悪ふざけ架空戦記2   暦新島上陸作戦




第71回〜第80回









「どうしてくれるのよ!『もづ』はあたいが仕留めることになっているのに、逃げちゃって『どこへ行ったか解りマセン』では、どうしようもないぢゃない!!

 取り敢えずは目の前に居るゾック少将に八つ当たりしている少佐だが、それを聞いて少将の方は苦笑しているだけだ。

「まあ、チャンスが無かったということですね。あの百舌鳥級がそのまま雑談港沖に居れば、さすがに攻撃命令が下ったのでしょうけど、行方を眩ましてしまったのでは、どうしようもないです」

 さすがに、そこまで言われてしまっては、スター・プラスチック少佐としても、これ以上怒り続ける訳にもゆかず、大人しく引っ込んだようである。



「暦新島の敵航空部隊壊滅。上陸作戦は、予定通り明朝実施」との連絡が、○○○○○○の名前で、ルドルフ将軍にも伝えられた。

「さすがは○○○○○○サンですな。後は、ワタクシの機甲軍団を暦新島に上陸させ、イカサマ野郎里在三に止めを刺してやるだけですネ。ぢつに面白くなって来たぢゃないですか。ギャハハハハー

 ルドルフ将軍は、いよいよ翌朝に上陸作戦が迫ってきたことで、テンションが高くなって来ている。元々かなりテンションは高い将軍だが、戦闘を目前に控えれば、更にそれが増したところで何も不思議はない。

「上陸予定地点の暦新島南部地区の海岸についてですが、偵察機の報告でも、特に防備はないそうです。この分だと、無血上陸できるかも知れませんね。敵の地上軍は、酉京市に集中配備されているそうですし」

 グラス・スカイラーク中佐が、今までに判明していることを、将軍に報告した。

「ギャハハハハー、それはそうでしょう。インチキ里在三には、マトモな野戦などできる筈もないですからネ。卑怯な便衣兵戦術(笑)が、ウソツキ野郎の得意技です(キッパリ!)」

「笑っている場合でしょうか?敵が酉京市に籠もって、ゲリラ戦に徹すると言うのであれば、こちらの機甲師団はあまり役に立たないではありませんか。市街戦に戦車は無用ではありませんが、戦車の特性があまり生かせない戦いになってしまいますよ」

 機甲師団の強みは、機動力を生かした突破戦術、迂回戦術などにより敵の後方や側方から攻撃したり、敵の後方、兵站線などを破壊してしまうことにある。機械化部隊の機動力が生かせない市街戦は、基本的には歩兵の戦場だ。それこそ、建物の一つ一つを、時間を掛けて奪い合うことになる。このような戦いは、ルドルフ将軍の機甲師団よりは、「ゲリラ戦の権威」である里将軍の歩兵旅団の方が有利になることは間違いない。

「大丈夫、ワタクシに任せておきなさい。イカサマ里在三には、手も足も出させマセン。骨も残さないほど、いたぶり尽くしてやりますよ(キッパリ!)」

 ルドルフ将軍は自信満々である。その様子を見て、傍らのスカイラーク中佐はため息をつくばかりだった。
(第71回終了)




 翌朝、暦新島南部の海岸に、ちゃちゃちゃ国海軍の巡洋艦と駆逐艦が隊列を組んで現れ、先ずは海岸に対して艦砲射撃を開始した。砂浜に砲弾が連続的に着弾し、爆音が辺りに鳴り響く。シーズンが外れているので使われていない「海の家『ぁιな』」が一撃で爆砕され、粉微塵になり、破片を撒き散らした。

 しかし、一応はやっているものの、この艦砲射撃にはほとんど意味がなかった。酉国陸軍も海兵隊も、海岸地帯に陣地を築いたり、地雷を埋めたりしていた訳ではないので、いくら砲弾を見舞ったところで、無駄撃ちでしかないからだ。

