悪ふざけ架空戦記2   暦新島上陸作戦




第31回〜第40回









「解りました。参謀長命令、ということで『ボッタクリー』に通告しておきますね」

 ウエスト中佐は「どうなっても俺は知らん」とばかりに、テイラー提督の命令を「ボッタクリー」に伝えるよう、通信参謀のムクマー少佐に促した。しばらくして、ムクマー少佐が、「ボッタクリー」からの返事を持ってくる。

「あのー、こんな返答が返ってきたのですが・・・・・・」

 ムクマー少佐はそれだけを言うと、電文を書き記した紙片をテイラー提督に渡した。

 その紙片を見たテイラー提督は、最初は意味が解らなかったようで、不思議そうな顔をする。

「何ですかね?これは」

 差し出された紙片にはたった一行、「バカメ、バカメ」と書いてある。

「何ですか、と言われましても・・・・・これが参謀長閣下の命令に対する、二航戦からの返事なんですが。つまり参謀長閣下に対し、『ばか』と言ってきている、という事ではないかと」

「何だとぉー!この僕を『ばか』と言うのかぁー!」

 いきなり怒り始めるテイラー提督だが、「ばか」と言われても仕方ないような命令を出していたのだ、という自覚はまるでないようだ。

「重ねて『ボッタクリー』に命令!『そのまま前進し、目標機を高角砲にで撃墜すること!』」

 意地になって最初の命令を完遂させようとするテイラー提督である。しかし、すぐにレーダー室からの報告が入った。

「敵機、レーダー画面から姿を消しました。逃げていってしまったようです」

 それを聞いたところでテイラー提督の動きが止まる。いくら何でも、どこに行ったか解らない敵機を攻撃しろ、とまでは命令できない。さすがのテイラー提督も、それ以上はやりようがなくて固まってしまったようだ。



「しかしまぁ、随分のんびりとした対応ですね。敵機に発見されているというのに、何もしようとしないのですから」

「フューチャーシンキング」ではゾック少将が呆れている。もちろん、こちらのレーダーでも「合鴨」機を捕捉していたのだが、艦隊司令部から何の命令も来ないので、放ったらかしにしていた。本来ならそんな暢気なことをやっている場合ではないのだが、司令部が何も言ってこないのではどうしようもない。
(第31回終了)




「直援戦闘機隊、発進準備。いつでも出撃できるようにしておいて下さい。パイロットは待機所にて待機」

 それでもゾック少将は、できる限りの対応を行う。いざという時はすぐに戦闘機が発進できるようにしておく、これが現段階で少将が可能な対応の全てであろう。これ以上何かしようものなら、テイラー提督が文句を言ってくる可能性が非常に高い。とにかく自分勝手な御仁である事だけは間違いないのだ。「ボッタクリー」に「高角砲で敵機を撃墜せよ」などと無茶苦茶な命令を平気で出したところからも、それは伺える。

「直援戦闘機の発進準備もそうですが、暦新島への攻撃準備はまだしなくていいのですかね?いくら何でも、そろそろ準備を始めないと、早い時間に攻撃隊を送り込むのが難しくなるのでは。モタモタしている間に、先制攻撃を受けたら困ると小生は思うのですが」

 ゲッカイ中佐がゾック少将に訊ねる。しかし、ゾック少将は首を振っただけだ。

「私もそうは思うんですけどねぇ・・・・・司令部が何も言ってこないんじゃどうしようもないですよ。勝手に攻撃準備命令を出して、後で責任を追及されるのではたまったものではないですし。意見具申くらいはしておきましょうか、というくらいしか云えませんよ」

 すでに半分くらいは匙を投げているゾック少将であった。ヨン提督やテイラー提督に何か言ったところで、無駄だとしか思えないのだからそれも仕方あるまい。

「航空戦は一分一秒が勝負の分かれ目だというのに、本当に訳の解らない司令部ですな。真面目に戦うつもりがあるんでしょうか。激しく疑問に思います」

 ゲッカイ中佐も遂に匙を投げた、というところであろうか。



「暦新島南方海上250海里付近、敵大艦隊発見」という報は、小一時間ほど経ってから里在三将軍にも通報された。即刻ではなかった理由は、敵艦隊を発見したのは海軍機で、陸軍司令官の里将軍への通知は遅れた、ということである。酉国の軍組織も「官僚」である、ということだろうか。

