわでわ (^^)/~~」
と書いてあったからだ。
「何だ、こりゃ?」
ゾック少将は呆れ果てた。「訓練」はともかく、何で飛行隊に「ドッグボード」の上空で宙返りなどを行わせねばならないのか。曲技飛行団じゃないのだから、そんなことをやってもほとんど意味がない。まだ戦闘機隊だけにやれ、というのなら空戦機動で宙返りする事もあるだろうから意味はあるかも知れないが、艦爆や艦攻がそんな事をやって、一体何の意味があるのか。まるっきり意味不明である。
「一体何を言ってきたのでしょうか?」
ゲッカイ中佐の質問に、ゾック少将は黙って電文を中佐に手渡した。それを読んでゲッカイ中佐も呆れた。
「何でしょうか?これは・・・・・」
絶句してしまった中佐だが、「何だこりゃ」はゾック少将も聞きたいくらいだ。一体テイラー提督は何を考えているのか?
「知りませんよ。私はテイラー提督じゃないんだから。一体、何を考えているんでしょうかねぇ?本当に訳が解りません」
ゾック少将もゲッカイ中佐も、ライカ少佐も唖然呆然としているところに、スター・プラスチック少佐が入室してくる。
「あら、どしたの?皆の衆。景気の悪い顔をしちゃって」
ゾック少将が、無言で電文の紙片を差し出す。スター・プラスチック少佐は、それを読むとケタケタ笑い出した。
「オモシロイぢゃないの。テイラー提督に、『スタプラ一家ここにあり!』ということを、見せつけてやることにするわよ。『ドックボード上空』といったって、高度を指定している訳ぢゃないわよね、オホホホホホ」
スター・プラスチック少佐は、何やら良からぬ事を考えついたようだ。その様子を見て、ゾック少将とゲッカイ中佐は思わず顔を見合わせる。どちらの目も「あんまり無茶はやってくれないといいんだけどな〜」と語っていた。
(第24回終了)
「行くわよ〜、スタプラ一家全機出撃!」
スター・プラスチック少佐の掛け声とともに、「フューチャーシンキング」の飛行甲板から艦載機が次々と発進し始める。先ずは戦闘機、次に艦爆、最後は艦攻、という順だ。飛び立った艦載機の群は、中隊規模での編隊を組み、「ドッグボード」の方へ向かって行く。
「いい?打ち合わせの通りにやるからねっ!コケコケ提督の度肝の抜いてやるのだわさ。皆の衆、かっかれ〜!」
弾んだ声で無線機で話しかけるスター・プラスチック少佐だが、後席では。ギーモン中尉が頭を抱えている。
「少佐、本当にやるんですか?」
恐る恐る訊ねるギーモン中尉に、スター・プラスチック少佐はケタケタ笑いながら答えた。
「当ったり前ぢゃないの。コケコケテイラー提督には、ガツンと一発やってやんなきゃなんないかんね!」
(↑ここ、重要です)
(キッパリ!)と言い切る少佐であった。
「それ行け〜、アタ〜ック開始〜!!」
スター・プラスチック少佐は、愛機を空母「ドッグボード」へ向けて急降下させた。残りの機も少佐機続いて、縦の一本棒状態で急降下してゆく。その間に戦闘機隊は宙返りを敢行し、艦攻隊は高度を下げ、「ドッグボード」を両舷から挟み込むように迫っていった。まるっきり攻撃態勢そのものである。
「一航戦艦爆隊、後方より急降下中!」
「同じく一航戦艦攻隊、左右両舷より超低空飛行にて接近!」
見張り員の悲鳴のような報告が「ドッグボード」の艦橋に飛び込んでくる。「ドッグボード」艦長のマッキートニー大佐は、事態がよく飲み込めずに唖然としていた。何で味方の一航戦艦載機隊が、「ドッグボード」を目標にして攻撃を掛けるような真似をせねばならないのか。しかしさすがに一艦の艦長を任されるだけの事はあって、すぐに鋭く命令した。
「機関停止。面舵一杯!」
「ドッグボード」は速度を落とし、右に回頭を始める。雷爆撃からの回避行動としては、適切なものであった。もっとも、味方に襲撃されるとは夢にも思っていなかったので、タイミングとしては遅きに失したことは否めない。
「一航戦艦爆隊、本艦直上を通過!」
爆音を鳴り響かせて急降下してきたスター・プラスチック少佐機以下の艦爆隊は、「ドッグボード」の三百メートル程度上空で機首を持ち上げると、そのまま通り過ぎて行く。三百メートルというのは、ほとんどぶつかるんじゃないか、というくらいの低高度である。仮に艦爆の急降下速度が時速400キロとすると、秒速は111m程になる。三百メートルなど、三秒足らずの時間でしかない。実際、「ドッグボード」の飛行甲板に居た兵員たちは、皆驚いて伏せてしまっている程だ。