 さすがに、砲弾の無駄撃ちを悟ったのか、小一時間ほどで艦砲射撃は止んだ。そうして、沖合の輸送船団から、上陸用舟艇が発進し、海岸に迫ってくる。

「ギャハハハハハハー、いよいよ暦新島上陸ですネ。ぢつに愉快ぢゃありませんか。ワタクシは、この日を楽しみに待っていましたよ」

 ルドルフ・ナンバー将軍は、真っ先に上陸用舟艇に乗り込み、舳先に立って風を受けている。普通は、司令官が第一波で上陸するなどありはしないのだが、今回は将軍のたっての希望でそうなっている。もっとも、それ以前に南部海岸(仮称ウツケ海岸)に、敵の地上部隊が全く配備されていないから、最初に将軍が上陸したところで安全である、という事情はあってのものだ。

「I have returned!」

「ウツケ海岸」に一歩を記したルドルフ将軍は、気取ったのかそんなセリフを吐く。それを、スカイラーク中佐が冷ややかな目で見ていた。

「あのですね、それは将軍の好きな方じゃなくて、マッカーサーが言ったことでしょう?何でそうやってチャンポンにしてしまうんですか。『秋の日の・・・』もそうでしたけど」

 しかし、ルドルフ将軍は知らん顔で、ニヤニヤ笑っているだけだ。

「それでは、先ずは橋頭堡の確保です。続いて、荷揚げを急ぎなさーい。内陸に偵察隊を出し、周囲の状況を探りるのでーす。作業が進んだら、基地の設営を始めますよ」

 それでも将軍は、それなりに指示を出し始めた。そうこうしている間にも、上陸用舟艇が次々と兵士や物資を運んでくる。将軍自慢のパンター戦車も、すでに何両かは上陸し、周囲を警戒に入っていた。上空は、空母から発進した「アンジェロ」戦闘機が旋回し、警戒中である。上陸作業は当分の間続くので、この喧噪はしばらく収まりそうにはない。
(第72回終了)




「敵部隊、本島南部海岸に上陸中!」

 里在三将軍の司令部にこの報が入ったのは、第一陣のルドルフ将軍らがやってきてから、しばらく経ってからのことである。島内に配置してある、偵察隊が、敵の上陸を発見したものだ。本来、偵察機があれば、敵の上陸の兆候はもっと早く解る筈だが、陸軍も海軍も航空隊は壊滅しているので、こればかりはどうしようもない。

「上陸作戦でしたか。しかし、規模はどれくらいなのでしょうね。単なる威力偵察なのか、それとも本格的な上陸作戦なのか。これでは、まだ解りませんね」

 里将軍がそう言っているところに、第二報が入ってきた。

「敵兵及び物資が、続々と揚陸されてきます。本格的な上陸作戦です!あ、敵の偵察隊が・・・・」

 そこで、銃撃音が鳴り響き、偵察隊からの無線は途絶えた。ルドルフ将軍が放った偵察隊と遭遇し、交戦が開始されたからである。

「これは、ただごとではありません。本格的な侵攻作戦です。全軍に臨戦態勢を取らせなければ!」

 可口可楽大佐が叫ぶ。里将軍も頷いた。

「その通りですね。事もあろうに酉国国内に攻め込むとは。このような外道の振る舞い、許す訳には行きません。激しく後悔するような目に必ず遭わせてくれましょう」

 早速、里将軍は酉京市内に配置されている陸軍部隊に、戦闘即応命令を出した。これで、敵の攻撃があった場合は即応戦すべし、ということになる。現場の判断で交戦を開始してもよい、ということだ。



 暦新島南部海岸では、ぞくぞくと兵や物資の揚陸が進んでいた。すでに橋頭堡は確保し、到着した部隊が内陸への展開を始めている。敵の妨害が全くないので、作業は順調に進んでいた。

「しかし、やはりイカサマ里在三(笑)は、便衣兵戦術以外は出来ないようですな。上陸部隊を全く攻撃してこないようでは。酉京市で市街戦を行う以外は、何も考えていないのでしょう」

 それでも、ルドルフ将軍は楽しそうだ。里将軍の得意技、市街地域でのゲリラ戦でも、充分勝てると踏んでいるらしい。
(第73回終了)