「南方海上に空母を含む大艦隊ですか。どうも、これだけでは敵の意図がまだ解りませんね。暦新島に対する空襲を行うつもりなのか、それとも上陸作戦までも含んでいるのか。とにかく、この艦隊の目的を、確認せねばならないでしょうね。なるべく早く」

 しかし、里将軍がそう考えたところで、それ以上特にやりようはなかった。暦新島守備軍の司令官、といっても海軍航空隊への指揮権までがある訳ではない。どうやら、酉国側の対応も遅いようで、それこそどっちもどっち。ヨン艦隊といい勝負だ、ということになりそうだ。
(第32回終了)




「艦隊を発見したそうですが『詳細は不明』ではあまり良い報告ではありませんね。敵の全容を掴まないと動くに動けません。偵察機を再度差し向けるようにしましょう」

 暦新島駐留の酉国海軍航空隊は、第6航空艦隊第222航空隊。隊の指揮を執るのは院地気大佐である。

 しかし、空母を含む大艦隊の偵察を行うには、性能的に何とかなりそうな高速偵察機がない。事務准尉と歩里一飛が使っていた「合鴨」では、仮に派遣したところで直ちに撃墜されてしまうだろう。根が「リベラル趣味」の院地気大佐には、「撃墜されても構わないから偵察機を出せ」とは命令できないようである。「敵艦隊発見」の報告はしたものの、直ぐに逃げてしまった事務飛曹長と歩里一飛にも特に何も言わなかった。とはいってもこれは、酉国海軍軍人としては別に非難されるような行為でもないので、院地気大佐でなくても叱責はできないところではある。

 結局院地気大佐は、戦闘機10機ほどを差し向けることに決めた。戦闘機ならば敵が迎撃戦闘機を出してきても対処できるし、偵察機よりは高速だから、交戦したくないのなら逃げる選択も難しくない。

 出撃が命令されたのは、酉国海軍航空隊の主力戦闘機、「十八式戦 舌切雀」である。全長10.8m、全幅9.9m、最高速力578キロ、航続距離最大3250キロ(増槽使用時)、20mm機銃2門、12.7mm機銃2門、実用上昇限度9800m。翼面荷重の低い、格闘戦向きの軽戦闘機として設計された機体だ。ちゃちゃちゃ海軍の大型戦闘機「Ang15 アンジェロ」に比べると、かなり小回りが利く機体だった。速度は相当遅いが、いわゆる「ドッグ・ファイト」に持ち込めば、戦えない訳ではない。酉国のパイロットは、どちらかと言うと軽戦志向なので、それに応えた機体と云えよう。

 出撃する戦闘機隊の指揮を執るのは、戸歩補少尉である。少尉の個人的な交友関係には、陸軍航空隊首都防空戦闘機隊の羆中尉が入っていたりするが、この場合、ここではあまり関係がないエピソードであろうか。

「戦闘機隊発進!」

 帽子を振りながら見送る院地気大佐の前で、戸歩補少尉機を先頭に「舌切雀」戦闘機が次々と飛び立って行く。10機は一旦基地上空で編隊を組むと、一路南下を開始した。
(第33回終了)




「レーダーに反応!これは・・・敵機接近中、反応複数!!」

「ドッグボード」のレーダー画面に、急速接近する機影がいくつか映る。もちろんこれは戸歩補少尉以下の「舌切雀」機であった。

「ヨン提督、どうしますか?」

 ウエスト中佐が一応訊ねるが、熟睡しているヨン提督には何も聞こえていないようだ。つい2時間くらい前まではちゃんと起きていて、延々と「年金がどうのこうの」と訳が解らない事を呟いていたのだが、三十分前くらいに寝てしまい、今の体たらくである。仕方がないのでウエスト中佐はテイラー提督の方に顔を向けた。