続いて、左右両舷から迫ってきた艦攻隊が、「ドッグボード」の飛行甲板を舐め、艦橋をかすめるように次々とフライ・パスして行った。「ドッグボード」の艦橋中に轟音が響き渡り、艦橋内の全員はしばらく何も聞こえない状態に陥る。
(第25回終了)
咄嗟に伏せていたテイラー提督ら、艦隊司令部幕僚が立ち上がった時には、一航戦艦載機隊は「ドッグボード」から遠ざかりつつあった。青ざめた顔で震えているテイラー提督だったが、そこへ通信が入ってくる。ムクマー少佐が通信文を記した紙片を受け取って一読すると、テイラー提督に渡した。
「ホーッホッホッホッホ、一航戦艦載機隊の『訓練』はいかがだったかしら?やれと云うのであれば、何度でもご披露するから、そのつもりでね(←ここ、深読みして下さい)」
テイラー提督は、それを読んでも同じように青ざめた顔で震えているだけである。しかしさすがに「怯え」から「怒り」には感情が変化したようだ。とは云っても、その怒りを具体的に発露する相手が目の前にいる訳でもないので、怒りのやり場には困ってしまっているようだ。
しかしこんな状況になっていても、ヨン提督は熟睡していたようだ。何が起こっているのか、全く理解していないらしい。気持ちよさそうに眠っている。暢気なものであった。他の幕僚たちも全員起きあがって来たが、テイラー提督のように怒っている者はさすがにいない。もっとも、青ざめた顔で震えているテイラー提督を見て、皆黙ってしまったようではある。
「オーッホッホッホッホッホッホッ。これでコケコケ提督も、少しは身に滲みたでしょうね。あたいらスタプラ一家を舐めた者が、どういう目に遭うかを思い知りなさい!!」
スター・プラスチック少佐はケラケラ笑っている。馬鹿げた訓練を命令したテイラー提督に一泡吹かせたのが、よほど愉快だったようだ。しかし後席ではギーモン中尉が、気難しい顔をしている。中尉にはテイラー提督が、このまま黙って引っ込むとは思えなかったからだ。
「訓練終了!全機帰還するわよ!!」
スター・プラスチック少佐の命令で、一航戦艦載機隊は母艦へ向かった。「訓練」はこれでおしまいである。
酉国の輸送船団は、ようやく暦新島に到着していた。何しろ、船足がどうしようもない程遅かったので、そうなってしまったのだ。できもしない「輪型陣」を組もうとしたことが、大失敗だった、ということである。酉鳥港から暦新島まで、「家鴨」一隻で行動すれば一日もかからない距離に、一週間もかけて航海しているのだから、どうしようもあるまい。これには図茂艦長も呆れ果てていた。
「亀や蝸牛じゃあるまいし、一体何をどうやったら、暦新島までの航海に一週間も掛からないといけないんだ。いい加減にしてくれ。いくらおれが温和な性格でも、我慢にも限界があるってもんだぜ」
図茂艦長が「温和」かどうかは異論があるところかも知れないが、ブツクサと文句の一つや二つ、出るのも当然だろう。また、それに加えて、輸送船から物資や兵隊を揚陸する作業の遅いこと遅いこと。その間「家鴨」は、周囲を警戒することになっているので、苛立ちも一際だった。暦新島には大型輸送船の岸壁が一箇所しかなく、タダでさえ遅い揚陸作業が延々と遅れている状態だ。
(第26回終了)
「艦長、そうは言っても、酉国海軍は伝統的にこんなもんですからね。今更どうしようもないですよ」
街番五航海長が宥める。
「おれが心配しているのは、こんな事をモタモタとやっていたら、ちゃちゃちゃ国のキチガイどもが攻撃してくるんじゃないか、ってことだ。あいつらが平和主義者でも何でもないことくらい、とうの昔に解っていることだろう?前線近くで、輸送やら補給やらがここまでモタモタとしかできないのでは、奴らに好機を与えているだけじゃないか」
もちろん補給や輸送は、酉国でも重要な任務として、ちゃんと認識されている。だが、輸送船自体は事実上無防備に近い状態であり、単独では攻撃に対処できない。揚陸作業中では、輪を掛けて無防備な状態である。弾薬輸送船は一発でも喰らったら大爆発、タンカーの場合は深刻な海洋汚染を引き起こしかねない。本来、いつ敵の攻撃があるかも知れない前線で、悠長な作業をやるべきではないのである。輸送船は迅速に積み荷を降ろし、さっさと退去すべきなのだ。しかし、どうも「前線」という意識が薄いようで、かつ元々酉国海軍は時間についてはどうしようもない程ルーズなので、如何ともし難いようである。