「それで、今度はどうするんですか。上陸地区の確保には問題ありませんし、戦車部隊と一緒に直ぐに内陸に進攻するので?」

 スカイラーク中佐が質問した。

「ハハハハハー、すかいらーくサンは思ったより気が短いですネ。焦る必要はアリマセン。相手は、卑怯(笑)にも酉京市に籠もったまま出てこないのですから。進攻の準備の時間はたっぷりとあります。ですから、戦車・自走砲・機械化歩兵を組み合わせ、シュトゥーカやヤーボなど、ルフトヴァッフェ(空軍)の援護を受けた上で進撃するに決まっているぢゃないですか(キッパリ!)。それは、師団全てが上陸してからの話ですよ」

 ルドルフ将軍としては、戦車隊、自走砲部隊、装甲歩兵戦闘車、装甲兵員輸送車を組み合わせ、急降下爆撃機(シュトゥーカ)や戦闘爆撃機(ヤーボ)の援護を受けた上で、進撃するつもりである。いわゆる「電撃戦」が可能な布陣で攻めかかるということだ。もっとも、相手が都市に籠もって出てこないのでは、「電撃戦」の効果はあまりなくなってしまうことになるが。

 ルドルフ将軍は余裕たっぷりである。航空撃滅戦と上陸作戦が成功した以上、あとは敵の陸軍を撃破するだけ。九分九厘勝ちは動かないと確信しているので、不安などは全く持っていないからだ。

 そうしている間にも、作業は続いている。取り敢えず戦車が半円を描くように橋頭堡を守る体勢を取り、それを自動小銃や機関銃、対戦車火器や迫撃砲、火炎放射器などを持った歩兵が援護している。戦車というものは、「陸の王者」であることには間違いないが、装甲板に囲まれた車内からは視界が狭い、という欠点がある。下手をすると、死角から歩兵に近寄られて、ハッチを開けられて手榴弾を投げ込まれたり、後部のエンジン上に火炎瓶を投げ付けられただけでも、やられてしまうことがある。車長が砲塔から身を乗り出して周囲を警戒していれば、その危険性は低くなるが、今度はその車長が狙撃兵の恰好の的、ということになってしまうのだ。それ故、歩兵と組み合わせて使用し、互いの弱点を補うことが必要なのである。群がり寄ってくる敵の歩兵は味方の歩兵が排除し、敵の装甲部隊は戦車と対戦車攻撃班の歩兵が対処する。その歩兵が戦車隊と一緒に行動する為に、装甲歩兵戦闘車や装甲兵員輸送車が必要な訳だ。空陸を立体的に組み合わせた「電撃戦」を行う布陣が、ルドルフ将軍の得意技である。但し、その得意技が、「ゲリラ戦術の権威」である里将軍に通用するかどうかは、「やってみなければ解らない」というのが、本当のところではあった。



「暦新島に、敵が上陸作戦を敢行!」

 この報せは、鳥酉艦隊司令部にも、そう時間を経ずに届いている。しかし、報を受けても、司令部には特に動きはない。米鉢次帥も、田岡参謀長も、新しいアクションを起こすつもりはなかった。

「あのー、いいんですか?放っておいて。このままでは、暦新島が敵に占領されてしまう可能性もあり得るのでは。航空部隊は叩き潰されてしまったようですし、このまま無為であることは問題なのでは」

 参謀のムエ少佐が恐る恐る意見具申した。だが、それでも二人は無反応で、何もしようとしない。この二人だけでなく、田町参謀も沈黙を守っている。ムエ少佐が気を揉んだところで、全く意味がないようだ。
(第74回終了)




「敵軍、暦新島に上陸」

 酉国本国に向かって退避中の戦艦「家鴨」にも、この報せは届いている。

「結局、上陸作戦だった訳か。やはり、関わり合いにならなくて良かったようだ。新鋭戦艦と雖も一隻だけで、しかも上空援護の戦闘機もないのでは、あのまま雑談港に居座っていても、勝負にも何もなりはしないだろう。さっさと逃げ出して正解だったようだな」