「ヤッ、ド〜モ、ドモドモ、ド〜モ。J.U.テイラーです。(^^)/ でわでわ、いっちょプワ〜っといってみようかぁ!それでは、空母『ボッタクリー』に命令して下さい。迎撃戦闘機を発進させて、この目標を撃墜すること」

 さすがに「ばか」と言われたことが効いたのか、今度は前のような「ばか」と言われてもしょうがない命令は出さなかったようだ。テイラー提督としては、初めて出したマトモな命令のようである。

「了解しました。二航戦の方へ命令を出しますね」

 ウエスト中佐は直ちに二航戦に電文を送らせた。そうこうしている間にも敵機は確実に接近しているのだが、多少は時間が掛かるのはどうしようもない。

 3分ほど経って、ようやく「ボッタクリー」の甲板上から「Ang15 アンジェロ」戦闘機12機が発進し、要撃に向かった。



「暦新島南方海上、220海里付近に敵空母艦隊発見!空母2隻を中心とする集団が1つ、その後方にも空母らしきもの1隻を中心とする集団が1つ、更に後方に詳細は不明だが、もう一つの集団発見!大艦隊だ!!

 戸歩補少尉は前方の艦隊の概要を報告した。こうして上から見下ろすだけでも、大艦隊であることが解る。進路も暦新島へ一直線に向かっているようだ。近くに上陸部隊を乗せた船団の姿は見えないが、それはまだ発見できないだけで、大規模な侵攻である可能性が高い、と判断せざるを得ないだろう。

「少尉、敵機が向かって来ます!」

 2番機の我王飛曹長が鋭く叫ぶ。視力抜群の我王飛曹長が、真っ先に「ボッタクリー」から上がってくる「アンジェロ」戦闘機を発見したようだ。酉国海軍航空隊では、操縦者の技量は士官学校上がりよりは、兵卒からの叩き上げの方が上であるのが通常である。隊の指揮官より、後方に控えているパイロットの方が技量が上であることは珍しくもない。

「よし、敵は発進したばかりで、あまり高度が取れていないぞ。上から被せて下に追い込むんだ!2機単位の連携を崩すな!」

 戸歩補少尉が命令すると、「舌切雀」は2機単位で散開し、上昇してくる「アンジェロ」を包み込むように遷移する。相手の頭を上から押さえる形なので、圧倒的に有利に空戦が行える筈だ。
(第34回終了)




「まったくもう、何でこうやってこっちの艦隊は、やることなすこと全てチンタラチンタラしているんだ?馬鹿馬鹿しくてやってられないな」

「ボッタクリー」から発進した「アンジェロ」隊の指揮官、ショーゴ中尉は思わず愚痴をこぼしていた。敵機がやってくるような間合いに入っているのに、戦闘機に空中哨戒すらさせていないのは異常と言ってもいい。空母機動部隊でそんなことをやっている、というのは普通に考えると信じられないような出来事だ。

 空母とは「卵の殻」のようなものである。攻撃に回った場合は、その航空戦力は強大な打撃力を発揮するが、受け身に回った場合は極めて脆い。爆弾の一発を喰らった程度でも、飛行甲板が大破し発着艦が不能になる。何しろ、トップ・ヘヴィーになるので、飛行甲板自体にはなかなか装甲板を張ることができないのだ。無理にやった場合、飛行甲板の高さを下げないといけなくなるので、格納庫の容積が減り、搭載できる艦載機の数も減ってしまう。それだけでなく、飛行甲板の高さが海面から余裕がなくなるので、発艦を失敗して艦載機が海没する事故の確率も増える。故に飛行甲板に装甲板はなかなか張ることができない。第二次大戦時の英空母などは、飛行甲板が装甲板になっていたので、ドイツのシュトゥーカ(急降下爆撃機)に爆弾を喰らわせられても、甲板を片付ければすぐに発着艦可能になったものだが、その代償として搭載機数が36機しかなくなったりしている。日本の装甲空母「大鳳」でも、搭載機は51機でかなり少な目だ。