「艦長はそうおっしゃるのでしょうけど、一応ここには陸軍部隊が駐留していますし、航空隊もそれなりの勢力がいますよ。いかに敵と雖も、そう簡単に攻撃できるとは思えませんけどね」
街番五中佐の見通しは楽観的である。いや、中佐に限らず、多くの者が中佐と同じ楽観的な考え方であった。図茂艦長のように悲観的な見方をしている方が珍しいのである。
「陸軍部隊?『ゲリラ戦の権威』が司令官で、あてになるのかよ。おれは到底信用する気にはならんね。航空部隊だって、この前は簡単に首都上空へ敵機に侵入されてしまい、手も足も出なかったじゃないか。確かにちゃちゃちゃの連中には志願して軍人になる奴が多いそうだから、脳がイカれて気が狂っている以外の何でもないが、それは馬鹿げた暴力的手段には長けているということだろう?ここの気が緩んだような陸軍部隊や航空部隊で、そのような血に飢えたやつらに対抗できそうには思えないな」
図茂艦長の評価は辛辣だが、どうやらこれは図茂艦長の「平和主義者」としての部分が出てしまったようである。ちゅちゃちゃ国に対する図茂艦長の言いようは、実際のところ、かなりの偏見と云っていいだろう。しかしそれを聞いても、街番五中佐は笑っているだけだ。中佐には図茂艦長の懸念が取り越し苦労にしか思えなかったし、艦長が不平不満をたらたらと漏らすのもいつものことだったので、もう慣れていたからである。
(第27回終了)
「ようやく増援が到着しましたか。これで暦新島の防備も、一層と強化されますね」
里在三将軍はにこやかに笑みを浮かべている。要請していた増援兵力がやっと到着した、ということで安心したようだ。
「ところで、ちゃちゃちゃ国の空母艦隊が出撃したそうですね。まだどこに現れるか解りませんが、警戒した方がいいのでは。それと未確認ですが、輸送船団を伴っているとの情報もありますので、一応警戒態勢をとっておくべきだと思います」
参謀長の可口可楽大佐が意見を述べる。酉国の情報網でも、ヨン艦隊の出撃はキャッチしていた。ヨン艦隊司令部のレベル云々はともかく、戦力的には莫迦にできない存在なので、可口可楽大佐は将軍に注意を喚起したのである。それに、輸送船団を伴っているとすれば、上陸作戦が行われる可能性もあるので、それこそ危険性がかなり高くなる。
「なーに、それほど気にする事はありませんよ。毎日航空部隊が海上250〜300海里の哨戒を行っていますからね。敵艦隊が接近してきたのなら、直ぐに解る筈です。それに増援も来ましたから、暦新島の防備は飛躍的に高まるでしょう。もし、ちゃちゃちゃ国が侵攻作戦を行ってきたとしても、充分返り討ちにできると思います」
里在三将軍は、割と楽観的であった。将軍としては、暦新島の防備に自信を持っていたからである。それに、暦新島には酉京市があり、市街を舞台にしたゲリラ戦は里将軍にとっては得意中の得意の戦法だったので、仮に敵が攻めて来たとしても、負けるとは全く思っていなかった。
暦新島駐留の酉国海軍航空隊は、毎日早朝から、島の周囲300海里内の哨戒行動を行っている。実際のところはほとんどルーチンワークで、平穏無事に終わることが多かった。
なお、酉国には、未だ空軍は存在しない。海軍航空隊と陸軍航空隊が別個にあるだけである。しかも、陸軍航空隊は海上飛行の訓練を全くやらないので、いざという時には使い物になるかどうか定かではない。暦新島のように本土から離れている島では尚更のことだ。
(第28回終了)
この日、酉国海軍航空隊百十八空所属の、三十六式陸上偵察機「合鴨(あいがも)」一機が暦新島南方海面の哨戒飛行を続けていた。
「ふわぁ〜〜〜〜〜」
敵影などまるでないのに、単調な哨戒飛行を毎日こなしていたら、気が緩み眠くなるのも当然だろう。機長の事務飛曹長はあくびを噛み殺しながら「合鴨」の操縦を行っていた。実に退屈な任務である。戦争などどこでやっているんだ?というようなのどかな光景であったのだ。この日までは。
「機長、あれを見て下さい!」