 図茂艦長は、己の判断の正しさを確信し、そう呟いた。

「しかし、暦新島の友軍は苦戦しているのではないでしょうか。知らん顔で逃げ出してしまって万事OK、というのは多少は後ろめたい気がしないでもないのですが・・・・・」

 街番五航海長は、困ったような顔をしている。戦場からホイホイと逃げ出したところで、酉国では罰せられることはないし、そもそも「暦新島に侵攻してくる敵と戦え」という命令を受け取っていないので、「家鴨」が逃げ出さないで戦う義務はないのだが、街番五航海長としては暦新島にそれなりに個人的な思い入れがあったので、あまりいい気分ではなかったのだ。

「お前さんはそう言うんだろうがね。それなりに戦う体勢を整えてくれないと、どうしようもないだろ。上空援護の戦闘機をちゃんと付けて、『家鴨』だけではなく、それ以外のフネもそれなりに付けて、マトモに戦う体勢を整えてくれるのなら、いくら俺でも戦う事を忌避したりはしないさ。ところが、鳥酉艦隊司令部は、『百舌鳥』一隻で敵中に突進し、チーズを奪ってこいなどと平気で命令したりする。そんなイカレた命令をまた出されたりしたら、たまったもんじゃない。このまま知らん顔を決め込むのが得策だよ」

 図茂艦長としては、莫迦そのものの鳥酉艦隊司令部に、無茶苦茶な命令を下されるのは真っ平だ、と考えていた。指示が来ないことをこれ幸いと、今のうちになるべく暦新島から離れようとしていたのである。



 上陸作業は進み、ルドルフ・ナンバー将軍は、麾下部隊が揃うのを待ってから、ようやく進撃を開始させた。さすがに今度は将軍自身は、戦車に乗ってはいない。指揮車輌のsdkfz251を持ち込んで来ている。

「ギャハハハハハハハー、ルドルフ・ナンバーSS装甲擲弾兵師団、進撃開始で〜す!」

 ルドルフ将軍は、爆笑しながら進撃命令を発した。まずはパンター戦車群が動き始める。攻・走・守、いずれもバランス良く揃った戦車で、初陣のクルスク会戦では、初期故障が続出して使い物にならなかったと、やや不名誉なデビューを飾ったが、名戦車に数え上げてもいいような出来の代物である。問題は、ドイツ製兵器の常で整備がややこしいことだが、ルドルフ将軍麾下の整備部隊の質は高いので、故障がよく起こるということはない。
(第75回終了)




 やたらに調子に乗っているルドルフ将軍は、またもや鼻歌を繰り出している。


徴農ってなんだ あの黒い土
地獄の果てまで 続いてる〜
強制するから 徴農だ
衆院参院 無理矢理通し
法制化する 時は今〜
街にたむろす チーマーに〜
ああ 徴農を いつまでも〜


徴農ってなんだ あの独裁者
ダブスタ 逆ギレ 二枚舌
「生きる根源」 農業だ〜
泣こうが喚こが 若者捕らえ
農業させる 時が来た〜
援交しまくる コギャル共〜
ああ 農場に いつまでも〜


徴農ってなんだ あの三色旗
自由と 平等と 博愛の〜
夢があふれる 農業だ〜
朝から晩まで 強制労働
「農」は「仕事」じゃ 無いからね〜
「食料自給」 するために
ああ 徴農よ いつまでも〜



 ルドルフ将軍の隣では、スカイラーク中佐が耳を塞いで知らん顔をしている。将軍の悪趣味には、何を言ったところで無駄なので、コメントする意欲すら失せてしまった訳である。



「敵戦車軍団、接近中!」

 里在三将軍は、酉京市への戦車隊の接近を知ると、すぐさま命令を発した。

「命令。呂野戦車隊は、敵戦車を迎撃せよ」

 歩兵旅団しかない里将軍の部隊だが、極少数ではあるものの、戦車も持っている。戦車隊というには、あまりにささやかな代物であることは間違いないが、一応装備車はT34/85なので、パンターとそれなりに戦える性能は有しているものだ。その虎の子の戦車隊に、出撃を命じた訳である。