「卵の殻」を象徴するような話に戻るが、搭載してある魚雷や爆弾に誘爆した場合は、一撃で轟沈もあり得る。甲板上に発進寸前の飛行機が並んでいたりすると最悪だ。ミッドウェーで南雲機動部隊が壊滅したのも、こういう状態であったからである。何も日本だけに限った話ではなく、フィリピン戦で発生した米軽空母プリンストンの沈没もそうだし、沖縄近海で米空母フランクリンが大破してしまったのも同じような状況だった。撃たれ強い戦艦とは、そこが違うところである。

 敵戦闘機は、「アンジェロ」隊を頭から押さえるような動きで接近してくる。どう考えても「アンジェロ」隊の方が不利な体勢だ。一般的に空戦機動では、上に位置した方が圧倒的に有利なのだから。

「やはり拙いな。完全に頭を押さえられてしまった。もうちょっと早く発艦させてくれれば、上昇してもっとマシな体勢から機動が行えたのに。ある程度やられるのは覚悟で、上昇しつつ突っかけるしかないか」

 ショーゴ中尉は覚悟を決め、そのまま編隊を敵の真下から接近させて行った。上から被せてくる敵機の群れに対し、エンジンを全開にし、突き上げるように上昇を掛ける。先頭の敵機との距離がみるみる内に詰まってきた。

「喰らえ!」

 中尉は機銃の発射ボタンを押す。20mmと12.7mmの機銃弾が、バラバラとばらまかれた。向かってくる敵機も、同じ機銃弾を撃ち込んでくる。

「バシ、バシ」

 何発か被弾したらしく、中尉の機体のどこからか音が鳴り響く。しかし、大したことはないようだ。この一戦は、どちらの隊にも致命傷はなかったようである。相対速度が大き過ぎるので、互いに命中弾がほとんど得られなかった、ということであろう。
 そのまま突き抜けて、高度を得ようとする「アンジェロ」隊だが、そうは問屋がおろすまじ。「舌切雀」隊も素早く反転すると、上昇を開始し、「アンジェロ」隊の後方に回り込んだ。何しろ、比較的低空なので、せっかくの「アンジェロ」のパワーがあまり生きていない。大気が濃密なので、空気抵抗が大きい大型機の「アンジェロ」は動きに敏捷性がないのである。そうなると、重量がかなりあることも響いてくる。その点、低空での格闘戦は、明らかに軽量の「舌切雀」機の方に分があった。この条件なら、エンジンパワーが非力な「舌切雀」でも、「アンジェロ」と対等以上に戦えるのである。しかも、優位から突っかけたのでは、更に「舌切雀」の方が有利であった。
(第35回終了)




 「舌切雀」に後方に付かれた「アンジェロ」隊は、二機単位で散開すると、思い思いの空戦機動を開始した。垂直旋回に移るもの、水平方向にダッシュを掛けるもの、そのまま急上昇を続けるもの、宙返り反転に入るもの。空戦機動の技術を駆使し、「舌切雀」機を振り切ろうと必死である。「アンジェロ」隊にとっては劣位から始まった空中戦は、しばらく続きそうだ。


「現在、艦隊前方5キロほどの空域で、敵戦闘機隊と空戦中。なお、接近していた敵機は、全て戦闘機である模様。敵機の機種は酉国海軍の『舌切雀』戦闘機」

「ドッグボード」のヨン艦隊司令部に、ショーゴ中尉からの報告が入る。

「テイラー提督、タイミング的にはもうかなり遅いとは思いますが、暦新島への攻撃隊を出すべきではないでしょうか。今ならまだ、敵の攻撃機はやってきていません。敵の戦闘機が接近してきたのですから、もう艦隊の所在は知られてしまっています。早く攻撃隊を出さないと、防戦一方になってしまうかも知れませんよ」

 ウエスト中佐は、それでも作戦参謀としての義務で、テイラー提督に進言した。今に至っても寝ているヨン提督は、さすがにもう完全無視である。しかし、テイラー提督はいい顔をしなかった。