双眼鏡を覗いていた歩里一飛が、驚いたような声で事務飛曹長に告げる。真南に向かっていた「合鴨」機の真正面、三十キロほど先に、航行物体が見えたのだ。
「ん?何だあれは」
事務飛曹長はあまり事態を理解していないらしく、寝ぼけたような声で生返事をしている。
「暢気なことを言っている場合ではありません!!前方、およそ17海里先に大艦隊発見!」
しかし、それを聞いても事務飛曹長は「まさか」という顔をしている。
「何かの間違いじゃないのか?敵が侵攻してくる兆候がある、などとは聞いていないぞ」
寝ぼけたような目をこすりながら、双眼鏡を覗いた飛曹長だったが、視界内に艦隊の姿を見ると絶句した。ヨン艦隊は空母5、巡洋艦12、駆逐艦27の一大戦力である。海軍の主力が戦艦2隻しかいないような酉国海軍では、到底取り揃えられない規模の艦隊だ。それを見ただけで、味方ではないことは一目瞭然である。
「司令部に緊急電!!『暦新島南方海上250海里付近、敵大艦隊発見。敵戦力は、空母を中心とする一大機動部隊!!』」
それだけを打電しろ、と事務飛曹長は歩里一飛に命令し、すぐさま機首を反対方向の北に向けた。もちろん、遁走するつもりである。何しろ酉国海軍の話なので、「任務に命を賭ける」ような真似をする軍人は、滅多なことでは居はしない。敵艦隊を発見したことで、「合鴨」機は充分任務を果たしている。戦闘機や攻撃機ではないので、それ以上の面倒は御免だ、というのが事務飛曹長の考えであった。幸いなことに、酉国海軍では事務飛曹長のような思考法は一般的に容認されているので、「敵前逃亡」になって銃殺、ということはない。旧日本帝国海軍のように、「燃料切れになっても味方を敵艦隊まで誘導し、最後は敵艦に突入して自爆する」ような精神力など、最初からありはしないのだ。何度も言っているように、これは酉国海軍の話であるのだから。
(第29回終了)
「レーダーに反応!30キロ前方に航空機、機種などは不明」
ほぼ同時刻、ヨン艦隊旗艦「ドッグボード」でも、この「合鴨」機の接近をキャッチしていた。しかし、今のところ艦隊上空には直援機はいない。ヨン提督もテイラー提督も上空警戒の命令を出していなかったので、それも当然と言えば当然のことであろう。
「あのー、ヨン提督。上空直援機は出さないのですか?レーダーで発見した目標は、当然敵機だと思いますが」
ウエスト中佐が恐る恐るヨン提督に質問する。しかしヨン提督は、またもや何も聞いていないようだ。
「仮に敵戦艦を一隻でも沈めた場合、私の年金は多少は加算されるのかなぁ?これは真剣に考えてみる必要がありそうだねぇ・・・・・」
訳の解らない事を言って、自分の世界に浸りきっているヨン提督である。年金がどうのこうのと言っている場合ではないのだが、そちらの方には気が回らないようだ。
「テイラー提督、上空警戒機を発進させることを進言します。前方の目標が、敵の哨戒機や偵察機である可能性は非常に高い。今からでは遅いかも知れませんが、艦隊の存在及び進路、意図などを敵に掴まれない為にも、戦闘機を発進させてこの目標を撃墜すべきだと思いますが」
ウエスト中佐はヨン提督を相手にする事を諦め、参謀長のテイラー提督の方を向いた。まだ話が通じるだろう、と思ったからである。
「ヤッ、ド〜モ、ドモドモ、ド〜モ。J.U.テイラーです。(^^)/ でわでわ、いっちょプワ〜っといってみようかぁ!それでは、空母『ボッタクリー』に命令して下さい。この目標を、高角砲にて撃墜すること、と」
これも、訳の解らない命令を出そうとするテイラー提督であった。
「あの、それはかなり難しいのではないか、と愚考しますが。どう考えましても、『ボッタクリー』が敵機の側に行くまでの間に、逃げられてしまうのではないかと」
常識的にやんわりと反論したウエスト中佐だが、テイラー提督には通用しない。
「ウルサイ。僕がやると言ったらやる事になっているの。キミは文句を言わずに聞かないと駄目なんだよ〜ん」
ふざけているんだか真剣なんだかよく解らないテイラー提督の態度だが、こういう時は大抵本気である事が多い、とウエスト中佐は知っているので、反論するのを諦めた。
(第30回終了)
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