「えっ、いくら何でも、無理なのでは。数が違いすぎますよ」

 可口可楽大佐が驚く。戦車師団相手に、数両程度の戦車隊で、まともに戦える訳はあるまい。

「もちろん、正面から戦車戦を挑め、という訳ではありません。任務は、囮として、敵を引き付けるということですね。酉京市の正面まで引きずり込んで、対戦車砲の餌食にしてやるのです」

 里将軍は最初から酉京市に籠もっての市街戦を意図している。よって、酉京市内の陣地はそれなりに整えてある訳だ。その陣地の正面に、敵戦車部隊を引きずり込むつもりである。



「敵戦車、接近!」

 ルドルフ・ナンバー将軍は、戦車が接近してきた、という報告を受けて目を剥いた。

「何ですと?!戦車ですか!!イカサマ野郎が、ようやくやる気になったということですかね?」

 まだルドルフ将軍は半信半疑のようだ。

「敵戦車はT34/85、両数は5!味方戦車隊に向かって、急速接近中だっぺよ!」

 先頭を走るコキチシュタイン大佐の戦車連隊から、詳細な報告が入ってきた。

「ギャハハハハー、やってしまいなさ〜い!ウソツキ里在三にしてはいい度胸ですが、ワタクシには通用しませ〜ん。一瞬で叩き潰してくれましょう(キッパリ!)」

 ルドルフ将軍がけしかけるように命令すると、コキチシュタイン大佐は麾下の戦車部隊を迎撃に向かわせた。
(第76回終了)




 呂野戦車隊の戦車はたったの5両。この部隊を率いている呂野少佐は、あまりに多くの戦車が先を争うように自分の方に向かってくる光景を見て、心底びびってしまった。囮の役を果たすどころではなく、相手の姿を確認しただけで、慌てて退却を命じる。

「な、な、な、何であんなにたくさん向かって来るんだ!勝てる訳ないだろう?!ここまで数に差があっては!!死ねってのかよ!?」

 呂野少佐はすっかり怖がってしまい、自分が乗っているT34をターンさせると、酉京市に向かって全速で逃げ始めた。そのはずみに、狭い車内で頭をぶつけ、大きなたんこぶを作ってしまったが、その痛みを忘れてしまうほど、焦りまくっている呂野少佐である。呂野少佐は残りの4両に「退却しろ」と命令した訳ではなかったが、指揮官の行動を見て、他の戦車もすぐに倣って退却を始める。もっとも、指示を出そうにも、T34は指揮官用の車輌以外に無線が付いていないので、指示の出しようもないのだが。

「敵戦車隊、逃げただべよ!」

 コキチシュタイン大佐からの報告に、ルドルフ将軍はちょっと不機嫌そうな顔だ。敵の戦車が向かってきた訳であるから、将軍は当然の如く戦車戦を期待していた。その期待がいきなり裏切られたのでは、不機嫌にもなろうというものだ。

「何ですか〜?せっかく向かって来たと思ったら、いきなり逃げ出すという訳ですか〜?さすがは卑怯千万(笑)な里在三の部下。しかし、逃す訳にはいきませんネ。全速で追い掛けるので〜す!!」

 ルドルフ将軍に命じられるまでもない。コキチシュタイン大佐は、麾下部隊に逃げる敵戦車を追撃させ、自分の戦車も全速で前進させている。逃げようが何だろうが、このまま揉み潰してしまうつもりだ。



「敵戦車隊、急速接近中!」

 敵の戦車部隊が、酉京市に全速で向かってくるとの報告を受けて、里将軍はにやりと笑った。

「ふふふふふ、かかったようですね。それでは、対戦車砲部隊には、よく引き付けてから撃つように命じて下さい」

 里将軍は、酉京市での防衛戦を意図している訳であるから、市内についてはそれなりに戦備を整えさせている。敵戦車隊が戦車のみで侵入してくれば、たちどころに対戦車砲の餌食にしてやるつもりだ。