「キミねぇ〜、僕の構想としては、敵の航空攻撃を撃破してから、島への攻撃を行うつもりなんだけど〜。当分攻撃隊を出す気はないよ」

 先ず受け身に徹し、その後でおもむろに攻撃を行う、というテイラー提督である。それを聞いて、ウエスト中佐はがっくり肩を落とした。これでは、テイラー提督が航空戦のことを解っているとは思えない。ほとんど素人同然の人間が指揮をとっているのでは、がっくり来るなという方が無理だろう。

「提督、航空戦に限った話ではないですが、先手必勝が当然の陣立てでは?せっかく多数の航空機を擁している艦隊なのですから、積極活用すべきなのでは、と思いますが」

「先制攻撃すべき」と主張するウエスト中佐である。しかし、テイラー提督は首を縦に振らない。

「ダ〜メ。攻撃は許可しないよ〜ん」

 あくまで自分の「構想」にこだわるテイラー提督である。

「では、せめて島へ偵察機を出し敵情を探ることと、艦隊上空へ直援機を一定数あげておくことくらいは許可していただけませんかね?『防戦』とは言っても、今のままでは状況が危険なだけではないか、と思うのですが」

 すでに「舌切雀」が艦隊上空に現れていることから言っても、暦新島の酉国海軍航空隊の攻撃圏内に入ってしまっていることは間違いない。いつ攻撃機が群をなして襲いかかって来ても、おかしくはないのだ。テイラー提督の言う通り、防戦後に反撃するにしても、先ずはその『防戦』をマトモにやらないと、反撃どころではなくなってしまうだろう。

「ふ〜ん、そう。ま、それくらいならいっか。キミの責任でやってくれるのなら。許可は出してもいいよ」

 全く勝手なテイラー提督である。「防戦」と言っているクセに、本気で防戦する準備はしないし、ウエスト中佐が進言すると、「責任を取れ」とまで言う。何がやりたいのか、さっぱり解らないというところだろう。

「許可を得た」ということで、ウエスト中佐はテイラー提督の前から退去し、通信室で防空戦についての指示を各航戦に出した。「テイラー提督の命令であるので、暦新島への攻撃隊の準備は行わないように」と念を押しての指示である。しかしウエスト中佐も、いい加減キレそうになっている事は否めない。



ギャハハハハハー、またもや莫迦が阿呆な指示を出してきましたね(キッパリ!)。航空戦のこの字も解っていないというより、単に根が阿呆な司令官とイカレている参謀長が仕切る司令部では、こんなものかも知れませんが。マッタク、莫迦に付ける薬はない、とはよく言ったものですよ。いや、今の状況は差詰め『キチガイに刃物』と云ったところですかな、ギャハハハハハハー

 空母「ボッタクリー」では、二航戦司令官のワイルドキャット少将が、ヨン艦隊司令部を嘲笑していた。少将は刑務所に放り込まれたウッケン少佐の親類で、少佐と同じく、反社会的カルト宗教として知られている宗教法人「ヤマネコ会」の信者である。性格も非常によく似ているようだ。
(第36回終了)




「あのー、笑っている場合ではないと思うんですけど・・・・・・」

 副官のミツキ少佐が恐る恐る話しかける。さすがにワイルドキャット少将は、「女ばかりを会員にしようとする」ヤマネコ会に所属しているだけあって、副官には女性士官(ウェーブ)を選んでいるようだ。

「ヨン提督はいつもの通りぐうたら寝ているだけでしょうから、命令を出しているのはテイラー提督なんでしょうけど、あの方はロクなことをしないくせにプライドだけは高いですからね。しかもただでさえ無茶な組み合わせの司令部なのに、追い討ちをかけるように○○な○○○○○○まで司令部要員にいますから。私は、相当『こわひ』んですけど。煽って刺激するような真似は止めにしませんか?」

 何と云っても、艦隊司令部からの命令に対し、ワイルドキャット少将の指示で「バカメ、バカメ」などという返事を送ってしまったあとである。しかし少将は、ミツキ少佐が言っていることくらいは全て承知でやっているのだからとことん始末が悪い。一言で表現すると「燃料タンクの脇で焚き火をするのが大好きな性格」がワイルドキャット少将なのだ。いや、それどころではなく、「対岸の火事に、嬉々としてガソリン注ぎ酸素ボンベを投げ込むような性格」と言ってもいいだろうか。事を荒立てるのをほとんど趣味でやっているので、こちらもまたどうしようもない困った人物であった。

ギャハハハハハハハー。ミツキ少佐、自分の事を棚に上げてはイケマセン。いつぞやトモーキ島を攻撃した時に、絨毯爆撃を主張し次から次へと攻撃隊を送り込んだのは、一体どこのどなたでしたっけ?しかも、相手が白旗を振っているのに、更に止めを刺すような情け容赦ない攻撃を行い、完全に殲滅してしまいましたよね。『煽って刺激するのはイケマセン』などと今更言っても、これでは説得力がまるでアリマセン(キッパリ!)。何なら証拠も出しましょうか?」

 ワイルドキャット少将にそう言われて、返答に詰まるミツキ少佐であった。「あれは私だけの責任じゃないのよ〜」と大声で叫びたいところであるのだが、そんな事を主張しても無駄なのは解りきっているので止めておいたようだ。仮に反論したところで、ネチネチと「証拠」をあげつらわれ、いびり倒されるのが関の山だからである。

「そう云えば、一航戦はあの阿呆の参謀長の命令を逆手に取って、脅しをかけるような真似をしたそうですね。こちらも一航戦に負けてはいられません。阿呆司令部どもを、震え上がらせるような事を何か考えることにしましょう(キッパリ!)」

 司令部からの防空戦に関する命令など無視して、「阿呆司令部どもを震え上がらせる」方法を考え始めるワイルドキャット少将であった。傍らのミツキ少佐は「知〜らない。どうなっても私のせいじゃないからね」と、もう見ないフリをしているようだ。
(第37回終了)




「偵察機を発進させます。一時間間隔で出し続けて下さい。暦新島及び周辺海域をくまなく偵察するのです」

 空母「フューチャーシンキング」では、ゾック少将の命令により、暦新島への偵察機が出されるところである。すでに、艦隊上空直援用の戦闘機は、次々と発進してる最中だ。これは、ゾック少将が前もって準備をさせていたので、早く対応できているということである。

「フューチャーシンキング」の飛行甲板では、「アンジェロ」戦闘機の発艦作業が続いている。そして格納庫から「カネカシテクレー」偵察機がエレベーターで甲板に上がり、発進していった。



 戸歩補少尉による「敵大艦隊発見!」の報が入ったところで、第222航空隊は急に慌ただしくなった。院地気大佐は、即座に攻撃隊の発進準備を命令したからである。
 第222航空隊には戦闘機64機、陸爆48機、陸攻48機、偵察機12機、計172機が配備されていた。戦闘機は全て「舌切雀」で、陸爆は「二十八式陸上爆撃機・伝書鳩」、陸攻は「十五式陸上攻撃機・信天翁(アホウドリ)」である。その内戦闘機10機は出撃させていたが、残る全機に即時攻撃準備態勢を取らせた。

「準備が済んだら、直ちに攻撃隊を出すぞ!敵の侵略は、本来は話し合いで平和的に撤退させるべきだし、そもそも他国に攻めてくること自体が間違っているのだが、今回のように道理や話が通じる相手ではない時は、断固として撃破せねばならない!!」