 里将軍の命令を受けて、酉京市内の対戦車砲陣地は、向かってくる敵戦車部隊に照準を行う。そして、味方のT34/85が酉京市内に逃げ込んだところで、対戦車砲の発砲が開始された。
(第77回終了)




 鋭い発砲音とともに、コキチシュタイン大佐の「プロパ・ブンヤ」連隊戦車部隊は、酉京市内から対戦車砲の乱射を受けた。多数の砲が水平に構えられ、パンテル戦車軍団を狙い撃ちしてくる。

「止まるだっぺよ!危ねぇだ!!」

 しかし、すでに何発も被弾している戦車が出始めている。ところが、パンテルに命中した対戦車砲弾は、全て弾かれてしまって、被害を受けた戦車は一両もない。

「どういうことだっぺ?」

 コキチシュタイン大佐は首を捻っている。大佐の戦車にも砲弾が一発命中しているが、あっさり弾かれてあらぬ方向に飛んでいってしまった。何のことはない、対戦車砲陣地を構築したのはいいのだが、砲自体の威力が無さ過ぎなのである。里将軍の歩兵旅団は、37mm対戦車砲しか持っていないのだ。これでは、よほどの至近距離から撃ったとでも言うのならともかく、パンテル戦車には通用しない。

「わはははは、コギヂよぉ。敵の対戦車砲はオモヂャみてえなもんだがや。やっでしめぇ!」

「ダンス・パートナー」連隊のサコンブルグ大佐が、通信機越しにコキチシュタイン大佐に話しかけてくる。

「んだ、そうかや。では、やるべ」

 コキチシュタイン大佐が命令すると、パンテル戦車群は前方の対戦車砲陣地に榴弾を撃ち込み始めた。たちまち、爆砕される対戦車砲が続出する。

「これぐれぇでいいだや。戦車だげで、市内に入っていぐのは危ねーかんの。一旦退ぐだ」

 酉京市内の対戦車砲陣地に、榴弾多数を撃ち込んで叩き潰したあと、コキチシュタイン大佐とサコンブルグ大佐は、戦車隊を一旦下げさせた。歩兵の援護なしに、戦車だけで障害物の多い市街に入って行くことは、あまりに危険である。下手をすれば、敵の歩兵に取り付かれ、ハッチを開けられて車内に手榴弾や火炎瓶を投げ込まれてしまう。いや、そうでなくても、防御力の低い後部のエンジンなどに、同じことをされても、戦車は撃破されてしまうのだ。装甲板に囲まれているだけあって、車内からの見張り能力は低いので、歩兵に至近距離に取り付かれてしまった場合は、戦車と雖も脆弱なのである。しかし、下がった戦車隊に対して、今度は酉京市内から榴弾砲による砲撃が加えられた。かなりの大口径砲弾による砲撃なので、命中すればイチコロだ。例え、まぐれ当たりのレベルでしか、命中しないものではあっても。

「全車、急速後退するだっぺ!」

 さすがに、この攻撃によって、何両かの戦車がやられてしまった。コキチシュタイン大佐とサコンブルグ大佐の戦車は無事で、他の戦車も榴弾砲の射程外への退避に成功する。

「将軍閣下、酉京市内の対戦車砲は潰すごどに成功しましだが、榴弾砲に攻撃されるので危ねぇだす。るふど・ばっへにお願げぇして、潰して下され。戦車隊はしばらぐ待機しますだ」

 コキチシュタイン大佐は、ルドルフ将軍に一報を入れた。
(第78回終了)




「対戦車砲、効果無し!陣地は敵戦車の攻撃で潰されました!!」

 里将軍の司令部に「対戦車砲陣地壊滅」の報告が入る。満を持して攻撃させたのに、対戦車砲の効果はなかった。却って、逆襲されてしまったのである。

「畜生!何ということです!!対戦車砲が、役に立たなかったばかりか、ほとんど全てが撃破されてしまったとは!卑怯な敵だ!!