 院地気大佐は、焦点が今ひとつズレているとしか思えないような檄を飛ばし、攻撃隊発進準備を急がせた。第一次攻撃隊は戦闘機32機、陸爆18機、陸攻18機。続いて残りも準備でき次第、第二次攻撃隊、第三次攻撃隊として出す予定である。どうやら院地気大佐は攻撃ばかりで、防御のことは考えていないらしい。基地の全機を攻撃に出すつもりのようだ。「海軍は攻撃、陸軍は防御」が役割分担ということで、暦新島そのものの防空は陸軍航空隊に全面依存するつもりである。何しろ、酉国陸軍航空隊は、まるっきりと言っていい程海の上を飛ぶことはできない。陸地が見えない場所での運用は考えられていないので、天測航法の訓練を全くやっていないからだ。よって、遙か南の海上を航行中のヨン艦隊に攻撃を仕掛けることは、酉国陸軍航空隊には不可能である。ところが、防空を委ねようにも、院地気大佐から陸軍部隊には直接連絡するルートは存在しないのだからおかしなものだ。院地気大佐からの「敵大艦隊発見」の報告は、一旦本国の鳥酉艦隊司令部を経由し、軍令部→大本営→参謀本部→暦新島駐在陸軍総司令部→暦新島駐在酉国陸軍航空隊、という順で伝達される。出先の部隊間で連絡した方が余程早いような気がするが、海軍航空隊から陸軍航空隊への直通の電話回線は引かれていないし、一般電話回線は互いの電話番号を知らないという有様だ。無線で連絡しようにも使用周波数も暗号もまるで違うので、話が通じる以前の問題である。また、基地の場所も若干離れている上、基本的に陸海軍が仲が悪いというのは世界のどこの国にでもある病弊なので、直接連絡しようなどという努力は全く為されたことがなかった。こういうところは、とことん「お役所」に出来ているもので、酉国だけに限った話ではないかも知れないが、「官僚組織」のどうしようもない部分である。

 各機に燃料が補給され、滑走路に引き出された後地上員が機体に取り付き、「舌切雀」には機銃弾を、「伝書鳩」には250キロ爆弾、「信天翁」には800キロ航空魚雷がそれぞれ装着されてゆく。「伝書鳩」は陸爆とは言うものの、艦爆としての使用を前提に設計された固定脚の急降下爆撃機で、二人乗りだがサイズはそれほど大きくない。しかし、せっかくの艦爆仕様の機体だが、酉国海軍は肝心の空母を持っていないので、あまり意味がないようだ。何しろ、酉国海軍では圧倒的に大艦巨砲主義者が幅を利かせており、乏しい建艦予算の多くを戦艦に回している状態なので、空母の建造が出来ないのである。いや、それだけではなく、「侵略用攻撃空母の建造は許せない。そんなものを何隻も保有しているちゃちゃちゃ国は根っからの侵略者であり、そういう悪い連中の真似はしなくてよい」という世論が強く、王威皇帝もそれに賛成しているので、ということも空母がない理由としてあげられよう。「信天翁(アホウドリ)」の方は、これは八人乗りの双発陸上攻撃機で、航続力が大きく低空での運動性が優れている機体である。しかし防御が弱いという欠点があり、一撃でも喰らうと真っ赤な火を噴いて墜落してゆくので、「火の鳥」と自嘲気味に呼ばれていた。

 攻撃隊の出撃準備は、着々と整っている。間もなく、第一次攻撃隊全機の出撃準備が成るはずだ。
(第38回終了)




 その頃、ヨン艦隊旗艦「ドッグボード」では、ようやくヨン提督が目を覚ましている。目を覚ましたヨン提督は、先ず涎を袖で拭う。そしてしばらくキョロキョロ辺りを見回していた。どうやら、何がどうなっているのか状況がまるで解らないので、困っているようである。

「ちょっとちょっと・・・・・」

 ヨン提督は、近くにいたウエスト中佐に手招きをした。何事かと中佐が近寄ってくる。

「現在の戦況はどうなっているのかな?小官にはよく解らんので、懇切丁寧に説明してはもらえないだろうか?」

 思わずウエスト中佐はガックリきた。それと同時に怒りがこみ上げてくる。一体何でこんな訳の解らないのが艦隊司令官なのか。テイラー参謀長のデタラメぶりにもいい加減腹が立っていた上に、司令官のこの体たらくである。更に、マトモに仕事をしているとは思えない「ヨン艦隊司令部」の面々にも、いい加減ブチ切れかけていたところであった。

「・・・・・・私にもよく解りません。参謀長閣下にでも聞いて下さい。指揮は参謀長閣下が執っておられますので」

 ウエスト中佐は怒りが噴出しそうになるのをかろうじて押さえると、ヨン提督の相手をテイラー提督に押し付けることにした。これ以上相手をしていると、思わず殴りつけたくなる衝動を抑えられそうになかったからである。

 ヨン提督は素直に頷くと、テイラー提督の側に寄り、何事か話しかけている。しかし、誰もその側に寄ろうとはしなかったので、何をやり取りしているのかはよく解らない。だが、これがロクでもない結果を引き寄せてしまったことは確かだった。



 「カネカシテクレー」はかなり高速の偵察機で、高度5000メートルでエンジンをフル回転させた時は、時速700キロ近く出る。酉国の戦闘機で追いつくようなスピードではないので、見張りを厳に行っていれば、先ずやられる心配はない。酉国陸軍航空隊の重戦「矢鴨」でも、捕捉は困難である。ちゃちゃちゃ海軍の「アンジェロ」のような高速戦闘機があれば話は別だが、酉国ではまだそこまでの高速戦闘機は開発できてはいない。また、航続距離は3000キロほどあるので、普通に使う分には充分過ぎるくらいの性能を備えていた。しかしこの機体はちゃちゃちゃ国では珍しく、速度と航続距離のみを最優先に開発された機体なので、防御はあまりないという欠点を持っている。しかし、速度性能が卓越しているので、偵察用に限って使うのならこれでも充分だ、ということのようだ。
(第39回終了)




                      (↓ここ、注目です)
「間もなく暦新島ですね。偵察員は、しっかり周囲を見張って下さい。何しろ、撃たれたらおしまいなもので」
                                           (↑ここ、注意して下さい)

「カネカシテクレー」一号機の機長、オカスカ少尉が偵察員のカドワーキ二飛に指示する。「オカスカ語」は独特なので、注意していないとなかなか意味が理解できなかったりするのだが、今回は問題はなかったようだ。

「諒解しました。まあ、そんなに面白いものは見えないでしょうけど(笑)」

 何が可笑しいのかよく解らないが、カドワーキ二飛はやたらに面白がっているようである。さすがに暦新島には、彼の(ヤバイ)趣味を満足させるような見せ物はないので、「面白いものは見えない」のは間違いなさそうだ。

「ところで、先ほどすれ違った敵の攻撃隊について、艦隊へは間違いなく通報しましたね?」
                                (↑ここ、かなり気合い入っています)

 オカスカ少尉は通信員のゴトー一飛に確認した。約三十分前、「カネカシテクレー」機は暦新島から飛来してきたと思われる敵機の大編隊とすれ違っていた。「舌切雀」「伝書鳩」「信天翁」と機種も識別できたので、酉国海軍航空隊のヨン艦隊への攻撃隊であることに疑いはない。

「大丈夫です。艦隊からも返信が来ています」

 ゴトー一飛は「確認済み」と答えた。一飛は敵編隊視認後、直ちに「我、敵機編隊とすれ違う」との一報を艦隊に入れている。それに対する「諒解、現在上空直援機発進中」との返信はすぐに届いたのだが、何故か一航戦・二航戦からだけで、艦隊司令部はウンともスンとも言ってきていない。ヨン艦隊司令部がちゃんと認識しているかどうかやや不安はあるのだが、一々気にしていても始まらないので、ゴトー一飛はそれ以上言及はしなかった。

「しかし、こちらも相手に発見されていますよね。暦新島上空で、敵戦闘機に盛大に歓迎されるんじゃないか、と思わないでもないのですが。さすがにちょっとイヤです(笑)」

 カドワーキ二飛が懸念する。懸念はしているものの、何だか楽しそうだ。まあ、仮に敵戦闘機に盛大に歓迎されたとしても、「カネカシテクレー」機の速度性能なら振り切れる可能性が高いので、あまり気にすることはないのも事実だった。

 間もなく、「カネカシテクレー」機は暦新島上空に到達した。眼下には、酉京市の姿も見える。今のところ、視界内には敵機の姿はないようだ。

「艦隊に打電して下さい(←ここ、しっかり頼みます)『我、暦新島上空に到達せり』
                                   (↑ここ、オーソドックスにお願いします)

 オカスカ少尉の指示で、ゴトー一飛はキーを叩いた。その間も、カドワーキ二飛は辺りを見回している。
(第40回終了)











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