 里将軍の論理では、「侵略者は卑怯」ということなので、とにかく自国領土に攻めてきた相手であるなら、何をやろうと「卑怯」ということになる。まあ、これは主観の問題なので、どうでもいい話であるのだが。

「それでも、榴弾砲の攻撃で、何両かの敵戦車は潰せたようです。全く効果がなかった、という訳ではないのでは」

 可口可楽大佐が、慰めを口にした。しかしまだ、里将軍は不機嫌そうだ。

「だからと言って、これで喜んでいる訳にはいきません。次は、おそらく航空兵力によって、榴弾砲陣地が攻撃されるでしょう。可及的速やかに隠蔽を行うよう、命じて下さい」

 里将軍は、敵の次の手をすぐさま読みとっている。榴弾砲で若干敵戦車にダメージを与えた以上、その榴弾砲に攻撃が集中するのは当然と言えば当然の話だ。




「イカサマ里在三が、やってくれるではないですか。それでは、ルフト・ヴァッフェに攻撃の要請をしてくださーい(ワリャ!)」

 ルドルフ将軍は、暦新島南部海岸沖に待機している、空母部隊に空襲を依頼した。急降下爆撃機による精密攻撃で、酉京市内の榴弾砲陣地を破壊してしまおう、ということである。



「ホーホホホホホホ、あたいの出番がまた来ただわさ、皆の衆、いっくわよ〜ん

 空母「フューチャーシンキング」の飛行甲板から、スター・プラスチック少佐の飛行隊、通称「スタプラ一家」が出撃して行く。目標は酉京市内の榴弾砲陣地。少佐の急降下爆撃機なら、ピンポイントでの攻撃が可能だ。

「ano-,sonnani yorokondeiru baaideha nainodeha? hetani gobaku shitabaai, sensouhanzaisha ni taisurugagotoki gekiretsunahinanwo, masukomikara abiserareru kotomo arimasukara」

 後席のギーモン中尉が、浮かれているスター・プラスチック少佐に釘を刺す。

うっさいわね〜、あたいのこの腕で、そんな間抜けなことをする訳ないでしょ!余計な心配よ、ギーモンちゃん」

 スター・プラスチック少佐は気楽なものである。ギーモン中尉は、ため息をつくばかりだ。
(第79回終了)




 十分も飛ばない内に、「スタプラ一家」の急降下爆撃隊は、酉京市上空に到達する。目と鼻の先から発進しているので、それも当然の話であるが。

「ところで、標的の榴弾砲陣地はどこなのよ?」

 若干機体を傾け、コクピットの外、眼下に広がる酉京市内を見つめる少佐である。しかし、目指す榴弾砲陣地の姿は、どこにも見えない。

「ちょいと!どこに榴弾砲陣地があるってのよ!ないじゃないの!!

 酉京市上空を、二〜三回ぐるぐると回って、一通り見渡したが、どこにも砲陣地などはない。

「gisou shiteiru kanouseiha naideshouka? toshino nakadesukara, shougaibutsuwo kouchikusurunoha muzukashikuarimasen」

 ギーモン中尉も双眼鏡を構え、一緒になって酉京市内を見渡しているが、やはり榴弾砲陣地を発見することはできない。偽装陣地らしきものも見えないのだ。

「何なのよ、これじゃどうにもこうにもやりようがないぢゃない!ホントにムカツクわねぇ〜」

 悪態をつく少佐を無視して、ギーモン中尉は「torikinshinai ni houjinchi wo hakkendekizu」と打電している。



「何ですと!?榴弾砲陣地がない?」

 ヨン艦隊経由で、ルドルフ将軍のもとに「急降下爆撃隊は榴弾砲陣地を発見できず」という報告がやって来たのは、それから三十分ばかり経ってからである。何というか、陸軍と海軍間では血の巡りが悪いもので、簡単な報告ですら、異様なまでに時間が掛かってしまうのだ。その間、将軍としては、やってきた急降下爆撃隊が酉京市上空で旋回を続けるだけで、一向に攻撃しない姿を、不思議そうに見上げていただけだ。

「それで、ああやってグルグルと回っているだけ、ということですか。困りましたね」

 グラス・スカイラーク中佐が、酉京市の上空を見上げながら、呟いている。
(第80回終了)











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